ごとうしのぶのおすすめBL小説5選!切なさとときめきと

更新:2021.12.15

BLの世界で、絶大な人気を誇る作家ごとうしのぶ。その丁寧な心理描写と、しっかりとした骨のあるストーリーは、読む者の心に「ときめき」を生み出します。 今回は、そんなごとうしのぶの作品をご紹介していきます。

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切なく甘い大人のラブストーリー

1994年に発行された、いわゆる、年下ワンコ攻め×年上美人受けという構図の、BL作品です。

舞台は現代日本、インテリア会社に勤める七瀬浩之が、天才デザイナーの沢地淳の担当特務に抜擢されるところから始まります。

沢地は、会社に出社しないデザイナーで、七瀬も噂にしか聞いたことのない存在です。そんな沢地の担当に抜擢された事は、七瀬にとって出世コースに乗れるチャンスでもありました。

そんな沢地に挨拶に行くことになった七瀬は、手土産を買おうと立ち寄ったケーキ屋で偶然見かけた綺麗な男性に目を奪われます。

己の出世の事が脳裏を過りつつ、噂でしか聞いたことのない天才デザイナーに会えるという事で、失礼があってはならないと、緊張の中で訪れた沢地との初対面。そこに居たのは、ケーキ屋で見かけた、あの綺麗な男性だったのです。

中世的な顔立ちと、硝子のような綺麗な瞳を持つ沢地に、七瀬は一目惚れをしてしまいます。

 

著者
ごとう しのぶ
出版日


仕事の相手、同性、年上、恋愛対象としてのハードルはとても高いのですが、それでも惹かれていく心を止められない七瀬が、過去に傷を背負う沢地の心を引き寄せていく過程がとても丁寧に描かれています。

作中、沢地の瞳が義眼であること、また彼の抱えるコンプレックスやトラウマが明かされますが、七瀬はそのことで同情したり特別扱いをしたりすることはしませんでした。

七瀬の「沢地さんの左は俺が守ります」という台詞が爽やかで気持ちが良く、打算を含まず純粋に恋をする姿の一生懸命さが胸に響きます。

そんな七瀬に心惹かれ、過去と向き合おうとする沢地の心の揺れや苦悩、また目を失った時から沢地の人生に深く関わっている上条という男との関係など、随所に読み応えのある設定が散りばめられており、物語の中に深く引き込まれていきます。

大人の恋愛を描いている作品ですが、ドロドロとしたほの暗さは無く、人を好きになるということを思い出させてくれる素敵な作品です。

BL作品というと過大な性表現などを連想し、手を出しにくいと思っている方もいるかもしれませんが、この作品にはその様な表現は含まれておらず、読後は充実感溢れる爽やかな気持ちになれるでしょう。

等身大の高校生の恋愛に胸がキュンとなる名作

1985年~2014年まで続いた全27冊の長編シリーズ。ごとうしのぶの代名詞とも言える作品です。ドラマCD化、漫画化、実写映画化もされ、2014年に一応の完結を迎えましたが、その後も全作品を11冊に纏めた完全版の発行、そこでの書きおろしの発表などがあり、根強くファンに愛されているBL作品です。

物語の舞台は、山奥にある全寮制の男子校「祠堂学院高等学校」。主人公の葉山托生は、そこに在籍する二年生です。物語は彼の一人称で進んでいきます。

托生は過去の辛い経験から、人との交わりを怖がり、わずかな接触すらも反射的に嫌悪してしまいます。

作中で明かされる托生の過去を思えば、それも致し方のないことなのですが、俗世を避けて入学した山の中の全寮制高校という閉鎖的な空間にあって、托生の性格は時に悪目立ちをしてしまいます。そんな托生に「人間接触嫌悪症」という病名を付け、個性として受け入れたのが、崎義一(通称:ギイ)でした。

 

著者
ごとう しのぶ
出版日


一作目の『そして春風にささやいて』では、そんな托生とギイが心を通わせていくまでの過程を描いています。一年生の時から同じクラスだった二人は、二年に上がった際の部屋替えで同室となりました。すべてを拒絶しようとする托生と、それを優しく包み込むギイの恋心が成就した瞬間のときめきは、甘酸っぱくて温かく、初恋のように胸を躍らせてくれます。

ギイはアメリカ国籍の御曹司で、本来であれば日本の山奥の全寮制の高校にSPも付けずに通って良いような身分ではありません。住む世界が違うと引け目を感じる托生に対し、特別扱いを嫌うギイは「自分と家は関係ない」とたびたび托生に言い聞かせますが、托生はそれをなかなか受け入れることができずに苦悩するのです。

そんな二人の心のすれ違いや葛藤、相手を思う気持ちが、全作を通して丁寧に描かれています。

ギイには幼い頃にたった一度だけ見かけた名前もわからぬ托生に一目惚れし、初恋の托生を追いかけて親の反対を押し切って祠堂に入学した経緯があり、托生が思っているよりも深く托生のことを愛しています。そこまで愛されている托生のことを、作者は美少年ではないと明言しているのも、この作品の面白いところです。

人との関わりを極力避けて生きてきた托生が、進路や人間関係に悩みながら成長していく姿に、親近感を覚える方もいるのではないでしょうか。

時に嫉妬やいじめなど人間の醜い部分も描かれている作品ですが、それすらもスマートに表現してしまう作者の文章は、中だるみせずに最後まで読み進めることができます。

青春時代の甘酸っぱさを思い出したい方、人間関係に悩んでいる方に、ぜひおすすめしたい作品です。

本当に大切なものを教えてくれる切ないラブファンタジー

1998年~1999年にかけて出版された、三部作のファンタジーBL作品です。

舞台は、太陽の王、月の王、水の王子が支配する、「契る相手は一生に一人だけ」と定められた世界。十数年後に終末が訪れると予言されています。

そんな世界で、一度は月の王の継承候補にあがりながらその資格を失ったタスティスと、同じく水の王子の継承候補の資格を失ったレエナの二人の物語です。

 

著者
ごとう しのぶ
出版日


一作目の『夢見の章』では幼いレエナとタスティスの出会いを、二作目の『霧雨の章』ではタスティスへの恋心を自覚したレエナが、子ども扱いされることに悩む姿を、三作目の『黄昏の章』ではそんな二人の恋が成就するまでを、描いています。

世界観がしっかりと構築されており、制約の多い設定ですがすんなりと物語に入り込むことができます。丁寧な心理描写が印象的な作品です。

タスティスはいわゆるブラコンで、兄のラフィーネに甘く、なんでも一歩引いて兄に譲ってしまいます。優しいといえばその通りなのですが、なにもそこまで……と、呆れてしまうような描写が散見され、そのことが後々物語を複雑な方向へと向かわせてしまうのです。

幼いレエナとタスティスは友人として良好な関係を築いていきますが、成長とともにレエナは自分のタスティスへの気持ちが恋心だと自覚していきます。一方のタスティスはそんなレエナを子ども扱い。その温度差に悩むレエナの姿が丁寧に描写されていて、切なさが伝わってきます。

それでも、ゆっくりと関係を築き始めた二人に、ラフィーネが介入してくるのです。レエナへの自分の気持ちを自覚していながら、兄を止められないタスティスと、拒まれても執拗にレエナに執着するラフィーネの三角関係は、読んでいてハラハラします。

また、作中に出てくる他のキャラクターたちも魅力的で、皆に愛される太陽の王クラルテや、その右腕バイス、タスティスに仕えるイージス、武人のバイスなど、主人公二人を見守ってくれる人物たちのサイドストーリーも丁寧に描かれており、全体的に隙がありません。

タスティスとレエナの恋路はどうなってしまうのか、タスティスはラフィーネからレエナを守ることができるのか。最後まで読者の心を掴んで離さない、読みやすい作品です。

ファンタジー作品が好きな方、BL作品が好きな方、切ないラブストーリーをお探しの方におすすめの作品です。

勇気をくれる明るい女の子の奮闘記

2012年からシリーズで発行されている児童書です。

主人公の東堂奏は中学一年生の女の子。フルートが好きな奏は、中学生になったら吹奏楽部に入部して全国大会に出場するのが夢でしたが、急に決まった父親の転勤で中学入学と同時に引っ越しを余儀なくされます。

引っ越し先で入学した中学校の吹奏楽部は、とても全国大会に出られるレベルではなく、意気消沈してしまいます。

「吹奏楽は、全員でやるんだもん。一人が頑張ったってどうにもならない…」としょんぼりする奏に、友人の藤堂由紀が「いっしょに吹奏楽やってみる」と言ってくれ、由紀の幼馴染の蒼居明も「泣くほどやりたいならやりゃあいーじゃん」と口悪くも優しい言葉をかけてくれ、気持ちを持ち直した奏が廃部寸前の吹奏楽部で奮闘する物語です。

 

著者
出版日
2012-11-15


奏たちの頑張りに、幽霊部員だった先輩たちが戻ってきてくれるなど、目に見えて結果が出てくる様子は、読んでいてとても気持ちがいいです。等身大の中学生の女の子の喜怒哀楽が丁寧に描写されていて、読みながら奏と一緒に悲しくなったり、楽しくなったりしてしまいます。

奏が楽しそうにフルートを吹く姿に、吹奏楽に興味を持ったり、フルートを吹いてみたくなったりする方も居るのではないでしょうか。

奏を取り巻く同級生や先輩、先生たちも個性がしっかりと確立された素敵なキャラクターになっていて、吹奏楽部部長の篠田詩織は部活熱心だけれど、楽器の腕が伴わない……なんて設定は、思わず応援したくなってしまいます。

ローティーンの女の子向けの作品ですが、その分文字数が少なく普段読書をしない方が息抜きに選ぶ読み物としては、丁度いい長さの作品かもしれません。せっかちな方にも、ぜひおすすめしたい作品です。興味を持たれた方は、ぜひ一度手に取ってみてはいかがでしょうか。

人気ゲームの甘酸っぱいアナザーストーリー

2005年に発行された作品です。

ノベル版というタイトル通り、原作のゲームの設定をそのまま引き継いだ外伝的な位置づけの作品になります。

原作は架空のヨーロッパの島国クーヘン王国にある名門校ローゼンシュトルツ学園が舞台。シュトラール(使長候補生)と呼ばれる学園のトップクラス五人の活躍を描いた作品です。2004年にアニメ化もされています。

 

著者
ごとう しのぶ
出版日
2005-08-19


ノベル版では、シュトラールのうちの一人で日本人留学生の石月直司(通称:ナオジ)が主人公です。

ゲームやアニメでは既にシュトラールとして学園に在籍しているナオジが、父の命令で気が進まないままにローゼンシュトルツ学園を受験するところから物語は始まります。

わざと受験に失敗して日本に帰ることを考えていたナオジは、受験に向かう途中にカミュという少年と出会い仲良くなり、カミュの友人であるルーイとも知り合います。しかし、公爵家の長男で母親は国王の妹という家に生まれ、幼い頃からエリート教育を受けて育ったルーイの冷ややかで威風堂々とした雰囲気に、苦手意識を持ってしまうのです。

一方のルーイは、ナオジにほぼ一目惚れ状態で、彼の気を引くためにあれやこれやと画策します。図書館でわざと栞を落とすなんていう可愛らしい場面もあり、とても微笑ましい努力を重ねていくのです。その甲斐あってか、苦手意識を持っていたはずのナオジも徐々にルーイに惹かれはじめるのです。

丁寧な人物描写で描かれる異国情緒溢れるこの作品、ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、ごとうしのぶの作品を五つご紹介させていただきました。

「ときめき」に飢えている方、普段とは違うジャンルの作品に触れてみたい方、気になった作品がありましたら、ぜひお手に取てみてください。最後までお読みいただきありがとうございました。

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