『じこまん』のロードバイクへの愛が熱い!

更新:2021.11.27

作者が、99.9%実体験と語る本作。40代のオジサンがロードバイクに熱中し、最高の自己満足を得る姿を描く、エッセイ漫画です。ダイエットのために始めた自転車が、いかにして自己満を得るための趣味に変わっていったのかに注目!

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漫画『じこまん』が面白い!未経験者もきっと乗りたくなるおすすめ自転車漫画!

 

「充実した人生とは?」

この問いに、あなたならどのように答えますか?

給料のよい仕事につくこと、他人から「充実しているね」と評価してもらうことなど、人によって考え方はさまざまでしょう。

 

著者
玉井 雪雄
出版日
2012-11-17

 

本作を描いた玉井雪雄は、40歳を過ぎたとき「他人の評価など関係ない。ひたすら自己満足を極めよう。」という考えに至ったそう。そして、自分を満たしてくれるものが「ロードバイク」であることに気づいたのです。

「いい歳してなにを考えているんだ」と感じる人もいるかもしれません。しかし、「自己満足=ロードバイク」という答えに行きついた作者の考えは、なかなか侮れないのです。作者が語るロードバイクの魅力を、分かりやすく以下にまとめました。

ロードバイクの魅力とは

  1. ① 物欲が満たされる …… 美しいフォルムのマシンを所有できるから
     
  2. ② 征服感を得られる …… 自分のマシンを自在に操ることができるため
     
  3. ③ 爽快感を味わえる …… 汗まみれになりながら、スピードを出せるから
     
  4. ④ 健康的な体に   …… ほどよい運動量で、日頃の運動不足解消になる
     

ロードバイクは、まさに自己満足を追求するために生み出されたといっても過言ではないでしょう。

それにいち早く気づいて、ロードバイクという趣味を通じて悦に入る自分をネタにした作品を世に発表する作者。これぞ、自己満足の極致といえるでしょう。

この作品で披露されるじこまんは、サイクリストのみならず、趣味に生きる人や趣味を持ちたいと思う大人なら、「あ~、わかる!」と思わず納得できる「あるあるネタ」が詰め込まれています。

作者のとっておきのダイエット方法や、自転車と車の接触事故のエピソード。自転車イベントの体験談に自転車ショップとの付き合い方など、ロードバイク未経験者が気になるポイントをわかりやすく面白く、時にはバカバカしく描いています。

今回はそんな『じこまん』の魅力を、最終巻である3巻までたっぷり紹介。ネタバレも含みますので、まだ読んでいない方はご注意ください。


自転車をテーマにしたおすすめ作品を紹介した<自転車がテーマの漫画おすすめ5選!部活青春からほのぼの系まで>もぜひご覧ください。
 

作者・玉井雪雄を紹介!

彼は1970年2月19日、兵庫県生まれの漫画家です。『さらば山中』で、1992年にスピリッツ新人コミック大賞を受賞。ヒット作である『ゆりかちゃん』は、映画化もされました。

趣味はロードバイクで、サイクリングイベントにも参加するなど、かなりアクティブなことが伺えます。しかし、もともとアクティブだったわけではなく、サイクリングを始めたきっかけは太ってしまったことでした。

最初はダイエットのために始めたものが趣味となり、やがてイベントに出場するまでに……その熱量はなかなかのもの。しかも、それをそのまま漫画に描いて仕事にも繋げてしまうのだから、驚きです。

そんな作者のロードバイクに対する情熱やこだわりなどが詰め込まれた本作の魅力を、以下のセクションでご紹介したいと思います。

『じこまん』を極めると最高に楽しい!?【あらすじ】

『じこまん』を極めると最高に楽しい!?【あらすじ】
出典:『じこまん』1巻

著者の玉井雪雄は、決してレゲエ好きというわけではありません。しかし、なぜか手間のかかるドレッドヘアを貫いていました。その理由とは、「じこまん」のため。

他人からしたらどうでもいいことでも、自分だけのこだわりを貫くことこそ、充実した人生への近道だと気づくのです。そして、究極のこだわりを貫けるもの、それが「自転車」であると悟りました。

こうして、自らたどりついた答えであるロードバイクにのめり込んでいきます。

国内の自転車イベントに参加したり、1人で行き先を決めずロードバイクで遠出をして野宿をしたり。時には、アシスタントや担当編集を巻き込んでツーリングに出かけます。そして、各々が自己満足に浸るのです。

どんなにキツイ上り坂でも、どんなに暑い夏の日や、凍えるほど寒い日でも、走り続けるのはやり遂げた自分に酔いしれるため。どんな名酒よりも、気持ちよさに浸れる実体験こそが、自己満足だと教えてくれます。

そして、ロードバイクの魅力とじこまんを追及する玉井は、ロードレースでもっとも過酷といわれる「デスライド」に参戦することになります。はたして玉井は地獄のデスライドを完走することができるのでしょうか?

『じこまん』道その1:自転車あるあるに共感!

『じこまん』道その1:自転車あるあるに共感!
出典:『じこまん』1巻

本作では、とにかくロードレーサーだけでなく、サイクリストなら誰でもわかる「あるあるネタ」がたくさん詰め込まれています。それも上級者だけでなく初心者にもわかることまで、さまざまです。

本作で紹介されているネタをいくつか紹介しましょう。

あるあるネタ①:ツールドフランスを観ながら通ぶった発言をしてしまう

ツールドフランスとは、ロードレースの最高峰といえる大会のこと。初心者のうちは1人で家で観ていても、次第に他の人たちと一緒にワイワイ盛りあがりたくなるのが、サイクリストの常なのです。それが高じると、スポーツバーなどで大勢で観るようになります。すると、ついつい通ぶった発言をしてしまうというものです。

特に自転車に慣れてきた初心者や、自転車仲間が欲しいから、と知識ばかり詰め込みがちな人に多いパターンではないでしょうか?

あるあるネタ②:ヨーロッパ製品以外はダサいと思い込んでいる

独自の自転車選びのこだわりがあって、ヨーロッパ製の製品以外はダサいと思い込んでいるというものです。このメーカー批判は、よく耳にすることもあるのではないでしょうか?

特にロードに乗りはじめたばかりで、最初に購入した自転車がヨーロッパ製のマシンだった人に多くみられます。

現在は各メーカーの技術力も上がっているため、アジア系のメーカーが質が悪くて、ヨーロッパのメーカーが優れているというようなことはありません。自分の予算や理想とするフレームに巡りあうためにも、メーカーにこだわらず視野を広げた方がよいと本作でも書かれています。

そうは言っても、自転車ロードレースはヨーロッパ発祥のスポーツ。それゆえにヨーロッパ製に憧れる気持ちは、サイクリストなら誰でもわかるのではないでしょうか?

あるあるネタ③:ロード専用の服装に対して、違和感を覚えなくなる

ロードバイクに乗るまで敬遠していたロード専用の服装に、いつのまにか違和感を覚えなくなった、という方もいらっしゃるでしょう。

これは形から入る人に非常に多いタイプ。ロードバイク専用の服装は常に体にフィットして、原色や蛍光色を多用して派手なのです。体のラインが出やすいことから、街中で来ている人を見かけると引いてしまうことありませんか?初心者や、ロードバイクに乗っていない人なら、あんな格好したくないと思う人が多いはずです。

しかし、自分が乗るようになるとロードバイク専用の服装のありがたみに気づくのです。そして、機能性を追求した結果、知らず知らずのうちに自分もレーサーと同じ格好に近づいていくのがサイクリストの常というもの。しかも、着ている自分がカッコいいとさえ思いはじめてしまい……これぞ「じこまん」の賜物といえるでしょう。

『じこまん』道その2:初心者からスタートするから未経験者も共感できる!

本作には、玉井雪雄がロードバイクに乗りはじめる前のエピソードも収録されています。その話に初心者が共感できるという点でも評価されているのです。

例えば、スポーツ用サングラスについて。ひそかに憧れはあるけど、なかなか手を出すにはハードルが高いもの、と感じている初心者も多いのではないでしょうか?

初心者の人が購入するか戸惑う理由として、そんなに早く走れるわけでもないのにカッコつけていると思われるのが嫌だ、というのがほとんどだと推測されます。

作者の玉井も、そんなにスピードを出して乗るタイプではないので、最初は購入を躊躇するのです。しかし、自転車人生のなかで1、2を争う恐怖体験をしたことで購入に乗り出してしまい……。

その恐怖体験とは一体何だったのでしょうか?

著者
玉井 雪雄
出版日
2014-01-18

自転車を購入したばかりの頃はウズウズして休日が晴れかどうか、異常なくらいに気になってしまう、ということもあるようです。

また、自転車を買ったはいいものの、結局仕事やプライベートが忙しくて自転車に乗れない、といった体験談まで、共感できるポイントが多々登場します。

 

 

これ以外にも、多くのイベントに参加しながら経験値を積んでいく作者の成長を自分と照らし合わせることで、より本作を楽しむことができるでしょう。

まずは本作を手にとってみてください。ロードバイクの深い世界に魅せられてしまった方は、ぜひその足で自転車ショップへくり出してみましょう。新たな自分の一面を発見することができるかもしれません。

『じこまん』道その3:おっさんの実録漫画なのに、時々少年漫画のように熱い!

『じこまん』道その3:おっさんの実録漫画なのに、時々少年漫画のように熱い!
出典:『じこまん』1巻

今までいろいろ語ってきましたが、「結局は40代のおっさんの自己満を自慢した漫画でしょ……?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、実際にはそれだけではありません。

本作の作者である玉井雪雄は、「情熱の権化」といっても過言ではないほど、熱い男なのです。

その煮えたぎる情熱は、今まで自転車に興味がなかったアシスタントや編集者にも影響を与え、少しずつ周りにロードバイクの布教という形で表れていくのです。徐々に自転車仲間が増えていく様子も描かれ、読者はまるで王道の少年漫画を読んでいるかのように、ワクワクさせられるでしょう。

そうこうしているうちに、アシスタントの1人が最初は自転車で箱根越えをしたという話を聞き、負けていられない、と房総半島約1周の旅を敢行します。

他にも、佐渡ロングライド210というイベントに参加して完走を果たすなど、さまざまなシーンが描かれています。

このように、数々のイベントを攻略していくさまは、さながらRPGゲームのよう。次々とダンジョンをクリアしていく勇者のように見えなくもない……かもしれません。

しかも、3度目の参加になる佐渡ロングライド210では、アシスタントたちと懸けをします。その賭けというのが、完走できなかった者はピンクローターをお尻にセットした状態で復路を走るというもの。

過酷な罰ゲームを用意してまで挑むその熱さは、気がふれているのではないかと疑いの目を向けてしまうほどです。誰のお尻にセットされることになったのか、気になる方は2巻をご覧ください。

そして極めつけは、この世でもっとも過酷といわれる、アメリカで開催される自転車レース「デスライド」に参加する話。じこまんを追及した挙句、死に一番近いといわれる恐怖のレースに参加するとは、常軌を逸しているといえなくもない、無謀な挑戦です。

玉井はこの地獄のデスライドを無事完走できるのか?その前に、デスライドに耐えうる体を作り上げることができるのか?……この熱い展開が気になる方は、3巻をご覧ください。

『じこまん』道その4:自転車愛が感じられる豊富な体験談。外に出たくなる!

本作が読者をひきつける最大の魅力は、作者の玉井が実際に参加したレースやツーリングの体験を語っている、という点にあるでしょう。

いかに無謀で過酷だったか、走っている時のエピソードやちょっとした気づきも含めて、おもしろおかしく描かれています。

 

特に、何度も出場している佐渡ロングライド210についてのイベントの模様を実況したエピソードは必見です。海辺の美しい情景に始まり、坂道を越えた後に観られる牧場のような風景、そして、出場者が休憩するサービスエイドで出る軽食の描写まで、非常に魅力的に描かれています。

イベント未経験のサイクリストでも思わず参加したくなることでしょう。読んでいると、なんだか心がウキウキして、自転車で走りだしたくなるような気持ちにさせてくれます。

 

 

著者
玉井 雪雄
出版日
2015-06-29

イベントだけにとどまらず、何気ないサイクリングロードやいつも通る近所の道路でのありきたりな光景でも、作者の画力の高さゆえ、胸に迫るものがあります。よく遭遇する人など、読者が身近に感じられるエピソードが豊富なため、共感できるのです。読んでいるうちに、思わず自転車で無心になって走り出したくなること請け合いです。

さらには、アシスタントたちが実際に経験した自転車での事故の様子も紹介されているので、自転車事故の恐ろしさも学ぶことができます。

自転車を乗るときのマナーや安全運転のコツが描かれていることからも、作者の玉井がいかに自転車に乗ることを愛しているかが窺えるでしょう。今の自分の運転を省みて、より安全に心がけてみてはいかがでしょうか?

『じこまん』の男の趣味の熱い世界を覗き見してみよう!

著者
玉井 雪雄
出版日
2012-11-17

自転車初心者のオヤジたちが、あるあるな道を通りながら、キャッキャウフフと趣味の世界に没頭する、というエッセイ漫画の本作。作者の年齢やただの自己満足を描いている割に、読者までをも熱くさせます。

初心者から見ると、知らなかった知識やサイクリングの楽しさを実感でき、経験者も自分の通ってきた道を懐かしく思えるような内容になっているのではないでしょうか。

リアルな自転車知識を丁寧に描き、文字としてもぎっしりと詰め込まれた本作。内容が充実している分、情報量が多いと感じる人もいるかもしれません。

しかしそれを飽きさせない熱量の高さがあります。自転車が好きでとにかく楽しい、ということが全体から伝わってきて、どんどん読み進められてしまうのです。

ぜひそんなおっさんたちの熱いながらも爽やかな青春漫画の魅力を作品で体感してみてください!


本作は人生に疲れた大人や、趣味を見つけたいと思っている人に読んでいただきたいです。サイクリストが楽しめるのは当然ですが、大人の趣味の楽しみ方を描いた作品として非常に優れています。趣味といえる趣味がないため、毎週末は家でゴロゴロしているだけだ……という人にも、響く作品です。

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