藤子・F・不二雄から学ぶ生き方のヒント。入門書から踏み込んだ本まで

更新:2021.12.16

藤子・F・不二雄という偉大なる漫画家の名を、知らない人はいないでしょう。ドラえもんの作者として知られ、児童漫画の第一人者ともいえる人物です。今回はそんな彼の生き方や、そこから学べる生き方のヒントを知れる本を5冊、ご紹介します。

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傑作を数多く世に出した、藤子・F・不二雄とは?

1933年12月1日に富山県に、藤本弘という名で彼は生まれます。手塚治虫の作品に衝撃を受けたことが漫画を描くきっかけであったと語られています。やがて安孫子素雄(ペンネームは、藤子不二雄Ⓐ。のちに共に藤子不二雄というコンビになる)と共に、同人誌の制作を始めるのです。それと同時に漫画の投稿も行っていくことになります。

1951年には『毎日小学生新聞』に投稿した『天使の玉ちゃん』が採用され、17歳でデビュー。のちに製菓会社に勤めることにもなりますが、事故で漫画が描けなくなることを恐れ、3日で退社し漫画に専念することになるのです。その後、安孫子を無理矢理誘って2人で東京へ行き、コンビとして正式にプロ漫画家としての道を歩み始めます。

常に児童漫画の第一線で活躍し、最後まで児童漫画にこだわり続けていました。とはいえ大人向けのSF作品も手掛けており、その活躍は多岐にわたります。「すこし・不思議」という「SF」をテーマに、日常に飛び込んでくる非日常を描いた作品は、今でも多くの人々に愛され続けています。

藤子・F・不二雄の作品のにまつわる逸話3選!

1:なんとも言えない読後感!オバQの続編について

藤子・F・不二雄は児童作品ばかりでなく、時には相棒・藤子不二雄Aの得意分野であるはずのブラック風刺ものも書いています。しかし児童作品の影に隠れてそれほど有名ではないはずです。では、具体的にどのような作品があるのかというと、なんとあのオバQの続編ともいえるものが扱われているのです。

題名は『劇画・オバQ』。原作の登場人物たちの間に15年の月日が流れ、正太をはじめ全員が成人し、社会人として多忙な日々を送っていました。しかし正太は現在サラリーマンをやっていることに、何とも言えない物足りなさを感じています。

そこに久しぶりにやってきたQ太郎を見て昔に戻ったような感覚になり、正太は結婚したことを伝え家に招待します。しかし相変わらず大飯食らいのQ太郎は、妻から疎まれてしまいました。実はQ太郎もオバケ界の生活に物足りなさを感じ、モラトリアムを求めて人間界に降りてきたのです。

この時正太はハカセから、彼が立ち上げた企業に入って独立しないかという誘いを受けていました。久しぶりに一同会して一度は酒に酔った勢いで独立を決めようとしましたが、そこに妻の妊娠が発覚し、正太は現実の世界に戻っていきます。Q太郎も彼らがもう子供じゃないことを知ってオバケ界へ去っていきました。

2:世界的大ヒット作「ドラえもん」の誕生と制作の裏話とは

藤子の代表作「ドラえもん」は、実は新連載が決まってから実際に連載が始まるまでほとんどキャラクターが決まっていませんでした。のび太の構図は早々に決まっていたのに対し、ドラえもんはいくら考えても思いつかなかったのです。

しかしある日藤子がもうダメだ~!と家の階段を駆け下りると、そこには娘の起き上がりこぼし人形がありました。さらにアイデアに悩んでいるときに散歩をしていると猫を見かけます。こうして、「猫」と「ダルマ型」というキャラ像が出来上がり、ドラえもんの誕生となったのです。

しかしドラえもんは元々すごく風刺が強い作風で、ドラえもんの言葉遣いも今とはまるで異なる粗雑なものです。初めて放映されたアニメ第一期もドラえもんはむしろ騒動の主であるというようなイメージが強く、とても頼りになるお助けロボットではありません。

それでもアニメ化した際はいずれも高視聴率を誇る看板番組となり、時代が変わっても皆が愛するキャラ像は初期の段階ですでに完成されていました。こうして、ドラえもんは誕生から50年以上経った今でも永く愛される作品となったのです。

3:「行かなきゃ」と藤子・F・不二雄の死の都市伝説 !

1996年9月20日、藤子は『ドラえもんのび太のねじ巻き都市冒険記』を執筆中、鉛筆を持ったまま意識を失って倒れます。そして3日後、藤子は満62歳で亡くなりました。

藤子が亡くなった日、突然深夜のテレビにてドラえもんが流れたという都市伝説があります。しかもその内容は普通の内容ではなく、真っ暗な画面にのび太が後ろ姿で歩いているのが10分間ほど続いて、最後にのび太が振り返って「行かなきゃ」といって放送が終わったというものです。

実はこの話には異説もあります。この説では、スケッチブックを持ったのび太が真っ白な道を10分ほど歩いていると、後ろからドラえもんがやってきて「もう行ってしまうんだね」というとのび太が振り返り「うん、もう行かなきゃ」と言いました。そしてのび太の絵が藤子に変わり、ドラえもんが「ありがとう」といい、番組が終わります。

そしてこの番組が流れた翌朝、藤子の訃報が放送されたそうです。真実は定かではありませんが、漫画に命をかけた藤子ならばこその信憑性を持つ都市伝説でしょう。

漫画家としての藤子・F・不二雄にまつわる逸話4選!

1:藤子不二雄Aが語る、FとAの違いとは

藤子・F・不二雄と藤子不二雄Aは元々中学時代の同級生で、高校卒業後に就職するものの夢を諦めきれずに退職、そして憧れの手塚治虫のいる漫画の世界に「藤子不二雄」というコンビとしてやってきました。

藤子・F・不二雄は一貫して児童作品に専念したのに対し、藤子不二雄Aは社会性を帯びた大人向けの作品を手掛けるようになります。彼らは性格もまるで異なりました。Aによれば、Fは人見知りで担当者との会話も避けるような人でしたが、想像力が豊かでいつまでも夢を追い続けているような純真さを持っていました。

Aは学生時代からFの想像力や純真さを誰よりも認め、やや社交性に乏しいFをフォローし彼を表舞台で活躍させることに成功させました。Aは後にFは遊びを好まない男だからいつまでも純真な児童作品に徹し、自分は遊びを覚えてしまったからだんだんそこから離れていってしまったと評しています。

作風の違いがはっきりしたことからコンビを解消した後も、2人はFが亡くなるまで交流を続けていました。

2:漫画界からの追放!?青年期の出来事について

デビュー当初から凄まじい売れっぷりだった藤子不二雄は、70時間不眠不休で漫画を書き続けることもあったというほどの多忙ぶりでした。

そんな生活がずっと続き年末になると藤子不二雄は里帰りをし、そのまま仕事が手につかなくなってしまい締め切りをいくつも落としてしまったのです。 こうして編集者たちには「藤子不二雄は使ってはいけない」という噂が立ってしまい1年もの間原稿を通してもらえないという苦痛の時を過ごしました。

しかしこの時でも彼らはめげずに新しい案を書き続けました。当時彼らは漫画家の聖地・トキワ荘に住んでいましたが、彼はそこで活躍する仲間の姿にずいぶんと救われました。 そしてまた新たに活躍の場を与えられ、『オバケのQ太郎』のような名作を生み出すこととなるのです。藤子の苦労はこれで終わるはずでした。

3:ドラえもん誕生前夜!児童作品が書けなかった

藤子はあくまでも児童作品にこだわった結果、児童作品の次のブームである劇画タッチの青年向け漫画ブームに取り残されてしまいます。

当時藤子が在籍していた『サンデー』もまた児童作品から青年向けにシフトしており、藤子は自ら『サンデー』の連載陣から降りてしまいます。 その後『ビッグコミックス』の編集者が藤子に連載を依頼しましたが、藤子はかなり自虐的に自分が児童漫画から抜け出せないことを理由に断ろうとします。

しかし、それでも大人向け作品を書くことに藤子は最終的に同意します。こうして生まれたのが、上述した痛烈な風刺作品の数々です。 『ドラえもん』の誕生はこうした児童作品への絶望を乗り越えた先にありました。

そのため、『ドラえもん』は風刺の要素も含みながらも子供に夢を与える存在となり、大人でも楽しめる作品になっています。  

4:最後の弟子が語る、藤子・F・不二雄とは?

むぎわらしんたろうは、現在もドラえもん関連の作品に深くかかわる漫画家で、藤子の最後の弟子です。彼は専門学校の在籍中に藤子プロから仕事を手伝ってみないかと提案され、そのまま専門学校を辞めて現場に入ります。

藤子の最後の8年間を共にしたむぎわらは、インタビューで藤子の人柄を次のように語っています。 藤子はすごく寡黙で必要以上のことはしゃべらず、仕事に没頭する人でした。また空き時間にはアシスタントの指導をきめ細やかに記した文章を送る等、後進の育成にも熱心でした。

普段はアシスタントと一緒にご飯を食べたりはしないのですが、忘年会など特別な日には手品を披露したりという一面もありました。 いつまでも子供目線を忘れないように、子供の遊び道具(当時でいえばバーチャルボーイ等)を自分で遊んでその時代の感覚に合わせていたなど、どこまでも子供の夢に一途な姿が浮かんできます。

その思いはむぎわらをはじめ多くの子供たちにきっと受け継がれていくことでしょう。

藤子・F・不二雄初心者にもぴったり!

著者
出版日
2014-08-27

中高生向けの伝記として発行されている『ちくま評伝シリーズ〈ポルトレ〉』の中の1冊、『ちくま評伝シリーズ〈ポルトレ〉藤子・F・不二雄』。多くの参考文献からまとめられており、ファンにとってはなじみのあるエピソードも多いですが、その分入り口としては非常に優しい本となっています。彼の生い立ちやトキワ荘での出来事などが、よくわかりますよ。

この本で大きくクローズアップされているのは、彼が感じた2つの大きな挫折です。1つ目は多くの仕事を抱え疲れた彼は、相方と共に実家へ帰るのですが、そこで気が緩み抱えていた原稿をすべて落としてしまったこと。結果的に編集部の怒りを受け、しばらくの間、仕事が取れなくなってしまいます。もう一つはその後、世間の流行についていけず、うまくヒット作が出せず、漫画の執筆を一度やめてしまうこと。どちらも危機的なほどの挫折ではありますが、それを転換期として、より良い漫画を生み出した彼の人生は、今を生きる私たちにも勇気とヒントを与えてくれることでしょう。

藤子・F・不二雄を網羅した決定版

著者
藤子 F不二雄
出版日

藤子・F・不二雄がデビューしてからの全作品、そしてその作品世界などの全てを内包して解説したまさに永久保存版ともいえる『藤子・F・不二雄の世界』。カラーイラストでの全キャラクター紹介から、当時の写真を集めたアルバム、そして有名な「トキワ荘」メンバーでの特別座談会も収録されています。傑作セレクションとして、「帰ってきたドラえもん」など8作品も同じく収録されているので、読み応えのある1冊になっています。

カラー原稿からポスターなど、藤子・F・不二雄の追悼本というような総まとめの本です。有名作品も掲載されているので、これ1冊だけでも彼の道筋、そして彼が作り上げた漫画の世界が網羅できるようになっています。ファンなら必見の、そうでなくても彼の魅力に気づくことのできる本なので、おすすめです。

インタビューやエッセイでの言葉を集めた1冊

著者
出版日
2014-02-03

藤子・F・不二雄が今までに受けた膨大な量のインタビュー、エッセイから厳選した言葉をまとめた『藤子・F・不二雄の発想術』。彼のメッセージは物作りを行う人に、勇気とエネルギーを与えてくれることでしょう。タイトルからハウツー本のような印象を受けるかもしれませんが、それよりももっと広い範囲での彼の漫画への向き合い方が感じられますよ。

いくつかの章に分かれており、その中で彼の少年時代の回想や、トキワ荘時代の生活なども語られています。彼がどのようにして漫画家としての道を歩んでいこうとしたのかがわかるようになっているのです。漫画論についても触れられており、人気漫画を描くこと、人間を描くことについての考えをみることができます。たとえば、何を語るのか、というお話の時は、それと同じぐらいに「いかに語るか」が重要であると彼は答えています。他にも優れた漫画は「個性的」であると共に「一般的」であるなど、言われるまでは気づきにくいことをずばりと指摘しているのです。

本の最後には漫画家をめざす人に向けた言葉もあるので、創作の世界に入りたいという人には広くおすすめできる1冊です。

漫画だけではない、創作者必見の技法書

著者
藤子・F・不二雄
出版日

漫画を描くときには何が必要なのか、そして何が大切なのか。漫画を描くにあたっての「考える」ことが書かれた『藤子・F・不二雄のまんが技法』。知識からシナリオの作り方はもちろん、意欲の出し方まで書かれているので大いに参考になるとでしょう。一つひとつが分かりやすいため読んでいてつまることがなく、自然と話が頭に入ってくるのでクリエイターは必見の1冊です。

本書で繰り返し語れているのは、とにかく楽しんで描くこと。楽しんで、遊んで、のびのびと自由に描くことが上達への近道であると述べらています。また、そのような意欲面の話だけではなく、アイデアや絵を書き込むための「まんがノート」の作成や、演出の秘訣などの技法面にも触れられており、実用的なアイデアやアドバイスも詰まっている本書。文庫サイズで保管も持ち運びもしやすいので、何度も目を通すことにも向いていますよ。

藤子・F・不二雄の言葉を、いつまでも心に

著者
["藤子 F不二雄", "幅 允孝"]
出版日
2016-02-24

コミックスの中に収録されたセリフの中から、心に響く名言をまとめた『ドラえもん名言集「のび太くん、もう少しだけがんばって」』。選んだのはドラえもんの大ファンであるという選書家幅允孝氏です。ただセリフを並べるだけではなく、そのコマ自体も掲載されているので、絵と言葉双方ともに楽しめるようになっています。読んでいるだけで元気になる、プレゼントにも最適な1冊です。

ちょっと笑えたり、じーんとしたり、そんな言葉に手軽に出会うことができるので、手元に置いて、空いた時間に読むことに向いています。どの言葉も等しく心にしみてくることでしょう。たとえば「一生けんめいのんびりしよう」、「未来なんてちょっとしたはずみでどんどん変わるか」など、藤子・F・不二雄のセリフ回しに心が癒されてきませんか。上記のセリフにどのような絵が収まり、どのように印象が変わるのか、ぜひ本書で確かめてみてくださいね。

いかがでしたでしょうか。大きな挫折はあったものの、基本的には前向きに漫画に取り組んできた藤子・F・不二雄の姿は、私たちに多くの勇気を与えてくれることでしょう。今夏ご紹介した作品は、創作を志す人だけでなく、すべての人の人生の参考になる本ばかり。この機会にぜひ、お手に取ってみてくださいね。

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