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特集!あの人の本棚
296.

小野雅裕×佐渡島庸平    ( NASA技術者/株式会社コルク代表取締役社長)


第6回:これからのこと……って、何ですか?

小野雅裕×佐渡島庸平
NASAジェット推進所の技術者・小野雅裕さんが執筆し、コルク代表の佐渡島庸平さんが編集に携わった『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八』。宇宙関連の専門的な内容が書かれているにも関わらず、2018年6月現在、5万部という異例の売り上げを叩き出した作品です。

一般的には難しいと思われがちな「宇宙の本」が、なぜ、ここまで売れたのか?
そんな疑問が、今回の小野さん、佐渡島さんとの対談のきっかけになりました。

多忙なNASAの技術者でありながらも、本を書き、世に広めることに全力を注いだ小野さんと、それを長い目で見て、売る体制を整えた佐渡島さん。おふたりの話を聞くと、この本が売れたことは偶然ではないことが見えてきました。

今回は、そんな対談連載の第6回目、最終回です。
第6回:これからのこと……って、何ですか?

結局、宇宙の面白さって、何?

―― おおざっぱな質問になりますが、いま、宇宙でおもしろいテーマって何でしょうか?

小野 それは宇宙やってる人10人聞いたら、10人違う答えがくるでしょうね。まぁ、僕がおもしろいと思ったことは、本に書いたことなので、まずはそちらを紹介したいです(笑)。

それはさておき。そもそも宇宙って、あたりまえですが「地球以外」の場所じゃないですか。で、地球っていうのは、130億光年を超える拡がりをもつ宇宙の中で、たった半径6000kmを占めるだけの、すごく小さい領域。だから、そもそもこの世の中において、宇宙である場所の方が、宇宙でない場所よりもはるかに大きいし、その場所で起きる現象や情報のほうが、地球内で起きてる現象や情報より遥かに大きい。

だから、例えば日本人がもしもランダムにこの世の中のことに興味を持つとしたら、それが地球内である確率の方が、低いと思うんです。単にうちらの視点が地球に縛られているがゆえに見えないけれども、もう少し神様の視点になって考えてみれば、明らかに地球なんて一番小さい場所だから、地球内よりも地球外の方がおもしろいことは山ほどある訳ですよ。

だから興味の向き方の問題でしかないと思っていて。もちろん分かってないことも多すぎるんだけれども、潜在的におもしろいものが、もう、本が何万冊あっても足りないくらいある。その「ある」ものに対して、どうやって、地球で生まれて今まで地球の中のことしか興味がなかった人に、目を向けてもらえるのかっていう、そこだけだと思うんですね。

そこのゲートさえ突破してもらえば、もうその向こうには、楽しいことが山ほどあって、あとはもう自分で勝手に調べると思う。だからある意味、ゲートをくぐらせてあげるのが必要なのかなって思っています。それが、この本の役割かとも。

僕がラッキーだったのが、『宇宙兄弟』がゲートをくぐらせる役割をもう果たしてくれてたことなんですよ。佐渡島さんがおっしゃったように、僕の読者コミュニティは、たぶん半分は『宇宙兄弟』からくる人で、半分は僕の前の本からくる人。だから、すでにもうゲートをくぐっている人がいるっていうことで、僕の仕事としては、この本で、ゲートをくぐったもう少し先の部分も書けたのは良いことでしたね。

―― なるほど。その気持ちはよく分かるんですが、宇宙に興味ない人にくぐってもらえる「もう少し身近なゲート」も必要なのかな、それってなんだろうと思ったんです。

佐渡島 まぁ、小野さんが、おもしろいと思ってることは事実じゃないですか。ただ、世間はその同じものをおもしろいと思ってない訳ですよね、まだ。それは楽しみ方を知ってないだけなんです。

だから、小野さんが世間の方に合わせて小野さんの話を変えるよりも、楽しみ方を知ってる人が、みんなにも楽しみ方が分かるように伝えるっていうほうが、すごく良いんですよね。

小野 それがファンの方だっていうことなんですね。

佐渡島 そう。ただ、そのためには『宇宙兄弟』とかがいろいろな、途中の橋渡しのステップというか、飛び石を担ってくれたっていうことがすごい重要で。すべての作家の人は、自分の楽しんでることを伝えるのが一番良いんですよ。

一方で、世の中のほとんどのものって……。例えばディズニーランドって、こういう風にディズニーランドを楽しむといいよとか、山だったら、山行ってこういう風に登るといいよ、とか、ここでインスタ撮るといいよとか、楽しみ方が設計されきってるんですよ。

小野さんが今やってることって、楽しみ方が設計されていないものを楽しんでるってことなんです。だから、それを楽しませる時って、どこが楽しむポイントかよくわからないから、その楽しみポイントを分かるように、再現性があるように伝えられさえすればいい。そうしたら、その本はおもしろい本になるんですよ。

難しいジャンルにこそ、次なるヒットのタネが埋まってる?

小野 やっぱりおもしろいと思ってる人が、おもしろいと思っていることを伝えるのが一番いいんじゃないかなー。おもしろいって感じてる人が、おもしろさをちゃんと人にわかるように言葉にできるかっていうのは、また別問題ですが。

そこを引き出せるのが、佐渡島さんみたいな優秀な編集者なのかなって思いますけど。だから、たぶん、世の中探せば、まだ引き出されきってない学者さん、たくさんいると思います。学者って基本、何かをおもしろいと思ってやってる人間ですが、とりわけ日本の学者さんって言葉が上手くない人が多いので。

佐渡島 求められてないからね(笑)。ただ、学者さんの中でも、普遍をやってるのか、細かい隘路(あいろ)に入って楽しんでいるのかっていうのは2パターンあって。

例えば、瓶の中に船とか作って喜ぶ人もいるじゃないですか。そう言う風に完全に個人的な趣味で楽しんでいる人とそうじゃない人って両方いて。そうじゃない人が言葉を持ってない時は、すごく可能性がありますよね。

小野 ただ細かいところをやってる人の分野も、知ればすごいおもしろかったりするんですけどね。

佐渡島 そうですね。ただ、細かいところのものって、結局すごく手順を踏まないとそのおもしろさに気づけないんですよ。

小野 響く層も限られてきちゃいますよね。

佐渡島 そう。手順を踏んだ人にしか響かないってことなんですよね。けれど、「命が何か」とか、「宇宙が何か」とかそういうのは、手順を踏まなくても、ちょっと説明されるとおもしろいと思う可能性があるんです。だから、本っていうメディアは、そういうもの、1個か2個の前提条件を説明したら楽しめることを伝えることに向いているメディアだってことなんですよ。

小野 僕自身もやってる研究っていうのがかなり細かい部分ですから……。まぁでも僕は細かいところにだけ興味があるわけではなく、宇宙に俯瞰的に知識もあるし、興味もあるし。多分、研究者って、彼らがやってること自体はそういう細かいことかもしれないけど、往往にして分野の俯瞰的な知識も持っているんで。

うまく自分の研究を世に広めるっていうエゴから生まれた本だったら良くないかもしれないけれど、そういう分野を俯瞰的に見せてあげようっていう気持ちで書かれた本だったら、たぶんおもしろくなると思うんですよ。

佐渡島 そうですね、そう思います。

小野 だから、うまい引き出し方さえすれば、研究者ってまだまだ発掘されていない、おもしろい本のタネがいっぱい埋もれてるかもしれない。

佐渡島 そうなんですよね。そう思うんですけど、結局みんな文章を書き切る能力がないから、ライターをたてるってなった時に、今度はそのライターが研究者の言っていることを理解できるかっていうところがあって。

ライターの人が分かりやすく書いた時に、何か理解してなくて誤解が残った文章があると、研究者の人が、こんなの世に出されたら、俺の名誉が傷つくって細かく直しだして……って、なかなか世に出せないんですよ(笑)。そこのマッチングが難しい。小野さんほど文章を書ける研究者いないですよ、ほんと。

小野 それはやっぱり好きだからですよ、何だかんだで。

次は、何する?

―― 第5回で、初速のお話がありましたが、それを成功させたあとって、何かできることってあるんですか?

佐渡島 いや、もうその後はやれることが本当に無くなってしまうんですね。やっぱり世に出してしまって、初速がつかなかった時に、やれることってすっごい少なくて。だから、今ここから売り伸ばせることって実は、あんまり無いんですね。売り伸ばせるとしたら、小野さんの1冊目が今売れたっていうことみたいに、小野さんが今回の本に書いてることを、どうやってアップデートしていくかっていうことですかね。

例えば、未来について話すのか、過去について話すのかって考えた時、フォン・ブラウンとか、セルゲイ・コロリョフとか、過去の偉大な人たちが宇宙の分野にはたくさんいるじゃないですか。小野さんがすごい興味があったら、その偉大な人たちについてもっと詳しく知れるような短編っぽいものを書いて発表していくとかは、できますね。その副読本として『宇宙に命はあるのか』があるということをゆるやかに発表していくと、この本にもお客が戻ってきて、とかでまたぐるぐると循環していく感じですね。

小野 なるほどなぁ。まぁ、今は疲れきったんで、次回作はまだ(笑)。

佐渡島 そう、そうね(笑)。1回クリア済んでからね。だって本当に、この東京とアメリカ、ロスの往復は大変ですよ。すごいエネルギーで書き上げた本だと思います。

ーー対談はこれにて終了です。ありがとうございました!ーー

第1回:「売れない本を売ること」の難しさ……、って何ですか?【編集者編】
https://honcierge.jp/articles/interview/291

第2回:「売れない本を売ること」の難しさ……、って何ですか?【作家編】
https://honcierge.jp/articles/interview/292

第3回:良いものをつくる……って、何ですか?
https://honcierge.jp/articles/interview/293

第4回:『宇宙兄弟』ヒットの理由……、って何ですか?
https://honcierge.jp/articles/interview/294

第5回:『君たちはどう生きるか』ヒットの理由……、って何ですか?
https://honcierge.jp/articles/interview/295

インタビューの一覧

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プロフィール

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佐渡島庸平
株式会社コルク代表取締役社長

中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、その後灘高校から東京大学文学部に進学し、2002年に卒業。講談社に入社し、『ドラゴン桜』、『働きマン』、『宇宙兄弟』、『モダンタイムス』などの編集を務める。2012年に同社を退社してからは株式会社コルクを創業し、作家のエージェント会社として従来にはない、エンターテイメントのビジネスモデルを構築している。特技は、精神的にどんな状況であれ、眠れること。

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小野雅裕
NASA JPL 技術者、作家

大阪生まれ、東京育ち。2005年に東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、2012年にマサチューセッツ工科大学に入学。慶應義塾大学理工学部助教を経て、2018年4月現在、NASAのJPL(ジェット推進研究所)に所属する。阪神ファンで、愛娘・ミーちゃんのパパ。

ライターについて

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十河有沙

1993年 北海道生まれ。琉球大学 観光学部卒業。
ホンシェルジュで編集部として働きながら、ライターとしても活動中。

<参考記事>

・「ぜんぶ、おっぱいだ」
http://tenro-in.com/mediagp/38952

・「心が叫びたがっているのならその場でとりあえず叫んでみたらいいのではないだろうか」
http://tenro-in.com/mediagp/39184

メールアドレス:a.sogo@honcierge.jp

プロフィール

佐渡島庸平
株式会社コルク代表取締役社長

中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、その後灘高校から東京大学文学部に進学し、2002年に卒業。講談社に入社し、『ドラゴン桜』、『働きマン』、『宇宙兄弟』、『モダンタイムス』などの編集を務める。2012年に同社を退社してからは株式会社コルクを創業し、作家のエージェント会社として従来にはない、エンターテイメントのビジネスモデルを構築している。特技は、精神的にどんな状況であれ、眠れること。

小野雅裕
NASA JPL 技術者、作家

大阪生まれ、東京育ち。2005年に東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、2012年にマサチューセッツ工科大学に入学。慶應義塾大学理工学部助教を経て、2018年4月現在、NASAのJPL(ジェット推進研究所)に所属する。阪神ファンで、愛娘・ミーちゃんのパパ。

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