生きると死ぬの境界線を考える

更新:2021.11.28

小学生の頃、教室の外をぼんやり見ながら「死ぬってどんなん?」「死後の世界ってあるのかな?」「明日死んだら嫌だな、将来何になろ?」自問自答の堂々巡りをしていました。それはプロレスラーになった今もまったく変わりません。10月10日、頚椎損傷。ドクターストップがかかり、現在試合を欠場しています。こんなときだから、というわけではないのですが、今回は生と死の境界線を考えさせられる本をご紹介します。

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リング上で日々戦っていると生と死の境を意識することがあります。

例えば“鉄柱越えトペコンヒーロ”という技。3メートルは優に超えるリングのコーナーポスト最上段から一回転して背面を場外の相手にぶつけていく技なのですが、やはり踏み切る瞬間、毎回「死」を覚悟します。相手に命中せず地面にたたきつけられると翌日に血反吐が出たりもします。シャレにならない痛みです。

しかし、これは「死」から近いようでもありますが、反対に遠くもあります。大観衆の歓声を聞くとアドレナリンが出て、痛い技も耐えられるし、怪我も怪我だと気が付かなかったりもするので「自分はもしかしたら不死身なのかも……」という錯覚に陥ります。

試合に勝って、リングのど真ん中で両手を挙げる。これも今、生きているという実感を得られる最高の瞬間です。こんな風にプロレスラーとして生きていると、生と死への距離感がよく分からなくなっていきます。その境界線はきっと曖昧。生と死への興味は尽きません。

ぼくがいま、死について思うこと

著者
椎名 誠
出版日
2015-12-23

椎名誠さん著の本というと、僕のなかではやっぱり旅行記なのですが、そんな旅人の大先輩の死生観とは?が気になって手に取った本。

健康診断を機に「自分の死について真剣に考えたことはありますか?」と医師に聞かれて、そこで初めて著者は死について考え始めます。普通に生きていて、ある日突然ふと訪れる死の話題。死とは近いのか遠いのか……答えは出ないし、この本を読んでも書いてないけど、その答えの輪郭はおぼろげながらも見えてくるような気がします。

裁判長!おもいっきり悩んでもいいすか

著者
北尾 トロ
出版日
2012-12-04

裁判傍聴マニアの北尾トロさん。裁判傍聴記を面白おかしく描いた過去の2作品『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『裁判長!これで執行猶予は甘くないすか』を経て、裁判員制度が施行されたのを機に世に問う本。

裁判官というのは裁判をたくさん抱えていて途中で交代したりする事実や過去の判例がある程度の基準となってくる永山基準の存在など「裁判とはなんぞや?」を分かりやすく解説してくれます。死刑か無罪か、はたまた無期懲役か。この本は判決の想定問題集になっており、事件のイメージがとてもしやすい。それだけに、自分がもし裁判員制度で選ばれたらと想像するだけでも怖いです。

死刑のための殺人

著者
読売新聞水戸支局取材班
出版日
2014-03-18

自分のなかでの常識は、他人の常識ではないと改めて痛感させられるノンフィクション。

違う価値観に触れるという意味では、この本以上の恐怖を味わったことがありません。死刑になりたくて罪を犯した男に死刑を執行することは、単なるご褒美になってしまうのではないか……男の前で死刑は犯罪の抑止効果を持ちませんでした。最期まで死刑を望み淡々と死んでいった、誰も救われない事件。いろんな正義がある……けれど法律はひとつしかないという事実。絶望しかない本ですが、人の命は重く、そしてそれは自分だけの命ではない。せめてもの救いに、僕はそう信じたい。

裁かれた命

著者
堀川 惠子
出版日
2015-12-15

死刑判決を受けた男からの手紙。受け取った担当検察官の複雑な心境、死刑という装置が生み出す人間の葛藤を描き出した本。

戦後、死刑囚に塀の中で小鳥の飼育が許可されていたとは初耳でした。死刑囚を取り巻く拘置所の状態も時代と共に変わっていっている模様。あらためて、人生の明暗を分ける生と死の境界線は曖昧で脆い。傍観や無知が時として人を傷つけて加害者になってしまうことだってある。いろんな角度から生と死について考え始めたら、1日たりとも無駄な時間を過ごしている暇はなくなります。これらの本を読めば、そう気を引き締めざるを得ません。

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