小さな出版社のキラリと光る5冊。

更新:2021.12.12

世の中、本当に「大は小を兼ねる」のだろうか。 少なくとも、出版業界において、そうだとは言い切れない。 いま、小さい出版社がとても元気だ。 経済規模は小さくても、書き手と編集者との距離も近く、イキイキとした本をたくさん生み出している。 出版とは本来そういうものだったのではないだろうか。 個人の意志を「本」の形にすることで、世間に送り出す。 小さい個の力を、拡大拡張する行為のはずだ。 今回は、編集者の思いが染み込んだ小さい出版社の本を紹介します。

ブックカルテ リンク

「仙台」がぐんと近くなる。

宮城県仙台にある小さな出版社、荒蝦夷。同社を代表する定期刊行物である『仙台学』は、現在、Vol.15まで刊行されている。

当初、民俗学者の赤坂憲雄氏と「東北学」として東北の歴史や文化の研究を掲げていたものが、エリアごとに枝分かれして『仙台学』となって現在も続いている。

魅力は、作家さんと読者の距離感。大衆に対して、大声で叫ぶ必要がない媒体だからこそできるひそひそ話しのような親近感が仙台学を読んでいて心地よい。

同誌に連載されていた作家伊坂幸太郎さんの他では見ることの出来ない日常を綴った『仙台ぐらし』もオススメだ。

 

著者
出版日

本屋はまだ死なない。

装丁に使われている色鉛筆風の絵が温かい『本屋図鑑』。

「はじめに」で夏葉社の島田潤一郎さんがおっしゃられているが、本屋が好きで、本屋に助けられてきたという人は山ほどいるだろう。どの本屋さんも妙に懐かしく感じる。良い本屋さんとはそういうものなのだ。

『本屋図鑑』は、図鑑パートの他に、「本屋さんの歴史」の章が端的にまとまっていて勉強になる。姉妹編ではないが、『本屋会議』も本屋好きには欠かせない。

 

著者
本屋図鑑編集部
出版日

想像力は武器である。

北海道にある小さな出版社で、とても大きな本が生まれた。
総ページ数約800頁、厚さにして5.6 cm。執筆者はなんと20人である。

内容はといえば、SF・北海道文学の評論集だ。

 

著者
石和 義之 礒部 剛喜 浦 高晃 岡和田 晃 忍澤 勉 倉数 茂 小谷 真理 高槻 真樹 巽 孝之 田中 里尚 丹菊 逸治 東條 慎生 橋本 輝幸 藤元 登四郎 増田 まもる 松本 寛大 三浦 祐嗣 宮野 由梨香 横道 仁志 渡邊 利道
出版日
2014-06-10


昨今、閉塞感が嘆かれる「SF・文学」について、批評家のみならず、多彩な書き手が独自の視点にたち「SF・文学」を縦横無尽に分析し解体と融合を試みる力作である。

また、巻末のブックガイドは圧巻。広範囲の作品に目配りが行き届いており、全てに寸評がついている。
本著は、資料的価値はもちろんのこと、SF・文学の新たな出発地としてここから広がっていくだろう。

書店員はよくしゃべる!?

「一冊入魂」「原点回帰」を掲げて東京・自由が丘と京都・城陽にオフィスを構え、一冊ずつ丁寧に出版することに重きをおくミシマ社。そのミシマ社から出版された、書店員へのインタヴュー集が『善き書店員』である。

普段、声を発しない存在である書店員さんの話を聞けただけで、本屋好きとしては嬉しい。

また、本書には、息の合う友人と話をしているような有意義な時間が流れている。本屋に興味がない人でも、日々ボチボチと着実に仕事をすることの素晴らしさを共感できるはずだ。きっとあなたは行きつけの本屋さんで書店員に声をかけたくなるだろう。

 

著者
木村俊介
出版日
2013-11-13

なお、同社から出ている『The BOOKS』にも本屋さんの思いがたくさんつまっていてオススメ。

挑戦的なテーマと装丁。

版元のサウダージ・ブックスは、三浦半島で同名のサロンを運営しつつ本出版している。

本著『ブラジルから遠く離れて1935-2000』は、文化人類学者であるレヴィ=ストロースの代表作『悲しき熱帯』に新たな輝きを与える。元は同名の企画展示である。

著者の今福龍太氏の語り、編集のサウダージ・ブックス淺野卓夫さんのエッセイからは、レヴィ=ストロースに対する深い愛情と尊敬の念が感じとれる。読後、我々もレヴィ=ストロースとの距離が自然と近まる。

内容もさることながら、装丁にも注目したい。インパクトの強いマゼンタ一色。造本も糸かがりである。

本棚に余裕があれば面で飾って人に見せたくなる。
大手出版社では決して出すことの出来ないパワフルな1冊。

 

著者
今福 龍太
出版日
2009-04-01

以上5冊は、どれも丁寧につくられた素晴らしい本である。大衆に向けたものではないが、確実に必要とされる本たちだ。 
もちろんこれらの他にもまだまだ紹介した本はたくさんあるが、次回に譲ろう。

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