小林多喜二のおすすめ作品5選!代表作『蟹工船』以外も面白い!

更新:2021.12.9

戦前に流行した文学、プロレタリア文学。社会主義思想や共産主義思想と強い結びつきを持った作品です。その運動の中でも代表的な作家小林多喜二をご紹介していきます。

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小林多喜二のおすすめ作品5選!代表作『蟹工船』からも感じられる、弾圧に立ち向かう姿勢

秋田県に生まれ、4歳の頃一家で北海道にある伯父の別宅へと移り住んだ小林多喜二は、伯父の工場で働く代わりに学費を貰い、小樽高等商業学校(現在の小樽商科大学)へと進学していきます。ここで、経済学者、評論家として有名で、社会主義思想の研究が著書としても有名な、大熊信行から教えを受けているのですが、これは小林が労働運動に参加する影響の一つになっているようです。

在学中から絵画や執筆など文芸に積極的で、北海道拓殖銀行に勤めている間にも執筆を続け、1928年に『一九二八年三月十五日』を発表、続けて翌年『蟹工船』を発表し、プロレタリア文学の旗手として注目されます。同時に警察からも要注意人物として挙げられてしまうのです。

それ以後、逮捕、保釈を幾度か繰り返し、1933年2月20日に逮捕された際、獄中での死亡が確認されます。警察からは心臓麻痺という発表がありましたが、その体は、内出血により腫れあがっていて、首には絞められた跡などがあり、過剰な拷問が行われたことが容易に想像できたのです。29歳でした。

遺作は、地下活動を行っていた頃に書いた『党生活者』です。1933年に『中央公論』の4-5月号で発表されています。その後、生誕100周年を機に、シンポジウムや映画など、改めて小林作品は掘り起こされ、今なお、人々の心に刻まれ続けているのです。

死の間際まで執筆活動を続け、その作品の中に込めた思想は、現代社会においてもきっと、通じるものがあります。再注目されている、プロレタリア文学の旗手小林多喜二を読むことで、現在には無い、当時の過酷な空気を、その想いを、知ることができるのです。

再ブームでも話題になった小林多喜二の代表作「蟹工船」

「蟹工船」はプロレタリア文学の代表作として、よく名前の挙がる作品としても有名です。映画化や蟹工船ブームなども有名なので、本作を知っている人も多いのではないでしょうか。国際的な評価も高く、翻訳されて出版されています。

蟹工船博光丸に乗った労働者の人々、船の中で缶詰を加工するように出来た工場船なのですが、仕事を斡旋する斡旋屋に騙されて連れてこられた人たちが働いているのです。船に乗るまでの間にも斡旋料、汽車賃、宿賃、毛布代など、お金を取られ、借金が膨らんでしまいます。

ここで低賃金労働者を生み出す仕組みが作られていることが分かります。賃金が安くてもそこで働かなければいけない、そして、働いても働いてもお金は足りなく、結局その場で働き続けることを余儀なくされる。この負のスパイラルとも言える仕組みは、現在では無くなっているとは思いますが、実際にそこで働く虚しさを考えると、涙が込み上げてきます。

著者
小林 多喜二
出版日
1954-06-30


そして、いざ仕事に取り掛かるも、その環境は過酷を極め、働かない者には熱で真っ赤になった鉄棒を押し付けられます。労働者どうしを競わせ生産性を上げようと、浅川という作業監督によって苦しませられるのです。浅川は会社から、労働組合を作らないように監視することも命じられています。

ここでも負の仕組みが出来上がってしまっています。労働組合を作らせないことで、反発出来ないようにしているのです。労働者をバカにしたような言動は、読者にも憤りを感じさせます。過労を強制しているにも関わらず、給料は少なく、逃げ出そうにも、海の上では逃げ場はありません。給料に見合わない労働、浅川の暴力に虐待、不衛生な環境による病気など、乗組員は追い詰められていく描写は、圧倒的な絶望感が伝わってきます。

そんな中ひとりの乗組員が死んでしまい、それを機に乗組員は団結し始めます。浅川を筆頭にした10名の船員に対して、こちらは400人、ストライキが慣行されるのです。

物語はクライマックスへと向かうにつれ、団結力、強者へ立ち向かう勇気が描かれていきます。これまでの怒りが爆発するかのような展開は鳥肌もの。最後の1文、当時搾取されていた人たちに向けられたような力強いメッセージを、実際に読んで感じてみてください。

搾取する者と搾取される側の対立を描いた本作は、現代に置き換えるとブラック企業に当てはまります。本作を読むことで労働に対して深く熟考できる作品です。

こちらの記事でも詳しく紹介しています。

5分で分かる『蟹工船』!これって実話?【あらすじと解説】

5分で分かる『蟹工船』!これって実話?【あらすじと解説】

作者・小林多喜二が命を代償にして世に送り出した名作。プロレタリア文学の代表作とされ、国際的評価も高く、いくつかの言語に翻訳されて出版されている『蟹工船』。 本作は世の中に何を訴えているのでしょうか。 この記事では、あらすじから結末まで、詳しく解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。

搾取される者とする者。いつの時代にも響く普遍のテーマ「不在地主」

本作は、農場の主人が不在なのに、代理人に管理される村、S村が舞台です。そこで貧しい暮らしをしている健は、農村が都会に搾取されていることを知っていきます。知識を得、立ち上がろうと奮起する青年の姿が胸を打ちます。磯野農業小作争議という実際に起こったことをモデルにしていて、微細な状況説明などが書かれていますので、歴史書としての側面もあるように感じます。

第一次世界大戦後の戦後恐慌により、農民の生活は圧迫されていました。その土地に住んではいないけれど、土地を所有している不在地主に搾取されているのです。しかし、仕事に精を出し、模範青年と表彰されるほど働いている健には、このことが今一つ理解出来ません。それに気づき、何とかしなければと考えている阿部は、もう少し喰えなくなれば、模範青年とは何かよく分かるようになる、と健に言います。

その後、父の身体が変になり、働きぶちが減り、いくら働いても地主に搾取されているという現状が、健の考え方を変えていくのです。そこで阿部に言われたことを、実感として理解するのです。

著者
小林 多喜二
出版日
2010-04-17


それ以後、村の集会で農村の過酷な現状を知ることとなります。「模範青年」の実態は村民を表彰することで喜ばせ、労働力を生み出そうという魂胆によるものだったのです。労働者を競わせ、搾取しようとしていたということになります。さらに、工場で働くため村から出た七之助からの手紙で、より具体的な悲惨な現状を健は知ることになるのです。

このままではいけないと動き出してからクライマックスまでは息つく暇さえありません。団結し結束していく傍らで、周囲から変わってしまったと嘆かれる健の心情は、苦しさや切なさの塊です。理解してもらえないことへの憤り、物事がうまく進まないことへの憤り、読み応え十分な心理描写に目が離せなくなってしまいます。

農村で直接的ではないにしても虐げられている人々の姿、それが本当にあった事実だと考えると、心に深く刺さるものがあります。現在、農家では人手不足が囁かれています。しかし、若者が都心に集まるようにと、気づいていない仕組みが出来上がっているのだとしたら。そう考えれば、仕組みと戦う姿を描いた本作は、今の日本にも通じるものがあるのかもしれません。

小林多喜二入門におすすめの1冊「防雪林」

「防雪林」は小林の初期作品です。「不在地主」と同じく北海道の農村地が舞台となっています。その土地に暮らす一家の日常を描いた形なので、他の作品よりも圧倒的に読みやすくなっているのも特徴の一つです。苦しい状況下でも、強くたくましく生きる主人公源吉は、芯があり、少し暴力的な面もあるけれど、優しさも兼ね備えた魅力のある男として描かれています。

川で魚を獲ることが禁止されているけれど、金持ちはそれを楽しんで、たくさん食べている。そんな現状に納得のいかない源吉は、勝を連れて秋味を獲りに行きます。躍動感溢れる描写でいきいきとしているのですが、棍棒で秋味を仕留める姿がとても猟奇的で、恐ろしさすら漂います。

もし役人に見つかればただでは済まない、そう思い、勝はビクついていますが、源吉はものともしません。もし出会ったら棍棒でやっつけると言うのです。勝は、源吉なら本当にやってしまうだろうと、余計にビクビクしてしまいます。

何事もなく、無事に家まで帰ってくると、勝は力が抜けて助かったと安堵します。すると、源吉は1年ぶりだべ、お母ば喜ばせてやれと、秋味を渡し、朝になったら川岸の家まで1匹ずつ配れ、と村の人たちに配ることを提案します。魚を獲っていた時とは一変して、優しさが溢れている源吉の姿に困惑しながらも、分け合うのが当たり前の事だと力強く言う姿は、男らしさを感じ、魅力的に見えます。

著者
小林 多喜二
出版日
2010-04-17


そういった日常が語られながらも、過酷な農民の生活も描かれていきます。そんな中、妹のお文が札幌に逃げて行ってしまうのです。心配した小学校の校長が源吉たちの家に訪れ、札幌に居た時の話をしてくれます。その話の中で、勝が工場で働くことになったことを源吉は知らされますが、そんなもんかと諦めに似た調子で言います。ここでの校長の言葉が印象的です。

「人間をいかしてやるも、やらないも意のまゝに出來るのは、お百姓と職工だけなんだよ。面白いだらう。(略)ところがねえ、源吉君、その百姓と職工さんが一番貧乏して、一番薄汚くて、一番人に馬鹿にされて、一番働かされてるから、愉快だよ。」
(『防雪林』より引用)

食物という人が生きるために必要不可欠な物を作っている、作らなければ誰もが困ってしまう、当然のことです。それなのに、蔑まれ、貧しいという現状。本作の1番のメッセージでしょう。

働きすぎというほど働いているのに貧しいのは、単純に働きが足りないからだと地主は言い、そんなのは大嘘だと校長は笑うのです。ここでも仕組みが出てきます。それは現場で必死に働いていても豊かにはならず、何もしない不在地主がどんどん裕福になっていくという仕組みなのです。源吉の心に火が燻り始める瞬間でもあり、本作の中でも重要なシーンになっています。

源吉の思考も描かれた本作は、そのまま小林多喜二の胸中ともリンクしているように思え、初期作品ならではの色を持っています。そういった部分に触れられるのも本作の魅力と言えるでしょう。本当に読みやすいので、小林多喜二作品の読み初めにおすすめの1冊です。

まるで手記のようなリアリティ。地下活動を描いた名作「党生活者」

「党生活者」は小林多喜二が実際に地下活動をしていた時に書かれた、地下活動を題材にした作品です。工場で働きながら共産党員として地下活動をしている「私」が主人公なので、主人公と小林が同一人物のように感じられ、まるで手記のようなリアリティが漂っています。

仲間との情報交換のため、日に何度も外出するので、付近から怪しまれてしまいます。そうなると身分を隠すために引っ越しを余儀なくされてしまうのです。ある時「私」の同志、須山からメンバーのヒゲと連絡が取れなくなったと聞かされます。

彼等の目的は、過酷な労働を強制されながらも、いつ首になるかも分からない状況を打開するため、労働者を団結させることなのです。そのための宣伝を警察の目を盗みながら行っていきます。

著者
小林 多喜二
出版日
2010-05-15

あるとき大量の首切りを行うとの情報が入ってきます。いつ首になるかも分からないというのは、近年の派遣切りと似ているように感じませんか?現代とリンクさせながら読むことで、より深い理解が得られるはずです。

仲間を増やしていた「私」達は、ストライキを決起します。成功したかに思えたストライキでしたが、首切りは予定を早め、慣行されてしまいます。そして、その中に「私」を含めた同志の名前も入っていたのです。

嬉しさの頂点から奈落の底へ突き落されるような出来事に、すっかり打ちひしがれてしまいます。当然です。こんな仕打ちあんまりだと、悲しむのが普通でしょう。しかし、彼らはここで、この失敗した経験を活かさなければいけない、と再び立ち上がるのです。その強さは見ていて熱くなるもので、心が掴まれる力強さがあります。

本作も搾取される労働者が取り上げられています。信念を持って、諦めないで戦う姿は感慨深いものがあり、労働について考えさせられるのです。最後に書かれた「私」の意気込みは、当時の逼迫した状況、そして労働者への力強いメッセージとして受けられ、とても魅力的な1文なのでご紹介させていただきます。

「彼奴らは『先手』を打って 私たちの仕事を滅茶滅茶にし得たとしんじているだろう
だが実は外ならぬ自分の手で、私たちの組織の胞子を吹き拡げたことをご存知ないのだ!」
(『党生活者』より引用)

三・一五事件がモデル。小林多喜二の死の引き金になった作品『一九二八年三月十五日・東倶知安行』

『一九二八年三月十五日』は1928年3月15日に起こった三・一五事件を題材にした作品です。日本共産党、労働農民党に対して政府が行った、大弾圧事件ですが、関係者1500人以上が検挙されたそうです。反体制活動の取り締まりのために設置された特別高等警察という組織が出てきます。主に社会主義運動の取り締まりをしていて、その過剰で拷問とも言える取り調べが、色々な資料に残された組織でもあるのです。

実際に検挙され、拷問を受けた小林の怒りが込められた作品になっているようで、その過激な拷問描写から、特別高等警察に目を付けられるきっかけになった1作としても有名です。伏せ字や消されている部分が多く、完全に読めない所もあるのですが、読んでいくうちに、きっとここの伏せ字は〇〇だろうな、と想像できる内容になっているので、意味がわからなくなる心配はありません。驚くことに、この過激すぎる作品が小林多喜二のデビュー作です。

著者
小林 多喜二
出版日


活動家の妻、活動家の面々、警察と様々な視点で書かれているので、この事件に苦しみ、悲しんだ人たちの想いが濃密に込められています。突然警察によって夫を連行された妻の気持ちは想像を絶するものです。実際に読んで、その重みを感じて頂きたいと思います。本作には言葉にならないほどの想いが詰まっているのです。

そして、問題の拷問描写は伏せ字のオンパレードです。ほとんど何が行われているのか分からない部分も少なくありません。その中でも、伏せ字が少なく、かつその異常性が伝わりそうな一文をご紹介します。

「取り調べは××の氣狂ひじみた方法で、こゝには書き切れない(それだけで一冊の本となすかも知れない)色々な惨虐な裨話(「裨話」はママ)を作って、ドシ〵〳進んで行つた。」
(「一九二八年三月十五日」より引用)

××には、おそらく特高(特別高等警察)が入ると想像できそうです。しかしどうでしょう、ここには書き切れない、その内容だけで本が書けるとまで言っています。いったいどれほどの気狂いじみた拷問だったのか、手の平に力一杯何かをされたとか、指に何かされたとか、一時的な痴呆状態になるほどの拷問だという描写はありますが、それ以上の、書くことができない拷問があったことが、この1文から伝わるのです。小林多喜二の深い怒りが感じられる作品です。

以上、小林多喜二のおすすめ5選でした。思想や経済といった分野に強く結びついた作品、プロレタリア文学。その代表各である小林多喜二作品の魅力は伝わったでしょうか。小説だけでなく、映画もおすすめですので、興味のある方はそちらもチェックしてみてください。

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