Loading 81b424ebf5b28b6979c5bfbadb4fe3d86654abdce81e3c0259cc91c3ecd00497
特集!あの人の本棚
113.

ハッカドロップス   (ミュージシャン)


「歌手」として伝えていきたいこと (ハッカドロップス インタビュー)

ハッカドロップス
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回はハッカ飴と歌謡曲をこよなく愛する女性アーティスト、マイさん率いるハッカドロップスに登場していただきました。歌を聴くことと本を読むこと。それぞれ同じ感覚で接してきたマイさんのパーソナリティに迫ってみました。
「歌手」として伝えていきたいこと (ハッカドロップス インタビュー)

そこに描かれている人間を読むのであって、物語を読むわけではないんだなって

大学在学中に音楽の道を志し、地元の愛知県春日井市から上京。音楽系関係の会社でデスクとしてアルバイトをしつつ、現場での楽曲制作などを手伝っていたところ、プロデューサーの多保孝一と出会い、ハッカドロップスのプロジェクトが始動したーー。そんなストーリーを背景に持つマイはホンシェルジュの連載陣の一人でもあるのだが、本を味わうように歌謡曲の中に「人間」と「ストーリー」を見出し、それを自分の中に昇華していくアーティストである。今回は彼女のルーツを司る本を何冊かピックアップしてもらいつつ、ハッカドロップスの歌の核にあるものを語ってもらった。

就職しないで生きるには

『就職しないで生きるには』 レイモンド マンゴー

―― 『就職しないで生きるには』はいつ読んだんですか?

マイ この本はテレビで誰かが紹介していて、「これを読んで、自分の好きなことを仕事にしようと思った」と話してたんですけど、タイトルがまず刺さって。高校生の頃だったので、私も就職したくなかったんだと思うんですよ。みんな何となく大学に進学して就職するのかなって思った時、自分は就職ってあんまりピンとこなくて。作者が本屋を営む話なんですけど、仕事という言葉が美しい言葉になって、最高の遊びになったーーみたいなことが、冒頭に書かれているんですけど、今もそれがすごく印象に残ってます。これは手放さずにずっと手元に置いてある本です。

私はそうは思わない

『私はそうは思わない』  佐野 洋子

―― 『私はそうは思わない』は、以前連載の中でも紹介してましたよね。

マイ はい。ほんとに大好きなエッセイで、章ごとに内容が違うんですけど、どれも突き刺さる感じで。まず、『私はそうは思わない』っていう題名が好きなんですよね。日頃から「私もそう思う」って言いがちですし、「私はそうは思わない」って口にすることって、なかなかないと思うんです。それをズバッと言ってるってところに興味を持って、手に取った一冊ですね。大学生くらいの頃かな。最初の章がセルフインタビュー形式になってるんですけど、「最近悲しいことはありましたか?」っていう質問に対して、「悲しいっていうのは、自分の中に脈々と流れているものだ」みたいな回答があったりして、どれも印象深いんですよ。この本は周りの人にもめちゃくちゃお勧めしていて、自分でもあげたりしているので、今日持ってきたのは三代目の本なんです(笑)。

少女地獄

『少女地獄』 夢野 久作

―― 次に『少女地獄』は?

マイ 主人公の女の子が嘘をつくのが大好きで、それが生きがいみたいな子なんです。でも、そのうち嘘と真実が交錯していって、何が本当か分からなくなってくる。その感覚がすごく好きで。東京に来てから読んだ本なんですけど、当時、自分の中で真実と事実っていうのは必ずも一致しないんだなって思うことがあったんですね。事実っていうのは受け止め方によって、どうにでも解釈できちゃうから、それが必ずしも真実になるわけではないんだなって。そう思っていたのもあって、共感する部分が結構ありました。主人公が嘘をついていくと、どんどん美しくなっていくシーンがあるんです。目がキラキラと輝いて。そこまでいっちゃうと芸術作品に近いのかもしれないなと。嘘の人生そのものが、一つの作品のようでもあるなって。そのシーンが特に印象に残ってますね。

草枕

『夢十夜;草枕』 夏目 漱石

―― 最後は夏目漱石ですね。

マイ 最初の数ページを通して、人生の結論を突きつけられた感じがしていて。“情に棹させば流される”っていう有名な一文があるんですけど、その他で印象に残ったのは、どこに住んでも住みづらいと悟った時、詩が生れて画が出来るんだと。ーーみたいなことが書いてあって、それって私がずっと思っていたことと重なるところがあって。あとこの本って、ストーリーが分かりやすくある作品ではないんです。この本に限らずだと思うんですけど、本を読む時私の場合、そこに描かれている人間を読むのであって、物語を読むわけではないことが多いんです。

―― マイさんが物語に惹かれるのは、人間の姿、人間の感情に興味があるってことなんでしょうね。

マイ 人間ってずっと変わらないと思うんです。何かをするための手段とかは変わっていくんだろうけど、人間の本質は大昔と比べてもそんなに変わっていないのかもしれない。名作と呼ばれる作品が古くならないのは、人間をちゃんと描いているからだと思います。

人間をより感じられる曲を歌っていきたい

―― 学生時代のマイさんはどんな感じだったんですか? ライブハウスによく行っていたとか、自分で何か楽器を弾いていたとか、音楽とはどう関わっていたんでしょう?

マイ 私の原点は「歌が好き」ってところなので、歌と音楽が繋がったのはもうちょっと後になるんですけど、学生の頃は授業をあまり聞かずに本ばっかり読んでいたとか、好きなものに熱中している感じでした。

―― 文学少女的な?

マイ そうですね。最初は、さくらももこさんのエッセイとか、江國香織さんの小説とかがきっかけで、いろいろと読むようになりました。純文学とか。

―― 本を読むのは、音楽を楽しむのとはまったく違う感じのものだったんですか?

マイ その頃は、音楽というよりは「歌」が好きで。言葉とメロディで構成されているものじゃないですか。そこにはストーリーがあるから、歌を聴くことはストーリーを楽しむことでもあると思うし、本を読むのと近い感覚で聴いてました。歌詞の内容だけじゃなくて、メロディの起伏で何か情景が浮かんできたりすることもあるし、本を読むことと音楽を聴くことは共通する点があったのかもしれないです。

―― 音楽ではなく、物書きになってみたいなとか思ったりしたことは?

マイ 文章を書いてみたいと思ったことはありました。ただ、私はもともと歌手になりたかったんです。今でも自分はシンガー・ソングライターではなく、カテゴライズするとしたら歌手になると思うんですけど、当時はミュージャンの人がエッセイとか書いたりしているのに憧れを感じたりしてましたね。自分もいつかそういうのを書いてみたいって。

―― 上京したのはいつですか?

マイ 大学2年の時、学校を辞めて音楽の道を目指して東京に来ました。で、ユニットを組んだりして音楽活動をしていたんですけど、そのユニットが解散した後、音楽関係の会社でデスクのアルバイトをすることになったんです。自分の音源をその会社に送ったのがきっかけで、なぜかアルバイトをすることになり、デスクの仕事をしながら、他のアーティストさんの仮歌のお手伝いとかもしていたんですよ。そこで今のプロデューサーの多保(孝一)さんに出会ったんです。

―― そう考えると、タイミングや出会いとかって大切ですよね。

マイ そうですね。仕事柄いろんなライブを観に行ったり、音楽の現場に近い職場だったので、すごく勉強になりましたね。結局、8ヶ月くらいデスクのアルバイトをして、その後はアーティストとして今に至るという感じです。

―― その頃から歌謡曲っていうキーワードはあったんですか?

マイ そうですね。歌の中のストーリーで人間を描きたいっていうのがまず一番にあってのことなんですけど、歌謡曲っていうとイメージ的に分かりやすいですし、そういうキーワードがなかったら、私がどんな音楽をやっているのか分かってもらうのは難しいと思うんです。最初にそうやってキーワードを掲げることで聴いてもらうきっかけになればいいかなって。

―― 歌手でいうと山口百恵さんが好きなんですよね。

マイ 感情を前に出しすぎない奥深さがある歌声が好きです。あとは当時の映像とか見ると、立ち振る舞いがすごくカッコイイと思います。マイクの持ち方や表情の作り方。それらが歌と一緒になった時、すごくカッコイイんです。

―― 今回のシングルのカップリングにも入ってる「手紙」とか、こないだライブで聴いた「春日井」とか、自分の思い出の中にある原風景みたいなのを大事にしている人なのかなって思ったんですが、そういう部分はありますか?

マイ はい、ありますね。大切な恋愛とかの記憶は未来になってもずっと覚えてるんじゃないかなっていうのがあって、「春日井」と「手紙」はその感覚を歌にしたくて作った曲です。例えば、村上春樹さんの本とかって、昔恋した女性の大事な記憶みたいなのがずっと根底にあったりして、それを軸に物語が展開していくじゃないですか。いろんなところに話が飛んで行ったりするけど、最初から最後まで一人の女性の純粋な記憶が書かれていたりして、そういうところがすごく好きなんです。

―― メジャーデビューを経て、今後はどういうスタンスで活動していきたいですか?

マイ 今回のデビュー・シングルは歌謡曲というコンセプトを前に打ち出した曲で、それはハッカドロップスとして3年間活動してきて、今のスタイルを分かりやすく伝えたかったかったということでもあるんです。これから先は、人間をより感じられる曲をやっていきたいなと思っていて。あと楽曲の幅が広がっても、常にハッカドロップスの曲だと認めてもらえる。それが一番の目標でもあります。

Photographs by Motoki Adachi

本と音楽の一覧 インタビューの一覧

コメント

コメントを書く・見る 0

プロフィール

ハッカドロップス
ハッカドロップス
ミュージシャン

愛知県春日井市出身 。大学に進学したものの、在学中に音楽の道を目指し、上京。音楽系の会社でデスクとしてアルバイトをしながら、楽曲制作などを手伝う日々を送る。そんな中、制作現場でプロデューサー・多保孝一氏と出会い、意気投合。ソロプロジェクト、ハッカドロップスがスタート。YAMAHA SG7 を肩にかけ、懐かしさと新鮮さの共存するサウンドで平成の世にハッカ飴を投じるべく活動中 。2016年4月、シングル「衝撃リバイバル」にてメジャーデビューを果たした。
http://www.hakkadrops.net/

ライターについて

Writer 5
ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

プロフィール

ハッカドロップス
ミュージシャン

愛知県春日井市出身 。大学に進学したものの、在学中に音楽の道を目指し、上京。音楽系の会社でデスクとしてアルバイトをしながら、楽曲制作などを手伝う日々を送る。そんな中、制作現場でプロデューサー・多保孝一氏と出会い、意気投合。ソロプロジェクト、ハッカドロップスがスタート。YAMAHA SG7 を肩にかけ、懐かしさと新鮮さの共存するサウンドで平成の世にハッカ飴を投じるべく活動中 。2016年4月、シングル「衝撃リバイバル」にてメジャーデビューを果たした。
http://www.hakkadrops.net/

ハッカドロップス さんの本棚

注目記事

月間ランキング