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特集!あの人の本棚
69.

黒木渚   (ミュージシャン)


『自由律』をより楽しむための本 (黒木渚インタビュー)

黒木渚
さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人の読書遍歴や本に対する考え方などからひもといていくインタビュー。今回はホンシェルジュ連載企画「本と音楽」執筆陣の1人、黒木渚さんにご登場いただきました。
『自由律』をより楽しむための本 (黒木渚インタビュー)

音楽だと主人公が暴走することはないんですけど、小説だとそれができない

ほとばしる感情と言葉。そのパワフルな歌声でシーンを圧倒する黒木渚がセカンド・フルアルバム『自由律』を完成させた。そのタイトルどおり、黒木渚というイメージを打ち破って、より自由に音楽と向き合った新作は、彼女にとって新たな冒険になった。限定盤には彼女が初めて書いた小説「壁の鹿」の単行本がセットされるのも話題のひとつだが、今回は新作に刺激を与えた本を選んでもらった。

―― 今回、初めて小説を書いてみてどうでした?

黒木渚(以下、黒木) いやあ、思ったとおりにはいかないなっていう。

―― 作詞とは違った難しさがあるんでしょうね。

黒木 作詞は引き算というか、長い物語があって、そこからダイジェストでつまんでるっていう感じで、いかに良い場所をつまむか、みたいなところに重きを置いて作ってるんですけど、小説ってなると、部屋に入ってご飯を食べるまでを何十ページにしなきゃいけないっていう時があるんです。ひたすら細かい描写をしなきゃいけないときがあって、それがしんどくて。あと、書いてると主人公が勝手に動き出しちゃうんです。音楽だと主人公が暴走することってないんですよ。私が思ったように動くし、私の言いたいことを代弁してくれるんですけど、小説はできなくて。「死ぬはずじゃなかったのに、死んじゃった」みたいな(笑)。もう、じゃじゃ馬でしたね、小説は。

―― やっぱり、音楽とはぜんぜん違うものなんですね。そういえば、大学では英文学を専攻されていたそうですね。

黒木 大学4年間のうち後半2年が英文学。で、院に入ってから米文学に。テーマは同じポスト・モダニズム文学で、米文学では黒人文学を、トニ・モリスンとかマイノリティーの書いてる作品を読んでました。

―― トニ・モリスンだと黒人だし、女性だし。

黒木 そう、二重苦っていうか。

―― そういう小説に興味を持つようになったきっかけは?

黒木 一番のきっかけは、大学3年生のとき、産休をとっていた助教授が復帰されて、そこで初めて彼女に出会ったんですけど、すごいカッコよくて。とにかく生き生きしててタフな人だったんですよ、なんでも笑い飛ばしちゃうみたいな。言うこともすごい興味深いし。そのときに初めて、母親以外で「この人に成り代わりたい」って思ったんです。だから、もうちょっと勉強したいなと思って、その人の研究室に入って。で、最初に研究のテーマを探すじゃないですか。私はもうすでにバンド活動をしてたいたんですけど、いろいろ先生と話してるうちに、先生に「あなたが感じてることは根本的にパンクの精神だね」みたいな話になり。

―― 先生はパンクを知ってたんですね。

黒木 先生はずっとイギリスに留学してたんです。もう本場じゃないですか。今はかなりエレガントな感じになってますけど、パンクな若者時代を送ってたみたいで。それで、「文学でもそういうものを研究した方が面白いんじゃない?」と言われて、ポスト・モダニズムを。正確な意味を言語で伝達し合うなんてそもそも無理じゃない? みたいな、今までの文学を覆す流派なんですけど、そういうものを薦められて、そこから興味を持ってのめり込んで行ったんです。

―― じゃあ、大学時代は結構、読書されたんですね。

黒木 そうですね。ただ、娯楽として読むものは図書館でジャケ借りをするって決めてて、作家で読まなかったんですよ。「この作家が好きだから、この人のものは全部網羅する」みたいな感じじゃなかった。私、村上春樹の『ノルウェイの森』がすごい好きなんですけど、「他の作品まで全部読み尽くしたい」っていうんじゃなくて、この人のこれが好きみたいな感じなんです。だから、図書館に行って、装丁とかタイトルとかで気になるやつを選んで限界の冊数まで借りて帰る、みたいな生活でした。だから、なかには悪書と呼ばれるものも含まれてるし、古すぎてわけわかんないやつもありましたね。

Photograph by Yoko Yamashita

―― そのとき、もう音楽活動をされていたということは、読んだ本からインスパイアされたものが音楽に反映されたりも?

黒木 反映されてますね。というか、中高時代も本以外の娯楽がまったくなくて。全寮制の学校ですごい厳しかったんですよ。しかも、学校の図書館には真面目な本しかなくて、モネとかゴーギャンとかのでっかい画集みたいなのとか。そういうものを大事に楽しんで、そこから受けた影響を溜め込むみたいな青春時代でした。そういう6年間を送っていたから、大学に入ったら、その反動で世の中のことが何でも面白いっていうか。何にでも音楽がついてるし、炊飯器でご飯が炊けた音も音楽だし(笑)。そこから得たものもありましたね。私、14歳からずっと日記を付けてるんですけど、それに面白かったこととかを書き溜めてて、それが今になって役に立ってるんですよ。過去の自分、グッジョブ!みたいな。

―― 全寮制で外からの情報をシャットアウトされた思春期を送っていたというのは大きいですね。

黒木 大きいですね。外に向けて発散するエネルギー、例えば反抗期とか、そういうものは一切なかったんです。ただ内に内にっていう、すごくいろんなことを考える期間が6年間もあったっていう。

―― しかも、図書館にあるのは正しいことしか言ってないような本でしょ? 読みながら「これはおかしいんじゃない?」みたいに思ったりしませんでした?

黒木 思いましたね。寮に入ってる間に両親が離婚したりとか、プライベート面でかなり揺れてたんですよ。しかも寮生活で親と離れた場所で生活してるから、一人蚊帳の外で自分の身に起きた不幸についてすごく深く考える。「なんで私にこんなことが起きるんだろう?」って、思春期特有の世の中の不幸を自分一人が背負ってる感というか。それをひしひしと感じてるときにそういう本を読むとひねくれるんです(笑)。「なんだよ!」みたいな。神様の本とかを読むと「いるんだったら、ちょっと会わせろよ!」みたいな、そういう育ち方をしましたね。けど厳しすぎてグレることもできず。反抗しようにも親は近くに住んでおらず、っていうことだったから、ずっと黒木渚として生きるための人生哲学を積み上げる時期だったなって、今となっては思いますね。修行期だったなって。

―― そういう子供の反抗精神って、今回選ばれている村上龍『希望の国のエクソダス』に通じるものがありますね。

黒木 この本の面白かったところっていろいろあるんですけど、反乱を起こす頭の良い中学生たちに対して、彼らを取材する大人の記者が、ある種の憧れを感じているんですよ。やっぱ、みんなアンチな精神をカッコいいと感じるんだなと思って。ロックンロールがカッコいいのも何かに反抗してるからだと思うし、何かと戦う、イコール、カッコいいみたいな、根本的な仕組みがあるんだなって思ったんです。

―― 今回のアルバムを作っている時に読んでいたんですか?

黒木 そうです。アルバムを作っている間、ずっと「つまんない、つまんない」って言い続けてて。世の中の自重モードみたいなものに飽きてたんです。それでこの本を読んだら、すごく爽快だった。中学生が反乱を起こすことが、「大予言」(アルバム収録曲)にリンクしてたりもして。今読んで良かったなと思いました。

―― 「大予言」といえば、持って来ていただいたものに『予言 天変地異』っていうすごい本がありますね。

黒木 今回はあえて小説は持ってこなかったんです、これまでいろいろ紹介してきたんで。これはインチキな予言ばっかりが載ってる本で。私はこのインチキさが結構好きで、ぜんぜん信じてないんですけど一応チェックしちゃうんですよね。霊感で予言してる人とか、科学的な観点から予測してる人とか、いろんな切り口の予言が載ってるのが面白いなと思って。

―― 予言モノに興味を持つようになったのは、「大予言」を書いたから? それとも以前からですか。

黒木:インチキ系はずっと好きで、ユリ・ゲラーとか、エスパー清田とか、サイババとか、見ちゃうところがずっとあるんですよ。でも、特に最近ですね。地震の予測をする予言者が続々と出て来て、「地震が来るぞ、来るぞ」ってすごい騒がれたりするじゃないですか。スタッフもすごいビビって、わざわざメールして来て「こういうことを予言してるおじさんがいるんだけど、ほんとかな?」みたいな(笑)。みんな来るかどうかもわかんないのに、惑わされてる。予言した人はその責任をとる気もないのに、よくインチキが言えるなと思ってて。それで「大予言」って歌ったら面白いかもって思いついたんです。

黒木渚『自由律』をより楽しむための本 Vol.1

希望の国のエクソダス 予言・天変地異
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プロフィール

黒木渚
黒木渚
ミュージシャン

独特の文学的歌詞で、女性の強さや心理を生々しく歌い上げる、孤高のミュージシャン。宮崎県出身。全ての作詞作曲をつとめる。2015年10月に『自由律』をリリース。11月からは6大都市ワンマンツアーを開催する。http://www.kurokinagisa.jp/

ライターについて

Writer 6
村尾泰郎

ロックと映画の評論家。子供の頃から本好きで、小学生の頃に読んだH・G・ウェルズ『宇宙戦争』に衝撃を受けてSFに夢中になり、コミック、アニメ、ホラー、パンク/ニュー・ウェイヴなどに囲まれて思春期を送る。

プロフィール

黒木渚
ミュージシャン

独特の文学的歌詞で、女性の強さや心理を生々しく歌い上げる、孤高のミュージシャン。宮崎県出身。全ての作詞作曲をつとめる。2015年10月に『自由律』をリリース。11月からは6大都市ワンマンツアーを開催する。http://www.kurokinagisa.jp/

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