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特集!あの人の本棚
292.

小野雅裕×佐渡島庸平    ( NASA技術者/株式会社コルク代表取締役社長)


第2回:「売れない本を売ること」の難しさ……、って何ですか?【作家編】

小野雅裕×佐渡島庸平
NASAジェット推進所の技術者・小野雅裕さんが執筆し、コルク代表の佐渡島庸平さんが編集に携わった『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八』。宇宙関連の専門的な内容が書かれているにも関わらず、2018年6月現在、5万部という異例の売り上げを叩き出した作品です。

一般的には難しいと思われがちな「宇宙の本」が、なぜ、ここまで売れたのか?
そんな疑問が、今回の小野さん、佐渡島さんとの対談のきっかけになりました。

多忙なNASAの技術者でありながらも、本を書き、世に広めることに全力を注いだ小野さんと、それを長い目で見て、売る体制を整えた佐渡島さん。おふたりの話を聞くと、この本が売れたことは偶然ではないことが見えてきました。

今回は、そんな対談連載の第2回目です。
第2回:「売れない本を売ること」の難しさ……、って何ですか?【作家編】

編集者を信じるべき部分の、匂い?

佐渡島 ただ、この、僕が時間をかけて今回やったこと(編集部注:第1回を参照)って、限りなく「仮説」なんですよね。僕自体とか、僕が深く関与している作品だとこういう風にうまくいってるんだけど、みんなに言ってもできる人は意外と少ないんですよね。それが小野さんは、ある種僕が言ったことを、「よく分かんないけど、やってみっか」って忠実にやってくれて、そして楽しみながらやってくれて、ほとんどほったらかしていてもコミュニティが発展した。これは、小野さんだけですよ。

小野 いや、佐渡島さんが本当にいいアドバイスくれたおかげですよ。

実は僕は、今までもこういう経験をしてきていたんです。例えば博士課程の時に、自分の指導教官がいたのですが、彼は僕よりも20年経験が長いから、僕より見えないところをいっぱい見ている訳じゃないですか。

僕、結構反抗的な学生だったから色々反抗もしたけれど、でも騙されたと思って先生のいう通りにやってみたら上手くいったっていう経験もいっぱいあるんですよ。だから何となく研究者の直感として、反抗すべきところと、盲目的に従った方が良さそうなところと、何か匂いがあるんですよね。

それで佐渡島さんからコミュニティの話を聞いた時に、「あぁ、こういうことやるんだ」ってとりあえずやってみたんです。あれは本当にすごい良かったですよね。初速がついたのは彼らの、ファンの方のおかげですよ。

佐渡島 そうですね、本当に。みんなが楽しんで、自分ごととして本を売ってくれたから。

小野 そう、結局そこだったんですよね。自分ごと化してくれた人々がいたから、これだけ本が広まってくれたのだと思います。

―― コミュニティではどんなことをしていたのですか?

小野 たとえば、発売の2〜3ヶ月前に読書会をやって、原稿をぜんぶ配ったりしました。で、読んでもらって、ここをこう直した方がいいとか、そういうのを自由気ままに言ってもらったんです。みんなからフィードバックもらって……。

それ自体がものすごく良くて。フィードバックから、最後の最後でだいぶ本を書き換えましたし。特に1章、2章は、半分以上それで書き換えたかな。そしたらみなさんが、まるで自分の本かのように思ってくれたんですよね。

佐渡島 そうですね。それにしても今回、小野さんの書き直し量はやばかったですね。

小野 ハハハ(笑)。いやー、それはですね、もう半分以上意地ですよ(笑)。これだけ気合い入れて書いて、ここまで時間を投資したんだから、もうこれが読まれないなんてありえない!と思ったんですよね。だからもう、やるべきことは全部やろうと思って。

テーマを決めるためだけに、24時間?

佐渡島 売り方もありますが、本をつくるとなった時に、この本を貫く「1つのテーマ」が生まれてましたね。連載時にはなかったと思うけれど。

小野 そうです。この本の「イマジネーション」っていうテーマをそもそも考えついたのって、結構あとだったんですよ。

連載を1回休載して全部本にするってなった時に、丸一日かけて、全体の本を貫く普遍的なテーマは何だろうって、筆をとる前に1回頭の中で考えました。それはすでに文章の中にあるはずなんだけど、そのテーマを本1冊通して示さなきゃいけないと思ったんで。

連載は毎回、計5000文字でしたけど、多分、5000文字を20個集めるだけじゃ伝えられないものが10万字では伝えられると思ったんですね。だけど、それが何だろう、と。

そうして、すごい一生懸命考えて行き着いたのが、「イマジネーション」っていう、多分非常にシンプルだけど重要なものでした。

ツイッターで僕が140文字で「イマジネーションが大事だ」って言っても多分、誰も共感してくれないと思うんです。でも10万字かけて、ちょっとずつ、ちょっとずつ労を積み上げて「イマジネーションが大事だ」って言ったら多分みんな頷いてくれると思う。そういうものを書くことが、僕は本の価値だと思うんですよ。

佐渡島 その1本の軸が通ったのが、素晴らしかったですね。

良いものを書くだけじゃ、足りない?

小野 本っていうのは、佐渡島さんが言ったように初速がすべてです。

僕、前にも1冊本を書いてるんです。で、それは自分的には力作だったし、読んでくれた人たちの評判も良かったけれど、部数は1万部未満くらいであんまり売れなくて。

その時までは僕も甘い考えで、良いもの書けば売れるって思っていたんですよね。出版業界にいる人からしたら笑っちゃう話だと思うんですけど。1回やってみなきゃ、分からなかったんですよ。で、それが身にしみて分かった(笑)。出版社の方も、担当者の方もほんとうに良くしてくれたのですが。

だから今回は良いもの書くだけじゃだめなんだ、と思っていたんです。それと出版社のことも分かってきて。結局、売れ始めたら出版社もお金使ってくれるじゃないですか。売れ始めたら広告費どんどん出してくれて営業もいっぱい頑張ってくれる。本屋も売れ始めたら良いところに置いてくれてさらに売れ始める。あらゆるところにポジティブフィードバックがかかるのですよね。売れるものはもっと売れるし。けれど一度売れなかったものはもっと売れないっていう。

だから、エンジンを回し始めるまでは、これはちょっと自分でやらなきゃいけないなと。ひとつは自腹で広告費として30万円払ったっていうのもあるけど、それは本当にごく一部で。ローンチイベントを自分が中心になって企画したりとか。ホームページもほぼ全部自分ひとりで作ったりとかもして。

チラシも自分で作ろうとしたら、そこは読者コミュニティの人にデザイナーさんがいて、手伝ってくれました。

佐渡島 すごいなと思うのが、小野さんは自分でそれらを必要だと気づいたこと。小野さんが今回、広告を買ったりしたいろいろなことって、それによって実際の効果があったかどうかっていうよりも、身近な人たちの心を動かしたというか。小野さんがここまでやってるんだったら売らないとって、なったと思うんです。

やっぱり本を売ることって、すごく難しくて。出版業界にいる人たちも、全員が目利きっていう訳ではないし。さらに言えば、目利きかどうかっていう問題よりも、本って極端な嗜好品なんで、その人にぴったりなものじゃない限り、みんな激推ししないという部分があるんですよ。

だから結局、みんな出版業界にいる人たちも、売れ出したら売るっていうことに仕事のほとんどの時間を費やしちゃってるんです。

そもそも出版業界にいたとしても、自分にとってドンピシャな本に仕事の中で出会える確率って本当に低いんですよね。今回も、本に関わってくれた人たちにとって、小野さんの本がどれくらいドンピシャだったかということは分からない。けれど、みんなが、「小野さんがここまでやってるんだったら自分たちも手伝いたい」っていう気持ちになったことにすごい価値があったなと思いますね。

小野 僕はその部分はあんまり意識してなかったです。僕が意識してたのは、さっき言ったように、とにかくサイクルを回し出すまでは、できることは自分でやらなきゃっていうことだけで。

佐渡島 そうですね。それでよかったと思います。そこを小野さんが意識してやってたら、結局他人をコントロールするために自分がやってることになるじゃないですか。それだと伝わらなかったと思う。小野さんが楽しんでやってる姿が、結局やりすぎて、周りの人も巻き込めたなと思うんです。

小野 まぁ、楽しんだかどうか……。やっとラクになった感じはしますけど(笑)。

佐渡島 (笑)。しかも小野さんって普段は海外にいるから、日本に1日しかいないとか、そういう滞在をしょっちゅうしてるんですよね。

小野 そうなんですよねー。まぁ1日しかない時は、家族にしか時間使わないんですけど(笑)。もう1泊したらちょっと時間ここに使うか、とは思ってました。でも、しんどかったですね。人生で最もしんどかった時間のひとつです(笑)。

佐渡島 やっぱりガッツがすごいなと思いましたね。

小野 あのー……。まぁ、それだけが取り柄なんで。

佐渡島 やっぱりNASAに単身で乗り込んで、職業をゲットしただけはあるな、と。

小野 いやー、そういう気持ちは大事ですね。うちの高校で教えてくれる「気合い」ですかね(笑)。精神論もたまには。

ーー第3回に続きます!ーー

以前の記事は、以下からどうぞ

第1回:「売れない本を売ること」の難しさ……、って何ですか?【編集者編】
https://honcierge.jp/articles/interview/291

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プロフィール

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佐渡島庸平
株式会社コルク代表取締役社長

中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、その後灘高校から東京大学文学部に進学し、2002年に卒業。講談社に入社し、『ドラゴン桜』、『働きマン』、『宇宙兄弟』、『モダンタイムス』などの編集を務める。2012年に同社を退社してからは株式会社コルクを創業し、作家のエージェント会社として従来にはない、エンターテイメントのビジネスモデルを構築している。特技は、精神的にどんな状況であれ、眠れること。

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小野雅裕
NASA JPL 技術者、作家

大阪生まれ、東京育ち。2005年に東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、2012年にマサチューセッツ工科大学に入学。慶應義塾大学理工学部助教を経て、2018年4月現在、NASAのJPL(ジェット推進研究所)に所属する。阪神ファンで、愛娘・ミーちゃんのパパ。

ライターについて

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十河有沙

1993年 北海道生まれ。琉球大学 観光学部卒業。
ホンシェルジュで編集部として働きながら、ライターとしても活動中。

<参考記事>

・「ぜんぶ、おっぱいだ」
http://tenro-in.com/mediagp/38952

・「心が叫びたがっているのならその場でとりあえず叫んでみたらいいのではないだろうか」
http://tenro-in.com/mediagp/39184

メールアドレス:a.sogo@honcierge.jp

プロフィール

佐渡島庸平
株式会社コルク代表取締役社長

中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、その後灘高校から東京大学文学部に進学し、2002年に卒業。講談社に入社し、『ドラゴン桜』、『働きマン』、『宇宙兄弟』、『モダンタイムス』などの編集を務める。2012年に同社を退社してからは株式会社コルクを創業し、作家のエージェント会社として従来にはない、エンターテイメントのビジネスモデルを構築している。特技は、精神的にどんな状況であれ、眠れること。

小野雅裕
NASA JPL 技術者、作家

大阪生まれ、東京育ち。2005年に東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、2012年にマサチューセッツ工科大学に入学。慶應義塾大学理工学部助教を経て、2018年4月現在、NASAのJPL(ジェット推進研究所)に所属する。阪神ファンで、愛娘・ミーちゃんのパパ。

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