世の中にはさまざまな「面倒くさい」が集まっている【小塚舞子】

世の中にはさまざまな「面倒くさい」が集まっている【小塚舞子】

更新:2021.11.29

オーガニックだとか有機栽培だとかの野菜を買い込んで、夕食のメニューを考えていた。「考えていた」と言えば、いかにも料理上手風な口調だが、ほぼクックパッド頼りである。

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地下街で飲み始めると時間の感覚がなくなってしまう

クックパッドには月300円を支払ってのプレミアム会員に登録までしている。買った食材と家にある食材を入力して、簡単で美味しいメニューはないかと検索する。せっかくいい野菜を手に入れたのだから、シンプルな味付け且つ、簡単で美味しいものを……と探しているうちに約束の時間になった。

この日は、数少ない友人と会う約束をしていて、ランチには遅すぎるから、お茶でも飲もうか、それとも早めに開いている店で「ちょい呑み」しようかと話していた。ちょい呑みってなんだ。

私たちは、だらだらとお茶をすするより、サクッと「ちょい呑み」して帰ることを選択し、地下街にある串カツ屋に入店した。古き良き串カツ屋は洒落っ気のかけらもなく、昼も夜も同じメニュー。だから昼間っから一杯ひっかけてやろうかというおじさんたちでにぎわっている。

カウンターの方は立ち飲みのスタイルだが、店の奥にはそれなりにゆったり座れるテーブル席が用意されていて、私たちはそっちに案内された。時刻は午後3時。とりあえずビールで乾杯しつつ、あまりお腹は空いてないけれど専門店なんだからと串カツを数本注文した。

この串カツが意外にも美味しくて、ソースの甘じょっぱさがビールを進めてくれる。途中レモンサワーに変更しながら、さまざまな話に花を咲かせた。アルコールに背中を押されているので、話は超満開。時間など気にせずに、とにかくしゃべりまくり、飲みまくった。串カツの追加注文も忘れない。食べ終えた串が次々に溢れていく。

地下街で飲み始めたのがいけなかったようだ。外の明るさが全くわからないので、時間という概念をすっかり見失っていた。気付けばなんと午後9時だった。同じ店に6時間も居座ったことになる。これが仕事での待ち時間なら怒り狂っているところだし、串カツ屋の店員さんに怒り狂われてもおかしくない。鬱陶しい客だったと思う。ごめんなさい。

もちろん、せっせとクックパッドで探していた、オーガニックな野菜で料理することなんて夢のまた夢。酔っ払った私たちはそこからなぜかアイスクリーム店に行って濃厚なアイスクリームで胃袋に鞭を打ち、帰宅。即爆睡。翌朝の二日酔いは覚悟していたが、モーレツな胸焼けもおまけについてきた。

ちなみに私がその串カツ屋で一番気に入ったメニューはコロッケ。串カツとしてのコロッケとは一体どんな塩梅で登場するのかと思いきや、その辺の惣菜屋で売られている、いわゆるコロッケがそのまんま串に刺さったものだった。三本は食べた。食べすぎたし、飲みすぎた。

さすがに6時間も同じ店で飲み続けたのはこの日が初めてだったが、飲みすぎて二日酔いになり、せっかくの休日を棒に振ることはよくある。もう二度と飲まん! と何度誓ったことだろう。しかし何かの拍子にまたやってしまう。

今回は気の置けない友人と一緒だったので少し違うが、そうではない人が混ざっているときは飲みすぎる確率が高くなる。半開き状態の心をアルコールの力を借りて何とか開こうとしてしまうのだ。しかしこれは負の連鎖となる。飲みすぎて(たぶん)失礼なこととか言ったりやったりしてしまい、翌朝後悔の嵐に襲われる。

そこで「昨日はたのしかったです! 飲みすぎちゃって、どうもすみませんでした! また行きましょう!」みたいなメールを送る。「私も楽しかったです。またぜひ」と、事務的なメールが返ってくる。それがメールではなくLINEだったとして、事務的なメールの直後にスタンプなど送られて来た日にはもうTHE・ENDだ。……嫌われた。ごめんなさい、バタンッ(ドアの閉まる音)。

お酒の席での対処法が見つかった……?

仕事の関係者と飲む時は、そもそも緊張しているし、何か違うスイッチが入っているからさほど問題はないのだが、友人の友人なんかが来た日にはどうしたらいいのかわからない。私は普段からテンションを上げるのが苦手で、周りに合わせようとして空回りすることが多い。

このコンプレックスは子供の頃からずっと持ち合わせていた。はしゃいでいる友人たちが何にはしゃいでいるのかわからず、何だろう?と考えているうちに、自分もこれに合わせなければ! と気が付く。気が付いたときには大体もう遅い。ここではしゃぎ遅れが発生する。

自分がはしゃいでみせた時には皆もう落ち着いているので、輪の中で一人だけ騒いでいるという図が完成し、悪目立ちしてしまうのだ。視線が集まる。もうあまりはしゃぐのは止そうと考える。感じ悪い人だと思われる。またはしゃいでみせる。その時には……の繰り返し。

そんな私が大人になってお酒が飲めるようになった。お酒を飲むと、恥ずかしながら私は自然とはしゃぐ。ここは周りに合わせなければ!という場面では、そのために酔っぱらおうとしていることが多い。しかし酔っぱらおうとしているうちに、人間は酔っぱらうのだ。そして前に書いたように失敗し、負の連鎖を巻き起こす。

空回りも辛いが、無理やりテンションをあげて結果嫌われるのも辛い。いやもう大人なんだから、テンション低めのクールな人だと思われた方がまだマシかと思い、ノンアルコールで頑張ってみたこともあるが、何を話していいのかわからず、もはやほぼ黙っているだけだった。しかも皆が酔っぱらっていく様を眺めていると、それに反比例してどんどん冷めてしまい、さらに黙りこくり、やっぱりただの感じ悪い人になった。

私はこの文章を書き進めることで、自分なりに「苦手なお酒の席での対処法」みたいなものを見つけられるんじゃないかと期待していたが、どう考えても「飲んでも飲まれるな」というありきたりな答えにたどり着く気しかしない。

中島らもの名作『今夜、すべてのバーで』の主人公のアル中具合を笑っていたが、本質的なところは似たようなものなのではないか。親しい友人と6時間も飲み散らかしたことを書き出しにしておいて、何が人見知りだから酔っぱらう、だ。シラフで感じ悪い人だと思われるなら、それはもうただ単に感じ悪い人なだけではないか。あぁ……自己嫌悪。

お酒の席になんて行かず、全部断って、家でクックパッド見ながら料理して、好きなテレビでも眺めながらちまちま食べるのが一番自分に合っているのだろうが、実はそれはそれで寂しい。人見知りで、酒好きで、寂しがり屋。ついでに言うと一人っ子のAB型。

言葉にして並べてみると、世の中のめんどうくささの寄せ集めだ。しかし、これが自分だ。付き合っていくしかない。唯一、救いがあるとすれば、6時間も一緒に飲んでくれる友人がいるということだ。友人と呼べる人は少ないが、その分仲良くしてくれる人は皆、とても優しい。そう考えるとなんだか得したような気持ちになってきた。

性格なんてものはなかなか直せはしないが、友人を大切にする気持ちだけは持っていようと思う。ありがとう。友人たち。お酒は控えます。

飲みながら、読もう。読んで、飲まれる。

著者
中島 らも
出版日
1994-03-04

お勧めするまでもない名作です。どろんどろんのアル中が主人公の作品なのに、なぜか爽やか。なぜかロマンティック。こんな風にはなりたくないなと思いつつ、飲みたくなってしまいます。しかし、読後感の気持ちよさは絶対にアルコールなんかでは得られないもの。飲むより、読もう。

著者
重松 清
出版日
2008-06-30

ある人から「中学生に勧められて読んだんだけど、不覚にも泣きました」と勧めてもらった一冊です。短編集ですが、それぞれがつながっていて、私も号泣。人とのつながりを考えさせてくれる物語です。

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