『鍵のかかった部屋』原作「防犯探偵・榎本」シリーズの魅力を紹介!

更新:2021.11.11

テレビドラマ化され、人気を博した『鍵のかかった部屋』。原作となる貴志祐介の「防犯探偵・榎本」シリーズは、密室トリックをふんだんに施した傑作小説です。ここでは、2017年現在刊行されている4作目まで、本シリーズの魅力をご紹介していきます。

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「防犯探偵・榎本」シリーズとは

本作は、貴志祐介の推理小説シリーズです。第1作目となる『硝子のハンマー』は、2005年に日本推理作家協会賞を受賞しました。その後、『硝子のハンマー』では採用されなかったトリックを活かした、いくつかの短編が執筆され、シリーズ第2作目となる『狐火の家』が刊行されるに至り、シリーズ作品となりました。

内容は、防犯ショップ「F&F」の店長兼「防犯コンサルタント」である、榎本径が探偵役を務め、美人弁護士の青砥純子とともに、さまざまな難事件を解決していく本格ミステリー。全編において、密室殺人事件がテーマとなっているのが特徴です。2017年現在、4作品が発表されており、いずれも高い評価を受ける人気シリーズとなっています。

ここでは、そんな貴志祐介の「防犯探偵・榎本」シリーズを、全作品刊行順にご紹介していきます。

オフィスビルを舞台に榎本・青砥コンビが難解な謎に挑む!

「防犯探偵・榎本」シリーズ第1弾となる『硝子のハンマー』は、とあるビルで起きた密室殺人事件の謎を追う傑作長編小説です。

港区六本木にある12階立てのオフィスビル、通称「ロクセンビル」で殺人事件が発生しました。ロクセンビルでは、12階から下3フロアを介護サービス会社「ベイリーフ」が占めており、最上階にある社長室で、社長の頴原昭造が撲殺されていたのです。

容疑者にあげられたのは、会社の専務である久永篤二。犯行のあった時刻には、社長室と同じフロアにある専務室で寝ていたと言うのですが、監視カメラにとらえられずに、密室と化した社長室に入ることができたのは、彼だけだと推察されていました。

そんななか、犯行を強く否認する久永の無実を証明すべく、弁護士の青砥純子が、防犯コンサルタントの榎本径に調査を依頼します。榎本は他の侵入ルートについて、さまざまな可能性を考え調べていくのですが……。

著者
貴志 祐介
出版日

前半、榎本と純子は密室トリックの謎を解明するべく、さまざまな仮説を立ててそれを検証していきます。

万全の防犯セキュリティを施したオフィスビルで、密室の謎を解くのは容易ではありません。立てた仮説は次々と壊されていくのですが、防犯システムについての専門知識が詳細に書かれ、とても興味深く読んでいくことができます。2人の軽妙でテンポの良いやりとりも面白く、魅力的なコンビによって、謎解きの世界へどんどん引き込まれていくことでしょう。

後半は一転、犯人の視点から、犯行に及ぶまでの経緯が詳細に語られるという斬新な構成になっています。トリックの謎解きだけでなく、登場人物たちが織り成す人間ドラマも堪能することができ、読み応え十分。細かいところまで丁寧に描かれている作品なので、ドラマで内容を知っているという方でも、新しい発見をしながら楽しむことができる一冊です。

タイプの違った4つの物語が楽しめる

「防犯探偵・榎本」シリーズ2作目となる『狐火の家』は、榎本と純子の活躍を描く謎解き物語、全4編が収録されている連作短編集。コミカルな場面も多く、とても読みやすい作品です。

表題作の舞台となるのは、長野県の山間にある荒神村。中学校3年生の西野家の長女、愛美が殺害される事件が発生しました。現場は古くから建つ日本家屋で、遺体の第一発見者は父親の真之。彼は帰宅して娘の遺体を見つけ、ショックで茫然としているところを、偶然訪ねてきた真之の友人、遠藤晴彦に発見されたのです。

ところが捜査の結果、家全体が密室となっていたことが判明。犯人が外部から侵入した形跡もないことから、父親の真之に疑いがかけられました。そこへ、密室事件に詳しいとして、急遽軽井沢にいた純子が呼び出されます。当初は1人で事件解決に挑もうとしていた彼女ですが、難事件だったため榎本に助けを求めることとなりました。

著者
貴志 祐介
出版日
2011-09-23

この表題作は2つの密室殺人が発生する、短編とは思えないほど濃密な物語です。榎本の論理的推理が小気味良く、昔ながらの日本家屋の特徴を活かしたトリックには、驚かされるのではないでしょうか。真相はとても切ないものになっており、印象深く心に残るミステリーになっています。

他に収録されているのは、ちょっと変わったペットが登場する「黒い牙」、将棋の世界を舞台とした「盤端の迷宮」、劇団員殺人事件を描いた「犬のみぞ知る Dog Knows」の3編。背筋が寒くなるようなものから、ユーモラスで笑ってしまうものまで、さまざまな趣向が施されています。それぞれの物語でテイストの変化まで味わえるので、飽きることなく読み進めることができるでしょう。

バリエーションに富んだ密室トリックが光る

『鍵のかかった部屋』は、このシリーズがテレビドラマ化された際のタイトルに使われました。シリーズ第3弾となる本作には、多彩な密室トリックを楽しめる4つの短編が収録されています。

表題作の主人公・会田愛一郎は、かつて「サムターンの魔術師」の異名を持っていた空き巣狙いでした。5年前に懲役の判決を受けて服役し、刑期を終えて出所することになります。会田が服役中に、姉のみどりは亡くなってしまい、出所した会田は、可愛がっていた姪と甥に会おうと、みどりの再婚相手、高澤芳男の家を訪ねました。

ところがその日、甥の大樹が、自室で一酸化炭素中毒により死亡してしまいます。部屋には内側から鍵がかけられていましたが、会田の持っていたサムターン回しの器具でどうにか開けることができました。室内にはバーベキューコンロと灰になった練炭が置かれ、完全な密室となっていたことから、警察は自殺と断定。納得がいかない会田は、古くからの友人、榎本径に相談し、青砥純子の協力を得て事件を調査することになり……。

著者
貴志 祐介
出版日
2012-04-25

サムターンとは一般の家庭でもよく見られる、室内側からつまみを回して鍵をかける金具のことです。鍵についての詳しい記述には驚かされるばかりで、防犯対策についてもいろいろと考えさせられてしまうのではないでしょうか。

物理学を巧みに利用した密室トリックを、鮮やかに解き明かしていく様子は爽快の一言。犯人と榎本の対決にもわくわくさせられるばかりです。

本作では表題作のほか、「佇む男」「歪んだ箱」「密室劇場」の3編を収録。どの短編でも比較的トリックの解明に焦点が当てられており、ミステリーが好きな方が気軽に楽しめる短編集になっています。榎本と純子の絶妙なやり取りも健在で、前作以上にコミカルな要素が増えました。

楽しみながらも、多彩なアイディアに脱帽してしまう魅力的な作品ですから、ぜひ1度読んでみてくださいね。

華麗な謎解きに酔いしれる待望のシリーズ最新作

シリーズファン待望の新作となった『ミステリークロック』。犯人と榎本のスリリングな頭脳戦を描いた4つの物語が収録され、驚きのトリックに酔いしれることができる一冊です。

表題作の舞台は、山奥の邸宅で開催された人気ミステリー作家、森玲子の晩餐会。作家生活30周年を記念して開かれたこのパーティに、セキュリティアドバイザーとして榎本と純子も招待されました。玲子は時計のコレクターでもあり、邸宅には高価なアンティーク時計がたくさんコレクションされているのです。

主催者である玲子が締め切りに追われ自室で執筆しているため、招待客たちはその間、時計の価格を当てるというゲームに夢中になっていました。そんななか、突然玲子が自室で何者かに毒を盛られ、死亡しているのが発見されてしまいます。

著者
貴志 祐介
出版日
2017-10-20

作品内には有名な時計だけでなく、さまざまなブランド家具や高級酒が登場し、なんとも華やか。小説家の遺体が発見され、その雰囲気が一変する様子が緊張感たっぷりで、どんどん物語の世界に引き込まれてしまいます。斬新なトリックと、緻密で華麗な謎解きはよりパワーアップしており、榎本と純子の面白味のあるやり取りも、たっぷりと楽しむことができる作品です。

表題作のほかに収録されているのは、「ゆるやかな自殺」「鏡の国の殺人」「コロッサスの鉤爪」の3編。「コロッサスの鉤爪」では、海上での密室殺人が描かれており、驚嘆のトリックと胸を打つ人間ドラマは本当に読み応えがあります。

シリーズファンはもちろん、ミステリー小説に興味のある方なら夢中で楽しめることでしょう。

ドラマ『鍵のかかった部屋』の原作、「防犯探偵・榎本」シリーズについてご紹介しました。ドラマとはまた違った魅力のあるシリーズ作品です。まだ読んだことのない方は、ぜひ手にとってみてくださいね。

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