どんでん返しがすごい文庫小説おすすめ26選!【日本作家編】

更新:2021.12.10

巧みに施された仕掛けによって訪れる、予想もつかないような衝撃のラスト。見事に騙され、それを目の当たりにした時の快感はなんとも言えずクセになるものです。ここでは、そんなどんでん返しを堪能できる、おすすめの小説をご紹介していきましょう。

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どんでん返し小説の定番!巧妙なトリックに騙される『ハサミ男』

読者をミスリードへと誘い込み、あっと驚く結末が待ち受ける傑作ミステリー『ハサミ男』。どんでん返しがすごいことで有名な本作は、2013年に他界した推理小説家・殊能将之のデビュー作となっています。1999年、メフィスト賞を受賞。2005年には、映画化もされた小説です。

主人公の「ハサミ男」こと「わたし」は、美しい女子高生を狙い、殺害した後にハサミを首に突き立てるという、残忍な殺人鬼です。すでに被害者は2人。「わたし」は3人目のターゲットとして、頭脳明晰な美少女・樽宮由紀子を選び、殺害のチャンスを狙っていました。ところが、樽宮由紀子を待ち伏せていた「わたし」は、何者かによって殺害された彼女の遺体を発見してしまうのです。

遺体の首には、「ハサミ男」の特徴であるハサミが突き立てられていました。「ハサミ男」の手口を模倣した殺人事件の、第一発見者となってしまった「わたし」。いったい誰が模倣犯として樽宮由紀子を殺したのか。「わたし」は、真犯人を探そうと調査に乗り出します。

 

著者
殊能 将之
出版日
2002-08-09


事件の真犯人を殺人鬼が追うという斬新なストーリーもさることながら、ハサミ男の視点と、警察側からの視点が交互に繰り返される展開に、先が気になりどんどん引き込まれてしまいます。

できれば、なんの先入観も持たず読み始めていただきたい小説です。気がつかないうちに、作者の仕掛けた罠にどんどん嵌まり込んでいくことでしょう。すべての真相が明らかになったとき、その衝撃に思わず声を上げたくなってしまいます。読み終えたあと、もう1度最初から読み直して確認したくなるでしょう。圧巻のどんでん返しに魅了される、良質な推理小説になっています。

驚きのラストに心が震える傑作小説『名も無き世界のエンドロール』

伏線を張り巡らせた、巧みな構成が光る『名も無き世界のエンドロール』。行成薫のデビュー作で、2012年、小説すばる新人賞を受賞しました。幼なじみの2人の男性の物語を、エンターテインメント性に富んだ豊かな文体で綴った作品です。

幼い頃から人に巧妙なドッキリを仕掛けるのが得意だった「ドッキリスト」のマコトは、いつもキダをターゲットにし、体は大きくてもドッキリに弱いキダは、毎回のように見事に引っかかります。小学校のときから親友同士の2人は、ドッキリを仕掛けたり仕掛けられたりして多くの時間を共に過ごしてきたのでした。

そんな2人も30歳を過ぎ、マコトはワイン輸入会社の社長、キダは何やら怪しい裏稼業に就いています。社長になっても相変わらずのマコトは、「プロポーズ大作戦」なるものを計画したらしく、キダもそれに協力することになり……。

 

著者
行成 薫
出版日
2015-02-20


過去と現在を行きつ戻りつしながら、シーンを目まぐるしく変え、スピーディーに展開されていきます。小学校時代に転校してきた女の子ヨッチや、美人なマコトの彼女リサも物語に加わり、これまでの出来事が少しずつ明らかになっていく過程は、読み応え充分。マコトとキダの狙いがなかなかわからず、読むのをやめられなくなります。

「一日あれば、世界は変わる」たびたび登場するこのセリフが心に残ります。ばらばらに登場するシーンすべてがひとつにつながり、「プロポーズ大作戦」の全容が明らかになったとき、驚愕とともに、あまりの愛の強さを目の当たりにし、切なさに圧倒されることでしょう。軽妙な語りの中にも、様々なことを考えさせられる重みがあり、一気に読ませる力のある作品です。

東野圭吾の大人気ミステリー小説『仮面山荘殺人事件』

1990年に発表された、東野圭吾の初期作品『仮面山荘殺人事件』。ストーリーの面白さや文体の読みやすさ、結末に用意されている大どんでん返しが話題を呼び、男女問わず幅広い世代から今もなお読まれ続けているロングヒットミステリーです。

主人公・樫間高之は映像制作会社の若き経営者。結婚式の4日前に、事故によって婚約者の森崎朋美を亡くしていました。その事故の3カ月後、高之は朋美の父で製薬会社の社長・森崎伸彦から、朋美の追悼も兼ねて、別荘で一緒に過ごさないかと招待されます。森崎家の所有する別荘には、高之の他に、森崎一家と親族、医者や秘書など計8人が集められていました。

事故とはいえ不可解な疑問が残る朋美の死が話題にあがり、一同に不穏な空気が流れる中、なんと別荘内に強盗犯が侵入。8人は軟禁され、外部との連絡を試みるも、ことごとく失敗してしまうのです。そしてついに、刺されて倒れている1人目の犠牲者が発見され……。

 

著者
東野 圭吾
出版日
1995-03-07


強盗犯とのやりとりにはハラハラする緊迫感があり、しかもメンバーを刺したのは強盗犯ではないという展開に、一気に物語に引き込まれてしまいます。東野圭吾の巧妙なテクニックにすっかり騙されてしまい、予想をはるかに超えるどんでん返しに、清々しささえ感じることでしょう。

300ページ以下の短い作品ですが、いたるところに伏線が張られる、とても濃い内容になっています。一切無駄がない巧みな文章はとても読みやすく、誰でも気軽に楽しむことができる作品です。感の鋭い方は、謎解きに挑戦してみるのも面白いかもしれません。

ミステリー賞総なめ!おすすめ感動小説『葉桜の季節に君を想うということ』

優れたミステリーであり、至高の恋愛小説でもある、歌野晶午の『葉桜の季節に君を想うということ』。2003年に発表された本作は、日本推理作家協会賞や本格ミステリ大賞を受賞し、「このミステリーがすごい!」第1位にも輝くなど、様々なミステリー賞を総なめにした作品です。

 

著者
歌野 晶午
出版日


主人公・成瀬将虎は自称「何でもやってやろう屋」。いろいろな仕事を転々とし、毎日を精力的に楽しく生きています。探偵事務所で働き半人前にもならずに辞めてしまった過去がありますが、高校の後輩でフィットネス仲間のキヨシには、元私立探偵だと自慢していました。成瀬はそのことがきっかけで、同じフィットネスに通う久高愛子から、身内が巻き込まれた保険金詐欺の調査を依頼されてしまいます。

時を同じくして成瀬は、駅のホームで自殺しようとしていた麻倉さくらを助け、デートを重ねる間柄になっていました。物語は、時間軸や視点をころころと変えながら、保険金詐欺の真相を徐々に明らかにしていくとともに、成瀬とさくらの関係についても描かれていきます。

タイトルの印象とは少し異なり、物語はハードボイルドな一面を覗かせます。登場するヤクザたちの姿は生々しく、悪徳商法の恐ろしさも濃密に描かれているこの作品。悪徳商法に騙されてしまった女性・古谷節子や、離婚してしまった成瀬の友人・安藤史郎も加わり、ばらばらに展開される一見何の関係もない登場人物たちが、見事にひとつの線として繋がる瞬間は興奮してしまいます。

すべてのトリックが明かされた時、秀悦で美しい、このタイトルの意味を知ることができるでしょう。花を咲かせるときだけ注目されがちな桜の木ですが、花を落とし、葉を茂らせ、綺麗に紅葉した桜を見てみたくなる小説です。

切なくも感動的な青春ミステリー小説『アヒルと鴨とコインロッカー』

現在と過去、2つの時間軸が同時進行していく『アヒルと鴨とコインロッカー』。伊坂幸太郎のカットバック手法が冴え渡る本作は、2006年に吉川英治文学新人賞を受賞、2007年には映画化もされました。

冒頭、主人公の「僕」こと椎名は、不本意ながらモデルガン片手に、本屋の裏口を見張っています。いったいなんのために……。椎名は2日前の出来事を回想します。大学進学にともない、あるアパートへ引っ越し、初めての1人暮らしをすることになった椎名。引っ越しの片づけをしていると、同じアパートに住む河崎と名乗る男が話しかけてきました。椎名の歓迎会を開いてくれた河崎でしたが、そこで河崎から「一緒に本屋を襲わないか」と誘いを受けたのでした。

そして物語は、現在から2年前へと飛びます。語り部となるのは、ペットショップで働いている「わたし」こと琴美。ブータン人の留学生ドルジと同棲中の琴美は、ドルジによく日本語を教えてあげていました。そんな時、街ではペットを残酷に殺害する事件が多発していて……。

 

著者
伊坂 幸太郎
出版日
2006-12-21


河崎は、現在にも2年前にも姿を現します。いったいこの2つの物語を、どうやって繋げてくれるのか、読んでいて先が気になって仕方なくなってしまいます。現在と過去では、明らかに違った空気感が漂っていて、その表現力豊かで巧みな文章力に改めて脱帽させられます。いたるところにユーモアたっぷりの小気味好いセリフが散りばめられ、物語の世界に吸い寄せられるように読み耽ってしまうでしょう。

2つの物語が1つになるとき、鮮やかな構成力に感嘆するとともに、なんとも言えない切ない余韻に包まれるでしょう。登場人物それぞれの人生に想いを馳せ、泣きたくなるようなセンチメンタルな気分になりながらも、どこか爽やかさの漂う、素晴らしい青春ミステリーになっています。

卓越したトリックが冴え渡る!『ラットマン』

直木賞作家道尾秀介による『ラットマン』。心理学の実験で使用される「ラットマン」の絵は、同じ絵なのに動物と並べられればねずみに、人の顔と並べられれば男性の顔に見えるといいます。本作は、人間の先入観をテーマに描かれたミステリーで、登場人物たちの思い込みによって二転三転する展開に、読者はどんどん巻き込まれていくことになります。

主人公・姫川亮は30歳のサラリーマン。高校時代から同級生たちとアマチュアバンドを組んでおり、現在でも練習の為、時折練習スタジオに集まっています。姫川の恋人でバンドのドラムを担当していた小野木ひかりは、2年前にバンドを抜け、今ではひかりの妹・桂が代わりにバンドへ参加していました。

高校時代からひかりと交際している姫川でしたが、桂がバンドに参加してからというもの、桂の屈託のない明るさに心を惹かれているのです。そんなある日、ひかりが練習スタジオの倉庫で死亡。事故なのか殺人なのか。自身の過去に姉の死というトラウマを抱える姫川には犯行動機があり……。

 

著者
道尾 秀介
出版日
2010-07-08


姫川の抱えるショッキングなトラウマには、心が痛みます。作品全体には、暗く湿った雰囲気が漂い、ひかりの死の真相とともに、姫川の姉の死の真相を追う展開は、登場人物たちの思い込みによりどんどん複雑化していくのです。

ですが、読んでいて大いに振り回される感覚は、なんとも言えず魅力的。終盤畳み掛けるように訪れる、どんでん返しの連続はさすがの一言です。道尾秀介が仕掛ける、洗練された数々のトリックに舌を巻くことでしょう。わかっていても騙されてしまう、その快感を経験してみてはいかがでしょう。

筒井康隆の傑作メタ・ミステリー小説『ロートレック荘事件』

SF作家としても知られる、巨匠・筒井康隆による本格メタ・ミステリー『ロートレック荘事件』。1990年に発表され、叙述トリックの先駆けとも言われている本作は、大掛かりな仕掛けが随所に施された、傑作中編小説です。

「おれ」と重樹が8歳の時の夏、別荘での事故により、重樹は下半身に障害を抱えてしまいます。その別荘は、父の知り合いの実業家・木内文麿に買い取られ、「ロートレック荘」と呼ばれていました。木内はフランスの画家、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの絵をコレクションしており、別荘には作品がいくつも飾られているのです。

夏の終わり、重樹はロートレック荘に向かう車に揺られています。別荘には他にも、将来有望株の青年たちや3人の美女が、華やかなバカンスを楽しもうと集まっていました。ですがその矢先、銃声が鳴り響き、1人の美女が遺体となって発見され……。

 

著者
筒井 康隆
出版日
1995-01-30


この作品では、短いながらも、練りに練った叙述トリックがいたるところに施され、一語一句たりとも軽く読み飛ばすことができません。読んでいてもやもやとした違和感を覚えるにもかかわらず、その正体がいっこうにつかめず、1人また1人と犠牲者を出しながら物語は進んでいきます。

終盤での種明かしでは、霧が晴れるような気分を味わえることでしょう。鮮やかなトリックとともに、人間の持つ優越感や残酷さを痛いほど抉り出し、深く考えさせられる、筒井康隆渾身の一作になっています。

語り継がれる綾辻行人の鮮烈デビュー作品『十角館の殺人』

1987年に発表された、綾辻行人のデビュー作『十角館の殺人』。日本のミステリー界に多大な影響を与え、本格推理小説の人気を高めたと言われるこの作品は、以降多くの読者たちから賞賛される不朽の名作となっています。

ある大学の推理小説研究会のメンバー7人が、「角島」という無人の孤島へとやってきました。島にある「十角館」と呼ばれる建物では、半年前に建築家の中村青司が殺人事件に巻き込まれ焼死するという凄惨な出来事が起こっており、それに興味を示した彼らはこの島で一週間を過ごすという計画を立てたのです。

一方その頃本島では、元推理小説研究会の会員だった男のもとへ、奇妙な手紙が届けられていました。差出人の名前は中村青司。すでに死んでいるはずの人物からの手紙を不審に思った男は、友人とともに半年前の島での事件を調べていくことになります。

 

著者
綾辻 行人
出版日
2007-10-16


孤島で巻き起こる出来事と、本島での調査内容が交互に描かれていきます。逃げることのできない孤島でメンバーが1人ずつ殺されていくスリリングな恐怖と、半年前の事件について明かされていくサスペンスに満ちた謎解きを、代わる代わる体験することになり、ハラハラドキドキしながら、どんどん物語に引き込まれてしまいます。

そして訪れる驚愕の一行。本作は、たった一行、たった一言のセリフで、すべてが繋がり、それまでの世界がひっくり返る大どんでん返しが待っています。そのあまりのインパクトの大きさに思わず絶句し、綺麗に騙される快感を堪能できることでしょう。ミステリーが好きな方だったら必ず楽しめる、おすすめの作品です。

じわじわ後を引く傑作ミステリー小説『イニシエーション・ラブ』

2004年に発表され、そのどんでん返しが高く評価された、乾くるみの『イニシエーション・ラブ』。恋愛小説が最後の最後で突如ミステリーに変貌するという、衝撃の展開が話題になったベストセラー小説です。

静岡大学4年生の鈴木夕樹は、人数合わせのために誘われた初めての合コンで、ショートカットの可愛らしい女の子・成岡繭子に一目惚れしてしまいます。冴えない自分とは縁がないと諦めていた夕樹でしたが、偶然にも再会し電話番号をゲット。その後も交流を深め、付き合い始めることになりました。繭子は「夕樹」が「タキ」とも読めると言い、「たっくん」と呼び始めます。

 

著者
乾 くるみ
出版日
2007-04-10


慶徳ギフト静岡に就職した「たっくん」は、東京本社へ派遣されることになり、繭子と離れ引っ越さなければいけなくなりました。毎週のように静岡へ帰り、繭子との愛を確かめ合っていた「たっくん」でしたが、東京本社の女性社員・石丸美弥子からアプローチを受け、徐々に気持ちが傾いていくのを抑えられず……。

頭の中で、ゆっくり物語の全容が見え出し、作品のあちこちに張り巡らされた仕掛けに気づいたとき、じわじわと背筋が寒くなる思いがします。

これまでに体験したことのない読後感を味わうことができ、改めて読み直さずにはいられないこの作品。まだ読んだことのない方は、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

驚愕の種明かしに茫然自失!『殺戮にいたる病』

トリックを駆使した驚愕のどんでん返しを見せる作品として、多くの読者たちから最高峰と絶賛される『殺戮にいたる病』。我孫子武丸によって描かれたこの衝撃作は、目を背けたくなるような残虐な行為を繰り返す、サイコ・キラーが登場します。

 

著者
我孫子 武丸
出版日
1996-11-14


猟奇的な行為を繰り返し、何人もの女性を殺害してきた男・蒲生稔が逮捕されました。警察を呼んだのは、事件を独自に調査してきた元警部の樋口。現場には、自分の息子が殺人犯なのではないか、と疑い続けてきた蒲生雅子の姿もあります。

憔悴する樋口、泣き崩れる雅子、そしてただひとり、犯人の稔だけが平然としている異常な状況。いったいこれまでに何があったのか。物語は過去へと遡り、殺人鬼・蒲生稔が起こした残虐な殺人事件の数々が、克明に綴られていくことになります。

作品内で描かれる、あまりにも細かいリアルな殺害描写に、衝撃を受ける方も多いのではないでしょうか。しばらく頭から離れなくなるほど鮮明に描かれているため、苦手な方は注意が必要かもしれません。終盤は、手に汗握る緊張の連続。スピード感あふれる怒涛の展開に、読む手が止まらなくなってしまいます。

残酷な描写を読むのはつらいですが、作者が物語の中に仕掛ける緻密なトリックは一級品。真実を知ったとき、そのあまりの鮮やかさと、訪れる衝撃に、呆然としてしまうことでしょう。これまで読んできた物語が、まったく違う別の物語へと変わってしまう感覚に、言葉を失います。歪んだ愛がもたらす壮絶な結末。ぜひその目で確かめていただければと思います。

盲目のどんでん返し小説『闇に香る嘘』

この物語の主人公村上和久は41歳で失明してしまいます。そんな中、中国の残留孤児として日本に帰した兄が偽物ではないかと疑い、その真相を探る推理小説です。

失明が原因で妻、娘は和久の元を離れてしまいました。それから数年が経ち、孫娘(和久の娘の娘)の病気をきっかけに和久は自身の兄を訪ねます。孫娘へ腎臓を提供してほしいという和久の要望を一蹴する兄の竜彦。そこから和久は竜彦が日本へ帰国する際、偽物にすり替わったのでは、と疑い始めます。真相を突き止めようとする和久に次々不可解な出来事が。盲目の主人公が迎える衝撃のラストをご期待ください。

 

著者
下村 敦史
出版日
2016-08-11


本作の特徴は、なんといっても主人公は目が見えないというハンデを背負っているということです。それも前までは視力があったのに失明してしまったという、生活にもまだ慣れない状況。視覚的な情報が入らない分、触覚や嗅覚などその他の感覚が細かく描かれる、独特の臨場感があります。見えない状況で起こる出来事がさらに謎を引き立たせます。

途中、主人公が手にする点字で記された暗号めいた文章など推理小説好きにはたまらないのではないでしょうか。

盲目の主人公による珍しいタイプの推理小説。中国の残留孤児問題、孫の病気など少し重ための舞台設定がさらにスリルを感じさせます。今後が楽しみな下村敦史のデビュー作を是非一度ご覧ください。

赤川次郎初期の傑作『マリオネットの罠』

フランス留学から帰国した上田修一が、ある資産家の館にフランス語の家庭教師として働くところから物語はすすんでいきます。そこの主は2人姉妹ということでしたが、館内には三女雅子が監禁されていました。それを知った修一は雅子を逃がす手伝いをします。しかしこれが、悲惨な事件を引き起こします。雅子は残忍な殺人犯だったのです。

その後、館でも殺人を犯した雅子は逃走。そして事件の後行方がわからなくなった修一を警察は容疑者として指名手配します。修一の婚約者美奈子や、事件を担当する警部遠藤らが雅子、そして修一の行方を追います。はたして、雅子の殺人劇を止めることはできるのでしょうか。

 

著者
赤川 次郎
出版日


この作品はなんといっても登場人物が魅力的です。まず殺人を繰り返す雅子は、とても非人情で、何のためらいもなく人をあやめます。自分に好意を持たせて手にかける、悪女の中の悪女です。雅子の恐ろしさは、読んでいると自分の背後が気になるほど。あまりにも恐ろしいのがかえって私たちを魅了します。そんな雅子とは裏腹に、修一の婚約者美奈子は、とても健気で真っ直ぐで応援したくなるような存在です。それを支える警部の遠藤、上西の存在が安心感を与えてくれます。

各章ごと短編のようにガラッと雰囲気が変わるのも面白いところ。第1章で雅子の殺人が始まり、第2章では連続殺人の描写と警察の捜査、第3章では美奈子が敵陣で潜入捜査を行い、第4章で修一と美奈子の結婚式の模様が描かれます。最後まで、謎を残したまま物語は進んでいきクライマックスで一気に謎が暴かれます。中でも第4章では区切りごとに時刻が表示され緊張感が高まるはずです。劇的な展開でページをめくる手が止まらなくなるのではないでしょうか。

ラストであっと驚かされるどんでん返しが待っています。読んでいる最中はドキドキがとまらず、心臓をもてあそばれることでしょう。ぜひご一読ください。

1日を9回繰り返す少年の物語『七回死んだ男』

『七回死んだ男』は同じ日を9回繰り返す能力を持った少年、久太郎が祖父の死を防ぐため試行錯誤する物語です。

主人公久太郎は、ある特殊な能力を持っています。それは、ある1日(最初の1日を“オリジナル”と呼んでいる)を0時から24時まで連続して9回繰り返すことが出来るというもの。久太郎にはその9日の記憶が残り、また久太郎の発言や行動の影響で多少オリジナルから変化もします。しかし、これは自分の意思で操ることはできず、ふいに前日と同じ日が始まるため本人はあくまで“体質”と認識し「反復落とし穴」と呼んでいます。

祖父の家で、祖父に久太郎が二日酔いになるまで酒につきあわされたのが1月2日。翌日目覚めてみると、家族が前日と同じ会話をしています。また1月2日が始まっていました。今日こそは酒をのむまいと祖父を避けていた久太郎。するとなぜかオリジナルとは異なり祖父が何者かに殺害されてしまいます。翌日(3回目の1月2日)祖父の死を食い止めるため、久太郎は犯人と思われる人物から祖父を遠ざけますが、なぜか祖父は殺害されてしまいました。そして4回目、5回目と試行錯誤しますが、なぜか久太郎をかわすように祖父はなくなります。果たして、久太郎は祖父の死を食い止めることが出来るのでしょうか。

 

著者
西澤 保彦
出版日
1998-10-07


主人公が時間を移動できるというSF設定を背景に起こる殺人事件。誰が犯人か、ということよりもどうして祖父は毎回殺害されてしまうのかという、この設定特有の謎がどんどん深まっていき、とても面白いです。さらに、随所にちらばる伏線をクライマックスでしっかり回収してくれます。謎がふかまるにつれモヤモヤする気分を、すっきり晴れさせてくれるので読後の爽快感がたまりません。

主人公の一人称で話は進んでいきます。とても読みやすい文章で、コミカルな部分もたくさんあります。ミステリが苦手な方でもとても読みやすいのではないでしょうか。また、謎要素がしっかりあるのでミステリ好きの方も楽しめる作品です。ぜひご一読いかがでしょうか。

泣けるどんでん返し小説『スロウハイツの神様』

スロウハイツでは7人の男女が一緒に暮らしていました。人気脚本家でスロウハイツのオーナー赤羽環をはじめ、彼女の友人である作家、漫画家、映画監督、画家などクリエイティブな住人達を中心に物語はすすみます。

人気作家の千代田公輝も住人の一人。彼は仕事上で環と出会いスロウハイツに入居します。公輝は独自の世界観をもつ作家で、彼の作品に影響された読者が10年前集団自殺をはかるという事件がありました。この1件は公輝にも責任があると世間から非難され彼はふさぎこむようになってしまいます。そんな彼を救ったのはある少女の手紙でした。128通にも及ぶ投稿は公輝を励ましその少女は“コーキの天使ちゃん”と呼ばれます。そんな過去をもつ公輝を含め、スロウハイツの住人達による優しく切ない日々が綴られます。

 

著者
辻村 深月
出版日
2010-01-15


スロウハイツの住人たちはみんなややこしい、よく言えば繊細な人間ばかりです。真っ直ぐなのかと思いきや、優しい嘘をついたりそれぞれの感情が複雑に絡まり合います。くせのあるキャラクターばかりなので“自分と重ねて見る”というよりは、応援したくなるようなキャラばかりです。

上下巻あるうち、上巻では主にキャラクターの紹介のようにゆるやかに物語は進みます。しかし、上巻に記される何気ない一言も伏線で、下巻を読むと点と点がしっかり線になる瞬間に出会います。あ、そういうことだったのか、と最後まで読んでまたすぐ最初から読みたくなるはずです。上巻でしっかりキャラクターにのめり込んでしまうので、下巻の展開は心がグッとつかまれ思わず涙腺も刺激されます。

読んだ後は優しさ、切なさ、あたたかさなどいろんな感情を残してくれる作品です。大人も、これから大人になる人にもおすすめできる作品です。是非一度お手にとってみてください。

サイコなどんでん返し小説『連続殺人鬼 カエル男』

あるマンションでフックにつり下げられた女性の遺体が発見されるところから物語は始まります。現場にはまるで幼い子供が書いたような犯行声明の文字が書かれていました。

埼玉県警の古手川、渡瀬らが捜査するも進展はない中、同様の事件が立て続けに起こります。世間は恐怖にかられ異様な空気が漂い始めます。果たして無事に事件の真相にたどり着くことができるのでしょうか。

 

著者
中山 七里
出版日
2011-02-04


かなりグロテスクな事件現場に残されるのは「きょう、かえるをつかまえたよ。」という稚拙な文章。これは第2、第3の事件にも共通して残されます。被害者を“かえる”に喩えるこの文章から世間ではこの犯人を「カエル男」と呼ぶようになりました。

恐怖にかられた民衆が暴動を起こすなど現場周辺の地域は騒然とします。またその犯行の手口から犯人は精神障害者ではないかという疑惑が浮上。精神障害者で過去に犯罪歴のある人物を洗い直していく中で少しずつ犯人像みえてくるのでした。

『連続殺人鬼 カエル男』というレトロな雰囲気のタイトル、表紙からは想像できないかなりグロテスクな事件現場の描写。そこから展開していく物語は犯人が誰かを突き止めるフーダニットのミステリです。ラストは思わずう~と唸ってしまうほどの衝撃で最後の一行までぜひ読んでいただきたいです。

グロテスクな内容が苦手な方も序盤を乗り越えればどんどん作品の世界に引き込まれるでしょう。狐につままれたような感覚を是非味わってみてください。

多くのミステリーファンに絶賛される不朽の名作『リラ荘殺人事件』

数々の名作を残した推理小説家、鮎川哲也によって描かれた長編小説『リラ荘殺人事件』。著者の代表作の1つである本作は、多彩な殺害トリックと緻密なストーリー構成、そして名探偵による鮮やかな推理を堪能できる作品です。

かつて証券会社社長の別荘として使われていた、山奥にある「リラ荘」は、持ち主が自殺したことで日本芸術大学に売却され、現在では学生たちが利用できる施設として解放されていました。

そんなリラ荘に8月の下旬、男女7名の学生が訪れます。決して人間関係が良好とは言えないこの7人。尼リリスと牧数人は婚約関係にあり、リラ荘に訪れた日の夜、松平紗絽女と橘秋夫の婚約も発表されましたが、それぞれの想いが複雑に交差し、なんとも不穏な空気が流れます。

翌日霧雨の降る中、リラ荘の近くを流れる川から、炭焼きの老人須田の遺体が発見されました。なぜかリリスのレインコートを被った須田の遺体の側には、トランプカードのスペードのAが置かれており、そのカードはリリスが東京から持ってきたものだったのです。リリスに間違われて殺されたと思われる須田。一同が疑心暗鬼に陥るなか、第2の殺人事件が発生して……。

 

著者
鮎川 哲也
出版日
2015-06-20


とにかく次から次へと殺人事件が発生し、息つく暇のないストーリー展開に、どんどんのめり込んでしまう作品です。殺害方法も実に多種多様。練りに練られた様々なトリックが、1冊の中にふんだんに盛り込まれ、なんとも贅沢な読書時間を過ごすことができます。

鮎川作品で人気キャラクターとなった、おしゃれでキザな名探偵、星影龍三の天才的な推理も光り、事件に翻弄されっぱなしの頼りない警察とのギャップも相まって、より魅力的な存在として読むことができます。

さりげなく仕掛けられた様々な伏線が丹念に回収され、畳み掛けるように真相が明らかになる解決編では、痺れるような興奮を味わえることでしょう。1959年に発表された作品ですが、今もなお多くのミステリーファンから愛され続け、何度でも読み返したくなる魅力満載の傑作です。

様々なジャンルが盛り込まれた新感覚ミステリー『ダレカガナカニイル…』

長編ミステリー小説『ダレカガナカニイル…』は、井上夢人のソロデビュー作品です。岡嶋二人のペンネームでコンビを組み、1980年代、共作ミステリー小説で人気を博していた著者が、コンビを解消して再デビューをしたことで話題になりました。

警備会社に勤務する西岡は、勤務中に興味本位でおこなった盗聴が見つかり、田舎町へと異動になってしまいます。新たに警備に就くことになったのは、近隣住民とのトラブルが絶えない新興宗教団体「解放の家」。ところが着任して早々、「解放の家」の修行道場で火災が発生し、焼け跡から教祖の吉野桃紅が遺体となって発見されたのです。

その日から、西岡は頭の中に話しかけてくる不思議な「声」を聞くようになりました。「声」は西岡に執拗に話しかけ「自分は死んだ吉野桃紅なのでは」と言い出します。精神科医に相談するも状況は好転せず、西岡は悩みながらも次第に声を受け入れるようになっていくのです。

 

著者
井上 夢人
出版日


冒頭、医師と患者のやり取りからスタートする本書は、様々な謎を提示しながらテンポ良く進んでいきます。一気に物語の世界に引き込まれてしまい、正体のわからない誰かの意識が自分の中に入ってくる恐怖を、主人公と共に味わうことになるでしょう。

主人公と謎の声のやり取りには、時にコミカルさを感じることもでき、飽きることなく読み進めることができます。声の正体はいったいなんなのか?教祖死亡との関係は?オカルト、SF、謎解き、そして恋愛要素までが盛り込まれ、物語は衝撃のクライマックスへと突入していきます。

それまで見ていた世界が一変する、驚きのどんでん返しが待っていますから、ミステリーが好きな方にはぜひ読んでみていただきたいと思います。

ホラーとミステリーの鮮やかな融合を堪能できる1冊『i(アイ)鏡に消えた殺人者』

今邑彩の長編ミステリー小説『i(アイ)鏡に消えた殺人者』。警視庁捜査一課の貴島柊志が登場する人気シリーズ第1作目となる本作は、怪奇要素を多分に含みながらも、本格推理小説として高い完成度を誇る上質な1冊となっています。

期待の新人作家、砂村悦子が腹部を刺され死亡しているのが発見されました。現場に残された血の足跡は、部屋の隅にある鏡の前でぷつりと途切れ、まるで犯人が鏡の中に消えていったかのようです。

遺体の第一発見者となった悦子の担当編集者は、彼女が執筆した原稿を持ち帰り、その内容を読んで戦慄しました。自身の幼い頃の記憶を綴ったかのようなその小説には、従妹の「アイ」を殺したことや、「アイ」がいつか鏡の中から復讐しにやってくる、といった恐怖に囚われる姿が描かれていたのです。

 

著者
今邑 彩
出版日


静かに淡々と綴られる文体に、背筋をゾクゾクさせながら楽しめる作品です。物語は序盤からホラーテイストで進んでいき、不穏な空気漂う抜群の雰囲気が演出されているため、その展開から目が離せません。登場人物も少ないので設定がわかりやすく、刑事の貴島柊志が、探偵役としてさりげなく情報や謎を整理してくれています。普段ミステリーを読まない方でも、混乱せずに読めるのではないでしょうか。

密室殺人のトリックも面白く、連続して起きる不可解な殺人事件の謎が明らかになっていく様は必見。どんでん返しに次ぐどんでん返しが展開され、絶妙の余韻の中で本を閉じることができるでしょう。

驚愕のどんでん返しが待つ傑作ミステリー小説『眠りの牢獄』

驚きのトリックと驚愕のどんでん返しを展開させることで有名な作家、浦賀和宏によるミステリー作品『眠りの牢獄』。少ないページ数ながら、読者の意表をつく様々な仕掛けが施され、翻弄される感覚がたまらなく魅力的な作品です。

主人公の浦賀は、以前より想いを寄せていた女性、亜矢子に告白し、晴れて恋人同士となることができました。ところがその日の夜、浦賀と亜矢子は何者かによって階段から突き落とされ、意識不明となってしまうのです。浦賀は意識が回復したものの、亜矢子の昏睡状態は続き、目を覚まさないまま5年の月日が流れようとしていました。

そんなある日、浦賀は友人の北澤・吉野と共に亜矢子の兄に呼び出され、地下シェルターに閉じ込められてしまいます。外に出るための条件は1つ。この中にいる誰が亜矢子を突き落とした犯人なのか突き止めること。一方その頃外の世界では、ある1人の女性が復讐のため、完全犯罪を目論んでいました。

 

著者
浦賀 和宏
出版日
2013-02-15


牢獄と化したシェルター内で起こる出来事と、泥沼の復讐劇。まったく接点のないように見える、この2つの視点からストーリーは進んでいきます。1つの線となって繋がる瞬間には大きな興奮を味わうことでしょう。そしてここから、物語は突如様相を変え、怒涛の急展開を見せるのです。

最後の最後に明かされる、本作最大のトリックには驚愕するばかり。思わず「やられた!」と天を仰ぐこと必至のどんでん返しが用意されています。設定がシンプルでわかりやすく、短いなかで濃密にまとめられているため、本を読み慣れていない方でも十分に楽しめる作品になっています。

史実を基に描いた圧巻のエンターテインメント小説『燃える地の果てに』

数々の文学賞を受賞する逢坂剛によって描かれた『燃える地の果てに』は、1966年、スペイン南部の上空で起こった、米軍機墜落事故を下敷きに描かれた、著者渾身の極上ミステリーです。

日本人ギタリスト古城は、伝説のギター職人にギターを製作してもらうべく、スペインの小さな村パロマレスにやってきました。職人ディエゴのギターが出来上がるまで、この村に滞在することを決めた古城。「ホセリート」という愛称で呼ばれ、村の人々にも徐々に受け入れられてきました。

ところがそんなある日の晩、村の上空で空中給油をしていた米軍の戦闘機が、接触事故を起こし墜落。戦闘機には表沙汰にしていない4発の核爆弾が搭載されており、その秘密を巡って各国が慌ただしく動き出します。こうして村では、住人や古城を巻き込みながら、緊迫のスパイ戦が勃発することになるのです。

 

著者
逢坂 剛
出版日


1966年の事件と、その30年後の物語が交互に展開されていく作品です。30年後では、ある2人の男女がパロマレスを訪れ、当時の事件についての様々な謎が提示されていきます。2つの物語が1つに繋がるとき、まったく予想もしていなかった衝撃の真相が明らかになり、綺麗に騙される快感を堪能することができるでしょう。

登場人物たちがとにかく皆魅力的で、エンターテインメント性に富んだ、重厚なハードボイルド作品としても読むことができるこの作品。史実を基にこれほどの物語を創り上げる、著者の類稀なるテクニックには脱帽するばかりです。事件についての歴史を知らなくても十分に楽しめるミステリーですから、まだ読んだことのない方は、ぜひ1度読んでみてくださいね。

テーマは「競馬」!鮮やかなどんでん返しが待ち受ける『焦茶色のパステル』

本作は岡嶋二人による、競馬にまつわって起きた、2つの殺人事件の謎を解いていく長篇ミステリー小説です。江戸川乱歩賞を受賞し、たいへん注目を集めました。主人公の大友香苗は、彫金教室の講師として働く傍ら、ジュエリーデザイナーとしてアクセサリーを作っています。

ある日、喫茶店「ラップタイム」で休んでいた彼女の元を刑事が訪ねてきました。香苗の夫で競馬評論家の、隆一の行方を捜しているというのです。数日前に東陵大学の教授を務める柿沼幸造が殺害されており、彼はその事件の重要参考人となっていたのでした。

香苗と隆一の夫婦関係はすでに冷え切っていたため、彼女は何も把握していませんでしたが、刑事が来たことで隆一の行方が気になりはじめます。ところがそんな彼女に、隆一が東北にある幕良牧場で銃に撃たれた、という連絡が入りました。香苗が幕良病院に到着する前に、隆一は死亡。現場では彼だけでなく、牧場長の深町保夫も撃たれて死亡しており、流れ弾によって2頭の馬も殺されていたのです。

著者
岡嶋 二人
出版日
2012-08-10

競馬を題材として書かれたミステリーですが、競馬の知識がまったくない方でも問題なく楽しむことができるでしょう。

事件の全容が徐々に明らかになっていく過程で、競馬の裏事情などについても細かく触れられ、最後まで興味深く読むことができます。主人公の香苗には競馬の知識がないため、競馬雑誌記者の友人がサポートしていくことになるのですが、この友人のキャラクターも非常に魅力的です。

 1つの謎が解けてもまた新たな謎が浮上し、結末が読めないままクライマックスへと突入。スリル満点かつ鮮やかな展開に、読者は惚れ惚れするでしょう。私利私欲が渦巻く競馬界と対比するように、ただ懸命に走る競走馬の姿がとても美しく描かれた、物悲しさや切なさも感じる1冊です。

一行で世界が変わる!クライマックスで明かされる衝撃の真実とは?『嘘』

猟奇的な連続殺人事件の真相に、2人の刑事が追っていく物語です。人気作家、萩原浩によって執筆された本作は、ラスト一行で訪れる衝撃のどんでん返しが話題となりました。 渋谷の街では、女子高生たちの間で囁かれている噂があります。

「女の子を殺して足首を切る、ニューヨークの殺人鬼・レインマンが日本に来ている」「ミリエルという香水をつけていれば狙われないらしい」。この噂は、新ブランドから出る香水を売り出すために、戦略的に広められたものです。渋谷の女子高生たちの間をあっという間に駆け抜けると、やがて他の地域にまで広がり、都市伝説となったのでした。

しかし、そんな噂を現実にしたかのような殺人事件が発生します。足首を切断された女子高生の遺体が発見されたのです。目黒署で刑事を務める主人公の小暮は、本庁からやってきた若い女性警部補・名島とコンビを組み、事件を担当することになったのですが……。

著者
荻原 浩
出版日
2006-02-28

軽妙な文体でテンポよく進む読みやすい作品です。捜査中、中年の小暮が、女子高生たちとの世代のギャップに四苦八苦する姿が、著者独特のユーモアを織り交ぜながら綴られています。なんとも凄惨な連続殺人事件の現場が描かれますが、要所要所にあらわれるコミカルなシーンのおかげで、重くなり過ぎずに読むことができるでしょう。

最初はうまくいっていなかった女性警部補とのコンビが、どんどん噛み合い出していく過程も読み応え十分です。 最後の最後に用意されたどんでん返しは秀逸!たった一言でそれまでの世界が一変してしまい、じわじわと後を引く驚愕のラストになっています。

思わずページをさかのぼり、読み返したくなるのではないでしょうか。

鮮やかな叙述トリックと、怒涛のどんでん返しを楽しめる1冊『異人たちの館』

巧みな叙述トリックで有名な折原一による本作では、どんでん返しに次ぐどんでん返しの連続に、大いに翻弄される快感を満喫することができます。

主人公の島崎潤一は売れない作家。新人賞の受賞経験はあるものの、その後注目されることもなくなり、ゴーストライターなどの仕事を受けて生活していました。そんな島崎のもとに、小松原妙子という女性からの仕事の依頼が舞い込みます。内容は、失踪してしまった息子、淳の自伝を執筆してほしいというものでした。

依頼を受けた島崎は、淳に関する膨大な量の資料に目を通し、彼の知人に話を聞き、彼が失踪するまでの人生を紐解いていきました。ところが、淳の過去には不可解な出来事が多々起こっており、調査を進めるうち、島崎の周辺にもさまざまな異変が起きるようになるのです。

著者
折原 一
出版日
2016-11-10

物語は、1人の男が富士の樹海をさ迷う、不穏な空気漂うプロローグからスタートします。年譜や関係者のインタビュー、過去の新聞記事や誰のものかもわからないモノローグなど、さまざまなテイストの文体を巧妙に織り込みながら物語は進んでいくため、最後まで飽きることがありません。

失踪した青年の過去を調べるうちに謎は次々と浮かび上がり、先の見えない展開にページをめくり続けてしまいます。終盤には、二転三転どころではない怒涛のどんでん返しが待ち受けており、読者の度肝を抜くでしょう。

ミステリー小説の醍醐味をこれでもかと堪能できる作品です。

切ない余韻の残る本格ミステリー『盤上の敵』

本作は、ほのぼのとしたミステリーの多い北村薫作品の中で、「異色」と呼ばれる一冊です。人間の本質を抉り出すような、悲愴などんでん返しを見せる本格ミステリーとなっており、読者たちに衝撃を与えました。

テレビ局に勤めている主人公の末永純一は、仕事明けの疲れた体で自宅へと車を走らせていました。もう少しで妻が待つ我が家へたどり着くというところで、サイレンを鳴らしたパトカーが自分の車を追い越していきます。パトカーは末永の家に向かって走っていきました。いったい何があったというのか。末永は携帯電話で自宅に電話をかけます。

電話に出たのは妻の友貴子ではなく、なんと逃亡中の強盗犯。犯人は銃を所持しており、友貴子を人質にとって家に立て籠もっているというのです。末永はこの状況を打開すべく犯人と交渉し、ある作戦を立て実行に移していくのですが……。

著者
北村 薫
出版日
2002-10-16

本作では、登場人物たちをチェスの駒になぞらえた、スリリングで過酷な攻防戦が展開し、それと並行して主人公の妻が過去を回想していきます。人間の残酷さや、逃れようのない不条理に翻弄された壮絶な過去が次々と明らかになり、読者の心をひりひりさせるのではないでしょうか。

驚愕の真相と同時に、切なさや辛さが押し寄せる本作。圧倒的な人物描写と、どこか幻想的な文体に引き込まれ、最後まで感情移入しながら楽しむことができます。後味はけして良いものではありませんが、現実の世界でも存在するどうしようもない理不尽さが的確に表現された、心に残る傑作ミステリーです。

仕掛けられたトリックが一気に明かされるクライマックスでは、その技の素晴らしさに舌をまくことでしょう。

名作ゴシックミステリー『この闇と光』

盲目の姫・レイアは幼い頃に母を亡くし、父が失脚したことから別荘に幽閉されます。周りにいるのは優しい父と意地悪な侍女だけ。レイアには父が教えてくれる物語や音楽、文字などがすべてでした。しかしある日、レイアの世界は予想だにしないものへと変貌を遂げるのでした。

著者
服部 まゆみ
出版日
2014-11-21

1998年に発表された『この闇と光』。物語は、中世ヨーロッパのような世界観の中で、盲目のレイア姫を中心として展開されます。侍女にいじめられながらも、父の愛情に心癒され、すくすくと成長するレイア姫の姿は、美しくも幻想的です。

本書の魅力は、後半のどんでん返し。ネタバレになるので、ほとんど触れられませんが、美しい世界観が一挙に変わってしまうのです。あまりの急展開に驚くこと間違いなしです。

くせ者探偵がおこす大どんでん返しが魅力の推理小説『過ぎ行く風はみどり色』

可愛らしい大きな目が印象的な、「猫丸先輩」を探偵役とした人気ミステリーです。倉知淳によるシリーズ作品の中の1冊で、著者初の長編小説となっています。

本作で語り手となる方城成一は、10年ぶりに帰郷することになりました。祖父の兵馬は一代で不動産業者を成功させ、巨額の富を築いた人物です。ところが母の話によれば、祖父はあることをきっかけに霊媒師に入れ込むようになってしまい、家族はそれを止めようと必死になっているのだとか。

成一が実家に着いた矢先のこと、とんでもない事件が起きてしまいます。兵馬が密室と化した離れの部屋で、他殺体となって発見されたのでした。部屋には外部から侵入した痕跡もなく、その場にいた全員にアリバイがあります。

さらには数日後、霊媒師によって行われた「降霊会」の最中に第2の殺人事件が発生してしまい、成一はそのことを大学時代の先輩、猫丸に相談します。

著者
倉知 淳
出版日

なんと言っても魅力的なのは、探偵役となる猫丸先輩の童顔、毒舌、自由人というキャラクター。彼が成一の話に食いつき、事件の謎解きに関わるようになってから、物語は俄然スピード感を増していきます。

ストーリーは2つの視点から展開され、巧妙に仕掛けられた伏線や、練りに練られたトリックの完成度の高さに驚かされることでしょう。殺人事件や怪現象などをテーマにしているにもかかわらず、作品内にはどこか明るさが漂い、読後感も非常に温かく優しいものになっています。軽快な推理小説をお好みの方にはぴったりの作品ではないでしょうか。

シリーズ作品を読んだことのない方でも、問題なく楽しめる作品となっていますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

どんでん返しが秀逸な、おすすめの小説をご紹介しました。どの作品も、作者渾身の仕掛けが施された、繰り返し読みたくなる傑作ばかりです。ぜひ驚きの結末を堪能してみてくださいね。

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