5分でわかる宇宙エレベーター!いつできる?仕組みや課題、メリットを解説!

更新:2021.11.14

未来の宇宙への交通・輸送手段である「宇宙エレベーター」。この構想を最初に発表したのは、宇宙開発の父と呼ばれる旧ソ連のコンスタンチン・ツィオルコフスキーです。将来実用化される可能性はあるのでしょうか。仕組みや課題、メリットなどをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本もご紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。

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宇宙エレベーターの仕組みを解説。理論的には実現可能!

 

その名のとおり、地上と宇宙を繋げてエレベーターのように昇り降りができる移動手段です。人や物を乗せる部分はクライマーと呼ばれています。

宇宙空間には、地球に引き寄せられる重力と遠心力が一定のバランスで釣り合う場所があり、静止衛星などもその軌道上を地球の自転周期と同じ周期で公転しています。

宇宙エレベーターは、その静止軌道上にステーションを作り、地上にある基地とケーブルで結ぶという発想です。ケーブルを伸ばすと重力と遠心力のバランスが崩れてしまうので、ステーションから地球と反対側にも「カウンターウェイト」と呼ばれる重りを設置する案が考えられています。

想定されているクライマーの昇降速度は時速約200km。新幹線と同じくらいです。ステーションまでの距離は約約3万6000kmなので、到達するのにかかる時間はおよそ7日と半日という計算になります。

宇宙エレベーターが実現するのはいつ?カーボンナノチューブの発見で現実的に!

 

宇宙エレベーターの構想を実現させるためには、強さと軽さを兼ね備えたケーブルが必要です。以前は条件を満たした素材がなかったため、いわば机上の空論でしたが、1991年に当時NECの研究員だった飯島澄男が「カーボンナノチューブ」という物質の構造を解明したことで、一気に現実味を帯びたものになります。

カーボンナノチューブとは、炭素原子が六角形の網目構造で円筒形状になった物質で、原子が非常に強く結びついています。円筒状をしているため内部に空間があり、軽いとうのも特徴のひとつ。身近な実用金属のなかで軽量であるアルミニウムで、同じ形状のものを作った場合と比較しても、重さは半分ほどだそうです。

カーボンナノチューブを利用すれば、理論上は実現可能な宇宙エレベーター。ただ他の素材と比べて価格が高いことや、長い距離にどう対応させるかなど、問題点もあります。今後の開発に注目です。

また2012年に、日本の大手建設会社「大林組」が、宇宙エレベーターに関する独自の構想を発表したことも話題になりました。2025年頃から物資打ち上げ、地上設備の建設などをおこない、2050年に完成させる計画になっています。

宇宙エレベーターの課題や問題点、費用はどれくらい?

 

大林組が算出した建設費用は、約10兆円。リニア新幹線の建設費用が5.5兆円といわれているので、比較をしてみても案外安いかもしれません。

現在、宇宙空間に人や物資を届ける場合は、ロケットを使うしか方法がありません。1回の打ち上げにかかる費用は100億円ほど。高額になる理由のひとつに、基本的にロケットが使い捨てであることが挙げられます。

宇宙エレベーターは、ケーブルやクライマーを長期間にわたってくり返し使うことができます。大型のクライマーができれば、ジェット飛行機のように1度に大量の人を運ぶこともできるでしょう。またエネルギーは宇宙太陽光発電などで安価に抑えられることを考えると、ロケットと比べて費用は大幅に安くなりそうです。

一方で、解決しなければいけない問題も山積です。

先述したカーボンナノチューブを利用したケーブル作りはもちろん、どこに地上基地を建設するかは大きな論点でしょう。ステーションは静止軌道上、つまり赤道上空に作る必要があるため、地上基地もおのずと赤道の近くに建設する必要があります。

シンガポール周辺やナウル島周辺、もしくはブラジル近海などが挙げられていますが、環境問題や政治的な対立も考えられます。

また、「スペースデブリ」と呼ばれる宇宙ゴミがクライマーやケーブルを傷つける可能性もあるでしょう。ミリ単位のデブリであっても甚大な被害をもたらすことが予想され、防御シールドやケーブルの強化など対処法を考える必要があります。

さらに、宇宙に向かう際には、放射線量が非常に多い領域を通過しなければなりません。ロケットであれば短時間で通過できますが、時速200kmの宇宙エレベーターだと被爆時間が長すぎます。

実用化のためには、このような問題をひとつひとつ片付けていく必要があるのです。

宇宙エレベーターのメリット。完成したらどんな未来になる?

 

宇宙エレベーターのメリットは、単に人や物資を宇宙に運ぶだけにとどまりません。

宇宙空間で物を切り離すと、投石機のように宇宙空間を飛んでいきます。たとえばある地点まで宇宙エレベーターで向かい、タイミングを見計らって切り離せば、理論上は燃料なしで火星など他の星に行けることになります。

また月に埋もれているといわれている「ヘリウム3」などの燃料を地上に送ったり、反対に地上で処理に困っている核廃棄物などを太陽に向かって放ることもできるでしょう。

宇宙病院もおもしろいアイディアです。無重力環境で手術することができれば、患者の体を容易に手術に適した体勢にしたり、臓器を空中に浮かべながら損傷箇所を探したりできます。

注目が集まっているのは製造業です。原料を空中に浮かべながら溶融し、固めれば、不純物が入っていない高純度な製品を作ることができるそう。量子コンピュータの素材として期待されているフォトニック結晶など、高い精度のもの作ることができるでしょう。

また、宇宙を一大観光地にする構想もあります。1週間程度のツアーが組まれ、一般の人でも気軽に旅行できるようになるかもしれません。

実現の可能性を探る一冊

著者
佐藤 実
出版日
2016-08-01

 

宇宙エレベータとはどのようなものなのか、ロケットとの違いは何なのか、本格的な宇宙進出によって社会がどう変わるかをまとめた一冊です。本書があれば、実現に向けた問題点と解決策が俯瞰でわかるでしょう。具体的な数字を交えて解説しているので、納得感を得られるのもポイントでしょう。

第4章では、宇宙航空研究開発機構「JAXA」、宇宙エレベーター構想を発表した「大林組」、日本で唯一の宇宙における有人技術に特化した民間企業「JAMSS」のインタビューが掲載されていて、宇宙開発に関する興味を掻き立てられる内容になっています。

また、宇宙エレベーターが完成した場合の社会をビジネスの視点から解説している章もあり、実現可能性に期待をしてしまう一冊です。

宇宙エレベーターを物理で考える一冊

著者
佐藤 実
出版日
2011-04-27

 

宇宙エレベーターを題材にして、物理学を学んでしまおうという一冊です。地上から宇宙空間に昇り、他の惑星と往復し、また地上に降りるというステップごとに、それぞれどのようなことを考えればよいのか解説しています。

数式の部分は読み飛ばしてしまっても、内容は十分に理解できます。学生時代の授業で習った物理の各分野が、最新の研究である宇宙エレベーターにどのように応用されているのか、その繋がりを感じることができるとより楽しめるでしょう。

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