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特集!あの人の本棚
313.

大野真樹   (ゲームデザイナー)


文学少年だった過去の自分に捧ぐ、自分探しゲームのルーツとは

大野真樹
配信開始から1ヶ月でインストール数20万を突破した、iOS/Android対応の自分探しタップゲーム『ALTER EGO』をご存知だろうか。ゲームを開発したのは、カラメルカラムという小規模のデベロッパ。ゲームアプリの供給過多が続く昨今において、小規模開発かつノンプロモーションでインストール数を伸ばしたのは異例といえる。

自分探しという異色のコンセプトだからか、『ALTER EGO』のゲーム内には数多くの文学作品が登場する。今回は『ALTER EGO』のゲームデザインを務めた大野真樹氏に、作品のルーツとなった文学作品を中心に開発経緯を語ってもらった。
文学少年だった過去の自分に捧ぐ、自分探しゲームのルーツとは

性格診断と文学作品の引用で自分を見つめ直す

―― ご存じない方もいらっしゃると思うので、まず『ALTER EGO』について簡単にご説明お願いします。

大野真樹(以下、大野) 『ALTER EGO』はプレイを通じて自分を見つめ直すことができるタップゲームです。ゲームの特徴となる診断パートでは、選択肢による一般的な性格診断に留まらない複数の診断を用意しています。EGOと呼ばれるゲーム内ポイントを使い『人間失格』などの文学作品を獲得すると、作品の引用文を読むこともできます。

―― ゲームで自分探しというコンセプトは珍しいと思いますが、開発したきっかけをお聞かせいただけますか?

大野 『ALTER EGO』の開発に着手したのはだいたい1年くらいまえです。友人と飲みながら「マーケティングから考えるんじゃなくて、自分の作りたいものを作った方がいいのでは」という話をしたのが開発のきっかけです。

自分はいったいなにを作りたいのか一晩考えて、こうやって「自分とはなにか」考えることそのものが好きなんじゃないかと気づいて。考えることそのものをゲームにできないかと考えた結果、延々と続く暗い道をただひたすら歩いて吹き出しをタップしていく、今のゲーム性を思いつきました。

『ALTER EGO』はクリッカーゲームというジャンルのゲームなんですが、無限に続き得るゲームシステムそのものが、果てのない自分探しを表現するのに適切かと思ったのが理由です。

ただ、それだけだと絵的にかなり地味になってしまいゲームとしては引きが足りないかと思い、性格診断要素を加えました。自分探しのテーマに合致しつつインストールの敷居を下げ、さらにSNSへシェアしてもらいやすくする狙いがありました。

―― 文学作品をゲーム内に使うというアイデアも、最初からあったんですか?

大野 はい。獲得した本によって吹き出しの内容が増えていき、読んだ本の内容が自分の一部になっていく体験をさせたいなと、最初から考えていました。

ただ、本の引用文をゲーム内で確認できる機能はリリース1ヶ月まえに実装しました。テストプレイの感想に、もっと文学らしさが欲しいという意見が多くて。吹き出し内に引用文を使うだけじゃなく、1ページくらいのある程度まとまった分量の引用文を読むことができるようにしました。

―― ゲーム内に文学作品を取り入れたことによる、ユーザからの反響はいかがでしたか?

大野 想像以上に良い反応が多かったです。特に、普段あまり本を読まない人が『ALTER EGO』で文学作品に触れて、読書に興味をもってくれたのが嬉しかったですね。

スマートフォンなどで無限に時間を使う手段があるなかで、ゆっくり本を読む必要性はもしかしたら薄れているのかもと思いますが、だからこそゆっくり本を読んで自分を見つめ直す時間は貴重だと感じています。

モラトリアムに刺さりやすい文学作品選び

―― ゲーム内に登場する文学作品を選んだ基準はありますか?

大野 選書の基準は3つありました。1つ目は、著作者の死後50年が経っているもの。2つ目は、ひとりの作者につき最大1作品までにすること。そして3つ目が、自分が学生時代に読んで印象に残っている作品であることです。

学生時代、クサクサしたときに読んで印象に残っている本を挙げていったらどれも内省的で、私と世界の関係性について悩む作品ばかりになりました。

ゲームを作るにあたって改めて読み返したんですが、どれも内容は普遍的に感じるものが多く、10代で今まさに思春期の人にはもちろんのこと、大人になってもモラトリアムを引きずっている人にも刺さる選書になっていると思います。

―― なるほど。具体的にはどんな本がゲーム内に登場するんですか?

大野 太宰治の『人間失格』、ヘッセの『デミアン』、中島敦の『山月記』、カフカの『変身』、ジッドの『狭き門』、ツルゲーネフの『はつ恋』、種田山頭火の『草木塔』、夏目漱石の『坑夫』、ドストエフスキーの『地下室の手記』、カミュの『シーシュポスの神話』、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』、サン=テグジュペリの『星の王子さま』、ポーの『ポー詩集』、夢野久作の『ドグラ・マグラ』の15作品です。

―― そのなかで、特にお気に入りの本はありますか?

大野 厳選している15冊なので、ここから選ぶのは少し難しいですが……。1冊選ぶなら、ヘルマン・ヘッセの『デミアン』ですね。たぶん最初に読んだのは高校生の頃だったと思いますが、愚直に自己を追求していくシンクレールと自分を重ねたり、あるいは自分と似ているけど違う考え方に触れることで、読んでいる自分自身を見つめ直す良いきっかけになった記憶があります。

小説以外だと、種田山頭火の句が好きなので『草木塔』を入れました。特に「どうしようもない私が歩いてゐる」という句が好きで。ただひたすら歩いて歩いて歩き続けても、それでもなおどうしようもない私は付きまとって、一緒に歩いていかざるを得ないというところにとても共感する句です。ひたすら歩いて自分を見つめ直すという『ALTER EGO』のゲーム性も、山頭火の句の印象が強くあったので思いついたのかもしれない、と感じるほどです。

太宰治の『人間失格』とドストエフスキーの『地下室の手記』も、私と世界との摩擦をテーマにしていて捨てがたいです。今の時代の話にそのまま置き換えても違和感ないほど、内向的な人間には感じるところがある作品だと思います。

―― 最後に登場する『ドグラ・マグラ』もインパクトがありますよね。

大野 そうですね。『ドグラ・マグラ』は作品の内容的にも、自分探しという『ALTER EGO』のテーマ的にも最後に入れざるを得ないかな、と。なので、『ドグラ・マグラ』は他の本と比べてかなり獲得が難しく、クリア後にようやく獲得できるかどうか……という設定にしています。

「本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす」と評されていますが、ミステリ小説として読んでも面白い作品だとは思っています。ですが、かなりトリッキィな構成をしているので初読だと読むのに苦戦するのも、よくわかります。

諸々踏まえて、『ドグラ・マグラ』はこのゲームのラスボスのような立ち位置ですね

過去の自分に捧ぐ、自分探しゲーム

―― 大野さんは学生時代に本をたくさん読まれていたようですが、ゲームも遊ばれていたんですか?

大野 はい。家庭用ゲーム機で遊ぶゲームも、ゲームセンターで遊ぶアーケードゲームもよく遊んでいました。ジャンルも色々ですね。アクションゲームや、RPGとか。

大学のときに活字中毒みたいになっていたときがあって、その頃はADVゲームもよく遊びました。家庭用ゲーム機から、18禁のいわゆる美少女ゲームまで。当時はテキストボリュームが多いのが苦にならなかったこともありますが、小説や漫画とは違うゲームだからこそのお話づくりには、当時から興味をもっていました。

逆に、ゲームから文学作品を知るという経験もありました。先ほど例に出した種田山頭火も、確か美少女ゲームの『CARNIVAL』という作品で、主人公が引用したことがきっかけで知った覚えがあります。

―― いろいろなゲームを遊んだことも、『ALTER EGO』を作る土台になっているんですね。

大野 そうですね。だからこそせっかくゲームを作るなら、ゲームでしかできない表現をやりたいという思いもありました。ネタバレになってしまうのであまり深くは語れないんですが、小説や漫画なら一度読んだら選択の余地なく物語が終わってしまいますが、ゲームだったら同じ物語でもプレイヤの選択によって展開を変えたり、同じ物語を意図的に繰り返し読んでもらうような仕掛けができるのが面白いなと。

『ALTER EGO』の場合は、ゲームの流れのなかに性格診断があることも特徴的です。エスというキャラクタと向き合い性格診断をして、実際にリアルの自分を見つめ直すきっかけにもなる。あるいは、エスに自分をさらけ出すという体験をしながら物語を進めていくことが、高い没入感を演出しているかもしれません。

―― なるほど。性格診断をすることで、より自分事として読み進められるんですね。

大野 自分事にしやすい作りだからこそ、没入し過ぎて辛い気持ちになってしまう人がいるかもというのは少し心配でした。もちろん、ある程度クッションというか、書き方を考慮している部分もあるんですが。最後まで遊んでもらえればきっと気持ちの良い読後感を得られると思うので、もしこの記事を読んでいてまだスタッフロールを見ていない方がいたら、是非クリアしていただけると嬉しいです。

―― それでは、最後に読者の方にメッセージなどあればお願いします。

大野 『ALTER EGO』は、かなり自由に好き勝手に作って、自分をさらけ出すことができた作品です。言葉にすると恥ずかしいんですが、たぶんこのゲームは、世間に馴染むことができないで斜に構えて不貞腐れて、本やゲームの世界に閉じこもっていた過去の自分自身に捧ぐ作品だと思います。

マーケティングを意識するわけでも、奇をてらうわけでもない、自分自身の悩みとか感情をありのまま詰め込んでいる作品なので、おそらくこの広い世界で何人かは、自分のために作られたゲームだと感じてもらえるんじゃないかと信じています。

未プレイの方で、インタビューを読んで少しでも興味をもっていただけた方は、是非『ALTER EGO』で検索して実際に遊んでいただけると嬉しいです。

―― お話ありがとうございます。『ALTER EGO』のルーツとなった文学作品を中心に、様々なお話をお聞かせいただき楽しかったです。ゲームアプリの供給過多の時代におけるコンテンツの在り方についても、考える良い機会になりました。本日はありがとうございました!

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プロフィール

大野真樹
大野真樹
ゲームデザイナー

1985年8月22日生まれ。株式会社カラメルカラム代表取締役社長。2010年、フリーランスで始めたシナリオライターの仕事をきっかけにゲーム業界に入る。2011年よりゲーム会社のマーケティングとして従事。2014年6月、株式会社カラメルカラムを設立。自分探しタップゲーム『ALTER EGO』のゲームデザイン、シナリオなどを務める。

ライターについて

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十河有沙

1993年 北海道生まれ。琉球大学 観光学部卒業。
ホンシェルジュで編集部として働きながら、ライターとしても活動中。

<参考記事>

・「ぜんぶ、おっぱいだ」
http://tenro-in.com/mediagp/38952

・「心が叫びたがっているのならその場でとりあえず叫んでみたらいいのではないだろうか」
http://tenro-in.com/mediagp/39184

メールアドレス:a.sogo@honcierge.jp

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大野真樹
ゲームデザイナー

1985年8月22日生まれ。株式会社カラメルカラム代表取締役社長。2010年、フリーランスで始めたシナリオライターの仕事をきっかけにゲーム業界に入る。2011年よりゲーム会社のマーケティングとして従事。2014年6月、株式会社カラメルカラムを設立。自分探しタップゲーム『ALTER EGO』のゲームデザイン、シナリオなどを務める。

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