平野啓一郎のおすすめ作品10選!『マチネの終わりに』からエッセイまで

更新:2021.11.24

高度な文学性を持ち、三島由紀夫の再来とまで評された平野啓一郎。多数の著書を発表していますが、そのなかでも特におすすめの10冊を紹介していきましょう。

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平野啓一郎とは

 

1975年生まれ、愛知県で生まれ、福岡県で育ちました。高校時代に処女作を書き上げ、大学に進学した後も小説の執筆を続けます。

在学中に完成させた『日蝕』が雑誌「新潮」に掲載され、翌1999年に当時最年少の23歳で芥川賞を受賞。三島由紀夫の再来とまでいわれ、華々しく文壇デビューしました。

「新潮」に作品を投稿する際は、編集長に16枚にもおよぶ手紙を送り、売り込んだそう。また「新潮」に決めた理由も、複数の文芸誌の編集長が登場している特集記事を読み、ここであれば自分の小説を面白がってくれるのではと思ったから。意志の強さを感じます。

幼少期はけっして読書家ではなかったそうですが、もともと作文が得意で賞をもらうことも多かったようです。中学生の時に三島由紀夫の『金閣寺』と出会い、感動したことから、文学の道に進んでいくことになりました。

そのほか他に影響をうけたものとして、森鴎外、ミルチャ・エリアーデ、シャルル・ボードレールなどをあげています。

 

平野啓一郎の代表作!美しい大人の恋愛を描いた『マチネの終わりに』

主人公は、天才クラシックギタリストの蒔野。演奏会後の食事会でジャーナリストの洋子と出会います。2人は会ったときから強く惹かれ合いますが、その時洋子にはすでに婚約者がいました。

蒔野のスランプ、洋子の体調の悪化、そして決定的なすれ違いが起こり、2人は疎遠に。再び出会うことになるのですが、それでも関係はうまくいきません。

著者
平野 啓一郎
出版日
2016-04-09

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるともいえるし、変わってしまうともいえる。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」(『マチネの終わりに』より引用) 

40代の2人。だからこそ背負っているものがあり、ただ単純に好きという気持ちだけで動くことはできません。お互いがお互いの人生を思い合う、まさに大人の恋愛だといえるでしょう。

作者の平野啓一郎も「ページをめくりたいけどめくりたくない、ずっとその世界に浸りきっていたい」ような小説を目指したそうですが、この思惑は見事にはまっているのではないでしょうか。

彼らが選んだ未来はどのようなものだったのでしょうか。

宇宙を舞台にしたクラシックな純文学『ドーン』

2009年にBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した本作。壮大なスケールで描かれる長編小説です。

主人公は、人類初の火星有人探査を成し遂げた佐野明日人です。彼を含む6人の宇宙飛行士は、2年半のミッションを終え、英雄として地球に帰還しました。

しかし彼らはある大きな秘密を抱えています。宇宙船内で起きていたことは、大統領選挙を控えたアメリカ、そして世界を揺るがす大問題へと発展していきます。
 

著者
平野 啓一郎
出版日
2012-05-15

近未来の世界で火星の探査に向かう主人公、といかにもSFの王道といった設定ですが、本作で描かれるのはむしろ、人間関係や自己の在り方、テロリズムと政治などです。

物語を語るうえで重要になるのが、「分人」という考え方。状況や接する相手によって、人はさまざまな顔を持ちます。それが「ディヴィジュアル=分人」で、その集合体が「インディヴィジュアル=個人」であるという考え方です。

「人を好きになるって、…その人のわたし向けのディヴィジュアルを愛することなの?それを愛するわたし自身もその人向けのディヴ?分人?インディヴィジュアル同士で愛しあうって、ひとりの人間の全体同士で愛しあうって、やっぱり無理なの?」(『ドーン』より引用) 

未来の先端技術が描かれるSFチックな面と純文学らしさが融合し、テーマの深さも相まって、多層的な構造を見事につくりあげています。エンターテイメント性も意識されていて、ストーリー自体も面白く、読みやすいでしょう。

平野啓一郎の芥川賞受賞作『日蝕・一月物語』

1999年に芥川賞を受賞した作品。フランス文学やキリスト教、ギリシャ哲学にも造詣が深い平野ならではの作品で、学問と宗教が対立した時代である中世のフランスが舞台になっています。

修行中の神学者であるニコラは、パリ大学在学中に異教徒の哲学者の写本を手にします。興味深く思ったものの半分ほど欠けていたため、完全なものを求めてリヨンへと向かいました。そこで彼は、神秘的な体験をすることになるのです。

全編を通して擬古文体で書かれていて、舞台になっている中世フランスの格調高い雰囲気をつくりだしています。

芥川賞の選考委員も辞書を片手に読んだそうですが、物語自体はシンプルで理解しやすく、中盤の急展開から壮絶なクライマックスは見応え充分です。

著者
平野 啓一郎
出版日
2010-12-29

併録されている『一月物語』は、平野が『日蝕』、『葬送』とともに「ロマンティック三部作」と銘打った、初期作品のひとつ。明治30年の奈良県十津川村を舞台に、古典風の壮麗な筆致で綴られる物語です。

青年詩人の主人公は神経衰弱の鬱憤を晴らすため旅に出ます。いくつかの因縁に導かれ、「吉野」へと向かうのですが、山奥に踏み入ったところを毒蛇に噛まれ、意識を失ってしまいました。

運良く寺の住職に助けられ、寺で養生することになりましたが、しばらくして彼は夢の中で美しい女に出会うようになるのです。こちらに背を向けて湯浴みをしている女に惹かれていって……。

女の美しさと古典調の文体が不思議な読み口を作り出し、儚くも美しい夢と現実の世界を行き来する物語になっています。

自分の死の真相を暴く『空白を満たしなさい』

「ただ、知りたいだけなんです。他の人のことはわかりません。とにかく僕は、会社で目を醒まして帰宅したら、妻に、あなたは3年前に死んでると言われたんです!」(『空白を満たしなさい』より引用) 

世界各国で、死者が生き返ったというニュースが流れていました。主人公の徹生も、3年前に死んだはずでしたが家族の前に再び姿をあらわします。

しかし妻の千佳と息子の璃久は、彼のことをうまく受け入れられません。それもそのはず、徹生は3年前、会社の屋上から飛び降り自殺をしていたのです。

著者
平野 啓一郎
出版日
2015-11-13

「自分が自殺などする人間ではない、殺されたのではないか」と考えた徹生は、謎の解明に挑みます。当時は仕事も家庭もこれからという時で、毎日いきいきとしていたはずなのです。

なぜ自分は死んだのか、なぜ死者が生き返るのか、その真相を知った後、徹生はどんな行動に出るのでしょうか。 

生きる意味、死ぬ意味を考えるとともに、自殺という現代の日本が抱える問題をありありと描いた一冊です。

平野啓一郎が描く悪と赦し『決壊』

2006年から2008年まで雑誌「新潮」で連載されていた長編ミステリー小説。舞台となっているのは、まだインターネットが普及しきっていない2002年です。

サラリーマンの沢野良介には、公務員をしているエリートの兄・崇がいます。ある日、大阪で崇と会う約束があると家を出たきり、行方不明になってしまいました。

そしてその後、京都で発見されます。バラバラ殺人事件の被害者として……。

著者
平野 啓一郎
出版日
2011-05-28

事件の裏では、インターネットの闇に潜む「悪魔」が手を引いています。その正体とはいったい何なのでしょうか。

警察の強引な取り調べ、加熱するマスコミの報道、ネット上での無責任な書き込み……被害者家族も加害者家族も、悩み、絶望していきます。先の読めない展開がつづき、物語はやがて衝撃の結末に。

平野啓一郎が現代に提示する、「悪」の問題と、「赦し」の可能性を模索した感動巨編です。
 

平野啓一郎の本格歴史小説『葬送』

舞台となっているのは19世紀フランス。ロマン派音楽を代表する作曲家のフレデリック・ショパン、彼の友人で画家のドラクロワ、愛人で小説家のジョルジュ・サンドの3人を中心にストーリーは展開していきます。

ショパンは愛人のジョルジュと不仲になり、家族を残してひとりパリに戻ってきました。それから約3年後に結核で亡くなるまで、病と戦いながらも芸術家として生きるのです。

著者
平野 啓一郎
出版日
2005-07-29

『日蝕』、『一月物語』につづく「ロマンティック三部作」の結びの作品です。

平野作品の特徴として、登場人物の細やかな心理描写が挙げられますが、本作においてもショパンの心の機微あ実に丁寧に描かれています。 芸術家としての悦び、死に向き合わなければならない苦しみがありありと伝わってくるでしょう。 

歴史小説ではありますが、恋愛、友情、優雅なパリの社交界など見どころはたくさん。激動の時代で、世の中の価値観がどんどんと変わっていくなかで、芸術家たちが生きた姿が描かれています。

平野啓一郎の大人のラブストーリー『かたちだけの愛』

主人公の相良はある日、交通事故の現場に居合わせます。そこで彼は、車の下敷きになり足をほとんど切断された女性を目にします。

彼女の名前は叶世久美子といい、少し前にスキャンダルで世間を騒がせ「美脚の女王」と呼ばれていた女優でした。

相良は医療器具のデザインをした経験から久美子の義足を作ることになり、2人は心を通わせていきます。

著者
平野 啓一郎
出版日
2013-09-21

「あなたにとって、愛って何なの?」(『かたちだけの愛』より引用) 

以前結婚していた時に、相良が妻から聞かれたことです。当時の彼が考える愛のかたちは、恐ろしく冷静で、冷めたものでした。しかし久美子との出会いを経て、彼の考え方は少しずつ変わっていきました。 

片足を失った女優と、彼女を支える恋人。大きな悲劇からともに歩んでゆく姿はとても美しく、感動的です。『マチネの終わりに』に続く大人のラブストーリーとしておすすめの作品になっています。
 

平野啓一郎の考え方を理解しよう『私とは何か――「個人」から「分人」へ』

平野啓一郎の著作のなかで、くり返し述べられてきた「分人主義=ディヴィジュアリズム」。本書では、その概念をあらためてわかりやすく解説しています。

「個人」を意味する「individual」は、直訳すると「もうこれ以上分けられない」という意味。しかしここで述べられているのは、個人は最小の単位ではなく、いくつもの「分人」が個人を形成しているということです。

著者
平野 啓一郎
出版日
2012-09-14

「コミュニケーション能力」が重要視される現代において「個人」という考え方には限界があります。平野はさまざまなシチュエーションや人間関係における自身のありのままの姿を、「分人」として受け入れることが大切なのだと述べています。

「私とは何か?自分はこれからどう生きていくべきなのか?旧態依然とした発想では、問題は解決しない。現代人の実情に適う思想を、一から作ってゆくべき時である。」(『私とは何か――「個人」から「分人」へ』より引用)

難解な単語や専門用語などはほとんど無く、わかりやすさを重視。読み物としての面白さも残しつつ、現代の「個人」のあり方について鋭い視点で一石を投じています。

平野啓一郎のエッセイ集『文明の憂鬱』

雑誌「Voice」で2年にわたり連載されたものを集めたエッセイ集です。テーマは、「文明」の批評。

連載当時平野はまだ20代だったそうですが、物事の本質を見抜く力や切り口の鋭さは抜群で、時には笑いも交えつつも考えさせられる文章になっています。

著者
平野 啓一郎
出版日
2005-12-22

AIBO、ピッキング、大リーグ、テロ、臓器移植……いくつかのなかから選んだ写真を見て、思いつくままを綴る形式で書かれたもの。言葉の端々にユーモアと知性があふれています。

ひとつひとつは小さな文明の一端かもしれませんが、平野が独特の視点と明確な論理をたて、欺瞞を見抜いていくのです。超大作を次々と生み出す彼の豊かな感受性を垣間見ることができるでしょう。

平野啓一郎と大谷ノブ彦より、『生きる理由を探してる人へ』

芸人の大谷ノブ彦と、作家の平野啓一郎という異色タッグが「自殺」をテーマに対談した一冊。読書家として知られる大谷のライ塩に、平野がゲスト出演したことが今回のきっかけになったそうです。

大谷は過去に自殺をしようと考えたことがあったそうで、その時に平野の考えに出会っていればと今でも思うそう。同様に、今辛い思いをしている人、生きていく理由を見つけられない人は、ぜひ手にとってみてください。
 

著者
["大谷 ノブ彦", "平野 啓一郎"]
出版日
2016-10-10

 

「自殺を思いとどまらせる、という意味でいえば、幸せにならなければならないという思いよりも『その時々の自分の状態は一時的なものに過ぎないんだ』という考え方が大事なんじゃないかという気がします」(『生きる理由を探してる人へ』より引用) 

こういう生き方をすべきだ、人生は幸せになるためにある……このような思考が人を追い詰めていると彼らは語ります。

人間関係の悩みは現代社会にはつきものですが、その相手との関係が自分の人生のすべてではありません。生きづらさを感じている人に読んでもらいたい一冊です。

 

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