心洗われる、緑川ゆきのおすすめ5作品

更新:2021.12.13

やわらかで心温まる作風が、ファンの心を掴んで離さない緑川ゆき。今回は彼女の描く、ファンタジックでミステリアスなストーリー、優しい無二の世界に触れていただける5作品をご紹介します。

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美しく儚い世界感を描く漫画家 緑川ゆき

緑川ゆきは熊本県出身の少女漫画家で、1998年にララDX『珈琲ひらり』でデビューしました。少女マンガですが恋愛を全面に出した作品は少なく、繊細なタッチと印象的なモノローグが特徴です。

また、流行に流されない素朴ながらも魅力的な絵柄も、幅広いファンに支持される理由の一つでしょう。気持ちを隠したような微笑や憂いを含んだ横顔など、画面から漂う色気にはっとさせられることも多いです。

そんな作風と魅力的なキャラクターの心情や関係性を描いた作品はどれも男女問わず夢中になれるもの。以前は絶版のため入手困難な書籍もありましたが、その後文庫化や増刷・電子化されたため手に取りやすくなりました。ぜひこの機会にお気に入りの作品を見つけてみませんか?

アニメ化もされた、人と妖の優しい物語『夏目友人帳』

主人公の高校生、夏目貴志は天涯孤独で、妖怪が見えることから気味が悪いと親戚をたらい回しにされます。その後亡き祖母縁の地へ引き取られ、名を記すことで妖を縛る友人帳で彼女が妖と交流していたことを知ります。

友人帳を巡り夏目の元を訪れる妖たちとのトラブルや、心通じる穏やかな瞬間、ようやく築け始めた人間関係についてなど、一話完結や三話前後の集中連載といった形で多角的に、丁寧に描かれています。

著者
緑川 ゆき
出版日
2005-10-05
そんなそれぞれの気持ちで胸がいっぱいになるようなストーリーですが、用心棒として夏目の傍にいる「ニャンコ先生」と呼ばれる斑の招き猫の形をした妖がコミカルで、気軽に読める良いアクセントになっています。

当初読み切りから始まったこの作品も、いまや20巻を超える代表作となりました。どこか懐かしい風景の中で繋がる優しい物語、読後に残る愛しさと物哀しさをぜひ味わってみてください。

夏目友人帳の原点とも言える世界観。人と妖の切ないラブストーリー『蛍火の杜へ』

夏休みに祖父の家を訪れた少女・竹川蛍が迷い込んだのは、妖怪たちの住むと言われる「山神の森」。森の中で疲れて泣き始めた彼女に声をかけたのは、狐面を被ったギンという青年でした。毎年夏の逢瀬を重ねる内に二人は心が通じ合いますが、彼には人間に触れると消えてしまう妖術がかかっており、触れ合うことが出来ません。

著者
緑川 ゆき
出版日
2003-07-05
短編集に収められた読み切りのため、緑川作品の入門にはうってつけの作品です。狐面のギンとコロコロ表情が変わる蛍。毎年成長する姿を見せる蛍と、出逢った頃からほとんど姿の変わらないギン。住む世界の違いをさりげなく表現する二人の対比が絶妙です。お互いに触れたいと思う心と、絶対に触れないでという願いが、どちらもヒシヒシと伝わってきます。

二人を優しく見守ってくれる妖怪たちの中で、二人の恋の切なさが際立ちます。胸に残るラストは必見です!

不思議な声の少年が紡ぐ美しい幻覚『あかく咲く声』

国府佐和は同学年の辛島が人気のないビルに入るのを目撃しその後を追います。そして無口な彼の秘密を知るのでした。聴く相手に暗示をかける不思議な声を生かして警察へ協力している彼は、圧倒的な力で事件を解決します。その能力に溺れることを恐れ、大切な存在を作らず自分の中身を空っぽに保とうとする辛島と、彼の苦しみを理解し支えたいと歩み寄る国府。恋という枠組みでは狭すぎる、人と人との繋がりが描かれるラブストーリーです。

著者
緑川 ゆき
出版日
2008-05-15
作品中で超能力を持つ人物は辛島の他に1人しか登場せず、しかも仲間ではないため、辛島の孤独さと異質さが浮き彫りになっています。

声を発するだけで相手を支配するという力を乱用するような流れではなく、意外な人が犯人だというミステリー的な要素が強い話もある、ファンタジー要素だけではないこの作品。暗示を受けて見せられる光景の、静かな美しさは緑川ゆきの真骨頂といえます。

高校生たちの日常を切り取った群像劇『アツイヒビ』

こちらも短編集になります。収録作品のうち『アツイヒビ』『花の跡』『寒い日も。』の3作は、ストーリーは独立していますが共通のキャラクターが登場するシリーズものとなっています。今回は表題作の『アツイヒビ』をおすすめさせていただきます。

著者
緑川 ゆき
出版日
2002-06-05
国吉喜一は帰り道、川で探し物をする優等生の池田吾郎に遭遇します。その探し物である生徒手帳を拾った女生徒の室園は、中に書いてある殺人計画を見てしまい、返すわけにはいかないと二人に言い放ちます。「邪魔するやつは許さない」と本気の目で言った池田が気になり、国吉は室園と協力し様子を探ることに。

推理をするミステリーものというよりは、どんでん返しと登場人物の心の機敏を楽しむストーリーとなっています。暗い画面のモノローグが効果的で、キャラクターの心の声が胸に刺さります。


好きなものが詰め込まれたミステリアスファンタジー『緋色の椅子』

小さな村に住むセツは、幼馴染のルカリアが即位したと聞き、五年ぶりに彼に会うべく王都へ向かいます。しかしそこで国王陛下としてお披露目されたのは、セツの知るルカとは別人。その陛下が言うには、途中で刺客に襲われたルカに頼まれ、彼が戻るまで代わりに王の座を守っているとのことでした。セツはルカを見つけるべく動き始めます。

著者
緑川 ゆき
出版日
2002-12-05
西洋風のファンタジーですが、魔法は存在しない世界のため、ストーリー自体はミステリー要素が高いです。セツ以外のキャラクターがそれぞれ秘密を抱えており、ルカの手がかりを探ることで少しずつその秘密も暴かれていくのがわくわくします。

少し駆け足の全3巻ですが、全てのパーツが結末に向けて1つに収束するのは読んでいて気持ちがいいもの。王座を巡る争いが主軸のため戦いの描写がありますが、生々しくはないので抵抗なく読めるミステリーファンタジーとなっています。
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