柚月裕子のおすすめ小説6選!時事的な社会問題をサスペンスに仕立て上げる!

更新:2021.11.25

話題となった社会問題を作品に取り入れたサスペンスを発表する柚月裕子。サスペンス性もさることながら、深い人間描写に定評があります。今回は柚月裕子のおすすめ小説をご紹介します。

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社会派サスペンスを放つ作家・柚月裕子

柚月裕子は2008年、『臨床真理』で第7回『このミステリーがすごい!』大賞で大賞を受賞し、翌年、同作でデビューした小説家です。二児の母親として主婦業の傍ら執筆を続け、40歳の遅咲きのデビューでしたが、大藪春彦賞、日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞するなど活躍を続けています。

柚月裕子の特徴は、社会問題を取り入れたサスペンスです。生活保護やストーカー殺人、ネットを利用した殺人など、新聞やテレビの報道で話題となった事件などを巧みに取り入れて、人間の本質をえぐるようなサスペンスに仕立て上げます。

臨床心理士がタブーに挑む『臨床真理』

新米の臨床心理士・佐久間美帆が担当する患者・藤木司は、相手の声から心理状態を視覚的に読み取ることができる共感覚を持っていました。藤木は自分がいた福祉施設での少女の自殺について、実は他殺だったと訴えます。佐久間はカウンセリングの枠を飛び越えて、事件の真相を追うことを約束します。

著者
柚月 裕子
出版日
2010-03-05

今作は、2009年に発表された柚月裕子のデビュー作です。当時は臨床心理士の役目が注目され始めていました。作中では、主人公を臨床心理士として、福祉施設の現状や障害者の性欲といったタブーを取り扱います。福祉施設への潜入など積極的に謎の解明に挑む様は、スリリングなものになっています。

本作の魅力は、スピーディーな展開です。臨床心理や福祉施設などの説明が多いものの、
展開の移り変わりが速く、読みやすい文章も相まって、ドンドンとページが進みます。思わず一気読みしてしまう、柚月裕子の作品です。

生活保護の闇を描く『パレートの誤算』

市役所に就職した牧野聡美は、生活保護受給者のケアを担当するケースワーカーとなりました。仕事に不安を感じる牧野でしたが、先輩の山川が励ましてくれました。しかし、その山川が受給者の住むアパートで撲殺されます。牧野は山川の後を引き継いで仕事を行いますが、その中で山川の裏の顔が次々と露わになります。
 

著者
柚月 裕子
出版日
2014-10-10

『パレートの誤算』は2014年に発表された柚月裕子の作品です。生活保護の不正受給をテーマにしたサスペンスで、ケースワーカーの実態が詳細に描かれます。シンプルなストーリー展開となっていますが、最後にはどんでん返しもあり、心温まるラストで読後感も良いです。

本作の魅力はメッセージ性にあります。「パレート」とは経済用語の「パレートの法則」から取られたもので、社会では一定の割合の人は常に怠けているという法則です。この法則を誤算にしたい、という柚月裕子の強い思いが作品に込められています。

婚活殺人の真相とは?『蟻の菜園 ―アントガーデン―』

週刊誌でライターをしている今林由美は、婚活サイトを利用した連続不審死にて殺人容疑がかかっていた円藤冬香に興味を持ちます。冬香は40代で並外れた美貌を持っている女性で、犯行時のアリバイは完璧で動機も共犯者も見当たりません。それでも、由美はわずかな手掛かりを元に、日本各地を巡ります。

著者
柚月 裕子
出版日
2015-08-06

『蟻の菜園 ―アントガーデン―』は2014年に刊行された柚月裕子の一作。由美視点の現在と、冬香の過去が交互に描かれます。婚活に絡んだ殺人だけでなく、児童虐待をもテーマとしており、暗く重々しい空気に包み込まれています。

この作品の魅力は、緊迫感の強さです。過去での児童虐待の緊迫感もさることながら、現在での由美の捜査にはタイムリミットが設定されているので、全体的に強い緊迫感になっています。思わず手に汗を握ってしまいます。

有罪確実の被告を救うリーガル・サスペンス『最後の証人』

佐方貞人は元検察官で、現在は刑事事件を専門とする弁護士です。彼のもとに、ホテルで起きた殺人事件の被告人からの依頼が舞い込んできました。物的証拠も状況証拠も揃っており、有罪は間違いありません。しかし、佐方の勘は無罪だと告げています。果たして、佐方は被告人を救うことができるのでしょうか?
 

著者
柚月 裕子
出版日
2011-06-04

本作の魅力は、真相の意外さです。法廷闘争が本筋ではあるのですが、途中から犯人捜しのミステリーへと変貌します。それに加えて、ラストにはどんでん返しが用意されており、なかなか真相を見抜くことは難しくなっています。

警察組織の腐敗を明るみにするサスペンス『朽ちないサクラ』

ストーカーの被害届の受理を引き延ばしたことで、殺人が起きてしまった。そのことが新聞にスクープされて、警察が非難を受けます。警察の広報課に所属する森口泉は、新聞記者の親友が情報を漏らしたのではないかと疑います。親友はそれを否定し、潔白を証明すると言いましたが、直後連絡が途絶え、一週間後には遺体となって発見されて……。

著者
柚月 裕子
出版日
2015-02-10

柚月裕子の本作では、ストーカー殺人を契機として、警察組織の問題点をテーマとしたサスペンスが展開されます。主人公の森口は警察職員なので普段は捜査をしませんが、
親友の死の真相を探るため、刑事と協力して捜査に乗り出します。本職の捜査一課よりも早く事件の核心に触れるなど、捜査の才能を開花させていく成長物語でもあります。

本作の魅力は、事件の奥深さです。新聞へのリークや親友の死の真相がわかっても、物語は終わりません。事件の裏には巨大な悪が潜んでいます。そうした構造が、事件の闇をより深いものにしています。

 

柚月裕子が描く、渾身の将棋ミステリー『盤上の向日葵』

 

埼玉県天木山中で初代菊水月作の名駒を抱いた白骨遺体が発見されます。優秀なベテラン刑事・石破とかつてプロ棋士を目指した新米刑事・佐野が残された駒から事件の真相を追う中で、将棋に魅了された者の壮絶な生き様が明らかになる重厚な人間ドラマが織り交ぜられたミステリーです。

物語は1994年12月23日に2人の刑事、佐野直也と石破剛志が山形県天童市に降り立ち、将棋のタイトル戦である竜昇戦の会場に向かうところから始まります。竜昇戦の会場では名人になるために生まれてきた男、若き天才棋士の壬生芳樹竜昇と、プロ棋士の養成機関である奨励会を経ずに実業界から転身して特例でプロになった東大卒のエリート棋士・上条桂介六段がお互い負けられない最終戦を対局しているのでした。

時は遡り、8月3日の埼玉県大宮北署では50名ほどの捜査員が集められ、天木山山中男性死体遺棄事件の捜査本部会議が行われていました。1週間前に天木山から白骨化した遺体が発見されたのですが、その遺体とともに最高級品、初代菊水月作の将棋の駒が見つかります。

元奨励会員だった新米刑事の佐野は将棋の知識を買われ、人間的には難ありだが仕事は一流なベテラン刑事、石破とペアになって遺留品である駒の所有者を辿りながら事件を捜査することになりました。

2人の捜査と並行して、1971年1月長野県諏訪市に住むある少年の生い立ちも同時に描かれます。彼の名は上条桂介。桂介は幼い頃に母を亡くし、父と2人で暮らしていましたが、母の死を境に父はギャンブルに明け暮れ、虐待されながら育ちます。そんな桂介の唯一の心の支えは将棋で、将棋をきっかけに元教師の唐沢と出会うのでした。唐沢に目をかけられるようになった桂介はめきめきと将棋の腕を磨いていき、桂介の非凡な将棋の才能に気付いた唐沢は桂介に東京へ出てプロになるようにすすめます。

著者
柚月 裕子
出版日
2017-08-18

 

一体どのようにして事件は冒頭のシーンと繋がるのか、白骨化した遺体は誰なのか、なぜ遺体は名駒と一緒に埋められたのか、名駒の持ち主は誰なのか、天才エリート棋士・上条佳介と事件はどのように関係しているのかなど、いくつもの謎が浮かびます。

2人の刑事の捜査と桂介の生い立ちが同時に進行していく中で、少しずつその真実が明らかになるストーリー構成は秀逸で、ぐいぐいと物語に引き込まれて目が離せません。

また、将棋に魅了された登場人物たちからは将棋の世界の奥深さと魅力が存分に伝わってきます。奨励会の厳しさや、将棋道具の名品、金を賭けて将棋を指す真剣師、そしてなんといっても棋士たちが全身全霊で将棋を指す対局のひりひりとした緊迫感はたまりません。将棋のことがわからなくても死力をぶつけ合う対局シーンの迫力には心が揺さぶられることでしょう。

この将棋ミステリーの根幹をなすキーマン、上条桂介が竜昇戦に挑むまでの生い立ちは壮絶で、ろくでなしの父親、恩師である唐沢、東京で出会う真剣師の東明との交流は目を見張ります。桂介の人生模様によって本書はただのミステリーではなく人間ドラマへと物語の厚みを増しているのです。読後には人の生き様について感じ入るものがある渾身の将棋ミステリーです。

以上、柚月裕子のおすすめ小説をご紹介しました。時事的な社会問題をベースにした骨のあるサスペンスばかりで読み応えがあります。ぜひ、柚月裕子の作品を読んでみてください。

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