「AI」「自動運転」「IoT」「着るロボット?」未来技術の本棚

更新:2021.12.1

人工知能や自動運転などに関する話題が盛んです。ただ、各用語が非常に混みいっており、整理が必要にも思えます。今回は、未来技術についての言葉を整理しつつ、それらの理解に役立つ本を紹介します。

ブックカルテ リンク

期待も悲観もしすぎてはいけない

まずは人工知能(AI)について、2015年3月に刊行され、「AI・ロボット本ブーム」の先駆けとなった松尾豊『人工知能は人間を超えるか―ディープラーニングの先にあるもの』から見てみたいと思います。

松尾氏は、日本を代表する人工知能学者です。2013年12月に発行された学会誌『人工知能 2014年1月1日号』の表紙デザインに女性メイドのアンドロイドが描かれていたことがインターネットで「炎上」しましたが、この表紙デザインを含めた学会誌の一新も、編集委員長に就任した松尾氏の「人工知能への関心をより広めたい」という意向によるものだったそうです。

本書では、これまでに何度も「人工知能ブーム」があったことを述べた上で、その度に期待が裏切られてきたこと、今回のブームについても過剰な期待を持たず、冷静な認識・議論が必要という立場を取っています。

過去の人工知能ブームについては、第一次ブームがおよそ1960年代、第二次ブームは1970~80年代とされています。筆者は1983年生まれですが、この時期の人工知能(AI)というとテレビゲーム『ドラゴンクエスト4 導かれし者たち』(1990年)を思い出します。このゲームでは「ガンガンいこうぜ」「いのちを大事に」といったプレイヤーが決めた「作戦」に従って味方キャラクターが自動的に戦う「AI戦闘」が『ドラゴンクエスト』で初めて導入されました。

しかしこれ以降、RPGゲーム以外でもプレイヤーが直接操作しない(コンピュータにより行動する)キャラクターが敵味方問わず登場しますが、それらをAIや人工知能とは言わなくなりました。例えば2016年のNHK大河ドラマの主人公である真田幸村を主要キャラクターに置いた『戦国無双』のようなゲームでも大量のキャラクターが戦場でそれぞれの行動をとっており『ドラゴンクエスト4』の「AI」よりも賢そうに思えますが、それらは「NPC(Non Player Character)」と呼ばれています。

そして松尾氏は、今現在起こっているのが第三次の人工知能ブームであると指摘します。ここで著者が注意喚起しているのは、第二次ブームまでに既にある程度の実現が見込まれていた技術と、第三次ブームに関わる新しい技術が混同されていることです。例えばiPhoneの「Siri」に相当するような対話プログラムは第一次ブームの1964年に「ELIZA(イライザ)」としてその萌芽を見せていたことが紹介されています。また日本の大手銀行のコールセンターでも導入されているIBMの人工知能「Watson(ワトソン)」の技術も、第二次ブームの際に注目された「オントロジー」がベースになっているとしています。

では第三次ブームのきっかけは何かというと「機械学習」と「ディープラーニング」であるとされます。これらについては本書を実際に読んでいただければと思いますが、大きな変化としては「学習に教師(人間)が不要になったこと」と「機械の認知技術が向上したこと」にあるようです。ただし「人工知能」とはあくまで「人間の知能を人工的に再現すること」であり未だに実現は遠く、現在使われている「商品の宣伝文句としてのAI・人工知能」とは区別すべきであるとしています。

著者
松尾 豊
出版日
2015-03-11

本書はテクノロジーによる社会の変化についてかなり慎重な立場をとっていますが、それでも雇用に変化が生じることは認めています。例えば20年後には、私たちは外国語を学ばなくても自動翻訳により海外の人々と会話することが可能だろうと予測しています。また会計士、弁護士、金融といった高度で大量の知識が必要な業務の一定部分は人工知能に置き換わる可能性が高いとしています。ただし、これは弁護士が裏で行っている膨大な専門的ルーチン業務を人工知能が行うという意味で、法廷に立つ弁護士がロボットに変わるという意味ではありません。同様に、カウンセリングといった人の温かみが重要な分野や、接客サービスのような機械では再現が難しい複雑な業務のほうがテクノロジー失業の可能性は低いとしています。
なおテクノロジーと雇用については筆者の本棚ストーリー過去記事『「はたらく」を科学するための5冊』(2015.3.19)でも触れています。
●満田弘樹『「はたらく」を科学するための5冊』
 http://honcierge.jp/articles/shelf_story/25

一方で松尾氏は、それらは産業の変化に過ぎず人工知能ロボットが本能や自我を持って人類に敵対する『ターミネーター』的な未来は起こらないという立場をとっています。それに対し、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏や、自動車会社テスラモーターズの会長兼CEO、かつ宇宙事業を行うスペースX社のCEOであるイーロン・マスク氏などは、人工知能とロボットは人類にとって脅威なりうるとしています。

まるでわからないIoT?

ビジネスに関わる書籍やWEBを見る方は「IoT(アイ・オー・ティ)」という言葉を目にしたことがあると思います。

「IoT」は「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット(化)」と訳されます。ただ、インターネットは最初からコンピュータや携帯電話などの「モノ」で接続しています。そのため、「モノのインターネット」と言われても何のことかよくわからないと筆者は感じていますし、実際のところ「IoT」という言葉が「IT」や「クラウド」のように広く浸透するとは思っていません。例えば「ICT(Information and Communication Technology)」のような中途半端な認知度の言葉に留まるのではないかと感じています。とはいえ、今のところ「IoT」が意味したいことにピタリとはまる言葉があるわけでもありません。

この「IoT」に関わるキーワードや「IoTが私たちの社会にどのような影響を与えるか」を解説しているのが『IoTまるわかり』(日経文庫)です。

著者
出版日
2015-09-16

本書ではできるだけ身近な実用例を挙げながら、以下のキーワードを解説しています。

インダストリアル・インターネット / インダストリー4.0 / M2M /  O2O / テレマティクス / ユビキタス / ウェアラブル端末 / デバイス・センサー / ドローン / ソーシャルメディア・SNS / ビッグデータ解析 / クラウドコンピューティング / 人工知能(AI)・機械学習 / スマートグリッド / スマートコミュニティ / スマートハウス / スマートファクトリー / スマートヘルスケア

ご存じの言葉もあれば、そうでない言葉もあるかと思います。これらの言葉をひとつひとつ丁寧にこの記事で説明するわけにもいきませんので本書を読んでいただくとして、筆者の解釈では「IoT」とはインターネットにつながる「モノ」の「多様化」や「量の増大」を指していると考えています。問題はそれらが社会にどのような影響与えるのかという点です。それについて、本書は生活やビジネスといった目線で紹介していますので、イメージしやすくオススメです。

人工知能とIoTの交差点?

他に『この1冊でまるごとわかる人工知能&IoTビジネス入門編』(日経BP)という本も出版されています。こちらは大判で図解が多くなっているのが特徴です。

著者
出版日
2016-06-01

なお、この本で解説されているキーワードは以下です。

人工知能 / データサイエンティスト / Watson / アルゴリズム / シンギュラリティ / マルチラリティ / 画像認識API / IoT / 自動運転 / ドローン / 人型ロボット / インダストリー4.0 / 5G / デジタルトランスフォーメーション / ビッグデータ / シェアリングエコノミー / Fintech / オムニチャネル / CDO / 匿名加工情報 / ブロックチェーン / 日本再興戦略

こちらもやはり入門書ですが、『IoTまるわかり』でも説明されているキーワードもあれば、どちらか一方にしか掲載されていない言葉もあります。また、その説明内容も一様ではありません。現時点(2016年9月)では入門書ですらこのような状態ですから、1冊だけを読んで、それをそのまま鵜呑みにするのは危ない分野と言えるでしょう。複数の本や情報源に当たるのがオススメです。以下では例として「自動運転」について、今回紹介している本の内容などから総合して導かれる状況を記述したいと思います。

Googleによる自動運転車の走行実験は、2009年から始まり2016年3月まで、延べ約225万キロを「無事故」で走行しました。ただし停車中に後ろから追突されたなどの相手人間側の責任による事故、あるいは自動運転モードでなく人間が運転中に起こした事故は20件近く起こっています。(日本経済新聞2016年3月1日)。

ちなみに現行法では自動車の走行中に運転席には人間が乗っていなければいけません。つまり「自動運転」が実現しても「無人運転」にできるかどうかは「テクノロジー」だけでなく「法整備」の問題でもあり、両者は区別する必要があります。なお鉄道では既に神戸市のポートライナーなどは無人で運行していますが、これはポートライナー専用のレール上しか走行せず、他の走行車両や歩行者が存在しないという条件によるところが大きいといえます。

もし自動車の「無人自動運転」が実現すると、移動だけが目的ならば自動車を所有する必要はなくなります。例えばビジネスマンなら、出勤時間に合わせて予めスマートフォン等で予約し自動車を自宅に呼べば良いのです。出発地や目的地が近い人と「相乗り」することで移動コストを下げることもできるでしょう。「見知らぬ他人と相乗りなんかできない」という人もいるかもしれませんが、電車やバスでは見知らぬ他人と相乗りしていますから、それほど奇妙な話ではありません。たとえば「カーテンで仕切りをする」といったシンプルな方法で抵抗感をなくせるかもしれません(現状では人間が運転していますから、車内をカーテンで仕切ると視界が妨げられ運転に支障が出てしまいますが、無人自動運転ならそういった問題はありません)。

これまでであれば出勤した後、退社するまで自動車は駐車場に止められていたと思います。しかし無人自動運転車ならばこの駐車場も必要なくなります。自動車は次に必要とされる場所に移動するからです。とりわけ都市部はかなりの立体スペースが駐車場として使われています。無人自動運転車が普及すれば、この都市部の駐車場スペースの大幅削減・有効活用が可能になります。都市部の自動車は、必要な台数だけ都市部に留まっていれば良いのです。それ以外の自動車は安い土地(駐車場)で待機しておくこともできます。

ただしこのとき、どれくらい台数の自動車が都市部に残るべきかという需要を予測する必要があります。ここでIoTの出番です。例えば自動車が自ら気象庁の情報にアクセスし、降水確率が高ければ、急な利用が増える可能性を見込んで事前にたくさんの自動車を都市部に移動させておくといった必要もあるでしょう。あるいは利用が混雑してくると、できるだけたくさんのユーザーに利用され収益が最大化するよう「相乗り割引」の割引率を大きくするなどしたほうが良さそうです。IoTではこのように利用情報をリアルタイムに把握してサービスを望ましい形に最適化することができます。さらにその利用履歴から無人自動運転車が自ら判断して燃料補給に向かい、故障等を未然に防ぐためのメンテナンスを受け、行先の道路情報や気象情報からスノータイヤへの交換を判断することになります。

IoTと人工知能は、そういった「多様で膨大な情報」に基づく判断を人間が行うのか、それとも人工知能に任せるのか、といった点で関わりがあると捉えると良いのではないかと思います。

なおIoTのキーワードのうち「Fintech」についてはホンシェルジュの以下の記事で詳しく記載されています。

●瀧 俊雄氏(Fintech研究所所長)インタビュー
2016.8.12「Fintechによって金融サービスはどのように変わるのか?」
http://honcierge.jp/articles/interview/141
2016.8.18「起業する人を増やして、Fintech業界をもっと面白くしたい!」
http://honcierge.jp/articles/interview/145

●hontoビジネス書分析チーム
2016.8.22「Fintechは次のフェーズへ!入門書はもう終わり」
http://honcierge.jp/articles/interview/138

未来を待つか、未来へ進むか

2015年からAIや人工知能、ロボットに関する書籍が大量に出版されていますが、筆者の把握している限りでは、一般向けの本は、ここまでで紹介したキーワードや書籍の内容を、より深く掘り下げたものがほとんどです。

そこで、最後にもっと未来を見据えた本を紹介します。『NEXT WORLD 未来を生きるハンドブック』(NHK出版)です。本書は毎回「みなさん、心の準備はいいですか」というフレーズと共に終わるNHKシリーズ番組「NEXT WORLD」(全5回)を書籍化したものです。

●子ども時代のように学習能力を高める「脳の若返りの薬」は、外国語の習得を母語のように容易にします。
●体内で活動する極小ロボット「ナノマシン」は、がん細胞だけを攻撃することができます。
●脳で動く「人工腕」は、育児で子どもを抱きながら、家事をするための3本目、4本目の腕を提供し、「着るロボット」は肉体労働を支援します。
●「電子皮膚」は現在は腕時計などの形状をしているウェアラブルコンピュータ端末の究極の形として健康を管理します。
●既に紹介したスペースX社のイーロン・マスク氏がGoogleから出資を得て開始した「マーズ・ワン計画」は「地球へ帰らない片道切符の火星移住計画」ですが、既に世界から20万人の志願者が集まり、うち選抜された24名を、2025年を目標として火星へ送り込むとしています。
●ブラジルのリオ・オリンピックのパフォーマンスでも話題になった海面上昇により危機に瀕している国、キリバスは、日本の清水建設が提案する「グリーンフロート計画」という海上都市建設に関心を寄せています。
●話題になった「ポケモンGo!」で利用されている「AR(Augmented Reality、拡張現実)」は、食べ物を実物より大きく見せることで、実際に食べる量をストレスなく減らして満腹感を得ることを可能にし、ダイエットに活用されます。
●「ヒット曲予測システム」はデビュー前のミュージシャンの曲をデータベースに読み込ませることで、過去の曲と照らし合わせ、ヒットするミュージシャンを予測・発見・プロデュースすることができます。

これらの未来は本当に訪れるのでしょうか。

実は、このうち1つは14年前の2002年に実現しています。最後の「ヒット曲予測システム」です。ある女性の『Come Away With Me』というCDアルバムは、全14曲のうち8曲にヒット曲の要素があると判定され、そのアルバムは世界で1800万枚を売り上げ、翌年のグラミー賞で8部門を獲得しました。その女性の名前はノラ・ジョーンズです。システムによるヒット予測が当たったのは単なる偶然でしょうか、それとも…。

みなさん、心の準備はいいですか?

著者
NHKスペシャル「NEXT WORLD」制作班
出版日
2015-04-09

今回は未来技術について楽観的な書籍を紹介しました。一方、記事内で紹介したように悲観的な予測をしているものも多くあります。それらも合わせて読んでみてはいかがでしょうか。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る