プロの道化師たちを困惑させる「殺人ピエロ」。元ネタはキングのあの作品?

更新:2021.12.13

不気味なピエロの都市伝説が全米を席巻中だ。今年の8月以降、少なくとも20以上の州で「恐怖のピエロ」の未確認目撃情報が飛び交う。そんななか、プロの道化師たちは人気の下落と身の安全を不安視している。

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模倣者続出、警察沙汰も当たり前

ピエロが絶滅危惧種になって久しい。2014年、米国最大の関連団体、世界ピエロ協会(WCA)は会員数が10年前の約3500人から2500人に激減し、年長の道化師らが次々に死んでいく一方、若いパフォーマーたちは跡を継ぎたがらないと発表した。それから2年、ピエロは再び注目を集めている。どうやら、世間の多くは哀れな道化師一族を根こそぎ狩り、絶滅に追い込もうとしているらしい。

この夏、20以上の州で「恐ろしい」ピエロを見たとの未確認情報が飛び交い、全米中をパニックに陥れている。コネティカット州のある学区はピエロの衣装の着用を禁止。10月頭には、白塗りの不審者を構内で目撃したとの噂を受け、ペンシルベニア州立大の学生約500人が「ピエロ狩り」に参加した。

最初の目撃情報は8月20日、サウスカロライナから寄せられた。グリーンヴィルのアパートの管理人が、近所の子どもたちを近くの森へと手招きするピエロ姿の人物らが目撃されていると、当局に通報した。こうした情報はいずれも未確認だったが、噂が噂を呼び、模倣者が続出した。

ケンタッキーでは、20歳の男がピエロ姿で側溝に隠れていたとして逮捕された。アラバマでは、9月だけで少なくとも9人が、ある署長いわく「ピエロ的行為」を理由に拘束された。ニューヨーク市ではピエロの衣装をまとい、キッチンナイフを手にした人物が地下鉄からティーンエイジャーを追いまわした。カリフォルニア州ランカスターでは、ピエロの仮面を被り、人々を脅かす様子を動画に撮る者がいるから気をつけるようにと、当局が住民に注意を促した。

有識者のなかには、ピエロを恐れる最近の傾向、いわゆる“道化恐怖症”の発端を連続殺人鬼、ジョン・ウェイン・ゲイシーとする者もいる。ゲイシーは1978年に逮捕される以前、子供のパーティに呼ばれるピエロをしていた。さらに世間の見方を変えたのは、スティーブン・キングの小説『IT』に登場する不気味なピエロ、ペニーワイズだとする向きもある。1990年のTVドラマ・シリーズではティム・カリーが演じ――血も凍る笑い声が印象的だった――製作中の映画版ではビル・スカルスガルドが扮するという。

著者
スティーヴン キング
出版日

「ピエロがいつ悪玉になったのか、と問うのは間違いだ。ピエロはそもそも善玉じゃない」と、この現象の研究書『Bad Clowns』の著者、ベン・ラドフォードは言う。「歴史的、民俗学的観点から言えば、ピエロは昔から得体の知れない、ペテン師的存在だ。ピエロの原型の一つは宮廷の道化師でもある。ときに人を笑わせ、ときに人をぞっとさせる者。悪の面は昔からピエロと切っても切れないものなんだ」

 

著者
Benjamin Radford
出版日
2016-02-05


今回のピエロ騒動は、目立ちたいだけの悪戯者の仕業だとラドフォードは説明する。だが、恐怖のピエロを巡る騒動がごく最近に始まった現象でないのも事実だ。1981年5月と6月、『IT』出版の5年前、ボストン、フィラデルフィア、カンザスシティ、ミズーリの各州で、小学生による「殺人ピエロ」目撃情報が相次いだ。80年代から90年代を通じ、同様の目撃談が全米中で聞かれたが、いずれも未確認だった。

だが、恐怖のピエロを巡る騒動がごく最近に始まった現象でないのも事実だ。1981年5月と6月、『IT』出版の5年前、ボストン、フィラデルフィア、カンザスシティ、ミズーリの各州で、小学生による「殺人ピエロ」目撃情報が相次いだ。80年代から90年代を通じ、同様の目撃談が全米中で聞かれた。いずれも未確認だった。
 
2013年には、イギリス中東部の街、ノーサンプトンに出没したピエロの写真がツイッターとフェイスブック上に出回り、街の人々を不安に陥れた。ピエロの正体は殺人鬼ではなく、22歳の学生であることが判明したが、これにほっと胸をなで下ろしたと言えない者もいる。その一人が、世界ピエロ協会代表、ランディ・クリステンセンだ。先日、彼は悪意の偽ピエロを断罪する動画をアップした。「医者のコスプレをしている人は医者じゃない。誰がこんなバカなことをしているのかは知らないが、とにかくそいつらはピエロじゃない。無害で健全なアートのかたちを歪め、子供に近づくために悪用しているだけだ」

メリーランド州のお化け屋敷、スクリームランド・ファームスで怖いピエロに扮するジョーダン・ジョーンズ(22歳)は、蔓延する反ピエロ感情を懸念し、この問題を真剣に考えてもらおうと、フェイスブック上で「Clown Lives Matter」運動を起こした。「ものすごく怖いよ。みんながピエロ狩りをしている。事態はかなり深刻だ。僕を外で見かけた時、みんながどういう反応をするのかと思うと、ぞっとする」

ラドフォードも意見を同じくする。「先週、誰かがピエロを銃で撃った。グリーンヴィルでは、ピエロがいるという噂の森に向かって住人たちが発砲をくり返した。私に言わせれば、ピエロに扮して悪事を働く者よりも、ピエロ騒動や噂に過剰反応する人のほうがはるかに恐ろしい」

ピエロの悪者化に大いに寄与してきた一人、スティーブン・キングまでもが擁護に乗り出し、そろそろ「騒ぎを終わりにしよう」とツイッターに書き、「ちびっこを元気づけたり、人々を笑わせたり、ピエロはたいていいいヤツだ」と加えた。バンガー・デイリー・ニュース紙のインタビューでは、こう語っている。「ピエロ騒動はいずれ過ぎ去るだろうが(中略)また戻ってくる。条件さえ揃えば、ピエロは真に恐ろしい存在になりうるからだ」

さしあたり、今回のピエロ騒動は少なくともハロウィンまで続きそうだ。コスチュームを扱う米国のチェーン店、ハロウィン・エクスプレスのブラッド・バトラーがTV番組『Eye Opener』で語ったところでは、今年のピエロのマスクの売上は前年比3倍増。人気トップ10のうち8つは「悪玉」のマスクだという。

Photo:(C)WENN / Zeta Image
Text:(C)The Independent / Zeta Image
Translation:Takatsugu Arai

 

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