電車移動時間にもってこいの傑作選【橋本淳】

更新:2021.12.6

どうも橋本淳です。これを書いている現在は、まだ冬の寒さが拭えず桜の木々たちもまだかまだかと開花を伺っているとそんな時期。私は4月2日にスタートしたNHKドラマ『PTAグランパ!』というドラマを連日撮影中という毎日でございます。←宣伝失礼

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さて、連日撮影ということもあり、現場までの電車移動が増える日々。通っているロケ地は片道2時間。絶好の読書の時間です。ここまで通勤通学に時間がかかる方も、そう多くはないと思いますので、今回は少しの移動時間でも読み切れる、短編集ご紹介します。朝通勤時にネットニュースも読んでしまい、眠気と戦ってる時になぞ、お勧めです。

読み応え、噛み応えアリの短編集

著者
出版日
2012-10-19

2000年代、「小説すばる」に掲載された短編作品から集英社文庫編集部が厳選した12編の作品集。

電車移動中にあっという間に読める傑作ばかり。何度か世界に入り込み、思わず目的地の駅で降り過ごしてしまいそうになりました。今までなかなか短編集というものには手をつけてはいなかったのですが、ハマりそうです。エセ読書家の私にとっては、様々な世界観の作家さんとの初めましての出会いの場として重宝しそうです。特上の海鮮丼を様々な角度からつまみ食いしているかのような贅沢感(例え下手はスルーでお願いします)。

個人的に、今回印象深かった作品は、奥田英朗氏「ここが青山」、荻原浩氏「しんちゃんの自転車」、浅田次郎氏「金鵄のもとに」。もちろんすべて読み応え、噛み応えアリの良作ですので、みなさんの好みを探すのも良しです。

心に刺さった一節
”自分がどこへ行こうとしているのかもわからず、人の自転車の後ろに乗っているようなものだったのですから”

導入とラストの醍醐味

著者
出版日
2002-11-20

「小説すばる」に掲載された、膨大な数の傑作を厳選した短編集。

短編ということでなかなか粗筋などを纏めるのが難しいです。ネタバレ等してしまうので今回はあまり書かずで……。短編ということで起承転結が早いタイミングで訪れます。どの作品も導入部分とラストの話の落とし方に、それぞれのセンスが光ります。余韻を残す、cutoutする、含ませて終わらせる etc。

終わりが近づいてくるのが何となく分かるので、この話をどう“落とすのか”と予想するのも面白いですね。裏切られるのも良し、予想通りも良し。長編とはまた違った楽しみ方があるのも、一つの魅力です。

心に刺さった一節
”仕事は終ったのに、なぜ泳ぎ続けているのか。泳ぎ着いたさきに、なにかが待っているのか”

異才が綴る短編集

著者
イッセー尾形
出版日

市井の人たちの喜怒哀楽を演じ、一人芝居というものを確立した異才・イッセー尾形さんが綴る短編集。

どこかのページに断片集とあったが、まさにその通り、言い得て妙であると。ある人物にスポットをあて、その人生のほんの一瞬を切り取ったような超短編集。長くとも5ページというショートな世界に人物像がぎゅっと圧縮されているような作品群。最後の一文によって、後ろからサクッと刺されたりする感覚や、暗い部屋にポッとロウソクが灯るような感覚だったり、と作品によって雰囲気が、がらっと変容する。ピリリとスパイスの効いた短編、いや断片を、移動中などスマホをいじる時間の代わりに、是非。

心に刺さった一節
"締めたはずの蛇口からふいに水がしたたり落ちるような涙だった"

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