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特集!あの人の本棚
257.

秋山進 × 勝呂彰   (プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役 × リンクアンドモチベーション元副社長)


「社長が〝将来〟役員にしたい人」を語る(対談)

秋山進 × 勝呂彰

◆社長が〝将来〟役員にしたい人 ビジネスセンスを磨く25の習慣

『社長が〝将来〟役員にしたい人 ビジネスセンスを磨く25の習慣』 秋山進

経営者に必要な3つの条件

秋山 改めて、経営者はやはりすごいと思うことが3つあります。1つは、ドラッカーが『経営者の条件』で書いている「『私は』ではなく『われわれは』を考える」ということです。

「われわれ」を想定するというのは、実はとても難しいことです。「われわれ」と言ったとき、大企業であれば、例えば、ハンガリーの工場に勤めている社員もいれば、ブラジルの事業所の営業社員もいます。さらに社員だけでなく株主や取引先のことも考えて、「われわれ」を定義しなくてはいけません。

ですから「われわれ」というのがどの範囲を示すのか、常に何通りも思い浮かべられることができ、その状況にあわせて最適な「われわれ」を選ばなければならないのです。

2つ目は、もっと大変なことなのですが、事業会社のメンタリティから株主・投資家のメンタリティにシフトするということです。事業会社のメンタリティというのは、つまり商品を出して、お客さんが喜んでくれて、社内のチームや取引先みんなが一緒に「成功してよかった」と喜ぶ「汗と涙と笑いの世界」です。

しかし取締役になったら、資本コストを満たさないような事業や改善の見込みがない事業は、いくら幸せな過去や思い入れがあったとしても、ばっさり切れる株主・投資家のメンタリティにシフトしていかなければなりません。

これは、有名企業の取締役でもできている人はかなり少ないと思います。社長になるということは、過去に、事業会社メンタリティの大成功者であった可能性がきわめて高いでしょう。そうであっても、社長になれば、その価値観を捨て、株主・投資家メンタリティによって意思決定し、 明確に内外にその理由を示さなくてはなりません。

3つ目は組織の中での「役割」から、組織の「代表」にかわるということです。特に、代表というものの恐ろしさを最も感じるのが、不祥事の時の記者会見です。これは、従業員数が何百人でも何万人でも同じです。社員や取引先も含め、あらゆる関係者を代表して、記者会見の場に臨まなければなりません。少しでもバカなことを言えば、関係者すべての人生が狂ってしまうような状況です。

私はリスクマネジメントの仕事で、その場に立ち会うことがあります。会見前、すべての責任を背負って控室を出ていかれる姿は、もう「神」のように思えます。これこそが代表の姿ですね。

ただこれは、訓練すれば誰でもできることではありません。10人いたら、8人は無理でしょう。私も無理なほうの1人です。

勝呂 本の最終章でも、組織のリーダーになる人は「良い運を引き込む人、福が舞い込む人」と書かれていて、そこだけ読むと、努力の甲斐がなくなってしまいそうです。無理なものは無理ということでしょうか。

秋山 これは、私の基本的な信念なんですけれど、社長や役員になることがえらいとは思っていないんです。経営者はすごいですけれど、やはり人間は、自分にあったものをやるべきです。

研究者としてすぐれた可能性のある人が、無理にリーダーをする必要はありません。フリーランス的な生き方が好きな人は、そのように生きればいい。みんな、自分に向いていることをやったほうがいいに決まっています。

こんな本を書いておいてなんですが、会社に入ってえらくなるか、独立して起業するかしかなかったら、選択肢が少なぎます。もちろん、「役員になりたい」と思って、この本を読んでくださる人がいたらうれしいですけれど、向いてない人はなるべきではないと、心の底から思っています。

ですから、本書は「社長や役員に向いているのはこういう人だ」「自分は向いていそうだから頑張ってみよう」という風に読んでもらえると嬉しいですね。

「バカまじめ」が偉い理由

勝呂 でも、あとがきでは、「バカまじめな人が偉い」とも書いています。

秋山 そうなんです。バカまじめといえば、思い出す人物がいます。個人名を出さないとイメージできないから言うと、株式会社自遊人の代表取締役の岩佐十良さん。雑誌『自遊人』の編集長で、新潟県の旅館を再生して、いまや日本が世界に誇れる旅館「里山十帖」をつくりました。彼がバカまじめの典型。

私が1990年にリクルートで、学生向けのPR誌の創刊の仕事を任されたとき、美大生だった彼とその仲間を口説いて、創刊スタッフに加わってもらいました。そして、やりたいようにやってください、とドーンと仕事を任せたのです。それは、彼らがどんでもない「バカまじめ」な奴らだったからです。

あくまでイメージですが、たとえば港区の蕎麦屋の特集をするという企画があったとします。普通の雑誌なら、まずはいろんな人にヒアリングをして10軒から20軒ほどピックアップして取材し、最終的に5軒をメインに掲載するでしょう。まじめにやれば、それなりにいいものができあがります。上司もOKと言ってくれると思います。

でも、岩佐さんたちがどうしていたかというと、港区に蕎麦屋が100軒あれば、100軒全部リストアップして、全部、本当に食べに行くんです。費用対効果を考えれば、とんでもなく効率が悪い。けれど、自分の目で見て、食べて、後味を確認したうえで、いい店と面白い店だけを紹介するから、めちゃくちゃ面白い記事ができあがります。それが現在の雑誌「自遊人」につながっています。

しかも、短期的には効率が悪かったその「バカまじめ」な取材によって、彼らにしかない知見がどんどんたまっていくのです。そして、彼らしか知らない知識と知恵があるから、また新しい仕事がもらえ、さらに知見が貯まるという好循環が生み出されるのです。

今、あれだけの旅館再生ができるのも、日本にとどまらず、世界中のあらゆるものを見て、感じ、記事にし、さらにモノづくりをしてきたこれまでの蓄積があるからだと思います。

本のあとがきに書きましたが、今はネットを中心に、サラリーマンとしてうまく立ち回るためのノウハウ情報があふれ、時代の趨勢は賢さやスマートさを要求しています。けれど、実際に社長が役員にしたい人というのは、「仕事に真正面から真剣に取り組み、一生懸命に頭を使って実務に取り組む人たち」です。この本では、その具体的プロフィールを提示することで、時代の趨勢に、一石を投じてみようと考えたわけです。

「実務にたけ、実務を超える」とは?

秋山  本書を書く上で、念頭においた経営者が何人かいます。そのうち、ある一部上場企業で社長をされている方は、きわめて「普通の人」です。地方の大学を出て、普通に会社に入り、最初は店長さんのようなことをされていました。

店長時代は、自分の店が近隣のどういう店と競合関係にあるか、マーケットのどこをとっているか、大きな景気変動があったときにどういう影響を受けるか、そういったことをすべて丁寧に観察して、人の動きや行動を数字とファクトで押さえていました。

次に、地域の支配人になり、担当の店舗数が増えると、その一つ一つについても同じようにすべて把握していました。さらに地域の事業部長になると、今度は円高円安や政治の意思決定の問題などの大きな流れと自分の担当する地域が、どのように関係してくるかの因果性なども把握して、知識として深めていきました。

こうして、ポジションが上がるごとに、視野を拡大し、かつ必要なデータを抑え、その因果関係や相関性を把握していきました。そして社長になられたときには、すでに十分に社長としてやっていけるだけの世界観と判断力を獲得しておられたのです。ここで注目すべきはこの伸びしろのすごさです。

単に実務に強い人というのはよくいるのですが、多くの人が実務の視点を超えることができません。その中で、実務にたけ、さらに実務を超えられるようなこの社長を見出した会社もなかなか偉いものです。

勝呂 その話に関連して、本の中で「なるほどな」と思ったのが、「部門最適より全体最適を考える」というところです。自分の部署の利益だけに固執するのではなく、全体に最適な目線を持てということはよく言われます。

けれど具体的にどの範囲か、というのはすごく難しい。いきなり一足飛びに、時間的、空間的に大きな視点を持つというのは無理ですから。

これについて、本書では、「二つ上の上司に提案書を持っていく」ということが書いてあります。これは適度な「全体最適」の目線を持つのにはいいんじゃないかと思いました。

秋山 そう、これ、さらっと書いたところに気づいてくれてありがとう。世の中の多くの本には、「二つ上の上司の視点で考えろ」と書いてあります。でも、「二つ上の上司の視点で考える」というのと、「二つ上の上司向けに提案書を書く」というのは全く違います。

前者は、誰でも考えた気になれますが、二つ上の上司に提案書を書くというのは、そうとう考えないとできません。

勝呂 そういうプロセスが、適度に「全体最適」の視点を広げていく訓練になるのかなと思いますね。そして、今の話もそうですけど、今回、この本を読んで、実は、今までの慣習や、上司からの「そんな無駄なことするな」といった圧力を手放す力が強い人のほうが、新たに獲得する力が強い人より、成功している気がしました。

秋山  いや、それは違うんじゃないかな。圧力はともかく、慣習やそこで使っている技術は手放さなくていいんです。よく「アンラーニング(一度学習したことを意識的に棄却し、学び直すこと)」ということが言われるけれど、あれ、絶対に間違っていると思います。

むしろ、状況に適応すべく新しい技術や行動を獲得していけば、もともと使っていたものをあまり使わなくなるのだと思います。薬をたくさん持っていても、いつもそれを使う必要がないのと同じ。

捨てよう忘れようと思えば、そこに意識がいきます。気づいたら、使ってないくらいがいい。で、また必要になったら使えばいいんです。まあ、「アンラーニング」を提唱する人も、本来の趣旨はそういうことで、無理に忘れろといっているのではないと思いますが……。これ、話すと長くなるから、また今度やりましょう。

勝呂 では、今日はこのへんで。ありがとうございました。

※本稿は「麹町アカデミア・遊学堂」主催の講演「『社長が〝将来〟役員にしたい人』出版記念対談 秋山進×勝呂彰」をもとに、「hontoビジネス書分析チーム」が執筆しました。(構成・編集:田中奈美)

◆社長が〝将来〟役員にしたい人 ビジネスセンスを磨く25の習慣

企業の社長補佐を事業の柱の一つとする秋山氏。その中で、だいたいどこの企業でも行ってきたのが、「将来、会社の社長になれそうな人を発見して育てる」という仕事でした。その経験をもとに、同書を上梓。「バカまじめに仕事をやる人が、実際には偉い! 」と語る秋山氏は、社長が役員にしたい人に必要なプロフィールをまとめ、そのような人物になるための「カギとなる習慣」を解説します。

『社長が〝将来〟役員にしたい人 ビジネスセンスを磨く25の習慣』 秋山進
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プロフィール

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秋山 進
プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役

リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業などのCEO補佐、事業構造改革などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。主な著書は『社長が将来役員にしたい人 ビジネスセンスを磨く25の習慣』 、『「会社の悪口」は8割正しい コンサルタントが教えるダメな会社の困った病(SB新書)』、『「一体感」が会社を潰す~異質と一流を排除する〈子ども病〉の正体 (PHPビジネス新書)』など多数。 
http://www.principlegr.com/

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勝呂 彰
元リンクアンドモチベーション副社長、現ブリコルールCXO

リクルート入社後、人事採用に携わる。2000年リンクアンドモチベーション設立、取締役副社長。リンクインベスターリレーションズ代表取締役社長、リンクグローバルソリューション代表取締役社長なども歴任、2013年末退任。ベンチャー企業を起業し上場までした立役者。ベンチャーや大企業の組織人事支援、かつCSR、異文化との文化統合などについて詳しい。東京工業大学 社会理工学研究科 博士課程在学中。

ライターについて

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hontoビジネス書分析チーム

本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

プロフィール

秋山 進
プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役

リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業などのCEO補佐、事業構造改革などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。主な著書は『社長が将来役員にしたい人 ビジネスセンスを磨く25の習慣』 、『「会社の悪口」は8割正しい コンサルタントが教えるダメな会社の困った病(SB新書)』、『「一体感」が会社を潰す~異質と一流を排除する〈子ども病〉の正体 (PHPビジネス新書)』など多数。 
http://www.principlegr.com/

勝呂 彰
元リンクアンドモチベーション副社長、現ブリコルールCXO

リクルート入社後、人事採用に携わる。2000年リンクアンドモチベーション設立、取締役副社長。リンクインベスターリレーションズ代表取締役社長、リンクグローバルソリューション代表取締役社長なども歴任、2013年末退任。ベンチャー企業を起業し上場までした立役者。ベンチャーや大企業の組織人事支援、かつCSR、異文化との文化統合などについて詳しい。東京工業大学 社会理工学研究科 博士課程在学中。

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