藤井太洋のおすすめSF小説4冊を、ランキング形式でご紹介!

更新:2021.11.7

時事を織り込んだ設定、緻密な技術描写をふんだんに盛り込みながら、それを意識させない読みやすさとテンポのよい展開で高い人気を誇るSF作家、藤井太洋。その作品は日本だけではなく、海外でも多くの人に親しまれています。

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電子書籍で鮮烈デビューを果たした藤井太洋

藤井太洋は、デビューまでに独特の経緯をもつ作家です。

プロの小説家になる手段といえば、一般的には文学新人賞の受賞が思い浮かぶと思います。しかし藤井太洋は2012年、自作の小説を電子書籍として販売するセルフ・パブリッシングという方法で作家としてのキャリアをスタートしました。

Amazon Kindleで販売された処女作『Gene Mapper』は、当時としては異例の7000部を売り上げます。大手出版社の作品を抑えて年間売上ランキングの小説部門第1位を獲得し、世間に衝撃を与えました。インターネットが普及し、作品発表の場が増えた現代ならではの作家と言えるかもしれません。

元エンジニアとしての知識、経験を盛り込んだ作品は、現実的で濃厚なSFの世界観を演出しています。今回は、そんな藤井太洋作品の中でも、特におすすめできるものをご紹介します。

4位:警察と天才ハッカー。近未来のIT犯罪を描く

藤井太洋の長編四作目、『ビッグデータ・コネクト』は、官民複合施設のシステム開発者が誘拐される事件と、その2年前に起きたPC遠隔操作ウイルス事件を軸に展開する警察小説です。

著者
藤井 太洋
出版日
2015-04-10

マイナンバー制度やPC遠隔操作事件、迷惑メールによる個人情報の抜き取りといった、現実のニュースでもよく目にする言葉をちりばめながら、あらゆる情報が個人に紐づけされた社会で起きるサイバー犯罪の危険性がスリリングに描かれます。

本作のポイントは、非常に細かく、また説得力をもって描かれるサイバー犯罪の手口の数々。「もしかしたら本当にこんな事件が起きるかも?」と思ってしまうほどの臨場感に、思わず引き込まることでしょう。

また、もうひとつのポイントとして、下請けITエンジニアの過酷な労働環境の描写があげられます。相次ぐ仕様変更、食い違う上層部と現場の認識、想定外の作業……。一般人にはなかなか伝わりづらいIT開発現場の苦労を、本作はリアリティたっぷりに描いています。業界関連者ならば、激しく頷きたくなるようなシーンもきっと多いかもしれません。

3位:閉塞感溢れる未来……それでも若者は前を向く

貨幣や紙幣などの実態を持たず、データ上でのみやり取りされる仮想通貨。現実ではビットコインなどが有名ですが、もしその仮想通貨が、実態の通貨と同じくらいの流通量を持つようになったら……? 

そんなIFを描くのが、藤井太洋の長編第三作、『アンダーグラウンド・マーケット』です。

著者
藤井太洋
出版日
2016-07-07

舞台は2018年の日本。東京オリンピックをきっかけに激増した移民たちが「N円」と呼ばれる仮想通貨による巨大経済ネットワークを作り上げる一方、国内では多額の増税が行われています。主人子の巧は企業に就職せずに働く「フリービー」と呼ばれる身分。三畳のアパートに住み、電車の代わりに自転車で移動しています。

設定だけを見ればまるでディストピア小説ですが、本作の読み味はとても軽快です。巧をはじめ、力持ちのおっとりした鎌田、男勝りの女性ハッカーの恵の三人は、「N円」を通じた厳しくも自由なコミュニティを謳歌しながら、立ちはだかる困難や陰謀へと、あくまで前向きに立ち向かっていきます。

非正規雇用や格差社会といった、現実でも大きく取り上げられる問題に向けた前向きなメッセージに、きっと勇気をもらえるはずです。

2位:藤井太洋の原点!遺伝子デザインが産む未来

『Gene Mapper -full build-』は、電子書籍として発売された第一作『Gene Mapper』に大幅加筆し、文庫本として発売したもので、いわば藤井太洋の原点とも呼べる作品です。

専門用語の多用、テンポのよい展開と文体、プロフェッショナルな仕事人としてのキャラクターたちといったスタイルはこの時点ですでに確立されています。

著者
藤井 太洋
出版日
2013-04-30

物語の年代は2037年。まるでプログラムを書くかのように一から遺伝子を設計された「蒸留作物」が普及しており、その遺伝子デザイナーとして働く主人公は、クライアントの依頼に応えて「光る米」を作成していました。その稲にとある異常が見つかった……というところから、物語がスタートします。

後の藤井作品が徐々に時事的なテーマに移行し、より現代に近い社会を描くようになる中で、本作はもっとも遠い未来が舞台。検索機構の暴走によりインターネットが使用できなくなっており、その代わりにAR(拡張現実)をベースにした「トゥルーネット」と呼ばれるネットワークが発達しているなど、脇を固める設定も魅力的です。その世界観に思わず納得し引き込まれてしまうのは、藤井太洋の高い描写力のなせるわざでしょう。

物語の終盤、主人公は遺伝子デザイン技術にまつわる大きな選択肢をつきつけられます。彼の決断、そして彼の信じる「未来」とは……? 暴走するかもしれない技術をどう扱うべきか。技術開発についてまわる問いへのひとつの答えが、本書では示されています。

1位:スペーステロを阻止せよ!藤井太洋による圧巻のハードSF

日本SF大賞、星雲賞、日本長篇部門ベストSF2014国内篇第1位を獲得した、まさに藤井太洋の代表作です。

人工衛星が飛び交う宇宙空間を舞台に、テロリストとの国境を越えた戦いが描かれます。

著者
藤井太洋
出版日
2016-05-10

なんといっても圧巻なのは、全編にわたって圧倒的な密度で並べられる技術用語の数々でしょう。怒涛のごとく現れる宇宙開発に関する様々な技術は、幼いころ宇宙に興味を持った人であればワクワクすること間違いなし。平易な言葉で読みやすく説明されているので、あまり専門的な知識がなくても楽しむことができます。

もちろん、ただ設定だけが並べられているわけではなく、エンターテイメント作品としても超一流です。不審な動きを見せるスペースデブリを皮切りに、様々な人物たちの視点や立場が提示され、やがてそれらはひとつにまとまって、テロと戦う大きなうねりとなっていきます。多数の人物がそれぞれに力を発揮し解決に動きはじめてからは、ページを繰る手が止まらなくなることでしょう。

有能で優秀な人物が、無駄な駆け引きもなく主人公に快く協力し、次から次へと降りかかる難題をスピーディに解決していくテンポの良さに爽快感を覚えることでしょう。

緻密な設定描写、ハイスピードでサクサクと読ませる文体、現場のプロたちの矜持、未来を信じる前向きなメッセージ……様々な側面を持つ藤井太洋の小説は、どれもエンターテイメントとして超一流です。読み応えのある作品を求める人は、ぜひ手にとってみてください。

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