どっちも面白い!映画の原作小説3選

どっちも面白い!映画の原作小説3選

更新:2021.11.10

今の時代、音楽にしろ映画にしろ小説にしろ、ジャンルが細かく分断されているし、言葉によって見えない仕切りを入れられているせいで、カルチャーというものが本来隣接し合っているないしは混ざり合っているものだということが見えづらくなっているように思う。

2013年夏、西千葉駅前整骨院でバンド結成。Dinosaur Jr.とThe Strokesが恋人同士になったような、そこから紆余曲折を経てThe LibertinesとHappy Mondaysが飲み友になってしまったかのような、まるで、ビバリーヒルズ青春白書的な、なんでもありなニューオルタナティブサウンドを特徴とする。 シャンプーをしながら無意識で口ずさむぐらい、曲がポップ。そして、正統派ソングライターの橋本の歌詞はぐっとくるばかりか、歌詞内のさりげない小ネタにも知的センスを感じてしまう。 2014年上旬から数々のオーディションに入賞し、UK.PROJECT主催のオーディションにて、応募総数約1000組の中から見事最優秀アーティストに選出され、同年12月10日にUK.PROJECTから2曲入り8cmシングルをリリース。2015年3月18日にファーストミニアルバム『olutta』をリリースし、FX2015、VIVA LA ROCK2015、MUSIC CITY TENJIN2015への出演を果たす。同年12月18日にはシングル『TVHBD/メリールウ』をライブ会場と通販のみ限定500枚でリリースしたが、3ヶ月ですべて完売。2016年6月8日にファーストマキシシングル『友達にもどろう』をリリース。同年10月26日にファーストアルバム『ME to ME』をリリースする。 Helsinki Lambda Club HP http://www.helsinkilambdaclub.com
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作品が作品を結びつける“共鳴”の作用

例えば20世紀初頭のパリのカフェでは画家も詩人も作曲家も一緒になって談笑し、互いの作品から着想を得るなんてことがあったように、最終的なアウトプットの形が違うだけで表現そのものの出処はそれぞれ密接に絡み合っている。

深く愛した作品というものは、表面的な部分だけでなくその根底にあるマインドやムードなどにも深く魅せられているはずなので、その作品やそれを生み出した人物の共鳴した別の作家の別の作品にも基本的には同じように魅せられることは少なくない。

好きな小説の中でキーワードとなる音楽、好きな音楽の中の一節で歌われる映画のタイトル、好きな映画の中で主人公が愛読する小説を次々と掘っていくという無限のサイクルは、分け隔てなくカルチャーを愛する者にとってはよくあることなんじゃないかと思う。

作り手も受け手もカテゴリーに縛られることなく自由に表現の世界を行き来し嗜むことが、作品をより多角的に楽しむことにも繋がるしより今まで見たことのなかった世界が拓けていくきっかけになるのではないかと思う。

というわけで今回は、本を紹介するコラムでありながら映画を紹介するという暴挙に出ようかと思ったが、それでは結局広がりがないので映画の原作小説というかたちで映画と本の両方に触れてみる。

最低を知ることで見えてくるもの

著者
アーヴィン・ウェルシュ
出版日
2015-08-21

私の中で「90年代」というキーワードだけで真っ先に思い浮かべるのがこのトレインスポッティングだ。

90年代というと、私にとっては10代に満たない頃を過ごした時代であるから、当然その当時にカルチャーというものを理解していたわけではないのだが、物心がつき段々と目に映るものへの興味や認識がでてき始めた時代でもあり、妙に当時の世の中の空気感だったり眺めていたもののことを記憶していて懐かしく思うことがある。

当時私の家の隣にはレンタルビデオ兼レンタルCD屋があり、その店先に貼ってあった映画やバンドのポスターを訳も分からず毎日眺めていたおかげで、思春期に入って例えばNirvanaを聴こうとした時にあのNevermindの赤ん坊のジャケットを見て、あの時貼ってあったポスターこれだったのか!なんてことが往々にしてあった。

トレインスポッティングもまた、そうやってリアルタイムで既に出会っていて時を経て再会した映画なのである。

内容について簡単に説明すると、90年代の不況真っ只中のスコットランドでドラッグやアルコール、暴力やセックスに明け暮れる若者たちの人生の選択を描いた作品だ。

この映画がなぜカリスマ的人気を誇っているかというと、そのファッションや音楽の使い方、演出的に優れたアーティスティックなシーンなどが90年代のカルチャーを総じてクールなものとしてみせているからだろう。本当に素晴らしい映画だと思う。

限られた時間の中で物語の筋道を明確にし、視覚的にクールな演出を散りばめ、閉塞感を漂わせつつも最後には光を覗かせた”映画として”見事なまとめ方であった。だが現実は、というか現実に近い距離感で描かれた原作小説の方はもう少し闇が濃く光の筋も細い。

映画は主人公のレントンを主軸に進んでいくが、小説では常に物語の視線は移り変わる。誰もが何かしらの問題を抱え逃れられず、儚い絆で繋がった仲間たちと時に絡み合い時にすれ違っていく。誰もが主人公であり、また誰もが何者でもないような感じだ。

そんな絶望的な状況の中でも、自分で人生を選択しようという意思のあるレントンはやはり主人公なのだろう。きれいごとの通用しない社会の暗部なんてなるべく目を背けて生きていたいけれど、最近少し心が参っているときに読み返してみたら、その最低さに妙に安心感を覚えた。

絶望の中に身を置かないと見えない希望というものがあるのだなと気付かされる作品。余談だが、映画の中でレントンが実家の自分の部屋で煙草を吸うシーンは何度観ても最高にうまそう。

ビズムニーなドルーグたちの若気のフィリー

著者
アントニイ・バージェス
出版日

スタンリー・キューブリック好きはどうやら世間ではめんどくさそうなやつと疎まれるみたいだが、良いものは良いと言いたい。ただ「博士の異常な愛情」はクソほど寝てしまったが。

キューブリックが映画化したことで原作共にカルト的人気を博した『時計じかけのオレンジ』だが、人によっては嫌悪感しか抱かないであろう強烈かつ見方によっては悪趣味極まりない世界観が最大の魅力の一つだ。

また、観ていない人にはなんのことだかさっぱりわからない見出しの言葉(ナッドサット言葉という造語)もおつむが溶けかかった阿呆な私みたいな者には、真似したくて仕方なくなる響きがある。

なんだか明るくてクレイジーなコメディみたいなものを想像させたかもしれないが、この物語の設定は近未来の高度管理社会においてくすぶりうんざりした少年が“超暴力”に明け暮れたことにより、国家の実験としての介入が迫り……という「暴力」及び「管理社会の功罪」というようなテーマが根底に流れるSF的作品である。

重い議題や功罪を観る者読む者に問いかけてくる作品であるにも関わらず、映画と原作では結末が真逆なのである(色々と理由はあるのだが)。暴力とは何なのか、国家や他人の個人への介入はどこまで許されるのか、時計じかけのオレンジとは何を意味するのか、異なるエンディングの物語から是非多角的に想像し解釈してもらいたいと思う。

今度はサガンが読みたくなる

著者
田辺 聖子
出版日
1987-01-01

高校を卒業するタイミングで映画を観て、大学1年生の時にも授業で扱っていて勉強していたためとても思いで深い作品だ。これは珍しく原作がごく短い短編で、映画の方が物語の裾野を広げた仕上がりとなっている。

とどのつまりはジョゼという女の子と恒夫という男の恋愛を描いた作品なのだが、何が他と違うかというとジョゼは足に障がいを持った女の子であるという点だ。

他と違うと書いた時点で見方によっては差別心があると取れるかもしれないが(個人的にはありのままな差異を素直に認めることは差別ではなく区別だと思っている)、差別や偏見、想像力とは何かについて考えさせられる。

違いを見て見ぬふりするのではなく、その違いにぶつかったときに傷つけ傷つけられることもあるだろうがその都度向き合って考え、一般論を導くのでなく人それぞれに合った解決策を擦り合わせることが大事なのではないかと思う。

それはいわゆる障害があるか無いかということに関わらずどんな人間関係にも言えることだ。人間なんて違って当たり前だ。かなりネタバレになってしまうが、恒夫が最終的によくあるカップルの破局みたいな形でジョゼとの関係が終わったことは、恒夫がジョゼを特別扱いしていないからに他ならないからだと思う(相手が障がい者であるということで勝手に余計な罪悪感を感じたりしていないということではないか)。

最後に余談の嵐を。①映画の挿入歌はくるりが手掛けているためサントラもたいそう聴ける一枚である。②映画にしても小説にしても、食事の描写が細かい作品は無性に信頼できる(ジョゼのばあちゃんが作るごはんがめちゃくちゃ美味そう)。③授業で何度も繰り返し映画を観たのだけど、毎回あのセックスシーンで教室が気まずい空気になっていたなあ。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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