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特集!あの人の本棚
312.

松田雄馬   (人工知能研究者)


「人工知能は敵か?味方か?」の議論は古い。ビジネスマンのための人工知能入門書

松田雄馬
「人工知能(AI)」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。技術の進化により生活が便利になる一方、人工知能に仕事が奪われる「テクノロジー失業」などネガティブな文脈で語られることも少なくない。

人工知能とは、人間の味方なのか? それとも役割を奪う存在なのか?

この疑問に全く新しい観点で切り込んでいるのが2018年8月に発売された『人工知能はなぜ椅子に座れないのか―情報化社会における「知」と「生命」―』だ。

著者の松田雄馬氏はもともと、数学を使って生命を理解する数理生物学の研究者。そこから人工知能の研究に進み、20年にわたり生物の観点からAI技術の開発と現場への実装に携わってきたという。

今回、松田氏は人工知能に対してどのような思いを抱いているのか、今後どのような展望を描いているのかについて話を伺った。
「人工知能は敵か?味方か?」の議論は古い。ビジネスマンのための人工知能入門書

人工知能と人間の違い

―― この本を書かれたきっかけは何だったんですか?

松田雄馬(以下、松田) そもそも僕は大学時代、人間のコミュニケーションに興味があったんです。実際、どんな風に脳は動いているんだろう? 「考える」とはどういうことだろう? 「知能」って何なんだろう…。そういったことを深掘りしていくうちに、人工知能に興味を持ちました。

なので、今世間で語られている「人工知能」のイメージに違和感を持っていて。

―― よく言われているのが「人工知能に仕事が奪われる」であったり、「シンギュラリティが到来したら、人間はどうすればいいんだ」だったりですよね。

松田 まさにそうです。僕はそれは違うよ、ということを言いたくて本書を執筆しました。

今の時代、会社に属して生きるというよりは、「一人ひとりが主体性を持って生きよう」という風潮じゃないですか。その土台になるような考え方を提示できたらいいなと思っています。

―― 『人工知能はなぜ椅子に座れないのか』という表題ですが、なぜ椅子に座れないんでしょうか?

松田 逆に言うと、人間は座れるんですよ。例えば、「座れるもの=椅子」と定義したとします。

人間はピクニックに行って疲れたとき、そこにあるのが切り株だろうが岩だろうが、椅子に限らず座れるものに座ります。

しかし、コンピューターは、切り株や岩には座らない。なぜなら、それは椅子でないから。つまり、例外に対して対処できないんですよね。

人工知能と人間の違いは、ここにあります。

本書では「強い人工知能」と「弱い人工知能」という2つが出てきますが、「強い人工知能」は精神も宿すもののこと、すなわち「人間と同等の知能」を指します。一方、「弱い人工知能」は人間が使うための知的作業の一部を代替する「道具」という意味で使っています。

「人間」か「道具」かという分け方になるので、現在世間一般で語られている人工知能は、「弱い人工知能」ですね。逆に「強い人工知能」は今のところありません。

―― 「弱い人工知能」が「強い人工知能」になっていくために必要なものは何なんでしょうか?

松田 定義自体をアップデートすることですね。先ほどの例でいうと、「座れるもの=椅子」ではなく、「座れるもの=椅子、切り株、岩」とする。そうすることで、切り株や岩も座るものとして認識することができます。

しかし、その定義の裏にある「文脈」は時々刻々と変わってしまうんですよね。

人間の場合は「山登りをしている最中に疲れたから座って休憩したい」という文脈があった上で、切り株や岩を椅子のように座るものとして認識する。なので、休憩後、疲れが取れたらもう切り株や岩を椅子だと認識しない。

けれど、人工知能は意思を持っていないので、当然文脈を持ちません。そのため、休憩後も相変わらず切り株や岩を「椅子」として認識としてしまうんです。

この点はなかなか難しいのですが、研究者としては「強い人工知能」を目指していきたいですね。

読み解くべきは、3度の人工知能ブームの「今後」

―― 他に、読者が人工知能に関して知識として持っておいたほうがいいことはありますか?

松田 最近あまり言われなくなりましたが、今は高度情報化社会なんですよね。つまり、当然情報のやり取りはネットワークを介してされるので、パソコンやスマートフォンを使わない人はいません。もうそれらがないと生きていけないという状態になってきているっていう世界を私たちは生きているんです。

そういった情報社会を作ったのがコンピューターであり、そのコンピューターを生み出したのは人工知能を実現しようとした研究者の思いです。コンピュータは、人間に代わって思考してくれる機械を作りたいよねっていう思いが出発点となっています。

例えば「小さい子がスマートフォンを使うって、どうなの?」という議論があると思うんですけど、その際にこの出発点を土台にすると議論の方向も変わると思うんです。

そういう意味では、やっぱり歴史を遡って、「人工知能とは」という考え方に立ち返るのは、大事なんじゃないかと思います。

―― 人工知能が歩んできた歴史から、未来のテクノロジーの姿が見えるということですね。

松田 パーソナル・コンピューター(パソコン)を作ったアラン・ケイさんの言葉で「未来を予測する最善の方法は、自分でそれを作ってしまうこと」というのがあります。では、どうやって作るの? というと、僕は「巨人の肩の上に立つ」ことだと思っています。これはニュートンの言葉で、先人の知恵に乗っかると、見通しのいい景色、つまり未来を見ることができるということです。

なので、まずは歴史を深く知ることが大事ですね。

―― 人工知能の歴史を語る上で、本書では人工知能ブームのその後について触れられていますよね。

松田 はい。人工知能ブームは過去3回あった、というのは多くの人工知能研究者は述べているんですが、ブームの後に何が起こったかまで言及している人はあまりいないんです。だから、本書ではその部分にフォーカスしました。

ブームの最中、人工知能について語っていた人はブーム後どうなったんだ? というエピソードを入れています。

例えば、インターネットの前身であるアーパネットを作ったJ・C・R・リックライダーさん。彼がいなければこの情報化社会はできていないかもしれない、と言うほどすごい功績を残した人です。

元々彼は音響心理学という、耳の人工知能を作る研究をしていました。けれど、「人生がつまらない」という葛藤を抱くんですね。それは、耳の研究をしたくてしているはずなのに、実際やっているのは事務作業だと気付いたからです。

本当は、「このデータがあるということは、この先にもっとこんなデータがあるのではないか?」と試行錯誤をしながら新しい概念を提唱するというクリエイティブなことをやりたいのに、と。

そんなとき、ふと外を見るとイチジクに蜂が止まってたんです。その関係性を見て「蜂とイチジクは、こんなにも共生してるじゃないか。人間と機械ももっと、役割分担するべきじゃないないのか」って思ったそうなんです。

―― 蜂はイチジクの蜜を吸い、イチジクは蜂に花粉を運んでもらうという関係ですね。

松田 そこで、「人とコンピューターの共生」って、かっこいいことを言い出すんですよ。

人間には人間ができることを、機械には機械ができることを。そうすることでそれぞれの能力が上がり、互いに進化する。これが考え方のベースになって、情報をシェアするネットワークがあったらいいよねという発想でアーパネットを作ったんです。

まさに彼の葛藤が今の情報社会につながったと言えます。葛藤って、誰しもが持ってるじゃないですか。ということは、誰でもリックライダーになれるんじゃないかなっていうのが僕の仮説です。

―― 誰でもリックライダーになれる、つまり個人の葛藤が世界を変える仕組みになりうるということですね。

松田 そうですね。本書は人工知能入門書ではありますが、ビジネスパーソンの方にも読んで欲しいなと思っています。

一見、ビジネスの現場とは無関係では? と思うかもしれませんが、人工知能との付き合い方を知ることで、あなたにしかできないことが分かるようになります。

リックライダーさんのように、機械に代替してもらえるところは任せて、自分にしかできない仕事をする、そのための第一歩として本書を手に取ってくれたら嬉しいですね。

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プロフィール

松田雄馬
松田雄馬
人工知能研究者

ドラえもんと同じ、1982年9月3日が誕生日。徳島生まれ、大阪育ち。京都大学大学院卒業。

日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所したのち、MITメディアラボとの共同研究、ハチソン香港との共同研究に従事し、東北大学とのブレインウェア(脳型コンピュータ)の共同研究プロジェクトを立ち上げる。NECを退職し独立したのちは、「知能」や「生命」に関する研究を行い、同分野の開発を行う合同会社アイキュベータを設立し、代表社員となる。

ライターについて

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篠原舞

1988年、長野生まれ。とにかく東京に行きたくて大学受験したはずが、学部キャンパスは所沢だったという痛恨のミス。バイトもせずに飲み会ばかり、でも就活直前にインターンをしまくるという意識が高いのか低いのかわからない系大学生として4年間を過ごす。「新しい今日がある」会社で服を売りまくったり、「まだ、ここにない、出会い。」の会社で広告営業をしたり、インテリア系のベンチャー企業で営業やら広報やらを担当した後、フリーランスに。ただのジャニヲタ。

Twitter
https://twitter.com/maichi6s

プロフィール

松田雄馬
人工知能研究者

ドラえもんと同じ、1982年9月3日が誕生日。徳島生まれ、大阪育ち。京都大学大学院卒業。

日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所したのち、MITメディアラボとの共同研究、ハチソン香港との共同研究に従事し、東北大学とのブレインウェア(脳型コンピュータ)の共同研究プロジェクトを立ち上げる。NECを退職し独立したのちは、「知能」や「生命」に関する研究を行い、同分野の開発を行う合同会社アイキュベータを設立し、代表社員となる。

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