ヒトラーを知るための5冊の本。青春時代から予言の書まで紹介

更新:2021.12.16

独裁者アドルフ・ヒトラー。しかし彼は、なぜ独裁者となり得たのでしょうか。今回は青春時代や、トップに上り詰めるまでの様子などが読み取れる本を5冊集めました。この機会に彼の実像を探ってみませんか?

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独裁者ヒトラーの壮絶な生涯

ヒトラーは1889年4月20日に、オーストリアの税関吏アロイスと妻クララの間に誕生しました。比較的裕福な家庭でしたが、幼いころの彼については不明な点も多いです。

しかし画家を志していたことは間違いないようで、母親に語ったり、当時付き合っていた女性に「画家になってから結婚を申し込む」と伝えたりした記録が残っています。ウィーンの美術学校を2度受験しますが合格することはできませんでした。

1914年に勃発した第一次世界大戦に、ヒトラーはオーストリア国籍のままドイツ軍人として参戦します。危険な伝令兵として様々な軍功をあげましたが、終戦時は毒ガスで負傷して一時失明状態でした。

退院した後は軍に籍を置き、諜報組織の一員として活動します。その際調査対象であったドイツ労働者党の、反ユダヤ主義・反資本主義の演説に感銘をうけ、いつしか政治にのめりこんでいくようになりました。

軍にいつまで籍を置いていたかは定かではありませんが、彼は1919年ドイツ労働者党に入党し、1920年に党名を「国家社会主義ドイツ労働者党」(ナチス)に変え、1921年には突撃隊(SA)という準軍事組織も設立しました。

1923年には、ナチスの党首として中央政府の転覆をめざしミュンヘン一揆を起こします。しかしこれは失敗し、彼は投獄されることになりました。このとき獄中で執筆したのが『わが闘争』です。出所後は合法的な活動により勢力を拡大していきました。

1923年、突撃隊から選抜された親衛隊(SS)が結成されます。暴力的だった突撃隊に比べ統制のとれた親衛隊は評判が良く、またこの親衛隊はナチスの準軍事組織でエリート集団でもありました。

1933年、ヒンデンブルク大統領の指名によりヒトラーは首相になり、「全権委任法」が可決して彼の独裁体制が確立します。1934年にはヒンデンブルクの死に伴い大統領の職も兼任することになりました。これには国民投票が実施され当時89.93%の国民が信任しました。

彼は矢継ぎ早に政策を実施していきます。公共工事などで経済再建に成功し、再軍備も開始しました。1936年にはベルリンオリンピックを開催し、復活したドイツを世界に示します。

1938年には軍の統帥権を掌握し、さらにオーストリアを併合。また高速道路「アウトバーン」構想や、国民車「フォルクスワーゲン」構想なども打ち出しました。

1939年、ポーランドに侵攻し、第二次世界大戦に突入します。日本、イタリアと同盟を結び戦いましたが、1945年4月30日、アメリカ軍が迫りくる地下壕で、ヒトラーは結婚したばかりの妻エヴァと自害しました。56歳でした。

ヒトラーの意外な4つの事実

1:ヒトラーの画風は古典的な写実調だった

画家を目指していた彼の画風は、古典的な写実調でした。当時の美術界は抽象画の隆盛期にさしかかっていた時で、彼がウィーンの美術学校に合格できなかったのは絵が下手なのではなく、流行に合わなかったからかも知れません。

2:信義に厚かった

彼が18歳の時に母親は乳がんで亡くなっていますが、彼女の主治医だったブロッホ博士は、何度も往診するなど熱心な治療をしたそうです。彼は心から博士に感謝をして、「先生に対する感謝は一生忘れないでしょう」と語りました。ブロッホ博士はユダヤ人でしたが、彼が後日アメリカに亡命する際は、手厚く保護しました。

3:いたってノーマルだった?

冷酷非道で狂人のように言われるヒトラーですが、アメリカの極秘文書「ヒトラーのメディカル・リポート」によると、バランスのとれた優秀な調査結果が報告されています。このリポートでは彼の知性や性格等が詳しく調査されていて、ほとんどの項目で優秀・良好と評価されていて、またIQは150近くあったとの説もあります。

4:最期まで冷静だった

1945年4月30日、妻エヴァと共に自害をしたヒトラーですが、大本営のスタッフに解散を宣言して逃亡を認め、皆と握手を交わして別れたそうです。

ヒトラーとナチス、まるわかり

歴史群像シリーズの中の1冊である『アドルフ・ヒトラー 権力編 “わが闘争”の深き傷痕』は、彼の入門書ともなる優れたムックです。時代背景やナチスについて詳しい説明がなされているので、全体的な知識を得るのにぴったり。偏った視点をなくし、事実を丁寧にひも解いていきます。

著者
出版日

ムックのように数人で寄稿して本を作り上げる場合は、著者がそれぞれの得意分野を書くことになるので、より充実した内容になることが特徴です。まずはヒトラーという人物と、その政策をテーマとした彼の伝記。外交政策、人種政策を中心に、イギリスやソ連との外交問題やユダヤ人追放を検証します。

狂人であったという認識を覆し、新たなヒトラー像を作ろうとする稿もあり、彼の実像についてますます知りたくなってしまいます。

そして第三帝国についての政策について話は広がります。ナチスという他に例を見ない特異な社会はなぜ作られたのか、一般人であったはずの彼はなぜトップに上り詰めることができたのか。多くの人が持つ疑問に、答えを導いていきます。図版が多く使われていて理解しやすいので、ぜひヒトラーを知る最初の1冊にどうぞ。

ヒトラーが思い描いた社会とは

彼自身が、自分の生い立ちや思いについて書いた『わが闘争』。現在は再販売されているものの、本国ドイツをはじめその他の国でも禁本扱いとされていた本ですので、読むことができるだけでも貴重な作品です。

著者
アドルフ・ヒトラー
出版日

ヒトラーの語る話を聞いていると、民主主義とは全く異なった考え方であるにも関わらず、説得されそうになります。信念を持っているからでしょうか。

彼の思想が実現していく様子を読むことで、私たちが現代社会をどう作り上げていくかを考え直すきっかけになるのではないでしょうか。

親友の見た若き日のヒトラー

彼の唯一の親友といってもよいクビツェクによって書かれた『アドルフ・ヒトラーの青春―親友クビツェクの回想と証言』では、若き日のヒトラーを知ることができます。青年期の彼はどんな人物だったのでしょうか。夢を追い求める姿、恋愛に悩む姿、挫折に苦しむ姿。どれをとっても私たちの青春と同じもので、彼もまた普通の若者であったのだと思わせてくれます。

著者
アウグスト・クビツェク
出版日

青春時代のヒトラーの考えや行動には、独裁者となり得る片鱗が見えることもありました。自分の言いたいことばかり話すこと、完璧主義者であること、自分の思うとおりに何事も進ませたいと思っていることなどです。そして芸術家になる夢も、建築家になる夢も、叶わずに挫折してしまったことが、彼のそれからの道を決定づけてしまいます。なぜユダヤ人を憎んでいたのかということについても、友人ならではの推察が書かれており、納得してしまうことでしょう。

しかし彼の悪い点ばかりではなく、良い点も書かれています。家族愛が深かったり、著者のために努力を惜しまず、一緒に喜びを分かち合ったりするなど、情に厚いヒトラーも存在するのです。彼が独裁者になっても、最後まで親友であることをやめなかった著者。そんな友人が語った言葉を、本書で確かめてみてはいかがでしょうか?

2039年の予言

彼は人類の存亡について予言を行っていました。ナチス親衛隊の中でも特別なメンバーだけで構成されていたニーベルンゲン復讐騎士団に、ヒトラーが語った予言。それが『ヒトラーの終末予言 側近に語った2039年』です。2039年についてだけではなく、それまでにも多くの予言が書かれています。現代の様子を見ると予想が当たっている場面も多くあり、彼の未来を見る目に感心してしまいます。

著者
五島 勉
出版日
2015-07-31

社会は二極化していくと予想されています。富裕層はますます富み、知識人はさらに知識を得て、そうではない人たちとの差が開いていくというのです。そして2039年に人類は消滅。人を超えた神のような存在と、何も考えないロボットとに分かれてしまうというのが彼の考えです。

人が神になるというのは荒唐無稽の考えのようですが、指示するものと指示されるものに分かれるというのはよく映画でもある話です。現代では人工知能も発達し、人間が指示される立場になるかもしれません。上に立つ神のような一握りの人間と、その下にいる優秀なロボット、そして底辺にいるロボットのような人間たちという仕組みです。彼はそのように人間がロボット化してしまう世界を予測しているのです。

水木しげるの絵によって蘇るヒトラー

『ゲゲゲの鬼太郎』で有名な水木しげるによって描かれた『劇画ヒットラー』をご紹介します。彼の半生をまとめた作品で、芸術家を目指していた19歳から、1945年に自殺するまでを網羅。批判も肯定もなく淡々と史実を描いていく筆者の絵は逆に凄みがあり、彼について考えさせられることでしょう。風刺されたような顔もイメージが湧きやすく、物語にスムーズに入り込めます。

著者
水木 しげる
出版日

彼が政権を握るまでの話に重きが置かれており、どのようにして底辺から頂点まで上り詰めることができたのか、ということがよくわかります。貧困にあえぎ、夢も実現できず、悩みもがいていた青年が、ドイツのトップになるのです。そしてドイツ人は、なぜ彼をそこまで支持したのでしょうか。

ヒトラーに関する疑問をすっきりと解決させてくれるような本なのです。水木しげる独特のコミカルでユーモラスな部分もあって、引き込まれてしまいます。普通の人間が独裁者へと変貌する様子には恐ろしさを感じますが、彼の人生を知る本としておすすめの1冊です。

ヒトラーについては、なかなか深く知ろうと思えない人物かもしれませんが、この機会にいろいろな本を読んでもらえればいいなと思います。

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