『シグルイ』の魅力を徹底紹介!絵で引いた人にこそ読んでほしい!

更新:2021.11.9

隻腕の剣士と、盲目で跛足の剣士による真剣勝負をめぐり、愛憎・因縁の絡みあう超濃厚時代劇漫画。現代では想像もできない武士の矜持、武家社会のしがらみに翻弄された2人を中心とした物語を、圧倒的な画力とセリフで描きあげた渾身の作品です。

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大ヒット作品『ブラックジャックによろしく』や『海猿』の作者である佐藤秀峰が、「僕の好きな漫画」として挙げている『シグルイ』をご存知でしょうか。

佐藤は医療漫画である『ブラックジャックによろしく』の手術シーンで臓器の絵を時折描いていますが、意外にも残虐なグロいシーンは苦手だそう。

しかし、本作にはグロいシーンが満載にもかかわらず、そんな彼をも夢中にさせたのです。

著者
山口 貴由
出版日
2004-01-22

佐藤は、気付けば1巻2巻と読み終わり、5巻まできたときには、最終巻である15巻まであと10巻も読めることを喜んでいたそうです。

『シグルイ』の何がそこまで彼を惹きつけたのでしょうか。それはおそらく、作者である南條範夫の、圧倒的かつ強烈な情熱に感化されたのでしょう。本作の絵やセリフなど、そこらじゅうから南條のあふれんばかりの熱意が伝わってきます。

もちろん、読者のなかにはグロい絵が好きでないという方もいらっしゃると思います。そのため、本作の絵だけを見て敬遠してしまう方もいるのではないでしょうか。しかし、『進撃の巨人』や『テラフォーマーズ』のように、グロいシーンがあるにもかかわらず大ヒットした漫画は枚挙にいとまがありません。

『シグルイ』もまさにそうです。一見苦手な描写であっても、それを超えて読むだけの価値があることは、グロが苦手の佐藤秀峰が「好きな」漫画として挙げるまでに至ったことからも明らかです。

漫画『シグルイ』あらすじ

舞台は寛永6年9月24日、駿河大納言・徳川忠長の命によって真剣を用いた御前試合が催されることになり、各所から剣士たちが結集しました。第1試合の対戦カードは、隻腕の剣士である藤木源之助(ふじきげんのすけ)と、盲目で跛足の剣士である伊良子清玄(いらこせいげん)です。

家中の者に任意で選ばれたように見えた2人は、実はかねてよりお互い深い殺意を抱きあう、因縁の相手でした。

7年前、「虎眼流」の道場に伊良子清玄が道場破りをしにきた際、彼との試合の相手を務めたのが藤木源之助でした。初めて出会ったその日から、数奇な運命を辿った2人は、寛永当時の権力者である徳川忠長の御前で再び相まみえ、真剣勝負をくり広げます。

魅力1:とにかくグロいけど、そこにある種の美がある!

すでに何度も述べていますが、この漫画の最大の特徴として「グロさ」を挙げないわけにはいきません。

そもそも、主要なキャラクターのひとりが隻腕、 もうひとりが盲目で跛足という、身体に大きな障害を負っています。負傷してから相当の時間が経っているにもかかわらず、作者の描く傷跡は、見る者に生々しい痛みを想像させます。

著者
山口 貴由
出版日
2004-06-24

さらに、表紙絵も流血していますし、1巻では冒頭から斬首シーンがあります。またそのすぐ後には、藤木と伊良子2人が裸で斬り合い腸をぶちまけているシーンが、カラーの見開きで描かれているのです。

しかし『シグルイ』の絵には、ここまでグロいシーンにこだわる作者ならではの、ある種の美しさがあります。残酷なシーンは、裏を返せば、命の散り際を描いているものです。作者の絵からにじみ出てくるその美しさは、命の輝きともいえるのです。

この漫画に出てくる登場人物たちは、腸が出て死を迎えるその直前にもかかわらず、目は死んでいません。彼らの目に灯る強い意志に気付いた読者は、それを単なる残虐なシーンだと捉えるのではなく、命を賭した男の生き様だと感じることでしょう。

魅力2:登場人物、全員やばい

1巻を読み出した作者がすぐに味わうのは、徳川忠長の異常性です。作者は、強烈な表情の描写とモノローグにより、忠長の残虐さをこれでもかというくらい際立たせて描きます。

そして、そこに続いて現れる藤木源之助と伊良子清玄も、片腕しかなかったり、片足をケガして使えずさらに盲目だったりと、個性が強すぎるのです。

彼らの身体的特徴がゆえに、戦闘シーンも通常の人間同士の立ち合いとは異なります。欠けた部分を補うべく、身体の残った部位を狂ったように鍛えた両者の構えからは、ほかのバトル漫画からは得られない緊張感を味わうことができるでしょう。

著者
山口 貴由
出版日
2006-04-20

そしてまだまだ個性的な登場人物は続きます。藤木と伊良子が真剣勝負をした後の回想シーンでは、藤木の兄弟子の牛股権左衛門(うしまたごんざえもん)が登場。この牛股、最初は優しそうな顔の人格者に見えます。

しかしいざ勝負モードに入ると、割けたように大きい口でまばらにしか生えてない歯を見せながら、ニヤリと笑うのです。

極めつけは、藤木と牛股の師範である、岩本虎眼(いわもとこがん)です。この人物に関しては、「やばい」という言葉で表現できるどころの話ではありません。ぜひ本作を読んでご自身でご確認ください。圧倒的なキャラクターです。

魅力3:シリアスなのに、力一杯すぎてギャグに見えるシーン

絵もキャラも全力な『シグルイ』には、佐藤秀峰も指摘するように、力いっぱい過ぎてギャグに見えてしまうシーンがあります。

ここでは前述した「見開きカラーで、主要キャラクターの2人が裸で斬り合い腸をぶちまけているシーン」を挙げさせていただきます。

著者
南條 範夫
出版日
2010-10-20

このシーン、まずすごいのがその唐突さ。直前まで続いていた話の流れとの関連性は一切ありません。そして本編では服を着ていた2人が、このシーンでは突如として全裸になっているのです。

そしてなにより特筆すべきなのは、ぶちまけられた腸により、両者の局部が隠されてモザイクのようになっているところです。残酷なシーンながら、何上手いこと大事なところは隠しているんだ!とツッコまざるを得ません。

このようなシーンを探しながら読むのも、本作の楽しみ方のひとつでしょう。

ここまで述べてきたとおり、『シグルイ』は圧倒的な濃度で読者に迫ってきます。なによりお伝えしたいのは、それが「おもしろい!」ということ。 
絵の好き嫌いは分かれるかもしれませんが、それを超越した面白さと熱を孕んだこの作品。絵だけで毛嫌いするのはもったいないです。ぜひご覧になっていただけたらと思います。

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