誰もが発信できるいまだからこそ知りたい、「言葉」についての5冊

更新:2021.12.12

インターネットを使って誰でも言葉を発信できる今の時代。ブログみたいな長文から、Twitterみたいな短文まで、いつでもどこでも誰にでも気軽に簡単に、思っていることや考えていることを言葉に乗せて発信することができます。 私は小説を書いたり校正の仕事をしたりしているので日常的に言葉について考える機会が多いのですが、こういう時代だからこそ言葉について考えるきっかけになった5冊を紹介します!

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正しい日本語って何?

日本で生まれ育って何十年も日本語を使っているというのに、思い込みや勘違いで言葉の使い方を間違えていることはありませんか? 誰かに指摘されて「そうだったのか!」と恥ずかしい思いをすることが私もいまだにあります。そんな風に言葉の使い方を間違えることを「誤用」といいますが、この「誤用」とはそもそもなんなのか、ということを考えさせられるのがこの本です。

著者
加藤重広
出版日
2014-10-10

この本ではたくさん例を紹介しているのですが、例えば「青田買い」。「田」という字と「草刈り」のイメージが結びついて、「青田刈り」という言葉が生まれ、現在は混同されがちになっているそうです。

実際に「青田刈り」を辞書で引いてみましょう。
すると、『明鏡国語辞典』では誤用として紹介されますが、『広辞苑』では「青田買い」と同じ意味の言葉として登録されています。

もともと誤用だったとしても、使う人が多くその意味が世間に浸透してしまえば市民権を得ることもあるし、そういった過程を経て現在使われている言葉もたくさんあります。自分が使っている言葉はどうだろう、と改めて考えさせられました。

その言葉、世に出す前に校正しよう

校正というのは、小説に限らず、文章が世の中に出ていく前には必ず必要な文章の最終チェック工程に当たります。自分では気づかなかった誤用や誤字脱字だけでなく、適切な内容かどうかといった観点でのチェックも含まれます。

著者
大西 寿男
出版日
2009-11-20

校正というとちょっと堅苦しい言葉の仕事といったイメージがありますが、この本は校正の仕事そのものについても触れてはいるのですが、言葉を発信する前に校正の目で見直してみよう、ということがより印象に残った本でした。

今は誰でも気軽に色んなところで言葉を発信できるわけですが、この本を読むと、「その言葉、本当に世の中に出しちゃって大丈夫?」と問い直したくなります。誤字脱字だけの話ではもちろんなくて、「自分も含め、誰かを傷つけたり不快にしたりする言葉になってないか?」とか。

簡単に言葉を発信できる一方で、安易な言葉があふれているのもまた事実。一つ一つの言葉を大事に紡いでいきたいものです。

言葉の乱れは心の乱れ?

書き言葉だと、誤用や表現、用法を意識することはあるかと思うのですが、ここで一転、口語についてはどうでしょう? 話し言葉を第三者に校正してもらうことは滅多にありませんし、人前でしゃべる機会がないと、なかなか意識することがないんじゃないでしょうか?

著者
内館牧子
出版日
2013-07-12

こちらの本は、そんな口語だとつい乱れがちな日本語とか若者言葉とか、そういう今どき言葉について考えさせられる1冊です。

正直、ちょっと耳にうるさい本でもあります。「チョー」「普通に」「感じ」くらいの口語、使ったっていいじゃんって思います。口語ですし。

ですが、この本で言っていることも一理あって、例えば、言葉の話じゃないんですが、何かの楽器の演奏会に出演するとします(私は趣味で音楽もやってます)。演奏会ではステージへの入場時の立ち振る舞いやおじぎの仕方など、楽器の演奏以外の部分にも気を遣うのですが、そういう演奏以外の部分に気を遣えていない人に限って、演奏もいまいちだったりすることが往々にしてあるのですね。
口語の乱れも、それと近い話のような気がします。

細かいことを気にしすぎても息苦しくなってしまいますが、それでも本質的な部分を大事にするために、普段の言葉にも気を遣ってみてもいいのかもしれません。

標準語ってなんだろう?

話し言葉といえば、方言はどうでしょうか? 関東に住んでいると意識する機会は少ないかもしれませんが、触れてみると面白い発見があったりもします。そういうわけで、今度はちょっと変わって、方言にまつわる戯曲を紹介。

著者
井上 ひさし
出版日

明治7年、日本には色んなお国言葉(=方言)があって、ちょっと生まれの違う人だとまぁ言葉が通じない。そんな不便を解消すべく、「全国統一話言葉」、つまりは日本国民みんなが使える「共通口語」を発明せよ、と命じられた男と、その家の人々の奮闘のお話です。色んな方言がたくさん出てきて、関東人の私には面白い部分が多い作品でした。

今はテレビもネットもあって、いわゆる「標準語」というものが共通語として使われているわけですが。この本を読むと、方言にはそれぞれルーツがあって、その土地の文化を反映してて味わい深いと同時に、言葉の画一化というものの難しさを感じます。

私自身は千葉育ちの東京在住なので、そこまで強い方言はないのですが。やはり千葉にも方言あるんですよね。「打ち身/青たん」のことを「青なじみ」といいます。これが方言だと知ったのは二十歳くらいの頃ですね。方言ってわかってても今でも使っちゃうし、千葉っ子としては使いたかったりもします。

言葉を拾い集める人々の物語

誤用や乱れた言葉になっていないかなどなど、言葉についてわからないことが出てきたときにお世話になるのが“辞書”。最後は、色んな言葉が凝縮されている辞書にまつわる物語を。

著者
三浦 しをん
出版日
2015-03-12

映画化もされた本屋大賞第1位の作品なので、知っている方も多いかと思います。出版社の辞書編集部が舞台の小説です。

辞書は日常的に使っていますが、それがどうやって作られているのかまったく知らなかったので、まずその点が非常に興味深かったです。そして何より、この物語は一人称で進んでいくのですが、辞書の製作に携わるような、言葉というものに人並み以上の思い入れやこだわりがある人たちの視点が面白い。特に、第2章の馬締光也の視点がお気に入りです。誰かから発せられた単語一つにしても、使われ方や用法が気になってしまい、ついつい分析してしまう思考回路はなんともいえません。

散らかっていると気にならないけど、きれいな部屋に紙クズが一つ落ちていたら目につくのと同じ。普段何気なく口にしている言葉でも、整理して考えるようになってくると、小さなアラや引っかかりが気になるようになってきます。そういう視点で読むとまた違った面白さのある1作です。

普段何気なく使っている言葉。なくてはならない大事なコミュニケーション・ツールだからこそ、たまには見つめ直してみてはいかがでしょう?

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