『向ヒ兎堂日記』が面白い!妖怪×謎解き×明治レトロな漫画の魅力ネタバレ紹介

更新:2021.11.25

人間と妖怪の心あたたまる人情話で、疲れた心を癒してくれる『向ヒ兎堂日記』。可愛らしい妖怪と明治レトロな世界観が混ざりあう不思議な妖怪譚です。作中に流れる独特の雰囲気にはまる、本作の見どころを紹介します。

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『向ヒ兎堂日記』が面白い!読み応え抜群なレトロファンタジー漫画

 

『向ヒ兎堂日記』は、鷹野久が描く妖怪を扱ったファンタジー漫画で、累計30万部を超えるヒット作です。

絵を見ただけで伝わる柔らかいタッチで描かれる物語は、優しくゆったりと時間が流れているような不思議な空気感をまとっています。この独特の雰囲気にハマる読者が多いんです。

明治時代を舞台に、文明開化により昔から代々語り継がれてきた怪談や妖怪奇譚といった非科学的なものを扱った書物が排斥されるなか、取り締まりをおこなう取締局に隠れて怪談本を扱う「向ヒ兎堂」という貸本屋がありました。

「向ヒ兎堂」には人間だけど幼い頃から妖怪が見える伊織と、化け狸の千代、猫又の銀の3人が働いています。巻き込まれ体質の伊織が、店に訪れた妖怪や偶然出会った妖怪の相談を聞いて、悩みを解決していくという物語です。

妖怪を扱った作品ですが、人間目線の妖怪退治ものではなく、妖怪と心を通わせて妖怪側の目線から問題解決を図り、人間と共存をしていくという展開が多く、心温まる人情話が特徴的になっています。

今回はそんな『向ヒ兎堂日記』の魅力を、最終巻である8巻までネタバレを交えながら紹介していきます。

 

著者
鷹野 久
出版日
2012-11-09

漫画『向ヒ兎堂日記』あらすじ

主人公の伊織は、政府に隠れて怪談本を取り扱う貸本屋を営んでいます。一緒に働く化け狸の千代や猫又の銀らと、日々悩みを持って訪れる妖怪たちの相談を解決していました。

ある日、取締局で働く夫を持つ藤乃から、かつて陰陽師が使っていた占星術の本を買い取ります。すると伊織の爪が赤くなり、その状態で彼が触れた妖怪は人間から見えなくなるといった、奇妙な現象が起きはじめるのです。

何かの予兆かと不審に思う伊織をよそに、取締局による怪談本の規制は厳しくなっていきます。街中では妖怪の目撃談が多数報告されるようになってきました。

伊織は、自分の異変と妖怪の目撃談の多発を機に、自らの過去と、眼帯で隠している自分の右目の真相にも向き合っていきます。

『向ヒ兎堂日記』の主な登場人物をご紹介!

著者
鷹野 久
出版日
2013-05-09

登場人物①【兎崎伊織(とざきいおり)】

貸本屋・向ヒ兎堂の店主です。怪談本を主に扱っており、伊織に怪(あやかし)が見えることもあり、お店にはさまざまな怪のお客さまが相談に来ます。

なぜ彼が怪の姿をとらえることができるのか……それは、彼が常に眼帯をつけた右目にどうやら秘密があるようです。

登場人物②【千代】

向ヒ兎堂で手伝いをしている、化け狸の女の子です。短い黒髪にはツバキの花のようなものを付けており、見た目は可愛らしい少女ですが、意外と毒舌な一面も。化け狸らしく、葉っぱに息を吹きかけて、願い通りのものに変化させることができます。

どのような経緯で伊織と出会ったのか、千代の過去について気になるところです。

登場人物③【銀】

猫と青年の姿を自由に入れ替えることができる化け猫です。悪事を働こうとする人間にイタズラをするなど、少しやんちゃな部分もあります。ただ、自分の気持ちに素直に動けるタイプで、そこが彼の魅力でもあります。

 

魅力1:全体に流れる雰囲気が唯一無二!

魅力1:全体に流れる雰囲気が唯一無二!
出典:『向ヒ兎堂日記』1巻

この作品の魅力といったら、まずは何といってもこの明治レトロな独特の雰囲気です。江戸時代の名残で和服を着ている庶民と、洋服を着ているハイカラな人々や位の高い人といった、明治時代ならではの和洋折衷が移りゆく時代を物語っています。

西洋文化が入ってくることで日本文化の衰退していくさまと、怪談本の厳しい取り締まりや妖怪の排斥が相まって、切なく虚しい雰囲気が出ているところも忘れてはいけません。

また、キャラクターごとに描かれるタッチが異っています。向ヒ兎堂のメンバーは柔らかめのタッチで描かれていて優しい雰囲気が出ているのに対し、取締局のメンバーである都築は厳しい性格が表れるようひと際凛々しく描かれていて、それぞれにオーラを感じることができます。

そして、シリアス調な物語に本作の持ち味である独特のユルさを加えている要因ともいえるのが、猫又の銀の存在です。彼はお調子者で適度に間が抜けていて、可愛らしい猫の外見でくつろいでいるため、ほどよく間が生まれてシリアスとギャグの緩急が絶妙なバランスで成立しているんです。

これらすべてがうまい具合に混ざり合って、文明開化真っ只中の明治時代のせわしなさに、ちょっぴりユルい雰囲気が溶け込んで、唯一無二の雰囲気が出ているのでしょう。

魅力2:謎が謎を呼ぶ、読み応え抜群のストーリー!

 

2つ目の魅力として、ゆったりと流れるようなストーリー展開の間に挟まれる伏線が読者を飽きさせずに離さない点があげられるでしょう。

この作品の大きな謎のひとつに「主人公の伊織がなぜ妖怪を見ることができるのか」というものがあります。ほかにも「伊織の右目の謎」「陰陽師でない伊織がどうして陰陽師が使う占星術の本に反応するのか」そして「取締局の人間が元陰陽師で構成されている」といった陰謀説を予感させるような謎が次から次へと出てきます。

妖怪という非科学的で存在自体が謎の存在と、国が関わる組織の動向だけでも気になるのに、ミステリアスで不思議と色気を感じる主人公に気になる過去があるなんて、ミステリー好きじゃなくても気になっちゃいますよね。

 

著者
鷹野 久
出版日
2013-12-09

魅力3:心温まるエピソード多数!

魅力3:心温まるエピソード多数!

 

出典:『向ヒ兎堂日記』1巻

この作品を支える屋台骨ともいえる魅力が、心温まるエピソードの数々でしょう。

なかでもおすすめのエピソードは、1巻に収録されている第1話の「牡丹」と、4巻に収録されている第27話の「河童」の2つです。

「牡丹」では、取り壊しが決まった武家屋敷の庭の一角に華麗に咲き続けている「お化け牡丹」を、家が取り壊される前に他の場所に植え替えるという依頼を、「お化け牡丹」の原因ともいえる花の精から受けることになります。

夜の間にこっそり牡丹を移動させることに成功した向ヒ兎堂の一味。願いを叶えてもらった花の精が最後に庭を去る際に、牡丹を大事に育ててくれた武家屋敷の主人に対し、挨拶をします。

このシーンのコマ割りやアングルなどの演出が、別れの余韻をうまく表現しているのです。また、多くを語らない伊織や兎堂の面々もいい味を出しています。

「河童」は、川で水遊びをしていた河童が都会から来たある人間の兄弟と知り合い、一緒に遊んでひと夏を共に過ごすも、兄弟は夏が終わったら都会の街に戻らなくてはならずお別れすることになるお話です。

別れ際、兄弟が河童に「何かあったら訪ねておいで」と言って、家の住所を書いた紙を渡しました。

しかし河童は文字を読むことができないので彼らに会いに行くことができません。とりあえず街に出てきた時に、偶然、伊織と銀に遭遇するのです。

兄弟の家に案内してもらった河童。しかし直接会話をすることはありません。2人の寝顔を窓の外から覗き込み、自分が来た証拠として置き手紙を残していくのです。

物語は翌朝この置手紙を兄弟が見つけて、2人が笑顔になるシーンで終わります。

置手紙で気持ちが通じあうということが、本来は交わることのない妖怪と人間の関係を表しているようで、グッときませんか?

ひとつひとつのエピソードに派手さはないものの、このようになんだかじんわりと胸に残るようなメッセージ性の強いエピソードが、この作品には多いんです。

上記の2つ以外にもおすすめしたいエピソードはたくさんあります。気になる方はぜひ実際に読んでみてください。

『向ヒ兎堂日記』最終8巻あらすじ【ネタバレ注意】

ここからは、最終8巻のあらすじをちょっぴりご紹介します。

取締局が元陰陽師で構成されているのは、陰陽師の復権をもくろむ一派が、捕らえた妖怪を利用して人を襲わせるように仕組み、陰陽師を必要だと思わせることにありました。

その計画を知った向ヒ兎堂一味と、取締局を抜けた都築、そしてその妻である藤乃は、取締局に封印されている鬼の白姫を復活させます。そして伊織は目覚めた白姫に、自分と陰陽師の繋がり、白姫と陰陽師との関係について訪ねるのです。

著者
鷹野 久
出版日
2017-07-07

8巻の見どころは、都築と取締局の面々の対決です。この作品のなかでもっとも緊張感があり、ボルテージが高まるエピソードだといえるでしょう。とにかく都築が圧倒的に不利な状況なのですが、妻の藤乃を守りながら、クーデターを起こした取締局を説得するシーンはシビれます。
 

また、おそらく『向ヒ兎堂日記』のファンが再登場を待ちわびたであろう、第1話に登場した花の精が再登場しちゃいます。その登場の仕方がまた義理堅くて、とってもいじらしいんです。

そして、最終巻にしてやっと、あのキャラクターの恋にもついに進展が見られます。誰と誰なんでしょうか?気になる方はぜひその目で『向ヒ兎堂日記』の最期を目撃してください。

日々の疲れで心がささくれだってたり、人間関係で悩んでいる方は、読むと心が温かくなる癒し系の作品です。単純に登場する妖怪もカワイイので、見ているだけで楽しいですよ。ぜひ読んでみてくださいね。

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