ジュブナイルSF作品おすすめ5選!SF小説の入り口はここから!

更新:2021.12.22

SF小説に興味があるけれど、どれから読んでいいのかわからない、という方にはジュブナイルSFがおすすめです。わかりやすい設定と起伏に富んだストーリーで、科学的知識がなくても楽しめる作品ばかり。一読後、SFの世界がグッと身近に感じられるはずです。

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時をこえて愛される、ジュブナイルSF小説『時をかける少女』

中学3年生の芳山和子は、ある日の放課後、理科実験室で試験管から漂うラベンダーの香りをかいで突然意識を失ってしまいます。やがて目を覚ました彼女は、その出来事以来、時間を遡ったり、瞬間移動ができるようになるという不思議な体験を繰り返すことになり……。

1965年の発表以来、時代をこえて読み継がれ、何度も映像化されてきた、日本を代表するジュブナイルSFです。

著者
筒井 康隆
出版日
2006-05-25

いわゆる時間跳躍もののSFですが、主人公が世紀をまたいで未来と過去を行き来するような派手な展開はありません。

主人公の和子は、突然我が身に備わった不思議な能力にとまどい、クラスメイトの深町一夫、浅倉吾朗らと、謎の解明に向けて奔走します。

そして明らかにされる驚きの真相とともに、いつしかストーリーは淡い恋の物語へ……。

冒頭、ラベンダーの香りをかいだ和子は思います。

「このにおいをわたしは知っている。甘く、なつかしいかおり……。いつか、どこかで、わたしはこのにおいを……。」(『時をかける少女』より引用)

この小説がこれほど愛され続けている理由は、作品自体が、思春期の「甘くなつかしい」感情を思い出す、まるでラベンダーの香りのような魅力を湛えているからなのかもしれません。

少年2人の友情と成長を描いたディストピアSF『NO.6』

未来都市No.6に住む主人公・紫苑は、2歳のときに最高ランクの知能と認定され、将来を約束されたエリートとして何不自由なく暮らしていました。しかし12歳の誕生日を迎えた台風の夜、全身に傷を負った少年ネズミとの偶然の出会いにより、彼の運命は一転してしまいます。

著者
あさの あつこ
出版日
2006-10-14

「No.6に、絶望は存在しない。市民は、誰でも安全で快適な生活をおくっている。飢えることも嘆くことも闘いもない。死にいたる前の苦痛さえないのだ。」(『No.6 #1』より引用)

このように自らを理想都市と呼ぶNo.6ですが、実情は、住民たちをIDカードや遠隔システムで徹底的に「管理」し、権力に反感を持つ者、刃向かう者は外部に暴力的に「排除」することで成り立っていました。

そしてエリートとして恩恵を受けながらも、心のどこかで違和感を感じていた紫苑は、スラム地区・西ブロックで育ち、No.6のことを「穴だらけのニセモノの街」と嘲る少年ネズミに惹かれていきます。

もちろん、そんな2人をNo.6の手先たちが放っておくはずはありません。

感情的ですぐに我を忘れてしまう紫苑と、いつでも冷静沈着でクールなネズミ。育ちも性格も対称的な少年2人は、運命の出会いから再会、共闘を経て、どのように影響をあたえ合い、変化していくでしょうか。

次第に明らかになるNo.6の正体とともに、彼らの成長にも注目してください。

超ダイナミックな想像世界が堪能できる海底冒険SF『海底二万里』

1868年、航海中の船が謎の怪物によって巨大な穴を穿たれる事件が頻発し、アメリカとヨーロッパ中を騒がせました。その怪物の正体をつきとめるため、パリ博物館のアロナックス教授はアメリカの軍艦エーブラハム・リンカーン号に乗りこみ調査に向かいます。しかし彼を待ち受けていたのは、まったく予想外の出来事でした。

乗っていた軍艦が得体の知れぬ巨大なものに襲われ、アロナックス教授は海へと投げ出されてしまいます。その時彼は、ネモ船長という男性に助けられました。実は、世間で騒がれていたものの正体は怪物ではなく、ネモ船長が指揮をする巨大潜水艦ノーティラス号だったのです。それは、陸の文明とは縁を切っているにもかかわらず、当時の先端科学の粋を集めて作られた潜水艦でした。

著者
ジュール・ベルヌ
出版日
2005-08-20

SF小説の祖、ジュール・ヴェルヌの代表作というだけあって、何もかもが読者の想像を越えるスケールの大きな作品です。

作中では、未知の深海生物、船員を埋葬するサンゴの十字架が立てられた共同墓地、伝説の古代文明アトランティス大陸の遺跡など、神秘的な海底世界が描かれています。

それらが作者の精緻な筆致で描かれていて、まるで自分も登場人物の一人になって海を探検しているような驚きとスリルが味わえます。

しかし何といっても一番ダイナミックで神秘的な存在は、ラテン語で「だれでもない」を意味し、様々な謎を残したまま読者の前から去っていくネモ船長かもしれません。

少女の勇気と決意に胸が震えるジュブナイルSF小説『たったひとつの冴えたやりかた』

恋よりも銀河探検を夢見る女の子、コーティー・キャス。彼女は16歳の誕生日に両親から小型の宇宙船をプレゼントされます。その宇宙船を内緒で改造し、両親に知られないように、さっそく憧れの宇宙へと飛び出しました。

彼女が目指したのは、2人の探検家が消息を絶った惑星。ひとりっきりの宇宙の旅……のはずが、出発してしばらく経ったある時、頭の中で自分ではない、もう1人の声が聞こえてくるのでした。

その正体は、胞子で繁殖するイーアという未知の生命体。コーティーの脳に寄生をしてしまったのです。彼らは意気投合し、連邦基地のある惑星へ向かって行きます。

やがてイーアの繁殖期を迎えることになりますが、コーティーの脳に寄生したのは成熟しきっていないイーア。コーティーは、このまま基地に向かうと、脳を荒らしてしまうイーアを繁殖することになってしまうと知ってしまい……。

著者
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
出版日

「黄色い髪、だんご鼻にソバカス、人の顔を穴のあくほど見つめる緑のひとみ、金持ちのはねっかえり娘」「発育はおくてで、胸の小さなふくらみは、少年と言っても通るぐらい」(『たったひとつの冴えたやり方』より引用)

おまけに親に内緒で旅立ってしまう、絵に描いたようなおてんば娘。彼女の勇気と行動力、そして他人想いの優しい性格に、誰もがコーティーのファンになってしまうはずです。

それだけに、やがて彼女が背負ってしまう残酷な運命と、ラストでみせる凛とした決意に、涙が止まらなくなる方も多いでしょう。

現実の脅威に立ち向かう社会派ジュブナイルSF『ねらわれた学園』

阿倍野第6中学校の新しい生徒会長に突如立候補した高見沢みちる。見事当選した彼女は、校内にパトロール員を巡回させ、不思議な能力を使って人を操りながら、まるで学校を全体主義国家のように支配しはじめます。みちるの理不尽なやり方に我慢がならなくなった主人公の関耕児は、幼馴染の楠本和美らクラスメイトとともに反撃の狼煙をあげます。

著者
眉村 卓
出版日
2012-09-14

学校や会社の制度、そして社会や政治について、一度は疑問を抱いたことのある方におすすめの作品です。

高見沢みちるのように、一見民主的な手続きを装いながら、理不尽なやり方で特定の意見や考え方を押しつけてくる場面は、今の世の中でも往々にして見られるのではないでしょうか。

実際、中学校を舞台としながらも、この小説のテーマは社会全体にまで及んでいることが登場人物たちによって示唆されます。

耕児の父親は以下のように言っています。

「理不尽な力で、一見理屈に合っているようなことを押しつけてくるものならなんでもいいのだ。それは、いつの時代、どんな場合にでも、長い準備期間をかけてひそかに用意され、一挙にあらわれて、われわれを制圧する。そして、それが組織化されているものであるがゆえに、あと、長く、猛威をふるうのだ。(中略)それに対する抵抗の多くが、短期的で、息が続かないのも、歴史的な事実だ」

こうした悲観的な認識を述べる一方、それでも一縷の望みを語ります。

「そのとき、また別の者がバトンを受け継いで抵抗しなくてはならない」(上記とも『ねらわれた学園』より引用)

この小説を読み継いでいくことも、バトンを受け継ぐ行動のひとつかもしれません。

学園もの、近未来もの、さらには海洋ものと、一言でジュブナイルSFと言ってもジャンルやテーマは様々。「なんとなく自分にあいそうだな、読んでみようかな」と思ってもらえる作品がひとつでも見つかったら、ぜひ読んでみてくださいね。

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