沢木耕太郎のおすすめ書籍5選!『深夜特急』から対談集まで傑作多数!

更新:2021.12.16

沢木耕太郎作品の代表作『深夜特急』は、バックパッカーのバイブル的存在で有名ですが、他にも旅をテーマにしたノンフィクション作品を多数書いています。今回はそんな作品の中から、読めば旅したくなる珠玉の作品を5作紹介します。

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沢木耕太郎のおすすめ書籍5選!『深夜特急』だけじゃない!

主にノンフィクション作品を書く作家、沢木耕太郎。写真家としても活躍しています。

1970年、ルポライターとしてデビュー。『若き実力者たち―現代を疾走する12人』や『敗れざる者たち』などのインタビュー記事における鋭い感性や文体で注目を浴びます。1979年には、当時の日本社会党委員長が17歳の右翼少年に襲われた「浅沼稲次郎暗殺事件」の犯人を描いた『テロルの決算』で、第10回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。ノンフィクション作家として確固たる地位を築きました。

その後も1982年に『一瞬の夏』で新田次郎文学賞を、1993年には『深夜特急 第三便』でJTB紀行文学賞を受賞するなど、次々と話題作を発表していきます。2013年には、自殺した藤圭子のインタビューをまとめた『流星ひとつ』で物議を醸しました。

誰もが一度は夢見る放浪記『深夜特急』

作者本人が香港、マカオからインド、トルコなどを回り、ローマ、ロンドンへたどり着くまでのバックパッカー旅行記『深夜特急』。全6作からなる大作で、訪れた国々の生の魅力にあふれたノンフィクション作品です。

作者は、仕事をすべて辞めて単身、ユーラシア大陸横断の旅に出かけます。インドのデリーからロンドンまで乗り合いバスで行けるかという冒険が目的ですが、インドに行く前に格安飛行機の都合上、香港経由となり、そこから冒険談が始まります。

著者
沢木 耕太郎
出版日
1994-03-30

バックパッカーとして、世界を自由に旅することを夢見る人も多いのではないでしょうか。本書はそんな夢のような冒険談を綴った心が躍る作品です。しかし、ツアーで海外旅行をするような有名な観光地を巡る旅ではありません。安宿で現地の人と同じような飲食をして、気の向くままに足を向ける作者の旅行記は、異国の生の文化を伝えてくれます。

アジアの賭博や風俗など、危険な香りがするところでの体験を、事細かに描写しているところはリアルなスリルを感じることでしょう。本書から影響を受けて、旅に出る若者が続出しているという、まさにバイブル的存在の本です。本書を読めば、なんだかジッとしていられない衝動が走りますよ。

沢木耕太郎の代表作は、こうして生まれた!『旅する力―深夜特急ノート』

バックパッカーのバイブルとして読み続けられている沢木耕太郎の代表作『深夜特急』の、後日談や裏話をまとめたエッセイ『旅する力ー深夜特急ノート』。自分はどこでも生きていけることを旅から学んだと語る著者の経験談は、ますます旅に出かけたくなる作品です。

著者
沢木 耕太郎
出版日
2011-04-26

旅とは何かと問いかけるところから始まる本書は、作者の旅をテーマにした作品の集大成といえる作品です。

「旅はどこかに在るものではなく、旅をする人が自分で作るものである。どんな旅も、旅する人が作っていくことによって、旅としての姿が整えられていく」(『旅する力ー深夜特急ノート』より引用)

こうして作者自身が作った旅が『深夜特急』なのだと思います。読者も自分で旅を作りたくなることでしょう。

本書は、作者の子ども時代などのエピソードから、影響を受けた先生や人物を通じて『深夜特急』に見られる作者の既存の枠にとらわれない生き方や考え方まで浮かび上がってきます。また『深夜特急』の後日談として、ドラマやTVで取り上げられたことへの不快感などの思いも綴られているところは笑わせてくれます。

本書だけでも読者それぞれの体験した旅の魅力を再確認できる名著ですが、やはり『深夜特急』を読んだ後に、本書を読んだ方が魅力は倍増することでしょう。

沢木耕太郎が送る8編のエッセイ『一号線を北上せよ』

紀行短編集『一号線を北上せよ』。8編からなる本書は、26歳で旅に出た『深夜特急』の頃とは違う、大人の紀行文として描かれています。若かり日に旅をした記憶と、現在の旅に対する考え方を比較できる旅情あふれる作品です。

著者
沢木 耕太郎
出版日
2003-02-13

表題作「1号線を北上せよ」は、ベトナムの国道1号線をホーチミンからハノイに向けて旅したエッセイです。『深夜特急』のようなバックパッカーではなく、バスツアーで旅をしています。若き日の危うい冒険談とは違い、大人の旅を描きながらも、著者らしい自然体で読みやすい文体が魅力の作品です。

本書は、表題作のベトナムのほか、パリ、アトランティック、ポルトガル、スペインなど様々な国でのことが書かれていますが、一貫したテーマは、読者それぞれの心にある1号線はどこにあるかという著者からの問いです。心に残る旅の思い出が蘇り、また出かけたくなる衝動が抑えきれなくなります。

「『北上』すべき『一号線』はどこにもある。ここにもあるし、あそこにもある。この国にもあれば、あそこの国にもある。私にもあれば、そう、あなたにもある」(『一号線を北上せよ』より引用)

タイトルの一号線は、物理的な道路や鉄道に付けられた数字のほか、人の心にある感傷的で、一番魅力のある場所を含めて表しています。一人一人が心に残るもう一度行きたい場所、一番に思い出す心の在り場所、それが本書の全編に漂っているセンチメンタルな雰囲気を醸し出しています。あなたも自分の心の中にある1号線を探してみてはいかがでしょうか。

沢木耕太郎が描き出した、死の氷壁への挑戦『凍』

『凍』は、渾身のレポートで描いた登山家夫婦のドキュメンタリーです。世界的クライマーの山野井泰史・妙子夫妻が挑んだのは、ヒマラヤの難峰ギャチュンカン北壁。その過酷で絶望的な挑戦を、夫婦の絆を武器に戦う姿を描いたノンフィクション作品です。

著者
沢木 耕太郎
出版日
2008-10-28

山野井夫婦が登頂を目指したギャチュンカンの北壁は、標高差2,000m。世界のクライマーも寄せ付けない過酷さを極めた難所です。そこをアルパイン・スタイルという無酸素で短期間で登る方式で挑戦した2人。7,000mを超える山頂は、稀薄な酸素と極寒との戦いでもあります。

凍傷で手足の指をなくすことになる2人、雪崩に巻き込まれ命の危機が迫る妻……。息をもつかせぬ壮絶な死闘は、圧倒的な緊迫感をもった文体で描かれていきます。まさに、他に類を見ないドキュメンタリー作品です。自然の過酷さだけを主題にしているわけではなく、困難に挑戦する人間の美しさと夫婦の絆を描き出していて、生死を共にする夫婦の力強さに感動すら覚える名著です。

十人十色の旅の魅力を映し出す『貧乏だけど贅沢』

10人の著名人と沢木耕太郎の対談集『貧乏だけど贅沢』。大人たちが語った、旅をテーマにした本書は、旅の魅力と人生の面白さが詰まった作品です。軽快なトークで進んで行く内容は、カッコいいの一言に尽きます。著者は、旅をテーマにしたノンフィクション作品で有名ですが、そもそもルポライターとして世に出た人物。10人の魅力的なゲストとの対談は、沢木耕太郎のインタビューアーとしての真骨頂を見ることができます。

 

著者
沢木 耕太郎
出版日
2012-01-04

対談相手は、歌手井上陽水、阿川佐和子の父で小説家の阿川弘之、宗教学者此経啓助、俳優高倉健、随筆家高田宏、ノンフィクション作家山口文憲、文化人類学者今福龍太、小説家群ようこ、エッセイスト八木啓代、麻雀士田村光昭の10人。

10人それぞれの背景は違いますが、旅と人生について語り合う内容に、旅に対する憧れが更に高まることになるでしょう。旅をするのは死に場所を探すようなものと語る高倉健、ギャンブルなどについて語る井上陽水。山口文憲、今福龍太などとの会話は哲学的にも思えます。またプロのギャンブラー田村光昭との対話は、少々ダークな雰囲気を醸し出しています。いずれも個性豊かな大人の会話がテンポよく進んで行きますよ。

著者沢木耕太郎の博打観や、共通してテーマに挙げられる贅沢な時間という価値観。若き日の金銭的に貧乏な状況でも、精神的な贅沢を味わさせてくれた旅の魅力に共感できる点を見つけられるとうれしくなります。登場人物すべてが強烈な個性のある対談相手ですので、どの対談も面白く読める良作です。

旅とは何か、永遠に追い求める人生の旅人、沢木耕太郎。彼の作品を読むと旅に出かけたくならずにはいられなくなりますよ。これまでの旅を思い起こしながら、これから向かう旅に思いを馳せながらそれらの作品を読むと、本の魅力は何倍にもなることでしょう。

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