アンネ・フランクの心を辿る本4選。大人になった今だからこそ読みたい。

更新:2021.12.16

第二次世界大戦で、ナチスドイツにより行われた大虐殺は、人類史上最悪な事件として記憶されています。その悲劇の中、希望を失わず生きた少女アンネ・フランク。今回は『アンネの日記』から絵本作品まで、アンネの心を感じられる4作をご紹介します。

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戦争と差別のない世界が来ることを信じた、アンネ・フランクとは?

第二次世界大戦中、ナチスドイツからユダヤ人として迫害を受け、収容所で最期を迎えた少女アンネ・フランク。彼女が逮捕前、ドイツ兵から身を隠して暮らしていた時の日記が終戦後、残された家族から発表され、その平和への願いは世界中で読まれています。

アンネ・フランクは、1929年、ユダヤ系ドイツ人の次女として、ドイツ・フランクフルトで生まれます。アンネが5歳のとき、ドイツ国内でのユダヤ人への取り締まりが強くなり、家族でオランダのアムステルダムへ移住しました。オランダでは事業を営む父の下、平穏な少女時代を過ごします。

しかし戦況は徐々に悪化。ドイツはポーランド侵攻を皮切りに世界大戦へと突入していき、遂にはオランドをも占領下に入れます。オランダ国内でもユダヤ人に対して様々な弾圧を行っていきました。アンネの父オットーはこれに危険を感じ、国外へ逃げたと偽装して、自ら経営していた会社に隠れ部屋を作り、家族で潜伏生活を送ることになります。

アンネは、オランダで暮らし始めてから、13歳の誕生日に父からもらったサイン帳を日記帳として書き続けるようになりました。父母や祖母、姉や友人などとの交流を少女らしい模写で書き残しています。隠れ部屋での隠匿生活は貧窮を極め、当時のユダヤ人の恐怖や不安を映し出す一方、希望を捨てず、戦争や差別がなくなるように願う少女の素直な気持ちが書き記されています。

1944年、ナチスドイツ親衛隊(通称ゲシュタポ)に隠れ家を見つけられ、家族全員逮捕され収容所に送られることになります。1945年収容所の劣悪な環境に姉妹でチフスにかかり、姉マルゴーの死から数日後アンネも息を引き取ります。

終戦後、家族でただ一人生き延びた父オットーは、隠れ部屋から発見されたアンネが付けていた日記を出版します。戦争と差別のない世界を望む彼女の思いは『アンネの日記』として60以上の言語に翻訳され世界中でベストセラーになりました。

等身大の少女の想いを読む

『アンネの日記』は、第二次世界大戦中、ユダヤ人迫害の犠牲になり15歳で亡くなったアンネフランクが、生前、その日常を記した日記です。戦後父親の手で出版された本作は、教育上の観点から一部削除されて発表されています。増補新訂版はそのすべてを含む完全版。赤裸々に綴られた少女の言葉は、世代を超えて考えさせられる1冊です。

 

著者
アンネ フランク
出版日
2003-04-08


本書は、アンネが日記を書くようになった経緯を記録しているところから始まります。13歳の誕生日に父親からもらったサイン帳を、初めての日記帳として使い始めるのです。架空のキティという相手に手紙を書いている設定で、日記は続けられていきます。

学校の友人やボーイフレンドとの恋、家族との思春期にありがちな衝突など、少女から大人になる前の微妙な心情と行動は、70年以上前に書かれたとは思えないほど共感できる言葉が並んでいます。読む人の世代により、違った感じ方ができるのではないでしょうか。

ドイツの取り締まりが厳しくなり、閉鎖された隠れ家での生活は、相当のストレスを感じたことでしょう。14、5歳の少女には過酷な状況だったと思います。家族内での喧嘩や中傷に、その行き場のない感情が写し出されています。

しかし、過酷な状況で悲壮感漂う少女の日記ではありません。歴史的にも暗黒な時代に、希望を捨てず未来に夢見る少女の姿がそこにあるのです。本作は、完全版ですので性的描写なども含まれていますが、10代の子どもたちと、子を持つ親としても読むべき作品といえるでしょう。歴史の生き証人の少女の言葉は、平和を望むすべての人が記憶しておかなくてはいけないと思います。

1人の少女が残した足跡を追う

『アンネ・フランクの記憶』は、作家小川洋子がアンネ・フランクの足跡を旅したエッセイです。『アンネの日記』との出会いが作家としての道へと繋がったとする著者のアンネ・フランクへの愛情が伝わってくる旅行記的な作品です。

アンネは第二次世界大戦のドイツによるホロコースト被害者として、悲劇の少女のイメージが強いのですが、著者は一少女としてのアンネの感性や文章を愛し、アンネ・フランクゆかりの地を巡ることで少女の等身大の姿を描き出します。

 

著者
小川 洋子
出版日
1998-11-01


ドイツ、オランダ、ポーランド、スイスなど様々な国を、アンネの軌跡をたどり歩きます。関係者へのインタビューも交え、アンネ・フランクの実像が浮かび上がります。特筆すべきはアンネが隠れ家に落としていった日記帳を拾い、アンネの父オットーに渡した人物ミープ・ヒースへのインタビュー。アンネを支えた人から語られる実物大のアンネ・フランクに、涙を禁じ得ません。

また、著者は、アウシュヴィッツなどの収容所も見学しています。過ぎ去った歴史と、過去の悲惨な歴史が交差する特殊な描写は、言葉で言い表す以上のことを伝えているように思えます。悲惨な過去と少女の悲劇を悲観的にならない文章で綴る本書は、『アンネの日記』を読んでいなくても感動できる魅力的な作品です。

歴史を語る1本のマロニエの木

『アンネの日記』を残したアンネ・フランクが、未来に希望をもって見つめていた1本のマロニエの木が語る絵本『アンネの木』。アンネ・フランクの感情や当時の生活を、マロニエ木からの視線で描き出します。

第二次世界大戦中、ナチスドイツからのユダヤ人への弾圧から逃れるため、13歳のアンネ・フランクは家族と共に、隠れ部屋で隠匿生活を送りました。外に出られない彼女は、絶望的な現状の中で窓から見える1本のマロニエの木に将来への希望を重ね合わせます。

 

著者
イレーヌ コーエン=ジャンカ
出版日


本書は、マロニエの木に希望を見い出すアンネ・フランクを、客観的にその木が語る形式で書かれた絵本です。子どもから大人まで読める、ホロコーストの悲劇を知る入門書的な本といえます。

文章も読みやすい訳で、漢字も読み仮名を振ってありますので、子どもでも理解しやすい1冊でしょう。人類史上最悪なホロコーストの現実と、1人の少女の平和への願いは、後世にも伝えていかなくてはいけない歴史です。ぜひ親子で読んでほしい作品です。

もう一つの『アンネの日記』

『アンネの日記』に登場するペーター・ファン・ペルスという少年を主人公にしたフィクションの物語『隠れ家 アンネ・フランクと過ごした少年』。

第二次世界大戦中、ナチスドイツから迫害を恐れ、アンネは家族と共に、隠れ部屋で隠匿生活を送ります。その隔離された生活を一緒に送る別の家族に、ペーターという少年がいました。アンネが書いた日記にも登場するこの少年を主人公に、ペーターからみたアンネ・フランクとその家族を描きます。また、ゲシュタポに捕まり、収容所へ送られた後の現実も語られていて、当時の悲惨さが表現されています。

 

著者
シャロン ドガー
出版日
2011-07-08


本書はフィクションですが、生き残った人々から聞いた現実の話をベースにしていて、当時の収容所での過酷さは、強烈な印象を残します。アンネ・フランクの書いた日記は、逮捕されたことにより終わっています。本書は、その後の収容所へ送られたことをも含めて描く、もう一つの『アンネの日記』ともいえる作品です。

二部構成で書かれている本書の一部では、アンネとペーターの隠れ部屋での交流を主に描いています。ペーターに対するアンネの恋心にも似た感情は微笑ましい光景を感じ取れることでしょう。二部では一転、逮捕後の収容所での過酷さを極める描写が展開されていきます。どこにでもある少年少女の日常が戦争と差別により、異様な日々に暗転する様は、恐ろしい現実として突き付けられます。

ナチスドイツによるユダヤ人虐殺は1,000万人以上ともいわれています。その一人ひとりに生活があり、家族がいて物語があったのでしょう。戦争の悲惨さを改めて感じることができる作品です。

過酷な運命の中、希望を捨てず未来を夢見たアンネ・フランク。彼女が残した日記は、戦争と差別をなくしたいと思う人々に、今なお勇気と希望を与えています。

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