何かを思い出したい時に読む本【ハッカドロップス・マイ】
これまでの人生の中で通りすぎてきた気持ちや感覚。
無限にあるはずのそれの、ほとんどは
思い出さなければ思い出さないほどに
消えていってしまう。
想い出は人それぞれに持っているけれど
記憶に結びつくものや言葉は共有されていたりする。
例えば物語って、誰かが書いて、別の誰かも読んでいるものだから。

本は、個人の記憶にも親密だ。と思う。

つまさきだちの日々

著者
甲斐 みのり
出版日
2011-06-09
女の子と女の人の間を行き来するような感覚の本です。
いつか、いつかって思いながら生きてきたようなところ
自分にもあるなぁって。これは、女の子の感覚かな。
「家の中のあらゆる空間に閉じこもるのが好きで、狭くてもそこが全て自分のものだと思うことが、なんだかいつも楽しかった」なんて……
こんなことを思っていたこと、あるなぁ。
そして、歳を重ねるにつれて「綺麗な日本語をつかえる女性になりたい」
って思ってみたりしたこと、ありませんか?
だいたいみんな、同じようなこと考えているのかもね

とにかくうちに帰ります

著者
津村 記久子
出版日
2015-09-27
嵐の中を歩いて家まで帰る。
幼少の頃の心細い、とにかく家に帰りたい。という気持ちを思いだす。
ただ会社を嵐で早退して家に帰るという
日常でのちょっとだけ特別な状況と、出会いと人間模様。
雨で服が濡れて気持ち悪い感じとか
毎日あたり前に帰っているはずなのに、
家でくつろいでいる自分を想像してすごく貴重に思えたり
そんな感覚が思い出される……。
タイトルにどきっとして手に取ったら、
津村記久子さんの小説だったということが
もうこれで三回めなのです。

銀の糸あみもの店

銀の糸あみもの店

瀬尾七重
講談社
カメラを持って春を撮りに行く、
コンクリートに囲まれた特に人工的な「自然」の中から
昔々そんな建物なんかなかった頃の野原に移動してしまう。
まだ何も起こっていないうちから
現実世界ではありえないようなことが
起こるような気配がする物語。
ファンタジーって、
実際の経験とはかけ離れているはずなのに
懐かしい感じがするのが不思議だ。

壊れゆく人

著者
島村 洋子
出版日
「人は誰しも自分だけの花園を持っている」
と言われたから、私にもあるかしら?と考えてみたりした。
誰にも荒らされたくない自分だけの花園。
みんなどこにでもいる普通の人なのだけれど
(その人にとっては順当な)花園を守る姿は、外から見たら狂気なのだと思う。
小説を書く、一人の女の人の物語なのですが、
「私」に次々出会う人たちが物語を運んできて
まるで短編集みたいに読むことができます。

友達は無駄である

著者
佐野 洋子
出版日
友達の話。一番幼い、初めての友達を求めた記憶から
小さい時そのままの気持ちを良く覚えている人だ。
人生と友達って、なんだかいい距離感で交わったり離れたりしていくもので、
友達は自分の人生そのものにはならない、と思う。
毎日会っているくらいだったのが全然違う環境に離れてから、
久しぶりに会った時のちょっとした気まずさなんか
すごくわかるような気がした。
それを、人生が始まってしまったなんて書かれるあたり
とても感動して納得してしまった。
今月も佐野洋子さんのただのファンである。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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