言葉回しに注目!独特の文章が心地よい小説3選

更新:2021.12.13

作家によって違った色が出るのはストーリーだけではなく言葉回しもそう。その作家を好きになるきっかけにもなります。簡潔で読みやすいものや、ずっしりと重厚なものまでいろいろありますが、今回は軽快にリズムのある文章が魅力的な本を紹介します。

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「ひよこ豆のように小さき私は、とにかく前を向いて、美しく調和のある人生を目指して、歩いてゆくのであります」

著者
森見 登美彦
出版日
2008-12-25

魅力的な文章といって真っ先に思い出すのが森見先生。2010年には『四畳半神話体系』がアニメ化され、ファンの層も広がった。

『夜は短し歩けよ乙女』は、ある黒髪の乙女に思いを馳せる「先輩」の恋路と、自由奔放に生きる「黒髪の乙女」の日常を交互に描いた作品。『四畳半神話体系』や『太陽の塔』に比べるともう少しポップで華やか。「先輩」と「黒髪の乙女」のコミカルなすれ違いがどこかもどかしく愛おしい。

ファンタジーなのかそうでないのかものすごく微妙なところを行く浮遊感のある世界観にハマり、気づいたら読み終わっている。二人を取り巻くみょうちきりんで個性的なキャラクターたちも面白い。

「やあねえ、それじゃお守りじゃなくて呪いよ。わたしの言葉を呪いにしないで」

著者
松田 青子
出版日
2014-02-10

英語が話せれば、きっとうまくいく。いい人生になる。いい仕事について、安定した生活が送れるはずだった。

人々はみんなそれぞれの「森」を持って生活していて、英子は母と二人で「森」に住んでいる。母の「森」に守られる生活。でも本当にそれが正解なのか。英語を使う仕事は思っていたよりずっと地味で退屈。それでも母と「森」は気分がよさそうだった。

『スタッキング可能』で話題を呼んだ新鋭、松田青子によるグローバル化社会に疑問を抱えて生きる女性を描いた作品。自分の人生と、家族や生活との調和が「森」によって表現されている。主人公「英子」だけではなく母である「高崎夫人」の苦悩もリアルに描かれている。

登場人物のセリフの日常感と、世界設定の非日常感が混ざる不思議な世界観。でも誰もがなんとなく共感できる部分があるはず。

「いつも人がみっしり乗っているけど、乗客たちの全員が電車に乗るべき理由をそれぞれ持ってるってことが、とんでもないことみたいに思えるんだよね」

著者
品田 遊
出版日
2015-07-08

毎朝駅までの道のりでタイムアタックをする25歳営業職・質問サイトにそれっぽいデマを描くのが趣味の23歳大学院生・何とか食欲を出そうと様々な食べ物を想像して試行錯誤する40歳職業不詳・その他

電車の中では様々な人が様々なものを抱えて様々な状況に瀕して様々なことを考えている。その物語の合間合間で自然科学部の都築は、先輩の新渡戸に連れられてどこへ向かうかもわからず電車に揺られる。

作者がcakesで連載していた作品「中央線に乗って」が書籍化した作品。色々な、一見何でもないちょっと妙な人々にスポットを当てたリレーのような連作になっている。

こういう人ってほんとにいるんだろうなあ…っていう話もあれば、時々「あーあるある」って思うような部分もあったりする。主人公はどんどん変わるのに、全部その本人が書いたような七変化の文章。error403氏による装丁・挿絵もぴったり。

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