鮎川哲也のおすすめ小説5選!巧みなアリバイトリックに目が離せない

更新:2021.12.15

戦後にデビューし、後の社会派推理小説の全盛期に至っても、頑なにアリバイトリックを主体とした本格探偵小説を書き続けた鮎川哲也。晩年は新人作家の発掘にも力を入れました。今回は鮎川哲也のおすすめ小説を5点紹介します。

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本格探偵小説一筋の作家・鮎川哲也

鮎川哲也は1950年、『ペトロフ事件』にてデビューしましたが、出版社と関係がこじれ出版はされませんでした。のちの1956年『黒いトランク』にて出版デビューとなりました。

社会問題を題材にしたミステリーが全盛期だった時代でしたが、鮎川哲也は一貫してトリックを主眼とする本格推理小説を書き続けました。自身の活躍もさることながら、戦前の作家、作品を発掘や、後進の育成にも力を入れていました。

鮎川哲也の作風の特徴は、アリバイトリックです。ほとんどの作品でアリバイを主体としたトリックが用いられています。緻密なプロット構成により、完璧に見えた犯罪がするすると解きほぐされていく様は驚きとともに爽快感があります。

鬼貫警部の活躍が光る、シリーズ第1作『黒いトランク』

東京の汐留駅にあった黒いトランクから男の死体が発見されました。荷物の送り主の行方を探すと溺死体で見つかり、事件は終わったかのように思われましたが、送り主の妻が疑義を呈します。

そして、送り主の妻は知り合いの鬼貫警部に捜査を依頼しました。果たして鬼貫警部は真犯人を見つけ、アリバイを崩すことができるのでしょうか。

著者
鮎川 哲也
出版日

『黒いトランク』は、1956年に発表された鮎川哲也の作品です。舞台は1949年、時間と場所に関するアリバイに鬼貫警部が挑みます。不可能かに見えるアリバイトリックですが、解けてしまうと案外簡単なものだとわかります。緻密に計算されているからこそ、よく整理されたトリックとなるのです。

本作の魅力は、鮎川哲也のメインシリーズである鬼貫警部の登場です。鬼貫警部はバラバラの手掛かりをかき集め、次々に立ち現れる困難な謎を持ち前の想像力と類まれな推理力で看破します。黙々と調査を進める姿に男らしさを感じさせられる鮎川哲也の一作です。
 

江戸川乱歩の依頼に応えた短編集 『五つの時計』

アパートの一室で男が殺されました。容疑者は二人。一人は動機も証拠もあり、しかもアリバイはなし。しかし、冤罪を主張しています。もう一人は、訪問者の腕時計や部屋の置時計、蕎麦屋の出前時間、洋品店に寄った時間、ラジオの放送時刻と、五つの時計が完璧なアリバイを作っていました。果たして、犯人はどちらなのでしょうか。

『五つの時計』は表題作を含め、十編を収録した鮎川哲也の短編集です。探偵小説専門誌『宝石』の編集長に就任した江戸川乱歩が、当時新人だった鮎川に実績を積ませようと立て続けに書かせた短編を中心に収録しています。短編であるだけに、物語そのものはシンプルですが、手の込んだトリックを用いており、読みごたえがあります。

著者
鮎川 哲也
出版日

本作の魅力は、バラエティの豊かさです。鮎川哲也お得意のアリバイ崩しはもちろん、犯人当てものもあります。また、問題編を鮎川が書き、犯人当てを他のものに解答させるという面白い趣向のものもあり、様々なミステリーを楽しめます。

犯人視点の倒叙ミステリー 『崩れた偽装』

竹岡は過去の犯罪歴を隠すために、どや街に住んでいた男の戸籍を買い、セールスマンとして転身しました。成績は上々で、後輩社員と結婚を誓い合う仲にもなり、素晴らしい未来が待っている……かのように見えました。

しかし、上司から魅力的な縁談が舞い込んできます。その縁談に飛びつき、後輩社員を捨てようと思いましたが、既に犯罪歴を話していました。もう殺すしかない。竹岡はアリバイトリックを企みます。

『崩れた偽装』は倒叙形式のミステリーを八編集めた鮎川哲也の短編集です。倒叙とは、冒頭で犯人が犯罪に手を染める姿が描かれ、後にその犯罪が警察や探偵に暴かれて事件が解決するミステリーで、普通のミステリーとは順序が逆になっています。ですので、犯人当てではなく、完全犯罪が綻びを見せる様が中心となります。

著者
鮎川 哲也
出版日
2012-11-13

本作の魅力は、犯罪者の心理描写です。倒叙形式ですので、犯罪者視点で物語が展開されます。犯罪に至るまではもちろん、トリックを施している間の心の動きを読むことができます。

加えて、本作は決まった探偵がいません。なので、視点が探偵に移ることがなく、犯人の心理がトリックを解かれる最後まで描かれるのです。一風変わったミステリーを読みたい方にオススメの鮎川哲也作品です。

鮎川哲也が得意とするアリバイトリックが目白押し『アリバイ崩し』

冬の深夜、裏路地で後頭部を鈍器で殴られた男の死体が発見されました。殺されたのは銀行の営業部員。同僚にバーへ行くと言っていましたが、実際には訪れていませんでした。

しかし、見つかったのはバー専用の裏路地であったため、ホステスや従業員、常連客に容疑が広がりますが、誰一人として関係のある人物は見つかりません。一体、男はバーに行かずどこへ行き、誰に殺されたのでしょうか。

著者
鮎川 哲也
出版日
2011-05-12

『アリバイ崩し』はその名の通り、アリバイ崩しのミステリーを五編集めた鮎川哲也の短編集です。アリバイトリックを数多く生み出してきた鮎川の力が存分に発揮されています。シンプルでありながら、しっかりと抑揚のあるストーリー展開で飽きないものになっています。

本作の魅力は、多彩な構成です。ノンシリーズということもあり、かなり自由な構成をしています。中には、犯罪者が探偵を出し抜いてしまう、なんて変わった鮎川哲也の作品もあるのです。それぞれの短編で違った構成になっているので、アリバイトリックだけなのに、様々な楽しみ方ができます。

軽妙なタッチの異色作 『死者を笞打て』

主人公は鮎川哲也自身。鮎川の作品『死者を笞打て』が、10年前に謎の女流作家が書いた作品に瓜二つだとして、盗作の疑いがかかります。世間は鮎川を非難し、仕事は途絶えてしまいます。鮎川は身の潔白を証明するため、女流作家を探し出そうとしますが、その結末は意外なものでした。

『死者を笞打て』は1964年に発表された鮎川哲也の作品です。堅苦しいタイトルですが、実際はコメディタッチのサスペンスとなっています。鮎川の他作品は比較的硬い文章、展開なのですが、本作の文章はユーモラスですし、実在の作家が多数出てくる変わった展開ですし、鮎川の作品の中では異色作といえます。

著者
鮎川 哲也
出版日

本作の魅力は、ラストのどんでん返しです。軽い雰囲気なのでついつい何も考えず楽しんでしまいますが、ラストには認識がガラリと変わります。伏線を巧みに配置しており、思わずあっと言わされてしまいます。ぜひおすすめしたい、鮎川哲也の作品です。
 

以上、おすすめ小説を5作紹介しました。綿密に練られたトリックと事件を一つずつ崩す様は読みごたえがあります。ぜひ鮎川哲也の作品に触れてみてください。

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