森敦のおすすめ作品4選!「月山」で芥川賞受賞の作家

更新:2021.11.7

62歳という高齢で芥川賞を受賞した森敦。彼の作品には、自身の人生がおおいに詰め込まれています。芥川賞受賞作の「月山」を含め、一文一文から魂を感じとれる作品4つをご紹介します。

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森敦とは

森敦は長崎で生まれた日本の小説家ですが、幼少期は朝鮮の京城(現在のソウル)で過ごしていました。高校生の頃、菊池寛に見出され、その後横光利一に師事。22歳のときに東京日日新聞・大阪毎日新聞にデビュー作である『酩酊舟』が掲載されます。

1941年に結婚し、その後は妻の故郷である山形県の地方を転々として暮らします。数ヶ月間山にこもるなど、執筆活動からは遠ざかりました。

長いブランクを経て62歳のときに「月山」で芥川賞を受賞するのですが、これは後に黒田夏子が75歳で受賞するまで、39年に渡って最高齢受賞記録を誇っていました。芥川賞の他にも『我逝くもののごとく』では野間文芸賞を受賞しています。

芥川賞を受賞した森敦の代表作

出羽の霊山、月山のふところにある寺に、ある男が辿りつきます。その寺がある村で男はしばらく暮らすことになるのですが、村の住人と衣食住を共にするうちに、そこには異様としかいえない風習があることを発見するのです。

その風習とは、ミイラを作成するということ。男がその村と村民に対してどのように向き合っていくのかが物語の核となっています。

芥川賞受賞作「月山」を合わせて7編が収められた短編集です。

著者
森 敦
出版日

物語に登場する人物たちは、主人公も村人たちもみな名前がありません。まるで顔が見えないのっぺらぼうのような印象がある一方で、彼らの行動には人間の欲望が表面化して出てきています。それがかえって、ひとりひとりの個性を浮き彫りにしているのです。

寺が舞台となっていることもあり、仏教的な要素も含まれています。登場人物の行動も、この世とあの世の境目をわからなくするポイントがあり、作品全体から静謐な空気が流れています。

本作を読む上でおすすめしたいことは、山形県の実際の地図と見比べながら物語を読むということです。数多くの地名が出てくるのですが、地図で位置関係を確かめながら読むと、また違う形で物語がみえてきます。

生きることとはなんなのかを問う

太平洋戦争によって崩れていくサキ一家の変転の年月と、生と死が混在している世界が描かれています。

舞台はかつて森敦が暮らしていた山形県の庄内平野。作中でも山形弁が使われ、森が生涯をかけて深めた独自の仏教・東洋思想から、日本の風土と宗教を淀みなく描き尽した長篇大河小説です。

著者
森 敦
出版日
1991-01-07

作中で、「逝」という漢字を「逝(す)ぎた」と読ませる箇所があります。これは現在と過去や、生きることと死ぬことが交差する世界を表していて、このようなひとつひとつの洗練された言葉に、本作の魅力が詰まっているといっていいでしょう。

庄内平野は森の妻の実家がある場所です。森敦の魅力は、彼の人生が作品に投入されているところ。本作にも生きざまが詰まっています。

読者を驚愕させる森敦の論述

本作では数字を使った比喩が多用されますが、語られているテーマのひとつは「生と死」。生きている時間と死後の時間が、ひとつの円の内部と外部として対応させられています。

森敦の経験からくる宗教的、哲学的、数学的な論述が展開されています。

著者
森 敦
出版日
2012-01-11

光学機械工場やダムの工事現場、印刷所など異色の職歴をいかし、文学に数学を持ち込みました。

「意味の変容」「マンダラ紀行」は共に、数学的な思考に基づき展開されていく作品です。しかし森の選ぶ言葉によって、内容は複雑化せず、かえって読者にすっきりとした印象を与え、彼の文章力が光ります。

世間の利得を超越し、人生を探求している本作は、「私小説」としても読むことができます。森敦の人生に迫れる作品です。

美しさを備えた森敦晩年の作品

表題作である「浄土」は、京城(現在のソウル)に住んでいた主人公が、幼いころに出会った同級生の少女、大谷寿子と過ごした記憶と、時を経てその少女と思われる女性と再会するまでの経緯を描いた作品です。

「浄土」を含め5つの作品からなる短編集となっています。

著者
森 敦
出版日
1996-03-08

森敦本人と思われる人物が主人公になっています。少女のことは、名前が大谷であるということと、寺の子であるということ以外わかりません。

時が経ち晩年、車いすになったかつての少女大谷が、「今度生まれたら、敦さんと一緒になる」と言う場面があります。そして大谷は亡くなり、主人公は生き続けるのですが、仏教的な観点から見た生と死が、物語をやさしく包んでいます。

巻末には森についての詳しい解説も掲載されていて、資料的な価値も十分にあるでしょう。森敦という人に対しての知識も深めつつ、彼が体現した物語の世界へ行ってみてはいかがでしょうか。

森敦の4作品をご紹介しました。62歳で芥川賞を受賞したという事実が、彼が作品に己の人生が詰めていったことを証明しているのではないでしょうか。

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