中脇初枝のおすすめ著書5選!絵本から小説まで手掛ける児童文学者

更新:2021.11.7

赤ちゃん絵本から小説、児童文学まで手掛ける中脇初枝。近年話題の本屋大賞をはじめ、様々な賞を多数受賞している中脇の描く物語は人の在り方を丁寧に描いた心にジワジワと染みわたるものばかりです。今回は特に人気の高い代表的な5冊をご紹介しましょう。

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文学賞に多く選ばれている中脇初枝

中脇初枝は1974年生まれの小説家兼児童文学作家です。徳島県に産まれ高知県に育った彼女は、高校時代に新聞紙上でたまたま目にした募集記事に応募し、坊っちゃん文学賞大賞を受賞、17歳の若さで小説家デビューします。

その後も産経児童出版文化賞、坪田譲治文学賞、産経児童出版文化賞など様々な賞を受賞。また、『きみはいい子』、『世界の果てのこどもたち』の2作が本屋大賞にノミネートされています。

一方、小学生時代に読んだ柳田國男の『遠野物語』に強い影響を受けて、大学では日本民俗学を専攻しました。創作活動の傍ら、民話や昔話の研究、語りも行っています。

中脇初枝が描くヨチヨチ期の日常『こりゃ まてまて』

中脇初枝の温かいストーリーに、繊細で柔らかいタッチの酒井駒子の絵がマッチした乳幼児向け絵本。手先が十分に発達していない乳児でも捲りやすい、厚い紙で作られたハードカバー仕様です。

ヨチヨチ歩きの赤ちゃんが「こりゃまてまて」と蝶を追いかけますが、ひらひらと飛んでいってしまいます。次に見つけたとかげも、素早く這って見えなくなってしまいました。追いかけても追いかけても様々な動物たちに逃げられる赤ちゃん。さぁ、最後に「こりゃまてまて」したのは……?

著者
["中脇 初枝", "酒井 駒子"]
出版日

幼い子どもが動物を追いかけて逃げられてしまう、そんな日常のよくある何気ない風景を切り取った作品です。文字数はかなり少ないものの、ストーリーがしっかりと描かれています。

ずっと「こりゃまてまて」と追いかける側であった赤ちゃんでしたが、最後には追いかけられる側となり、なんと捕まってしまうのです。捕まえていたのはお父さん。肩車をして「さぁいこう」というお父さんの姿に、読んでいる子どもたちも自分と重ねてワクワクすることでしょう。

大人が読んでも温かい気持ちの味わえる、中脇初枝らしい素敵な絵本です。

特別な一家に育つ中学生の揺れる心を描いた『祈祷師の娘』

2005年の産経児童出版文化賞推薦を受賞した作品です。

春永は祈祷師の一家で暮らす中学生。両親とも姉とも血のつながらない春永は、祈祷師として特別な力を与えられることがない、と所在のない思いを抱えて毎日を過ごします。

姉に祈祷師としての力が備わったことをきっかけに、実の娘でない自分に更なる居心地の悪さを感じた春永は、父のところに届いている手紙を頼りに、家族に内緒で自分の本当の母親に会いに行きますが……。

著者
中脇 初枝
出版日
2012-07-05

祈祷師というものは知っていてもあまり馴染みのない方も多いのではないでしょうか。祈祷師一家の日常から始まる導入部は、祈祷師が身近でない読者にとっては少し異質な家庭に思えるでしょう。そして春永に関しては少し不思議な少女と感じるかもしれません。

しかし読み進めていくうちに、春永の心情にどんどん引き込まれていくこととなります。ちょっとズルい友人、祈祷師に興味を持って近づいてくるクラスメイト。祈祷師という特別な一家に育つ春永の周りには、何とも人間くさい中学生らしい人間が集まっています。祈祷師、という時別な立場の人物の目を通して、人間の本質を深く考えることとなるでしょう。

家族、血のつながり、人間の本質について、爽やかに描かれています。反抗期真っ只中の若い世代にぜひ手に取っていただきたい一冊です。

同じ町で起こる様々な児童虐待を描く5つの短編集『きみはいい子』

2013年に坪田譲治文学賞を受賞、2015年には映画化もされた短編集です。

学級崩壊を起こす若い担任と親から虐待にあっている児童を描く「サンタの来ない家」、乳幼児を持つママ友たちを描く「べっぴんさん」、息子の友人が虐待を受けていることに気づく「うそつき」など全5編が収録されています。

どの短編も同じく「桜ケ丘小学校」のある町が舞台です。社会的問題ともなっている様々な児童虐待について描かれています。

著者
中脇 初枝
出版日
2014-04-04

学級崩壊の影に隠れ、虐待されていることを見過ごされてきた子どもや、過去に虐待を受けた人間を親に持ち、虐待を受け続ける幼児など、この本に登場する人々や場所はとても身近で、他人事とは思えないリアリティがあります。時には目をそむけたくなるような場面もあるでしょう。

この5つの短編集を読むことで、子どもにとってはどんな理不尽な言葉でも親の言葉は絶対であること、児童虐待の解決には第3者が不可欠であることに気づかされます。周りの人々の声、支援の重要性がはっきりするでしょう。

それぞれの短編には結末がありません。あなたなら、どのような結末を描くでしょうか?ぜひ子どもとの関わりを持つすべての大人に読んでいただきたい一冊です。

中脇初枝が紡ぐ戦争『世界の果てのこどもたち』

2016年本屋大賞3位となった、戦争を描いた作品です。

戦争中、家族と一緒に高知から満州にやってきた珠子は、朝鮮人の美子と、恵まれた家庭で育った茉莉と出会い、深い友情で結ばれます。

しかし戦争が激しくなり、置かれた状況が変わってきたことで全くバラバラの道を歩むこととなった三人。彼女たちの通ってきた辛い道のり、そして中国残留孤児として再び日本にやって来た珠子の運命とは……。

著者
中脇 初枝
出版日
2015-06-18

戦争に関することを後世に語り継いでいくことは大変重要なことですね。しかし世代が変わるにつれ、大変難しいこととになりつつあるのも事実です。この物語に出てくる三人は、子どもの目線で戦争を体験しています。なぜ戦争をしなければいけないのか、戦争をして何が残るのか、子どもの立場だからこそわかる真実があるのです。

戦争が終わったのちも三人は在日韓国人、中国残留孤児、戦争孤児として戦争に翻弄され続けます。社会の勉強で習っただけではなかなか理解できない戦争体験者の立場が、この物語を読むことによって身近で理解しやすいものとなるでしょう。

戦争を題材にしていても、中脇初枝の作品らしく主人公の三人の人物像、個性、心情はしっかりと描かれています。ぜひ平和な日本に生きているすべての大人に、そして子どもたちに手に取っていただきたい1冊です。

中脇初枝がおくる、居場所を求める人々の物語『わたしをみつけて 』

『きみはいい子』と同じ町を舞台とした物語。2015年にNHKでドラマ化もされた作品です。

主人公の弥生は生まれてすぐ捨てられ児童養護施設で育ったため、いい子であること、自分の居場所を確保することに重きを置いて生きています。准看護師として働く桜ケ丘病院には多数の問題がありますが、居場所がなくなることが怖く反論もしません。

ある日桜ケ丘病院に新しい師長の藤堂がやってきたことでそんな弥生の考えに変化が生じてきて……。

著者
中脇 初枝
出版日
2015-06-05

この物語は児童虐待を描いた『きみはいい子』と同じ町が舞台であり、虐待されている子どもの親も看護師として登場します。児童虐待をされる子供たちにあるのは「いい子じゃない」という呪縛、この物語の主人公である弥生にあるのは「いい子だ」という周りからの評価に対する呪縛です。いい子を演じ続けて苦しい主人公の葛藤が丁寧に描かれています。

弥生の考え方や生き方を変えることとなる新しい師長の藤堂は、悪いことは悪いと言えるとても頼りになる素敵な女性です。仕事ぶりに非の打ちどころがなく、さもすれば敬遠されてしまいそうな藤堂ですが、その根底にある経験が明らかになることで、心から信頼できる人物となります。その中脇初枝の生む登場人物らしい絶妙な人物像は、読み手の心に明りを灯してくれるでしょう。

この物語の舞台は医療現場です。しかしこの人間関係はどのような職場、どのような場所でも同様のことがおこり得ます。ぜひ自分に何かの負い目を感じている方に読んでいただきたい1冊です。

中脇初枝の人気作品を5つご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。どの作品も文字数の割にテンポが良く一気に読めてしまいますが、登場人物の心がしっかりと描かれていますので読み終わった後にふと自分だったらと考えさせられてしまうかもしれません。暗めなテーマを扱いながらも読み終わった後は温かい気持ち、すっきりした気持ちにさせられる中脇初枝の物語。ぜひ気になる作品から手に取ってみてくださいね。

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