明日をつくる一冊『ダンス・ダンス・ダンス』偏愛レビュー【高尾苑子】

明日をつくる一冊『ダンス・ダンス・ダンス』偏愛レビュー【高尾苑子】

更新:2021.12.2

村上春樹さんの本を読んだことはありますか? 読んだことがないという方は村上春樹さんの本は難しそうだと感じるかもしれませんが、そんなことは全然ないです! 本当に読みやすくて楽しくて、どんどん読み進めたくなります。独特の比喩表現、世界観、今すぐ食べたくなるような料理の描写、たまに入るジョーク。推理小説のような感じと文学小説のような感じが共存していて、ちょっとだけ背伸びして読みたい本としてもおすすめです。

ブックカルテ リンク
著者
村上 春樹
出版日
2004-10-15

今回私が紹介する小説は『ダンス・ダンス・ダンス』という本です。『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』に続く作品で、これら初期三部作の後日譚となっていますので、よかったら『風の歌を聴け』から読んでみてください(^^♪

『ダンス・ダンス・ダンス』は、1970年代が終わり、新しい時代へ上手に移行できなかった主人公たちの物語。再生の物語です。羊をめぐる冒険から四年。どこにも行けないままに年をとりつつある僕。夢の中で誰かが僕を求めている。誰かが僕のために涙を流している。新しくなった“いるかホテル”、完璧にチャーミングな元同級生、ユキとアメとディック・ノース、キキ、ユミヨシさん、そして羊男……。もう一度冒険に出た僕のまわりで、ある人は消え、ある人は死に、僕はまた謎と混乱の中に落ち込んでいく。

村上春樹さんの小説には、今生きている現実とは違う別の空間が描かれていることが多いです。しかもそれはファンタジーではなく、現実で、主人公の精神世界のようなものを読者に分かりやすく伝えてくれています。たとえばこの本では“羊男”が主人公のために存在して主人公と世界をつなげる仕事をしています。

「何故踊るかなんてことは考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなこと考えだしたら足が停まる。(略)どれだけ馬鹿馬鹿しく思えてもそんなの気にしちゃいけない。踊るしかないんだよ。それもとびっきりうまく踊るんだ。みんなが感心するくらいに」

いろんなものを失って、身動きが取れなくなって、それでもまたもう一度やり直してみたいと願う僕に羊男がこう言います。私はこのシーンがすごく好きです。世界を生き抜くコツは時によってはシンプルにこういうことなのかなあって思います。すごく素直に。もしあなたがどこにも行けなくなってしまったと感じた時、ぜひ思い出してほしいです。

“羊男”は誰なのでしょう。正解は書かれていません。羊の衣装に身を包んでいて、人には見えない“僕のための世界”で生きている。羊男的でないあらゆるものから隠れている。ヒントはたくさんあって、わかりそうなんだけどわからない。僕の心の中の声のような気もするし、古い友人のことかもしれないし、どれも全然違う気もします。でも、だからこの本を通して自分の“羊男”を探す作業が面白いです。

「俺は俺の弱さが好きなんだよ。苦しさや辛さも好きだ。夏の光や風の匂いや蝉の声や、そんなものが好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。君と飲むビールや……」

こう言った僕の友達は死に、『ダンス・ダンス・ダンス』では人気の映画俳優だった友達も死んでしまいます。僕は取り残され、世界の空虚さ、いびつさ、雪かきのような仕事、間違っていると感じながらやっているすべてのこと。たくさんのいろんなものを、ダンス・ステップで乗り切り、最後には消えなかったユミヨシさんと新しい朝を迎えます。いろんなものを失っても、まだ間に合うものがあって、それは生きている限り求め続けなくちゃならないものなんじゃないかと思います。イメージやおとぎ話ではダメで、現実のなかにあるたしかなもの。大切な人や、やりたいことや、自分にできること。そうやってまた踊り続けることが明日をつくっているのかなと思います。

ここには書けなかったけど、料理の描写がすごく好きです! すごく美味しそうなんです! ビールとか……(゜-゜)♡ それと、比喩表現が独特で本当に面白いんです! 読んだことない方はぜひ、この機会に村上春樹さん小説を読んでみてください♪

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