児童文学おすすめ6選!日本の名作を文庫本で読む

更新:2021.11.7

児童文学は単純に子供向け小説という訳ではありません。子供に向けた物語だからこそ、とても大切なものを与えてくれます。それは大人が読んでも面白いもの。子供の時と大人になってから、いつ読んでも良いように長く親しめるのが、児童文学なのです。

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小さな魔女と新しい街、希望溢れる傑作児童文学『魔女の宅急便』

黒猫に黒いローブ、長いほうきで空を飛ぶ姿。「魔女」と聞いて思いついた姿をそのまま描き出したような少女、キキが主人公です。キキは魔女ですが、何でも出来る魔法を使えるわけではありません。喜んで、悲しんで、いっぱい悩む、心は普通の女の子です。

まだ幼いキキが、たった1人で知らない街へ飛び込みます。そこでの苦難と出会い、そして成長が描かれています。

著者
角野 栄子
出版日
2015-06-20

主人公のキキはたったの13歳です。彼女はしきたりに従って、修行の為に旅立ちます。新しい街へ旅立って、新しいことを始め、新しいことを知るのです。

キキに出来るのは空を飛ぶくらいの些細なことだけなので、それを生かして暮らしていく術を考えつきます。しかし、降り立った街の人々は魔女への理解が無く、さっそくキキはつまずいてしまうのでした。キキが街を知らないのと同じように、街の人々もキキのことを知らないのです。最初から優しく受け入れるのは、難しかったのでしょう。

しかし、キキが自分にできる事を生かして一生懸命に働いている内に、街の人々もキキを受け入れていくのです。キキの頑張る姿と、それを見守る街の人々の様子からは、信頼が築かれていく過程を感じることができます。

ゼロからスタートし、自分で考えて行動し、経験から改善したり工夫したりするキキが、自然と成長を果たしていく本作品。「頑張る姿」がどれだけ素敵かということを教えてくれる一冊です。

これから長い夏休み!団結する子どもたちの力『ぼくらの七日間戦争』

町を騒がす行方不明事件がおきました。それも、1クラスの男の子全員が居なくなってしまうような大事件です!親たちはみんな一生懸命男の子達を捜索しますが、どうにも見つけられません。

そんな大人達の耳に届いたのは、ラジオ放送。ラジオからは、なんと今まさに探している子供達の声が聞こえてきます。子供達は揃って廃工場に立てこもり、大人達に反旗を翻したのです。

著者
宗田 理
出版日

相原徹と、その親友の菊池英治の二人による「立てこもり計画」でしたが、先生や親への不満を持っていたクラスのみんなが賛同し、1クラス全員を巻き込んだ大事件になりました。体調を理由に参加できない男子や、立てこもりに参加できない女子も一緒になって、この作戦に協力します。1年2組の生徒全員のエネルギーが集結しているのです。

しかしそんな大作戦に、思わぬ暗雲が立ちこめます。参加予定だった柿沼直樹という男の子が姿を見せないのです。どうやら、本物の誘拐事件に巻き込まれてしまったようで、大人も子供も混乱してしまいます。

思わぬトラブルですが、子どもたちは大人だけに任せる事はしませんでした。自分たちの力で、この誘拐事件に立ち向かいます。大切な仲間を、なんとしても助け出さねばならないのですから。

きっかけは大人への反発心。多くの子供がまとまって起こした大事件には、夏らしい爆発するようなエネルギーがぎゅっと詰め込まれています。きっと続きが気になって、次々ページをめくってしまうことでしょう。

幼い目が見上げる家族の温度。大ヒット児童文学『モモちゃんとアカネちゃん』

この本は、小さな女の子「モモ」に語りかけるように描かれます。モモの不思議な行動の理由は書かれませんし、猫や野菜とのおしゃべりだって、私たちにはわかりません。

まるで童話のように柔らかく、優しい色で描かれる『モモちゃんとアカネちゃん』ですが、実は辛いお別れの話なのです。

著者
松谷 みよ子
出版日
2011-12-15

モモはまだ小さい子供ですから、色々なことをしてしまいます。悪戯をしたり、大人が食べるような物を欲しがったり。大人からすれば、いちいち気にとめることではなくても、モモにとっては大事なことなのです。

そんなモモは大きくなり、猫や野菜とおしゃべりすることがなくなります。しかし妹の「アカネ」が生まれ、アカネは小さな頃のモモと同じように、不思議な行動をしたり、くつしたとおしゃべりしたりするのでした。

また、モモとアカネがすくすくと成長するうちに、二人のまわりの大人たちには暗い変化が現れます。パパとママの心が離れ、お別れをすることになってしまったのです。

モモやアカネは、ただ健やかに過ごしているように見えて、そんな大人たちの心を、ちゃんと感じ取っていました。大人が残した物や、物の扱いかたを通して、モモはしっかりと大人の心を見ていたのです。

大人たちにとっては当たり前なことでも、子どもの目からは全く違ったように見えています。素朴で、無邪気な視線は、大人の核心をついているのです。

隣の家に越してきた、とびきり奇妙な男の人『そして五人がいなくなる』

主人公の亜衣は母親に、お隣の家に越してきた人への挨拶を頼まれます。扉を開けて目にしたものは、壁を埋め尽くすほどの本の山。そこから出てきたのは、いまいちパッとしない黒ずくめの男の人でした。

彼は自ら名探偵と名乗り、亜衣たちに活躍を見せつけていきます。

著者
はやみね かおる
出版日
1994-02-15

名探偵の夢水清志郎は、普段はとてもだらしがなくてテキトーです。お隣に住む亜衣たちも、彼が名探偵だということをいまいち信じられません。大人らしい格好良さとは対極にいる人物で、まるきり変なおじさん扱いです。悪い人では無いだろうけど、頼りがいはありません。

そんな夢水清志郎と亜衣たちは、揃って遊園地へ出かけます。華やかな遊具の中で、最も色鮮やかなステージの上で行われる手品は、消失マジックでした。多くの人が見ている前で、5人の内の1人目の姿が消えてしまいます。

「探偵」という文字からは、怖い殺人事件を連想してしまうかもしれませんが、この本は決してそんな内容ではありません。児童書として明るく楽しめる、爽やかな作品です。

自称名探偵の夢水清志郎は、探偵として何をするべきなのかを理解し、揺るがない信念も持っています。頼りなくて、わかりやすい格好良さもありませんが、行動力が垣間見えます。夢水清志郎が本物の名探偵かどうか、是非本作を読んで確認してみてください。

西の魔女との一つの約束、少女の成長の物語『西の魔女が死んだ』

主人公は学校へ行けなくなってしまった少女、まい。心配した母親は、まいの祖母に彼女を預けます。

祖母は自らを魔女と名乗りました。草木溢れる環境に、祖母から魔女としての修行を言い渡されます。修行とは、なんでも自分で決める事。修行生活の中で、まいは色々なものと触れあいます。

著者
梨木 香歩
出版日
2001-08-01

祖母の危篤の知らせを受けて、まいは母親とともに2年ぶりに祖母の家へと向かいます。車に揺られながら、まいは祖母の元での魔女修行を思い出していました。

魔女とは言っても、魔法などは使いません。ハーブを育て、自然と共にゆるやかに生きています。本人もその生活があっているのか、祖母はとても穏やかな性格です。

まいには一つ、気がかりなことがありました。「いつか」と言われたまま、祖母から答えを貰えなかった疑問があったのです。しかもその後、別の出来事が原因で、祖母とはケンカ別れをしてしまっています。仲直りの出来ないままの思い出が、車中のまいに蘇っているのでした……。

素朴で読みやすく、それでいて情緒深い物語です。まいと祖母の平和な日々と、穏やかで美しい風景の描写。一つ一つの文章を追うごとに、登場人物たちの言葉や気持ちが、読者の心に染み込んでいくでしょう。

大切にしたい日常をあなたにも『しずかな日々』

ごく普通の小学生の日常を切り取った作品です。母子家庭で育った小学五年生の少年・光輝は、成績も、クラスでの立ち位置も、自宅で過ごす時間も「平凡」よりも少し下。そんな彼の閉されていた世界が徐々に光に満ち、輝いていく物語です。

著者
椰月 美智子
出版日
2010-06-15

 

「三丁目の空き地に来いよ。野球しようぜ」(『しずかな日々』より引用)

クラスメイトから遊びに誘われた、たったそれだけのありふれた出来事は、それまでパッとしなかった光輝の生活を大きく変えていくことになります。それは友達や、クラスでの会話、新しい出会いなど、多くの子供が体験するあたりまえで輝かしい「楽しさ」です。

みるみるうちに開けていく光輝の世界には、まるで読者の世界まで今までよりも楽しく、輝きに満ちていくような感覚にさせられるでしょう。それはまさに当たり前の小学生の日常ですが、同時に全ての子供たちにも体験してもらいたい「理想の日常」だと感じます。

初めから持っていたわけではないからこそ、大切にしたい日常。羨ましくなるほどの「ありふれた幸せを知っていく楽しさ」に満ち溢れた作品です。童心に帰り、楽しい日常を追体験するような、そんな暖かい気持ちを感じてみませんか?

 

わくわく出来たり、感動できたり、深く考えさせられたり。どれも大きく心を動かされる本です。知っている話であっても、今一度開いてみるときっと新しい発見があることでしょう。

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