小説『中二病でも恋がしたい!』の魅力を全巻ネタバレ紹介!

更新:2021.11.10

特別な存在になりたい。そんな願いと思春期特有の全能感が生み出した「中二病」という自意識は、大人になってみれば恥ずかしくて消したい過去になります。それゆえに、その最中の爆発的な楽しさは何物にも代えがたいのです。ようこそ、中二病の世界へ!

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恥ずかしくて懐かしいあの日々を描く『中二病でも恋がしたい!』とは

記念すべき第1回京都アニメーション大賞奨励賞を受賞し、テレビアニメ化のみならず映画化もされた人気作品です。地の文の独特な語り口調に加え、キャラクターたちの個性が光ります。

この小説では、「中二病」と呼ばれる人たち、または呼ばれていた人たちが多く登場するのが特徴です。中二病とは「自分は特別な存在である」とか「自分には特別な力が備わっている」など、思春期独特の自意識における行動・妄想をする様子を揶揄した言葉で、主に中学校2年生あたりからこの傾向が見られることが多いという理由から「中二病」と名付けられました。

大人になってからは恥ずかしさ、胸の痛み、そして懐かしい思い出となっていく「中二病」時代のきらめきを鮮やかに描き上げている本作。2017年10月のテレビアニメ再放送にあわせて、その魅力をご紹介します。
 

自分を大切にするための方法を模索する『中二病でも恋がしたい!』1巻

「契約完了」(『中二病でも恋がしたい!』1巻より引用)

主人公は高校1年生の富樫勇太(とがしゆうた)。実は彼には秘密があります。それは、中学時代の自分が「中二病」だったということです。

勇太は中二病だった自分を過去のものとして決別し、まっとうな人間になろうと中学から離れた高校に進学します。しかしそこで出会ったのは、現在進行形で中二病である小鳥遊六花(たかなしりっか)でした。

この勇太と六花の出会いは、物語にどんな波乱を呼ぶのでしょうか……。

著者
虎虎
出版日

第1巻の魅力は、六花の中二病らしさと人間関係における不器用さ、そして可愛らしさにあります。六花は無口で無表情な人物に憧れており、「邪眼」(イービルアイ)をもつ存在であることを装って高校に進学してきました。

六花は、「魔力を宿し金色に輝く右目(邪眼)を封印する」という設定のため、右目に金色のカラーコンタクトを装着し、さらにその上から眼帯をつけています。さらに、左腕には「刻まれた紋章を封印するため」という設定で包帯を巻いているのです。

はたから見るとケガをしたか弱い少女、といった様子の彼女ですが、口を開けば自分は特別な存在であることを言い募り、教師や周囲を戸惑わせます。さらに勇太に対し、唐突にカラーコンタクトを入れた右目を曝け出して「契約完了」と呟くのです。

六花の勝手な「契約」により、勇太は戸惑いながらも彼女と交流を持つようになります。そしてそのなかで、勇太もまだ完全に「中二病」から脱していないことが明らかになるのです……。

かくして、勇太の六花との掛け合いでは、互いに過剰な自意識が発露し「闇」や「呪文」といったファンタジックな言葉が飛び交うことになります。

しかし実は、六花が中二病的な言動をするのは、苦手なものから逃げるためだったり、家族から疎んじられながらも自分を保つためだったりと、切ない理由があったのでした。

他者、特に家族に認めてもらえないことで精神的な成長が阻害されてしまった六花が、勇太の「中二病」の名残にすがり、懸命に人間関係を構築していこうとするいじらしい姿は必見です。

恋のライバル登場!六花が誘拐される!?2巻

意を決して勇太を「契約者」に選んだ理由を明かした六花。その関係から派生して、2人はめでたく恋人同士になります。

中学時代に「中二病」で過ごした勇太と、中学2年ごろから「中二病」となった六花は、互いに恋愛初心者。ぎこちないながらも初デートへと向かいます。行き先は水族館でした。

こんな高校生活を送ってみたかったと読者を唸らせる、甘酸っぱく、しかし中二病的言動であふれたデートが開幕するのです。

著者
虎虎
出版日
2011-12-28

第2巻の見どころは、初々しいカップルの様子と、そこへ突然現れる奇天烈な外見の少女・七宮智音(しちみやさとね)にあります。

まず、勇太と六花の2人ですが、六花の闇と邪眼の能力の設定はそのままにおこなわれる水族館デートはまさに微笑ましいのひと言です。

さらに勇太が六花の自転車の練習に付き合うなど、彼の面倒見の良さも発揮されます。そんな2人の仲睦まじさは校内でも発揮され、周囲を驚かせることになるのでした。

しかし、そんな2人を引き裂こうとする人間が現れます。それが魔法魔王少女「ソフィアリング・SP・サターン7世」を名乗る、七宮智音です。彼女は勇太の中学時代の同級生であり、彼が「中二病」となるきっかけとなった少女。そして勇太の唯一といえる友人であると同時に、中二病だった彼の理解者でもありました。

実は勇太のことが好きだった智音でしたが、中学2年のときに転校し、離れ離れになってしまいました。それから数年、勇太と再会した智音は彼への恋心を強く自覚し、まっすぐにその思いをぶつけるようになるのです。

智音が恋心を暴走させて六花を誘拐したり、勇太を巡って恋のバトルをくり広げるさまは、純粋すぎてどこか切なく、六花ファンの心をも揺るがします。

新たな幕開けがゲリラ的に始まる『中二病でも恋がしたい!』3巻

「私くんに貴方の恋人を下さいっ!」(『中二病でも恋がしたい!』3巻より引用)

勇太に向かって土下座する、1学年上の先輩、天虹旱(あまにじひでり)。ある日、虹色の髪をもつ彼女は突然勇太に「六花が欲しい」と懇願してきたのです。

戸惑いながらも事情を聞く勇太に、旱は自身が所属する「個性派演劇部」の文化祭公演に、六花に出演してほしいのだと説明します。乗り気な六花の様子に勇太も劇の助っ人をすることを決め、文化祭の準備が始まるのでした。

著者
虎虎
出版日

第3巻の魅力は、新登場の先輩・旱のユニークなキャラクターと、彼女が中二病となった経緯にあります。旱は黄色、赤、オレンジ、ピンク、紫、青、水色のカラフルな髪を持ち「七色の髪の乙女」と呼ばれる変わり者です。

そんな彼女は「普通」であることを忌避し、他者とは異なる言動を意識的にくり返していきます。そのきっかけとなったのは、中学生の時の両親の離婚、さらに当時の担任に「普通」だと言われた経験でした。

それ以来、旱は特別な存在でありたいと望み、特別でいないと世界から消し去られてしまうという恐怖におびえるようになります。意識的に自分を作りあげるその姿は、思春期の繊細な自意識そのものだといえるでしょう。

もっともそんな彼女は特別な自分を演出しながらも、自分が周囲と違う価値観を持っていることに悩み、葛藤していました。しかし、勇太や六花と関わるうちに自分は中二病であり、種類は違えど中二病の仲間がいると知って、その苦悩を解消していくのです。

旱はそれまで、自分が失われないため、という消極的な理由で特別であることを選んでいました。しかし、勇太や六花と関わるなかで、「自分らしさや楽しさを追求するために特別な存在になろう」と考えを改め、前を向こうと微笑ましい姿をみせます。

実は文化祭での公演許可をとっていなかったという個性派演劇部が、勇太たちのクラス発表の直後にステージを占拠してゲリラ公演おこなうメインシーンに加え、演劇部に勇太と六花を加えて新たに団体を発足させるなど、今後が気になるラストとなっています。

テレビアニメ再放送のみならず、2018年1月には新作映画が公開予定の『中二病でも恋がしたい!』。地の文からはじけるギャグと中二病さをぜひじっくりと味わってみてください。

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