寮美千子のおすすめ絵本5選!神話から宇宙まで、幅広く描く作家

更新:2021.12.3

童話・絵本・詩・純文学・ノンフィクションなどマルチに執筆を行う寮美千子(りょう みちこ)は、年配者から子供まで幅広い世代に支持されている日本を代表する作家の1人です。今回はさまざまな分野のおすすめ絵本を5冊ご紹介します。

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童話からノンフィクションまで執筆する作家、寮美千子

1955年生まれの寮美千子(りょう みちこ)は、外務省、コピーライターなどの職歴を経て、1986年に発表した童話「ねっけつビスケット チビスケくん」で毎日童話新人賞を受賞し童話作家としての道を歩み始めます。

以降、幼年童話からジュブナイル小説、詩、純文学、ノンフィクションなど様々な分野に渡って本を執筆。中でも宇宙天文や先住民文化に詳しく、プラネタリウム番組に作品を提供しています。また古典絵巻や古事記などの古典文学に関する作品が多いことも特徴です。

一方、クイズ番組に出演したり、死刑廃止の立場から討論番組に出演して激論を交わしたり、作家としてだけでなく自らが表舞台に出て情報を発信することも寮美千子の欠かせない一面と言えるでしょう。

神仏の迫力あるシーンに、寮美千子が文をつけた作品『祈りのちから』

約500年前から東大寺に伝わる大仏縁起絵巻に寮美千子が分かりやすい文を付けた絵本です。

遠い遠い昔の奈良の京。聖武天皇は大仏さまを作り、祝いの宴も盛大に開きました。しかし天皇は大仏さまをさらに黄金に塗って光り輝かせたいと考えます。

大仏さまに塗る黄金を探しに金峯山へ出かける良弁。そこに出てきたのは顔も体も真っ青な仏さまでした。黄金を求めるなら近江の里の湖のほとりに行くよう言われた良弁は……。

著者
寮 美千子
出版日

東大寺大仏縁起絵巻のストーリーを分かりやすい文章で仕立てあげた、伝説と史実が入り混じった物語です。同じく東大寺大仏縁起絵巻を描いた『生まれかわり ー東大寺大仏縁起絵巻より』の続編にあたり、大仏さまが鋳あがったのちの仕上げの様子、開眼供養会の様子が描かれています。

物語は大仏さまに塗る金を探しに行くところから始まります。吉野の山、琵琶湖、金華山など色々な場所に出向くのは、命を受けた良弁というお坊さん。そこでたくさんの神々と出会いますが、その源となっているのは祈り。祈ることによって必要なものが手に入るのです。

現代でも、「祈りなさい(願いなさい)」と言われる場面があるでしょう。その真髄をこの本で学ぶことができるのです。ぜひ、東大寺に出向く前にはもちろん、八方ふさがりな時など物事を打開したいときに、祈ることの大切さを再認識するため手に取っていただきたい1冊です。

先住民族からの手紙『父は空 母は大地―インディアンからの伝言』

1850年代アメリカは先住民族であったインディアンたちの土地を買収し、居留地を与えると申し出ます。その条約の署名を行ったインディアンの首長シアトルが当時のアメリカ大統領フランクリン・ピアスに宛てた手紙を翻訳した本です。

自然と共存してきたインディアンたちの願いが切に読み取れます。

著者
寮美千子
出版日
2016-02-27

物語(シアトル首長の手紙)は土地・自然を"買いたい"と申し出てきたアメリカ大統領への疑問から始まります。どうしたら空、大地、風の匂い、水のきらめきが買えるというのだろう、と……。

「大地は わたしたちに属しているのではない。わたしたちが大地に属しているのだ。」(『父は空 母は大地―インディアンからの伝言』より引用)

現代の私たちにとって土地は買ったり借りたりするものであり、所有物であるという概念が一般化されてきているでしょう。空や海にでさえ、国ごとにある程度の権利が発生していますね。温暖化が進み、"地球の限りある自然を大切に"と言われて久しいですが、なかなか心から理解できていないのが現実ではないでしょうか。

土地を買いたいという当時のアメリカ大統領の申し出に対し、インディアンたちは自分たちの権利を主張している訳ではありません。逆にそれらはインディアンたちの所有物ではないと主張し、川や大地やたくさんの自然を大切にしてほしいと願っているのです。

土地を争って起こる戦争などよりも、もっと根本的な考え方を学ぶことが出来るでしょう。

寮美千子が宇宙のかなたを思い描く『遠くをみたい―星の贈りもの』

宇宙とはどのようなものであるのか、身近な自然、そして空から考えていく情緒的な文章で綴られた詩のような物語。

「ほんとうは みんな 星から生まれた 兄弟なのに 翼をもった心が 超えられないはずがないのに 国境を 民族を 肌の色を 憎しみを」(『遠くをみたい―星の贈りもの』より引用)

遠い宇宙を見ることによって自分たちを見つめ直すきっかけとなる1冊です。

著者
寮 美千子
出版日

物語は身近にあるバラと宇宙の対比から始まります。宇宙へ思いを馳せることにより気づくのは、地球上の人間とは比べられないほどの宇宙の年月、深み。そして未だに明かされていない多くの謎。

そんな広大な宇宙の片隅に地球は存在していて、その中で過ごしている我々人間は時にいがみ合ったり、憎しみ合ったりするのです。宇宙単位で物事を考えていけば、自分たちの存在は何とちっぽけなものであるかということに気がつくでしょう。

ギリシャ神話に出てくるような美しい挿絵と壮大な目線の物語がぴったりとマッチした大人のための絵本。ぜひ手に取って、宇宙の広大さ、美しさに想いを寄せてみてくださいね。

人間の欲と信仰心を描く『空とぶ鉢』

850年以上前に作られた国宝「信貴山縁起絵巻」より「飛倉の巻」に文章を付けた絵本です。

むかしむかし、命蓮さんというお坊さんが居ました。信貴山のえらいお坊さんである命蓮さんは"托鉢"のための鉢を飛ばす不思議な術を持っています。

村に住むとある男はとても信心深く、命蓮さんの鉢に熱心にお布施をしていました。その甲斐あって男は大金持ちに。しかし、暮らし向きが良くなるにつれお布施への興味が失せてきて……。

著者
寮 美千子
出版日

自分が困っている時には神様仏様を頼り、自分の悩みが解決するとそんなことなどすっかり忘れてしまう……耳の痛い方もいらっしゃるかもしれません。この本に出てくる村の男も貧しいときには熱心にお布施をしているのに、羽振りが良くなると「うっとおしい鉢だ」と言って倉にしまって鍵をかけてしまいます。結果、倉は鉢と一緒に命蓮さんの元へと飛んで行ってしまうのですが……。

このことにより改心した男はまた熱心にお布施をし、貧しいものに施しをするようになりました。自分の置かれている環境が変わったとしても持ち続けなければいけない心、そして地位を得たからこそ実行できることがあるのです。

ぜひ自分は成長した、立派になったと感じている方は教訓として読んでみてくださいね。

日食がわかりやすく学べる、寮美千子の絵本『黒い太陽のおはなし』

この本は、日食に関する説明部分と日食にまつわる神話の2つから構成されています。

日食に関する説明は、絵や図を織り交ぜ、日食を観察しようとしている人々の目線から口語調で分かりやすいストーリー仕立てとなっています。

また、神話は日本の「天の岩戸に隠れた太陽の神さま」、アイヌの「太陽を魔物から救ったカムイ」、インドの「アムリタを飲みそこねた悪魔」の3つの物語です。

著者
寮 美千子
出版日
2009-07-08

ニュースなどでも話題になりますから、日食の神秘的な光景を実際にご覧になったことのある方は多いのではないでしょうか。しかし、誰かに説明するほど理解して観察する方は少ないかもしれませんね。そのような方に特におすすめしたい本です。

日食の説明は、図鑑のような絵を織り交ぜた親しみやすい文章で構成されていますので、日食の日の物語を読んでいるうちに知識がついてくるでしょう。

一方、3つの神話から学べるのは日食の"心"。今のように科学技術の発展していない時代には、太陽が隠れて暗くなってしまう日食がどれほど不思議で恐ろしくて神秘的だったことでしょう。

宇宙天文も古典文学も得意とする寮美千子ならではの構成で、彼女の持ち味が存分に味わえる1冊です。

宇宙天文、先住民文化、古典絵巻、その他様々な分野に精通している寮美千子の人となりとおすすめ本をご紹介しました。専門的で馴染みのない分野もあるかと思いますが、マルチな執筆をしている寮美千子が描く世界は興味のない人でも入り込みやすい文章が綴られています。大人として知識を広げるのにぴったりな本ばかりですので、ぜひ興味のないものこそ手に取ってみてください。新しい世界が広がるかもしれませんよ。

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