『イノサン』の面白さを続編「ルージュ」までネタバレ紹介!

更新:2021.11.28

フランス革命に生きた「処刑人」、シャルル=アンリ・サンソンの数奇な運命を描いた物語『イノサン』。続編「ルージュ」が始まった大人気作品です。この記事では、怒涛の展開、繊細な心理描写、思わず目をそむけたくなる陰惨な拷問の数々から目が離せない『イノサン』の魅力を大紹介。

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『イノサン』の面白さを続編「ルージュ」までネタバレ紹介!実在する?マリーの存在感がすごい!

『イノサン』は、文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞した『孤高の人』を手がけた、坂本眞一が描く、新たな歴史漫画です。 
 

舞台は18世紀、フランス革命まっただなかのフランス。混沌の時代に生まれ、『処刑人』という職業に生きるシャルル=アンリ・サンソンの、日々の苦悩が描かれています。

処刑人が主人公ということもあり、残忍で思わず目をそむけたくなるようなシーンが多い本作。しかしそんな内容でも読者を引き込んで離さない魅力があります。

今回はそんな本作の前編の見所をご紹介!おすすめ漫画ではありますが、グロい表現が苦手な方はご注意ください。

 


『孤高の人』については<漫画『孤高の人』が面白い!見所をネタバレ紹介!最終回の結末は?>で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。

著者
坂本 眞一
出版日
2013-06-19

『イノサン』のあらすじ。タイトルの意味は?

18世紀、フランス。処刑人は、国王から直々に任命され名誉ある「正義の番人」であり、処刑の技術・知識を使って医療をおこなう「医師」でもあり、そして、苛烈な人殺しの印象から「死神」と蔑まれる存在……という、矛盾を抱えた職業でした。

主人公のシャルルは、この一族に生まれたがために、処刑人になることを決められていた人物。しかし彼は命を重んじ、心優しく、純粋な性格の持ち主でした。そのため、処刑人を嫌い、継ぐことを拒否していました。しかしそれを許さないシャルルの父は、とある拷問用具を持ち出してきて……?

ちなみに、この漫画のタイトル、「イノサン」は「Innocent」が由来で、初々しい、あどけない、無実の、純粋なといった意味があります。処刑というテーマでこの言葉を使うのは、なにやら奥深い意味がありそうですね。

見どころ1:耽美な世界観に圧倒される!

「イノサン」の魅力といえば、表紙をぱっと見ただけでもわかるとおり、美麗なイラスト・表現力です。美しいものを美しく、麗しいものを麗しく、醜いものを醜く描き切るその画力はさすがですね。

その美麗なイラストで描かれた世界観はまさに耽美。漫画の一コマ一コマが絵画をみているかのような迫力があります。

また、『ルージュ』では耽美の方向性が変わり、急にミュージカルを始めたるという予想外の方向性を見せるので、その急展開をぜひ読んでみてくださいね。

見どころ2:実在の人物・マリーの存在感がすごすぎる

物語の主人公・シャルル=アンリ・サンソンと、その異母妹・マリー=ジョセフ・サンソンは、実在する人物です。

とはいえ、シャルルは本当に処刑人の人生を歩んでいたようですが、マリーは家系図に名前が残っているだけで、処刑人としてだったという事実はありません。あくまで、フィクションの設定ですので、史実と混同しないようにお気を付けください。

さて、この『イノサン』という作品でのマリーは、男女問わずトリコにしてしまうような美しい容姿をしています。しかし非常に勝ち気な性格で小生意気で口が悪い!女の子とは思えない罵詈雑言がぽんぽん飛び出します。

また、シャルルとは違って幼いころから処刑人になりたがり、独自に解剖術を学んだり、小鳥を実際に解剖してみたり、小鳥の内臓をみて「キレイ」と表現するなど、どこかひやりとさせる性格。シャルルより処刑人に向いているかもしれないと感じられる、美しく、危険なキャラクターです。

見どころ3:グロ描写がすごい

『イノサン』は、扱っている題材が「処刑人」というだけあり、グロ描写が多く存在します。しかも、ただグロいだけではありません。処刑・拷問ならではの、じわじわと不快感が増してくるような、エグさもあるのです。

首がはねられて血しぶきが! なんて序の口。車輪に身体をくくりつけて裂かれたり、皮膚をはがされたり焼かれたりなど、思わず目をそむけたくなるようなエグい処刑・拷問の数々が描かれます。

中には数話読んだだけで食欲をなくしてしまった、という人もいるくらい残酷な描写なのですが、耽美な絵柄と深いストーリーに引きこまれて、自然と手が読み進めていってしまうのが本作の不思議です。

『イノサン』1〜6巻ネタバレ注意

『イノサン』第1巻から第6巻では、主人公・シャルルが、処刑人の家に生まれたことから社会から疎まれ思い悩む少年期~青年期を描いた章になります。心優しく慈悲深いシャルルは、陛下直属の使命といえど、人を殺すということに強い反感を抱いていました。

しかしある日、処刑人になるか、死ぬかを父に迫られ、結果、処刑人として生きていくことを決意するのです。けれどもシャルルには剣の才能はなく、父からはできそこないという烙印を押されることに。

さらに自分の妹・マリーは真逆で、女でありながら処刑人として生きることを望み、ひたすら独学で人体構造を学んでいるという、ある意味で「才能」の違いも見せつけられます。適正や意欲としては、マリーの方が処刑人にふさわしいでしょう。

そんなある日、シャルルは美しい少年に出会います。身分を隠してその少年と友好関係を築きますが、なんとシャルルは彼を処刑することになってしまうのです。正体がバレてしまった彼は、死神だと罵倒されながらも、友人を手にかけた罪を背負い、「死刑廃止」を願うのでした。

著者
坂本 眞一
出版日
2013-06-19

第1巻から第6巻の見どころといえば、やはりシャルルが「さまざまな処刑を経て人間的に成長していく」部分でしょう。特に史実とからませた、「ロベール=フランソワ・ダミアン」の話はおすすめです。

病気の息子を抱えて教会で休んでいたダミアンは、たまたまシャルルと遭遇します。処刑人は医師を兼任しているため、シャルルはダミアンの息子を診察することに。しかし病状はよろしくなく、死が近いことを告げました。

息子を失うという絶望に飲まれつつも、ダミアンはせめてお金は払う、と何か売るものを探しに自分の家に帰るのですが、そこにはなにもありませんでした。息子も失う、住む場所もない、そして恩義に報いることさえできない、という絶望に立たされてしまうのです。

そのあと、シャルルの元に、国王暗殺未遂の罪により処刑をおこなう知らせが届きます。その罪人の名は、「ロベール=フランソワ・ダミアン」。その知らせに、シャルルは困惑しつつ、真実を探ろうと動き出すのでした。

このダミアンの話は、「八つ裂きの刑」という、本作のエグい処刑シーンの代表ともいえます。シャルルの優しさと、処刑人としての残酷さ、この時代の理不尽さ、それでいて耽美な表現は、まさに『イノサン』の魅力を表しています。

『イノサン』7巻〜『イノサン Rouge ルージュ』2巻ネタバレ注意(真紅のベルサイユ編)

 

「真紅のベルサイユ編」は、7巻から続編・ルージュの2巻までを含んだ内容。おもに、ルイ15世が存命中の出来事が中心で、歴史上の重要人物・マリー・アントワネット(マリア・アントニア)とルイ・オーギュスト(ルイ16世)が登場します。

マリー・アントワネットは元々、オーストリアのお姫様で、フランスの絢爛豪華さに憧れる少女でした。そしてルイ・オーギュストはフランスの王子様で、内気で死にたがりな夢想家の少年。2人は、オーストリアとフランスの友好関係のため、夫婦関係になるのですが……。

 

著者
坂本 眞一
出版日
2014-12-19

 

ルイ・オーギュストはフランスに大きな絶望を抱いており、自分の代で王政を崩壊させるという想いを抱いていました。そのため世継ぎを作る気はなく、ともにベッドに入っても手を出さず、純潔を守り抜くのです。しかし一方で、手を出されないというのは、大変不名誉なこと。マリー・アントワネットは、さまざまな方面のプレッシャーやトラブルと戦っていくことになります。

そんな中、シャルルの妹・マリーもトラブルを起こします。ダミアンの処刑を経て、シャルルの助けもありつつ、念願の処刑人になったマリー。しかし、神や伝統を重んじるシャルルとは正反対で、自分と自由を愛する思想であるため、2人は違う道を歩んでいきました。

フランス革命、断頭台へ向かうその日へ向かって歩き出す、「2人のマリー」の行方はどうなるのか、波乱の「真紅のベルサイユ編」です。

大きな見どころは、やはりマリー・アントワネットとルイ・オーギュスト、そしてシャルルとマリーのすれ違いでしょう。世継ぎを作ろうと奮闘するマリー・アントワネット、自分の夢のため決して彼女に触れないルイ・オーギュスト。

しかしマリーがあきらめて外へ遊びに出かけるようになれば、ルイが嫉妬します。それが傍から見れば矛盾だらけで面白くもあります。特に、無理やり迫られた時、性交渉を鍵穴で例えている場面は秀逸で、彼らしさとマリーへの気持ちが、抽象的に表現されている名シーンです。

そしてシャルルとマリーの展開は、兄妹ならではのもの。シャルルはマリーの幸せを願い、想っての行動をとるのですが、ことごとく裏目に出てしまうのです。マリーはマリーで、今まで自分を応援してくれ支えてくれていた兄が、いつかの父のように変化してしまったことで、やるせない思いを抱えています……。

さまざまな人間の思いが交差し、ぶつかることで生まれる火花、闘いの軌跡をぜひご覧ください。

 

『イノサン Rouge ルージュ』3〜6巻ネタバレ注意(蒼葬のベルサイユ編)

「蒼葬のベルサイユ編」では、とうとうルイ・オーギュストとマリー・アントワネットが王位を継ぎ、ルイ16世が誕生します。しかしまだまだ幼い王と王女には、とんでもない重圧だったのでしょう。空気はだんだんと悪い方向に……。

また、この章から、ダミアンの息子・ジャックが登場します。無事に命が助かったジャックは、ダミアンの魂を受け継ぎ立派に……という訳でもなく、なんと盗賊になっていました。ジャックをここまで変えてしまったものとは一体なんなのでしょうか。

革命の日も近づいていることから、シャルル、マリー、ルイ16世、マリー・アントワネットは知らず知らずのうちに、どんどん崩壊の道へと進んでいきます。

また、ルージュになってからミュージカル風の表現や、現代とからめた表現が多くなるのですが、これがまた面白いのでぜひお見逃しなく!

著者
坂本 眞一
出版日
2016-07-19

先述したミュージカルや現代風(SNS等)のストーリー表現もおすすめしたいのですが、やはり「蒼葬のベルサイユ編」最大の見どころは、メイン4人の「どうあがいても絶望」感です。

特に、昔、夢を語り合った仲のルイ16世とシャルル、マリーとジャックの対峙は必見です。

膨大な借金を抱えている王室の現実をなんとかするため、ルイ16世は処刑制度の廃止を打ち出すのですが、もちろんそんなことをされれば、シャルルは職を失い、生きていけなくなってしまいます。お互いの夢や思惑がぶつかり合うのですが、そんな時に流すルイ16世の涙をみて、シャルルは何を思ったのでしょうか。

とうとう破滅の歴史が動き出します。

『イノサン Rouge ルージュ』7巻の見所をネタバレ紹介!

最新巻で注目いただきたいのは、ルージュになってから、もはやシャルルより主人公らしく見える存在感があるマリー。彼女の周辺エピソードは、どんどん引き込まれる力があります。

処刑の最中、残酷な処刑をおこなうサンソン家の人々に、とうとう群衆の怒りが爆発。処刑台に乗り出して集まり始めた民衆によって、マリーは危険な状況に追い詰められます。彼女が死を覚悟したその時、助け出してくれたのはあの「ジャック」でした。

そしてこの事件から、マリーは自分の生き方に1つの道を見出します。その先は果たして明るいのか、それとも血塗られているのか。ナポレオンも登場し、革命のその日がもう目の前に迫っていました。

一方シャルルはマリーの暗殺を企てていて……?

著者
坂本眞一
出版日
2017-12-19

クライマックスも近いであろう展開、マリーの奇想天外な行動、シャルルの決意が詰まった非常に濃いストーリーです。

マリー・アントワネットの登場はありませんでしたが、最後、馬車に乗るルイ16世は、シャルルの考案した拷問器具・ギロチンの前へ!

とうとうこの時が来たか、と歴史を知っている読者としては身構えて読んでしまいますが、マリー・アントワネットたちの登場がないのが少し気になります。そしてクライマックスを迎える展開で、かつて処刑のない世界を夢見た純粋で優しいシャルルは、もうどこにもいないのだろうかという疑問も湧くような流れとなっています。

振りおろされる刃にドキドキしながらも、全てを自由に突き進んでいくマリー、そして死を握るシャルルの行動に読み進める読む手が止まりません。

 


血塗られた、18世紀フランスのとある歴史を耽美に、えげつなく、そして優雅に描く『イノサン』。シャルルの精神的にも肉体的にも、父と同じように成長していく姿と、マリーのいつまでもマリーである姿が交差するところが見どころです。物語は、シャルルは、マリーは、そしてフランスは、今後どう転んでいくのか、とページをめくる手が止まりません。スマホの漫画アプリで読めるので、ぜひ読んでみてくださいね!

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