おすすめSF五冊【Alfred Beach Sandal】

「わからないもの」を受け入れる

自分のこれまでの本紹介を振り返ると、色々テーマは設けてあるにせよ結局いつも言ってること一緒というか、「自分をどこか違うところに連れていってくれるようなものっていいよね。向こう側にいきたいしトキメキが欲しいよね」みたいなことばっかりなんだな、と感じる。まあでも普通にしてたらそうなってたんでしょうがないんですが、それでもちょっと付け加えるなら、「ぶっ飛びたい」みたいなそういう感覚って、今の場所から逃避したいとかファンタジーとかそういうこととは違って、「自分の思いもよらないようなことに出会いたい」みたいなことなのかなとは思います。僕にとって。

他人とか世界とか、究極絶対に違うしわからないものだと思うんですが、わからないものをわからないとして受け入れるっていうのはすごく面白いことじゃない? 結果受け止めても受け止めなくてもいいんだけど、一回そこに自分の身を浸すっていうこと。SFでも本でもそういう体験ができるものであったらいいなと自分は思ってます。現実がビジネスのみの元も子もなさすぎる世界になったら、滅びるでしょ。

本っていいと思う。かっこいいじゃん。紙とか。

公園で一人で読んだ一冊

著者
大友 克洋
出版日
1984-09-14
中学のころに東京に引っ越してきて、東京のノリが最初はよくわかんなくてなんとなくキツくて、公園で一人で読んでました。これは現実逃避か。しょうがない昔の自分! てきとうにがんばれ!
めっちゃかっこいいよねー。

宇宙の中心

著者
クリストファー プリースト
出版日
レールを敷設しながら年に36.5マイルずつ移動していく、「地球市」と呼ばれる要塞都市。成人の歳とされる650マイルを迎えたヘルワードは、都市の運行に従事するギルドの見習員として、初めて都市の外に出ることを許される。そこで彼が見た異常な世界とは……。

〈「(略)わたしが当然だと思っていたすべてのことが、この都市ではちがっている。日常のことじゃなくて、もっと別の大きなこと。存在理由のようなものがね。ここではそれに対する思いこみが強すぎるわ。まるで、都市こそ全人類が存在できる焦点みたいになってるじゃないの。そうじゃないと思うわ。世の中にはほかにすることがそれこそ何百万とあるし、(中略)あなたがどう考えているか知らないけれど、ここは宇宙の中心じゃないわ」
「中心なんだ」彼は告げた。「われわれがそう信じなくなったら、みんな死んでしまうんだ」〉(P.376~P.377)

なんともいえない陰りがある

著者
レイ・ブラッドベリ
出版日
1971-10-08
どこかおとぎ話っぽいムードもある、ブラッドベリのSF短編集。「SFってなんか理屈っぽくて野郎臭くてイヤ」っていう人にもお薦めできる。文章にリリシズムとリズムがある。流れるよう。それでいてなんともいえない陰りがあるのがナイスなフィーリングですね。

不気味で残酷だけど、美しい物語

著者
J・G・バラード
出版日
1969-01-10
執拗に繰り返される光と陰のモチーフ。それらが溶け合い、生も死も一緒になった原初の姿に還っていく超宇宙的な現象を、結晶化していく世界として描くなんてすごい発想。それでも一方で、物語の中心にあるのは登場人物たちの屈折したロマンスで、それをエンジンにした活劇でもある。結晶の森の描写も繊細で絵画的で心を打ちます。不気味で残酷だけど、美しい物語。

圧倒的なスピード感と酩酊感

著者
フィリップ・K. ディック
出版日
ドラッグまみれの若者と暮らす、麻薬潜入捜査官アークター。自らもクスリに溺れる中で、ある日自分で自分を監視するよう命令が下る。分裂していく意識とドロドロになっていく虚実。

ディックの実体験も多く反映されているらしい本作、頽廃に向かってズルズルと引き寄せられながらもそれにあがく人の描写には本当に引き込まれます。汚れた中にもどうしても輝いてしまうロマンチックさみたいなものがあって、すごく切なくなる。スピード感と酩酊感も圧巻。どこに連れてかれるんだろうという怖さと興奮。最後までいっきに持ってかれます。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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