『少女は卒業しない』『桐島、部活やめるってよ』偏愛レビュー【高尾苑子】

『少女は卒業しない』『桐島、部活やめるってよ』偏愛レビュー【高尾苑子】

更新:2021.12.2

『少女は卒業しない』。題名からはまったく予想がつかない内容でした。 結婚している先生に恋をしていた女の子や、夢をかなえるために中退していく幼馴染の背中をずっとまぶしく感じていた学級委員長。生徒会長に一目ぼれして生徒会に入った後輩の告白の答辞に、南棟の幽霊にずっと会いたかった料理部の部長。 取り壊しの決まった校舎での最後の卒業式。いろんな人のいろんな思い出が溢れ出します

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著者
朝井 リョウ
出版日
2015-02-20

取り壊しの決まった校舎のあちこちにしみ込んでいる思い出を、まるで自分が校舎になって眺めているような気分で読める本です。思い出の場所が壊されてしまう、という経験は私にはまだないのですが、思い入れのある場所がなくなってしまうとき、それもまだ消化されていない思いが残っているとき、この本に出てくる登場人物のような行動をしてしまうんだと思います。

校舎がなくなってしまうのと一緒に自分の思いにもケリをつけたいとか、やれなかったことをできなくなる前にもう一度やってみようとか。単に学校を卒業、というだけではここまでさみしい気持ちにはならなかった。校舎が取り壊される、というところにこの本のせつなさ、やりきれなさを感じました。

この本の中でも一番印象的だったのは「夜明けの中心」という章でした。ほかの章とは少し書かれ方が違っていて、最初はいったい何の話をされているのか要領を得ません。卒業式の夜。校舎が取り壊される前日、主人公の女の子は一人で校舎に忍び込みます。そこにいたもう一人の先客。ずっと話していなかった2人はぽつぽつと話し始めます。暗闇の校舎の中で話すたび、言葉が引き金になって次々に浮かぶ高校時代の思い出。そして2人が会いたかった南棟の幽霊の正体。

卒業式を終え、学校が取り壊されることになって、ほかの章の主人公たちは悲しかったり、嬉しかったりはあるけど、みんな前に進んでいく用意をしたのに。お昼の校舎での甘い思い出と、夜のさみしい校舎での後悔との対比に、こんなにも泣きたくなる話は初めてでした。

著者
朝井 リョウ
出版日
2012-04-20

『桐島、部活やめるってよ』は、スクールカーストの本だと言われることが多いのですが、私はそれ以外の部分も大好きです。スクールカーストを土台に登場人物のいろんな思いを繊細に描いてあるところ。どうやってこんなにいろんな立場の人の感情を感じることができているんだろう、って思うくらい丁寧で多彩な人物描写。スクールカーストという嫌なモチーフの中で話が進んでいくのに、まったく暗い気分にならないのは、構成や人物描写もさることながら、まるで自分が当事者のように感じられるくらいそこの場面が目に浮かぶからだと思います。自分がもしこの子の立場だったら……なんて考える隙間もないほど、登場人物の息遣いまで聞こえてきそうなリアルな空間。

私は今までの人生であんまり負けを自覚したことがなかった。だけど絵理香には負けたって思っている。私がいくら髪形をかわいくしようとジェルネイルをしようとメイクしようと、コイツの持っているものは絶対に手に入らない。

登場人物に感情移入というより、読んでいる間、その登場人物になれちゃう感じ。この本を読むと、学校で一番人気があって目立っている男の子にもなれるし、手の届かなさそうな相手に片思い中のブラスバンド部の部長になることもできる。どうしても四番になりたいソフト部の女の子にも、自分の夢や将来がはっきり見えているさえない男の子にもなれる。そうやって一人ひとりから見える景色はやっぱり全部違っていて、本って素晴らしいなあってしみじみ感じます。

私は本のいいところの一つとして「自分以外の誰か(何か)になれる」ことがあると思うのですが、朝井リョウさんの本を読むと、本当に簡単に自分以外の誰かになれます。自分以外の誰かになって世界を感じることが簡単にできて、いろんな体験をすることができます。一つひとつの話が独立しているから気負わずに読めるけど、どの話も少しずつ関連性を持たされているから全部読んだらもっと面白いです。

悩みや不安だらけの自分も誰かにとってはヒーローで、自分で自分のことを暗くて地味だと思っていても、誰かにとっては光かもしれない。そんなちょっぴり都合のいい設定も読んで楽しいポイントです。設定されている物語の舞台はどれも身近でとっつきやすいので、小説をあまり読み慣れてない方にも、朝井リョウさんの小説はおすすめしたい本です。

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    アイドルが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、詩集に写真集に絵本。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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