運命的に出会った本にこそ、今の私が知りたいことがある【住岡梨奈】

運命的に出会った本にこそ、今の私が知りたいことがある【住岡梨奈】

更新:2021.11.13

大抵の人は書店へ“いま自分が読みたい本”を探しに行くと思います。 けれど、当初の目的とは別の本に目を惹かれ、予定外の購入ということもよくあることでしょう。予定外に見つけた本こそ、今の自分に必要なことが書かれている本なのではないかと私は思うのです。大げさに言うと運命的な出会いというか……。 心理テストの「この文字の中で最初に見つけた三文字の言葉は今あなたが一番欲しているものです」というような、無意識的な欲求を表している気がするのです。 今回は、私自身が書店へ行って、惹かれるままに手に取った3冊の本をご紹介します。これらはきっと今の私に必要なことであるような気がしてならないのです。 もし、私の紹介文を読んで「あ、いいな」と思ったら、その本はあなたにも必要な本かもしれません。

ブックカルテ リンク

家族それはヘンテコなもの

著者
原田 宗典
出版日

家族、それは確かにヘンテコであります。私は自分の家族が大好きで、マザコン、ファザコン、シスコンをまとめてファミコン(ファミリーコンプレックス)と公言しているほど。もうおわかりですね、私はこの本のタイトルに惹かれました。

作者は父として夫として、そして息子、男としての目線から様々な思い出話を綴っています。

たとえば、2歳になった娘の結婚相手を想像していた時のこと。妻と娘の会話の中で、娘が花婿候補は「お父さんとガチャピン」と言っているのを聞き、なんとも複雑な気持ちになっているエピソードなど、くすっと笑ってしまうような温かい話がいくつも書かれています。

この本、実は〈家族それはヘンテコなもの〉から〈恋愛それはヘンテコなもの〉〈青春それはヘンテコなもの〉へと続いていくのです。

読み進めていくと、学生時代の思い出などは純粋に懐かしく感じ、家族の大切さをあらためて実感することのできる作品でした。男子ならではの妄想や自意識との闘いについては想像しかできませんでしたけれど。笑

若かりし頃の自分や家族との遠くて優しい記憶を振り返る良い機会になってくれたと思います。“ヘンテコ”呼ばわりは愛情の裏返しでした。

生きるぼくら

生きるぼくら(徳間文庫)

2015年09月04日
原田 マハ
徳間書店

主人公は高校での屈辱的ないじめが原因で引きこもり、就職活動もうまくいかず、ニート生活を送っている24歳男子・麻生人生(あそう じんせい)。

母子家庭であったため、母親は昼も夜も働きづめでした。そんなある日、母親は一通の手紙と現金5万円、10枚ほどの年賀状だけを残して家を出て行ってしまいました。手紙には「いままでどうにかがんばってきたけど、疲れ果ててしまいました。しばらく休みたいので、どこかへ行きます。年賀状の誰かに連絡してみてください。あなたを助けてくれる人がいるかもしれないから。」という内容が書かれていました。

この衝撃的な出来事をきっかけに、約8年間ニート暮らしをしていた主人公は母親が残して行った年賀状を元に自身の祖母に会うため、父の実家がある蓼科へ行くことを決意します。

読み始めてからたったの24ページでこんなにも強く、大きく、ニートが外の世界へ踏み出すなんて……素晴らしいと思いませんか? 表紙のデザイン(とても美味しそうな梅干しおにぎりの写真)に惹かれてこの本を購入した私にとっては、驚くほどラッキーな展開でした。

「人は変われる」という言葉に対して「そんなに簡単なことではない」と思うかもしれません。本当にそうです。けれど、主人公は自ら蓼科へ行くことを決め、そこで自分の周りの人たちと関わり、ともに過ごすことで生きることを体験し、その学んで行く姿は物語であることを忘れさせてしまうくらい本気で応援したくなるような印象深いものでした。

生き物は乗り越える力、つまり「生きる力」を誰しも必ず持っている。自分の力を信じるというのは時々難しいけれど、今の自分にも、未来の自分にも必要なことだと思いました。「生きる力」をすでに持っているならば、それを使わない手はないです。

みちこさん 英語をやりなおす

著者
益田ミリ
出版日
2014-01-30

前にも益田ミリさんの作品を紹介したことがありましたね。私は作者のイラストと物腰柔らかい台詞でサクッと本心を突いてくる作風がとても大好きです。

褒めた後にこんなことを言ってしまうのは失礼なのですが、今から紹介する本は本当に買う予定はなかったもので、うっかり視界に入ってしまったがために勢いで購入したものでした。

タイトルの下に少し小さめの文字で「am・is・areにつまずいたあなたへ」と書いてあり、それを見た瞬間私は心の中で「つまずいてないわ!中学ですでに理解できてるわ!こんなの!ああ!」といった具合にムッとしてしまったのです。けれど人間、ムキになるのは図星だからという言葉を思い出し、素直に置いてあった棚に戻り購入した次第です。

前置きが長くなりました……。

主人公のみちこさん(40歳・主婦)は「いつか行く旅行のために!」と思い立ち、家庭教師をつけて英会話のレッスンを受け始めます。

英語を勉強する時、基本的に単語は丸暗記、Iにはam、Youにはare、そんな風に多くの人は何の疑問も抱かずに“そういうもの”として覚えたのではないかと思います。

けれど主人公はそう簡単には納得してくれません。

Theyの意味が“彼ら”であり“それら”でもあると知った主人公が「人とものを一緒にするのは失礼ではないのか…」と考えるシーンがあります。私は「え、そこ、引っかかって良かったんだ」と思いました。

英語を学んで、わかったつもりになって、本当の意味では理解できていなかったのだなぁとしみじみ感じました。他にも読み進めて行くうちに発見がたくさんありました。

皆さんはどうですか? わかったふり、していませんか?

物事や自分自身にも疑問を持つことは、自分や相手を信じるくらい大切なことかもしれません。そして、わからないことをわからないと言うことは恥ずかしいことではなく、わかると楽しい、もっと学びたいという気持ちが広がるということに、この作品を読んでたくさんの人に気づいてほしいな、と読み終えた私が思いました(笑)。

私、わかったふりをするのはやめます。益田さん、冒頭の無礼をお赦しください! 購入して本当に良かったです!

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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