コケの栽培方法を簡単に紹介!苔の種類からテラリウムのコツまで

更新:2021.11.10

日本庭園や神社仏閣といった厳かな景観の、陰の立役者、苔。森のなかや渓谷などの自然豊かな場所に自生しているイメージがありますが、実はご家庭でも手軽に栽培できることをご存知でしょうか。今回は、苔を身近に楽しめる栽培方法についてご紹介します。

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苔の栽培方法とは?

「モスグリーン」の「モス(moss)」は苔を意味するだけあって、その深く美しい緑は見ているだけで癒しを与えてくれます。観賞用やインテリアとして、栽培されることが多いのも頷けますね。

ご家庭で苔を栽培する際に必要となるものは、苔、土、容器のたった3つです。ひとつずつ詳しく見ていきましょう。

・苔

まずは主役となる苔。パックに入ったものであれば、園芸店やインターネットで気軽に購入することができます。ミニ盆栽や苔玉などにアレンジされたものも数多く販売されています。

山林や公園などで自生している苔を採集し、持ち帰るという方法もありますが、アリやクモなどの小さな生き物やカビ菌などが付着している場合もあるため、注意が必要です。

容器や鉢などに入れて栽培する場合、必要なのが土台となる土です。栽培する品種や環境によって適切なものは異なりますが、保水性、排水性、通気性の3点に留意して選ぶようにしましょう。

ヒノキやクヌギの樹皮を特殊加工した樹皮培養土は、保水性に優れ、苔の種類を選ばないことから、育成にふさわしい環境を手軽に作ることができます。

また赤玉土や黒土、川砂などの用土にピートモスやバーミキュライト、腐葉土などの改良用土を混ぜ、オリジナルの培養土を作ることもできます。いずれもホームセンターやインターネットで簡単に入手することが可能です。

・容器

苔には底面を這うように育つ匍匐型のものと、上に向かって育つ直立型のものがあります。そのため育成する種類や量を考慮して、最適な大きさ、深さのものを選ぶ必要があるのです。

専用のコケポットなども販売されていますが、お手持ちのガラス瓶などを使って、後述するテラリウムのような楽しみ方もできますよ。

苔にふさわしい環境づくり

・適度な日当たり

湿った暗い場所で育つイメージの強い苔ですが、乾燥した場所にも自生します。種類によっては日光の当たる明るい場所を好むものもあるため、自生している場所になるべく近い環境で栽培するようにしましょう。

室内栽培に適した種類は、1日に数時間ほど日光の当たる半日陰から、木漏れ日程度の日陰を好む種類が多いです。

蛍光灯やLEDでも充分に育ちますが、1日中真っ暗な場所では光合成ができないため生長が止まってしまいます。いずれにしても、直射日光の当たらない場所で栽培するように心がけましょう。

・湿度

基本的には種類を問わず、湿度が高い場所でよく生長します。そのため屋外に置く場合は、風通しのよすぎる場所や、乾燥しがちな室外機のそばは避けるようにしましょう。

室内で栽培する場合は、どうしても容器内に空気がこもってしまいがちです。カビが生えたり、蒸れたりするのを防ぐため、季節によって置く場所に工夫をしましょう。

・水やり

苔は乾燥している状態が長く続くと、生長が止まり休眠してしまいます。屋外で栽培する場合、1日1回を目安にジョウロなどで優しく水をやりましょう。乾燥するときは朝夕2回、梅雨などの雨が続く時季は特に水をやる必要はありません。

日当たりのよい場所で育てる際には、蒸れやヤケを防ぐため、夏場は日中の水やりを避けるようにしましょう。

室内栽培の場合は、1日に何回水をあげなければいけないといった決まりはありません。種類や生育環境で大きく変わるため、苔や土の状態をよくチェックし、乾いてきたなと思ったら霧吹きなどで湿らせてあげましょう。

育てやすい苔の種類

コケ植物は蘚苔類とも呼ばれ、地球上でもっとも古い歴史をもつ植物のひとつです。世界各地に自生しており、およそ2万種が確認されています。

日本にはその1割にあたる2000種ほどが自生していることから、世界でも有数の苔の国であるといえるでしょう。ここでは特に栽培しやすい種類をご紹介していきます。

・ギンゴケ

富士山の頂上から南極大陸まで広く自生しており、都市部でもアスファルトの地面やブロック塀の隙間など、身近なところに生えています。

そのため採集も容易で、過酷な環境に強く、育成のしやすさは抜群だといえるでしょう。銀白色を帯びた緑色をしており、小さな葉が重なるように密生して生えます。育てるうえで場所は選びませんが、日当たりのよい温かなところを好む性質があります。

・スナゴケ

日の当たる山間の地面や、岩上に自生する黄緑色の小型の苔です。葉は小さな星のような形をしており、湿度の高い場所では鮮やかな濃い緑色に変化します。

生育速度がはやく乾燥にも強いため、苔庭から苔玉、テラリウムまで多岐にわたって使用されています。剥がれやすいという特徴があるため、水やりやトリミングは優しくおこないましょう。

・ハイゴケ

低地を中心に広く自生し、苔玉などにも使用されるもっともポピュラーなもののひとつです。その名のとおり地面を這うように生長します。生命力があり、石や流木などへの着生も容易におこなえます。

日当たりが強いと葉が褐色を帯びるため、直射日光の当たらない半日陰で育てましょう。

・ホソバオキナゴケ

半日陰の木の根元や腐植土の上などによく見られ、ヤマゴケという名でも知られています。乾燥にも強く繁殖力もあるため、盆栽や苔庭などに古くからよく用いられる品種です。

葉は白緑色で光沢があり、群生する姿はまるでビロードのよう。成長がはやいため、小まめなトリミングを心がけましょう。涼しい環境を好みます。

・カモジゴケ

群生する葉先が動物のしっぽのような形をしているカモジゴケ。山間部の腐葉土などに多く見られ、1年をとおして色鮮やかな緑色が特徴的です。扱いやすく耐寒性にも優れ、小型であることから、テラリウムなどにもよく使用されています。

直射日光は避け、日陰~半日陰の場所で栽培するようにしましょう。

テラリウムの始め方と栽培のコツ

ミニ盆栽や苔玉など、室内栽培だけでもさまざまな楽しみ方ができる苔。なかでも今回ご紹介したいのがテラリウムです。テラリウムとは、水槽や小瓶などの透明な容器の中で植物を育てる、鑑賞栽培のことを指します。手のひらサイズから楽しめるため、インテリアとしてもぴったりです。

テラリウムに必要なもの

必要なものは基本的に他の栽培方法と変わらず、苔、土、容器の3つ。100円ショップなどで売られているガラス容器や、ジャムなどの空き瓶で栽培することも可能です。

小さな容器の中は湿度が高くなりがちなため、根腐れ防止剤やテラリウム用のソイルなどを使用する場合もあります。枝流木や小石、貝殻、ミニチュアのフィギュアなどがあれば、さらに自分だけのオリジナルなテラリウムを作れますよ。

テラリウムのコツ

密閉容器で栽培する場合は、水分が容器内で循環するため、小まめに水やりをしなくても充分に育ちます。2、3週間に1度水をやり、1週間に2、3回はフタを外して、中の空気を入れ替えてあげましょう。

苔が生長して伸びすぎてしまうと、内部の空気の循環が妨げられてしまうため、トリミングなどをおこなって、最低でも容器の3分の1程度を目安に空間をとるようにしましょう。容器の材質や環境によっては、カビの発生や結露などにも注意が必要です。

フタのない容器で育てる場合は、乾燥しやすいというデメリットがあります。土や苔の状態を見ながら、1日数回小まめに霧吹きで湿らせてあげましょう。エアコンの直風や熱をもつ電化製品の近くは避けるなど、置く場所に気を付けることが重要です。

栽培入門者のための心強い一冊

苔を初めて栽培する方におすすめしたい一冊。特別な知識がなくても本書さえあれば、栽培を始めるにあたって必要な基本的知識は、ほぼ手に入るといってよいでしょう。

美しい写真で紹介される図鑑も必見です。

著者
出版日
2015-07-17

小瓶などに入れたコケ――通称「苔ボトル」を、職場のデスクやダイニングテーブルといったいつも目に入る場所に飾り、身近に栽培を楽しもうというのが本書のテーマです。

そのため全ページの半分近くが、育て方や苔ボトルの作り方といった実用的な情報に割かれています。簡素な文体で、要点をおさえ丁寧に説明されているため、園芸初心者にも親しみやすい内容です。

後半は日本に自生する苔を紹介した、フルカラーの図鑑になっています。拡大写真も掲載されているため、種類による違いが一目瞭然。インテリアとしての楽しみ方も紹介されているため、「ちょっと地味」といったイメージを覆す、おしゃれな魅力を発見できます。

本書を読めばきっと、栽培を始めてみたくなることでしょう。

コケ愛あふれる異色の入門書

エッセイ調の文体やほのぼのしたタッチのイラストで、気負わずに読むことができる本書。ユーモア溢れる語り口で、苔の魅力が余すところなく伝わってきます。

あまり興味のない人や、これから調べてみようかなという方にもおすすめできる一冊です。

著者
藤井 久子
出版日
2011-05-23

可愛らしい表紙が印象的な本書には、苔の探し方やルーペの使い方など、実際に鑑賞する際に役立つ情報が満載。著者によるオススメのスポットなども紹介されています。簡潔でポイントをおさえた解説で、肩の力をぬいて楽しんで読める一冊です。

特筆したいのが巻末のキャラクター図鑑。50種すべてキャラクター化されており、種類ごとに特徴を捉えた表イラストには、思わずくすりと笑ってしまいます。あなたも本書を片手に、苔探しの旅に出かけてみませんか。

コケの生態を知るためのガイドブック

生態や分類などの基礎知識はもちろん、種類による見分け方や標本の作り方まで、多彩なトピックスが特徴の本書は、まさに苔ワールドのガイドブック。

ハンディサイズで持ち歩きにも便利ですよ。

著者
樋口 正信
出版日
2013-06-15

国立科学博物館・植物研究部の樋口正信によって書かれた本書は、苔の生態について広く知りたい方にぴったりの一冊。苔料理や苔文学、日本人との関係など、ついつい人に話したくなるような、さまざまな角度から焦点が当てられています。

専門性の高い内容ながらも明快な解説でわかりやすく、オールカラーで写真も豊富。普段見過ごされがちな苔に興味をもつきっかけとなるでしょう。全国学校図書館協議会選定図書にも選定されているため、自由研究などの参考図書としても最適です。

今回はコケの手軽な楽しみ方として、ご家庭での栽培方法を中心にご紹介しました。実際にテラリウムを作りお部屋に飾ってみるもよし、本を片手にコケ探しの旅に出かけるもよし。この機会に1度、私たちの身近な場所でひっそりと息づいているコケの世界の魅力を、見直してみてはいかがでしょうか。

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