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特集!あの人の本棚
68.

江口 晋太朗   (編集者/ジャーナリスト)


田中角栄は、インターネットもクラウドソーシングも予測していた。再改造論の視点で、想像してみる。

江口 晋太朗
さまざまなプロフェッショナルの読書遍歴、本に対する考え方などをうかがうインタビューシリーズ。10/31(土)に神田・神保町で開かれるイベント「COFFEE COLLECTION around KANDA NISHIKICHO 2015」 を控え、連載企画「本とコーヒー」がはじまりました。初回のゲストは、編集者の江口晋太朗さん。「コーヒーに関する本」というお題に対して、「ソウゾウ(想像・創造)力を養う本」を勧めてくださった心は、コーヒーを飲むときは自分の時間を大切にするときだから。本の紹介が続きます。
田中角栄は、インターネットもクラウドソーシングも予測していた。再改造論の視点で、想像してみる。

未来観のオルタナティブはどこだ? 未来を再編集しよう

―― 未来がいまのテクノロジー延長線上にあるということでしょうか。

江口 その通りです。いまのテクノロジーから考えるロジックで未来が見えつくされていること。これに対するオルタナティブがないのかな、と考えたときにあえて過去から振り返ってみる。そうやって考えていくと、あったかもしれないパラレルワールド(平行世界)の未来を考えることができます。過去を振り返って考えることも、未来のオルタナティブを考える上でアリなんじゃないかなと思うんです。

―― 2015年は『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』で描かれた未来だということで「どれが実現できたか」など話題になっていました。この話題も「あの日見た未来」ですね。

江口 むしろ逆かもしれません。作者が思い描いた世界に視聴者がビビッときて、テクノロジーがその方向に進化してきた可能性もあります。すると、そうじゃない進化もあったかもしれない。例えば、iPhoneはスティーブ・ジョブズが電話とパソコンを合体させたからいまの形になりましたが、そうじゃない形もあったかもしれない。もしかしたらあのままガラケーと電話だけでぼくらは生きていたかもしれないんですよ(笑)

―― そう考えると、時計と電話がくっついていたかもしれないですよね(笑)

江口 『昭和ちびっこ未来画報』を読むと面白さと可笑しさ、そして、未来はもっとカラフルなんじゃないかと思う気持ちになれます。未来を再編集できるものはないかと思ってこの本を選びました。というのも、実はこういった「あったかもしれない未来」の展覧会をできないかと思っているんです。この本にあるような、未来に対する飛び抜けた想像ができていたことは素晴らしいなと思います。だからこそ、自分たちなりにももっと未来を自由に想像してみたいなと考えているんです。

―― 当時はいまのようにテクノロジーがこうなっていくだろうっていう前提がないとはいえ飛び抜けていますね。

江口 この本を読んでいてもうひとつ思うのは、技術の発展の凄さとうらはらに、意外と現実世界は変わっていないということ。テクノロジーと人間はあまり変わっていないということです。例えば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』で描かれた世界も、技術としては実現できるものはあっても、人間が変わらないことで現実問題として難しいものもあるのではないでしょうか。

―― どういうことですか?。

江口 たとえば空飛ぶ車が実現できたとして、「法律はどうするのか?」「罰則は?」「運転免許は?」といった現実的な運用面も重要です。現実化するとなるとそういった考えなくてはいけないことが多い。そんなことを考えたときに、5冊目のH・ヘルマン『未来の交通』を読んでいただきたい。

正しくは1969年。出版日は不明。

―― タイトルからしてワクワクしますね。

江口 これは一人用の飛行機や電気自動車など、技術の進化によって実現するかもしれない交通の未来について、H・ヘルマンが当時の最新の研究などをもとにまとめた本です。例えば、電気自動車がもっと発展していくとレールの上を走るようになるだろうとか。直射日光をそのままエネルギーに変える車ができるだろうとか。近未来感あふれる自動車を含めたさまざまな移動手段や都市の在り方を想像しています。

―― 『昭和ちびっこ未来画報』と比べると、もっと理論で未来を考えている本ということですね。

江口 この当時は、『未来の交通』で書かれていることがまじめに考えられていて、実は技術も開発されていました。そういう会社もあるし実証実験もされている。この本の中で描かれていることはどれもいつか実現できるんじゃないかと現実的に考えられたものなんです。この本を読むことで、あったかもしれない未来をよりリアルに考えることができるのです。

クリエイターの発想する未来とは

江口 そこで、次の本はややクリエイティブ寄りになりますが真鍋博さんの『超発明』を紹介します。

イラストレーターの真鍋さんが未来の世界観をイラストで紹介している。発明の原点って感じですね。AR三兄弟の川田十夢さんが真鍋さんのことが好きで『超発明』などの著作を読んでクリエイティブの原動力にしています。

ーー 現代のトップクリエイターにも影響を与えているのですね

江口 40年くらい前に描かれたものですが、クリエイターの発想する未来観や想像力は普通の人では考えつかないことを、平気で紙上で表現するのがおもしろい。実現できるかどうかは別として想像するってことに対するおもしろさを感じてもらえたら、と思う本です。

―― 『未来の交通』と対比して読むとまたおもしろいですね。

田中角栄はインターネットを予測していた

江口 さて、『昭和ちびっこ未来画報』『未来の交通』『超発明』と過去から見た未来の本を紹介してきましたが、そこにもう一冊入れたいのが田中角栄の『日本列島改造論』です。

ぼくは田中角栄をいま再認識するべきだと思っています。というのも、実はこの『日本列島改造論』の中に、いまのインターネットの姿を予測した記述があるんです。電話網が至るところに張り巡らされていけば、どこにいても仕事ができるということが書かれている。つまり、今でいうところの「クラウドソーシング」みたいなこともいつかできるだろうと書かれているんです。

―― 43年も前にそんなことが書かれているんですね!?

江口 田中角栄がもともと『日本列島改造論』で考えていたことは、日本各地に道路をあまねく敷くことによって東京から地方に行きやすくなる。そのことによって地方が豊かになるってことだった。それが、結果的に東京の一極集中になってしまってはいるけれど、ただそれを「どうやって現在に落とし込もうか」と考えたときに、彼が考えていたことをもういちど振り返っても良いんじゃないかと思うんです。

―― 『日本列島改造論』ってそんな本だったんですね! きちんと読んだことがなく、勝手なイメージを抱いていましたが、ぜんぜん違いました。本当はひとに地方へ行ってほしかったとは、まさに現代の地方活性化の議論です。

『日本列島”再”改造論』が必要だ

江口 彼は先ほどのインターネットやクラウドソーシングのような発想からさらに発展させて「新25万人都市」という、東京のようなメガ都市ではなくて25万人から50万人規模の都市が各地にできるようになるということも書いています。

―― 地方都市を分散させるイメージだったのですか。

江口 本当はそういうことが書かれているんです。結果として実現できたかどうかは別だけど。でも、この『日本列島改造論』を読むことで、彼がこういうある種の夢想を持っていて、それによって現実的にどうなったのかという発想ができるようになる。

社会全体の未来を考えるときに「都市のインフラ」「社会のインフラ」「情報流通のインフラ」が必要で、そこから都市と地方のありかたを考えることができるようになる。この本はもうちょっと認められて良いと思います。この本を下敷きにして、これからの日本を考える上での『日本列島再改造論』みたいなことを打ち出せると面白いのかな、と。

―― その視点はおもしろいですね。

妄想を現実化したらどうなるかをまじめに考える

―― さて、最後にもう一冊ありますね。

江口 最後は、今年出版された本の中でもお薦めの一冊『ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか』です。これはおもしろいですよ。例えば、「ピッチャーが光速でボールを投げたら?」とか、子どもがするような質問に科学的に計算して答えているんです。

―― 『空想科学読本』みたいな本ですね。

江口 ぼくが好きだったのは「地球にいる人間全員が一斉にレーザーポイントを月に向かって照射したら月の色は変わるのか?」。

―― 質問が斬新だ(笑)

江口 この質問に対して、この本はちゃんと計算し、シミュレーションして答えているんです。結論としては「見えなくなる」なんですが、おもしろいのが「レーザーポインターに照射するための電力が地球で供給できる量を超えているためできないだろう」とも書いてあることです。

―― 現実的な結論が書かれているんですね。そもそも前提が現実的ではないのだけれど(笑)。

江口 ほかにも「地球にいる人間全員が一斉にジャンプしたらどうなるか?」といった質問など、理論的な計算の話と現実的にどうなるかという話がちゃんと書かれていて、そこがたのしいところです。もちろん、本当に現実にできるかどうかとか、彼が用いた論理に対しての異論があるかもしれないけど、それは別として妄想をどれだけ現実的にできるかどうかを現実の理論としてやってみようとするところが面白いところだと思います。

―― 真剣に考えるのが、おもしろさになるんですね。

江口 面白おかしく科学を考えると同時に、空想を本当にやってみる、子どもの夢を現実にやろうとする、子ども的大人のような感じが良いんですね。左脳的に妄想を考えてみる感じです。

―― ご紹介いただいたのは8冊でした。まず妄想から入って、一度過去を振り返り、最後に妄想を現実化したらどうするのかという流れでご紹介いただきました。

クラフトエヴィング商會のような文芸の本からクリエイティブ、テクノロジー、政治の本。そこに遊び心も交えた選書でしたね。テクノロジーやクリエイティブの観点から政治を含め未来の社会を創りだそうと行動していらっしゃる江口さんらしい選書でした。本日はありがとうございました。

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プロフィール

江口 晋太朗
江口 晋太朗
編集者/ジャーナリスト

TOKYObeta Ltd. 代表取締役/ NPO法人スタンバイ理事

1984年生まれ。福岡県出身。編集者、ジャーナリスト。TOKYObeta Ltd.代表取締役。情報社会の未来やソーシャルイノベーション、参加型市民社会のあり方などをテーマに、領域を越境した企画制作やプロデュース活動、リサーチ、メディア運営を行う。コミュニティデザインマガジン「マチノコト」を運営するNPO法人スタンバイ理事、アートプロジェクトを推進するNPO法人inVisible理事、インディーズ作家を支援するNPO法人日本独立作家同盟理事などを務める。ネット選挙解禁に向けて活動したOne Voice Campaign発起人。Open Knowledge Foundation Japan、Code for Japanのメンバーとしてオープンガバメントを推進する活動も行う。著書に『ICTことば辞典』(三省堂)『パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治』(ミニッツブック)など。

ライターについて

和氣正幸
和氣正幸

リアル本屋開業を目指す本屋好き。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営み、「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。本をキーワードに様々な分野で活躍中。

プロフィール

江口 晋太朗
編集者/ジャーナリスト

TOKYObeta Ltd. 代表取締役/ NPO法人スタンバイ理事

1984年生まれ。福岡県出身。編集者、ジャーナリスト。TOKYObeta Ltd.代表取締役。情報社会の未来やソーシャルイノベーション、参加型市民社会のあり方などをテーマに、領域を越境した企画制作やプロデュース活動、リサーチ、メディア運営を行う。コミュニティデザインマガジン「マチノコト」を運営するNPO法人スタンバイ理事、アートプロジェクトを推進するNPO法人inVisible理事、インディーズ作家を支援するNPO法人日本独立作家同盟理事などを務める。ネット選挙解禁に向けて活動したOne Voice Campaign発起人。Open Knowledge Foundation Japan、Code for Japanのメンバーとしてオープンガバメントを推進する活動も行う。著書に『ICTことば辞典』(三省堂)『パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治』(ミニッツブック)など。

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