ありきたりじゃないビートルズの写真集5冊[Part.2]

ありきたりじゃないビートルズの写真集5冊[Part.2]

更新:2021.12.2

僅か1年でこんなに顔が変わるのか。そんな風に思ってしまう程、ビートルズの4人の顔の変化は音楽同様激しい。その積み重ねが、“赤盤”“青盤”の愛称で長年親しまれてきたベスト盤のジャケットに集約されている。僅か7年であそこまで“老成”しちゃう程の変化を見せた彼らは、それでもまだ20代だった。被写体としても面白い存在だったそんな4人の写真集は、だからこそ全世界で数えきれない程発売されている。オフィシャルカメラマンも多い。そんな中から、時代の空気も詰めこまれた写真集を、年代順に3回に分けて紹介します。

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日本公演にも同行したサイケなカメラマン

釘や花や鳥かごなど、小道具をやたらと使いたがるヘンなカメラマン――ロバート・フリーマンと入れ替わるかのように登場したのが、ボブ(ロバート)・ウィテカーである。もちろんそんな写真ばかり撮っていたわけではないけれど、アイドルならではのありきたりな撮影に飽き飽きしていたビートルズのメンバーは、技術よりもアイディアに長けた風変わりな手腕を気に入ったのだった。そしてウィテカーのワルノリが過ぎたおかげで、かの発禁ジャケット“ブッチャー・カヴァー”も生まれた。本書はその発禁ジャケや『リボルバー』の裏ジャケの別カットほか1966年の写真を中心に構成されている。

THE UNSEEN BEATLES

1991年10月24日
Bob Whitaker 撮影
Conran Octopus
『ビートルズ未公開写真集』という書名で日本語版も出たが、表紙と裏表紙の写真は、91年発売のオリジナル版よりも、95年の再発版の方が、圧倒的にいい。しかも日本版は、著者名の表記が、なんと「ボブ・ウイタカッー」(アアッー!)。一瞬誤植かと思ったが、著者のプロフィールも…。著者は各国のツアーにも同行しているので、日本公演のカラー写真や、ステージに向かう4人を後ろからとらえた写真など、印象的なものが多い。個人的には、ファンクラブ向けのクリスマス・レコードを収録しているジョンとポール(65年10月19日撮影/本書は64年12月と誤記)と、巻末にあるサイケなカレンダー仕立ての写真がベスト。

カメラ片手にステージに

1966年8月29日。そう聞いただけでビートルズのラスト・コンサート開催日だとすぐに思い浮かぶ人は、それでも重度の手前ぐらいのビートルズ狂だと思うけれど、その歴史的なコンサートを中心に、最後のアメリカ・ツアーをドキュメンタリー仕立ての写真集としてまとめた一冊だ。『ビートルズがアイドルをやめた日』という日本語版もあり、表紙はそっちのほうがいいけれど、中身は、スナップショットを手軽に楽しめるような横長サイズのコンパクトな洋書のほうがいい。というか好み。

Tomorrow Never Knows:The Beatles’ Last Concert

1987年10月01日
Eric Lefcowitz 著/Jim Marshall 撮影
Terra Firma Books
当時のビートルズを取り巻く状況――たとえばジョン・レノンの「キリスト発言」の波紋や、ラジオや新聞の報道、本番前の控室での様子、4人を訪ねたジョーン・バエズ姉妹の様子や二人のインタビュー記事などをはさみながら、「最後のツアー」の様子を克明に伝えている。見どころはやはり、約100ページの後半4割を占める最後のキャンドルスティック・パークでのコンサートの模様だ。「カメラ片手に4人はステージに上がった」。そんな話は80年代前半ぐらいに耳にしていたが、まさかね、と。でも、たしかにジョンとポールの二人は、ステージに上がる直前にカメラを持っているのがわかる。演奏直前に、大勢の観客を撮影するポールは、どんな心境だったのだろうか。前日の8月28日のステージ写真なども収めた『THE BEATLES 1965/1966/1967』(撮影は長谷部宏)や、日本公演をまとめた浅井慎平『THE BEATLES IN TOKYO 1966』も併せてぜひ。

「愛こそはすべて」はこうして生まれた

1曲だけで写真集が1冊できちゃうんだからすごい。しかも124ページ135点以上掲載だ。もちろんこれ、全世界衛星生中継番組『アワ・ワールド』用にイギリス代表としてビートルズが「愛こそはすべて」を演奏することが決まり、それだけの写真素材が集まったから、ということだけれども。でも、なぜそれだけの「素材」が集まったのかというと、放送前日の67年6月24日にカメラマンや記者など100人以上をアビイロード・スタジオに呼んだからである。シングル「愛こそはすべて」発売の30年後に出た本書は、そのときのリハーサルの模様を中心にまとめたものだ。表紙の写真も“All You Need Is Love”の書体も、それを見ただけで“1967年”とすぐに答えたくなる鮮やかなデザインだ。

All You Need Is Love:The Beatles Dress Rehearsal

1997年07月01日
Steve Turner 著/David Magnus 撮影
Tracks
版元は、ビートルズ関連の、ほかではほとんど見たことがないような貴重な写真をたくさん持っているイギリスのTRACKS。だから本書も、管楽器を吹く4人や、そこに寄り添う疲れ切った表情のマネージャー(2ヵ月後に死去)、メッセージボードに言葉を書くポール、アコーディオンやドラムを演奏するジョン、そしてミック・ジャガーやグレアム・ナッシュ、キース・ムーンなどスタジオにやって来たミュージシャンなどの珍しい写真が満載され、「本番」開始までの様子が時間の経過とともに記録されている。しかも写真の構図も配置も本自体ののデザインもすべてがいい。本書の個人的ベストは、ポールとジェーン・アッシャーの2ショット。二人が揃って普通に撮られた写真は、66年以降、ほとんどないので。

上半身裸の太っちょポール

1968年にもなると、4人が一緒に写真撮影に応じる機会は少なくなる。そんな中、『ザ・ビートルズ』(通称:ホワイト・アルバム)のセッションの合間に、68年では唯一、野外での撮影が7月28日に1日がかりで行なわれた。その時の写真はベスト盤『ザ・ビートルズ 1967-1970』(通称:青盤)の見開きの中ジャケットほかあちこちで登場しているが、本書はそのときのフォト・セッションの様子を一冊にまとめたものだ。この本もデザインや写真の配置がいい。と思ったら、これもまた、版元はイギリスのTRACKS。先に紹介した『All You Need Is Love』に比べると全体のボリュームは半分以下だが、本の造りの良さが何より魅力。「持っていたい」と即座に思わせる魔力(?)がある。

the summer of 1968

1996年09月15日
Peter Doggett 著/Don McCullin&David Magnus 撮影
Tracks
なぜか上半身裸のポール(太り気味)――上着を脱いだり靴を脱いだりするのが好きなのだろうか――や、変なマントを纏った4人、オウムを肩に乗せたジョンとポールなど、和気藹々のメンバーを見ると、この約3週間後(8月22日)にリンゴが一時脱退しちゃうようには全く見えないけれど、カメラマンは69年の“ゲット・バック・セッション”でメンバーの“緩和剤”となったビリー・プレストンと同じような存在でもあったのだろう。68年の写真集としてはもう一冊、インドのリシケシ滞在時(2月)の写真をまとめたポール・サルツマンによる『Beatles in Rishikesh』もおススメしたい。サイケ好きはそっち、である。そしてまた本書のベストは、冒頭にいきなり登場する、他のメンバーと一緒に散歩するジョンとヨーコの、他では見たことがない2ショット、である。

海賊盤の元ジャケ

1969年は、8月22日の最後のフォト・セッションが一冊にまとめられれば、と長年思っているけれど、当時のファンクラブの会報を眺めて我慢する日々…。「それでは」というわけではないけれど、もちろん「これは」という写真集がある。70年に発売された最後のオリジナル・アルバム『レット・イット・ビー』の初回版に付けられた『Get Back』だ。ビートルズの後期にこれに勝る内容はないと断言できる。というか、しちゃう。でも、単独での発売ではないし、入手は困難。1年間1日2食に減らせば買えると思うか、それもなんなので、ここでは、その写真集を撮影したイーサン・ラッセルの、テキストも豊富な本書を紹介することにした。

Dear Mr. Fantasy

1985年01月01日
Ethan A. Russell 撮影
Houghton Mifflin Company
表紙を見て、「あ、これ、海賊盤『THE LOST LENNON TAPES VOLUME TWO』のジャケットに逆版で使われたやつだ!」とすぐにわかる人は重度のビートルズ狂。と、これは断言。逆版までわかるのか? ということだが、ブートのジャケに使われるのは、ある意味名誉ではある。それはさておき、本書は上記の『GET BACK』に掲載された写真も含め、アメリカ編集盤『ヘイ・ジュード』のジャケット撮影時の別カットや、ローリング・ストーンズのテレビ・ショー『ロックンロール・サーカス』時の写真などのビートルズ関連以外に、ストーンズを中心に、ザ・フーの『フーズ・ネクスト』の別カットなどが多数掲載。60年代末から70年代初めにかけてのロックの写真集の趣がある。

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