本城雅人のおすすめ書籍5選!『傍流の記者』で直木賞候補のミステリ作家

更新:2021.11.14

20年間の新聞記者経験を活かした作品が話題の作家、本城雅人。新聞社を舞台とした作品が多く、『ミッドナイト・ジャーナル』がドラマ化、『傍流の記者』が直木賞の候補にノミネートされたことでも話題となりました。この記事では、そんな彼が手掛けた作品のなかからおすすめのものをご紹介していきます。

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本城雅人とは。記者が主役のミステリーが人気!

 

1965年生まれ、神奈川県出身の作家です。明治学院大学を卒業した後、産業経済新聞社に入社。「サンケイスポーツ」の記者となりました。

プロ野球をはじめ、メジャーリーグや競馬などの取材に携わったそうです。20年間働いた後に退職し、2009年に『ノーバディノウズ』で作家デビューを果たしました。同作は松本清張賞の候補作にもなっています。以降はさまざまな賞にノミネート、受賞をし、2018年には『傍流の記者』が直木賞の候補になったことでさらに注目を浴びています。

幼少期はスポーツ少年で、小説家を志してからはスポーツ新聞やルポルタージュを大量に読んだそう。本城雅人自身の経験が作品にリアリティをあたえていて、幅広い世代の読者から人気を集めています。

本城雅人のデビュー作であり代表作『ノーバディノウズ』

 

野球を扱った小説などに贈られる「サムライジャパン野球文学賞」で大賞を受賞した作品です。

本城雅人がスポーツ記者として働いていた際の取材経験がふんだんに盛り込まれ、メジャーリーグの裏側を垣間見れる内容になっています。

著者
本城 雅人
出版日
2013-01-04

 

メジャーリーグではジャスティ・キングという名の韓国系スラッガーが活躍していました。破格の年俸を提示され大都市の球団へトレードが交渉されますが、彼は頑なに拒み続けます。

その謎を探ろうとした関係者たちが次々と姿を消すなか、日本のとある新聞記者が、実はこの男は日本人なのではないかと調査をはじめました。

野球に関する部分の筆力は特に目を見張るものがあり、ぐいぐいと物語に惹きこまれます。一方で野球にさほど詳しくない人でも、男の正体を探るストーリー性と設定に続きが気になってしまうでしょう。

アメリカに根付いている人種差別や、暴力、怨恨なども絡みあい、読みごたえのある内容になっています。

本城雅人の連作短編集『トリダシ』

 

「とりあえず、ニュースをだせ」と部下に命じる東西スポーツのデスク、鳥飼。なりふり構わない取材の仕方から、「トリダシ」と陰口をいわれています。

しかしその一方で、強烈な個性と記者としての腕の良さから「影のGM」ともささやかれる優秀な記者でもありました。

社内外に敵をつくる彼は、一体どのような人物なのでしょうか。

著者
本城 雅人
出版日
2018-04-10

 

スポーツ新聞社の現場を舞台にした連作短編集です。

「この作者は巧みな投手だ。球筋の読めない心理戦に翻弄された」という横山秀夫の言葉のとおり、先の見えないミステリーのような展開で読者を惹きつけます。

ライバル紙はもちろん、時には社内でも出し抜きあうことがある競争の世界。スポーツ新聞の要素は「金」と「出世」と「女」、一般紙と比べて低く見られている、など本音とプライドが垣間見え、本城雅人の経験が存分に活かされた内容だといえるでしょう。

ドラマ化もされた社会派エンタメ小説『ミッドナイト・ジャーナル』

 

新新鋭のエンタメ作家に贈られる「吉川英治文学新人賞」を受賞した作品です。

主人公は、大誤報を打って左遷された記者の関口豪太郎。その7年後に自動連続誘拐事件が発生し、彼は再び動きはじめます。

警察、上司、目撃者……皆が嘘をつくなか、諦めずに真実を追い求めていく姿がアツく描かれています。

著者
本城 雅人
出版日
2017-12-15

 

誘拐事件を扱う小説は多々ありますが、視点が警察ではなく新聞記者なのが面白いところ。早くスクープにしなくては、警察が公式に発表し、それが世間にとっての「事実」になってしまう……権力と戦って「真実」を伝えることが新聞記者の役目だと主人公は説きます。

新聞社の仕組みや警察とのやり取りなどは、関係者から見てもかなりリアリティのあるものだそう。正義を追い求める情熱にあふれた、熱血の物語です。

本城雅人が問う、紙の新聞の存在意義とは『紙の城』

 

新興IT企業による大手新聞社の買収を描いた長編小説です。

主人公は、昔気質の社会部デスク、安芸稔彦。パソコン音痴で飲み会の店も足で探すタイプです。IT企業が買収に動いていることを知り、彼をはじめ新聞社の幹部たちはなんとか阻止しようと動きだすのですが……裏で操っていたのは、かつて同新聞社の記者を勤めていた権藤という男でした。

それぞれの思惑が絡み合い、時代の流れと企業の在り方を見つめなおす作品です。

著者
本城 雅人
出版日
2016-10-26

 

立場の違う登場人物が議論をすることで、紙の新聞の未来の姿を考えさせられます。

収入の大半が購読料というビジネスモデルでやっていけるのか、宅配制度を維持できるのか、記者の数が多すぎるのではないか、広告へのアプローチが足りないのではないか……。

その一方ですべてデジタル化することが善でもありません。元新聞記者の本城雅人ならではの視点で、双方の可能性が語られていきます。

発売当時は、この内容からか新聞25紙でも紹介され話題となりました。何を変え、何を残すべきなのか……新聞社が最終的にくだす決断に注目してください。

本城雅人の直木賞候補作『傍流の記者』

 

2018年の直木賞にノミネートされた作品です。

6つの短編が収録されていて、新聞社の社会部で部長を目指す5人の男の生きざまが描かれています。「警視庁の植島」「検察の図師」「国税の土肥」「調査報道の名雲」「遊軍の城所」とそれぞれ得意分野は別々。全員が優秀な記者で黄金世代とも呼ばれていますが、部長になれるのはひとりだけです。

アツい出世レースがくり広げられるなか、新聞社が倒れかねないスキャンダルが発生してしまいました。出世、保身、正義……働く意義を問いかけます。

著者
本城 雅人
出版日
2018-04-26

 

5人それぞれを主人公とした物語が描かれた後、最後の章は人事部の北川を中心にストーリーが進んでいきます。部内の序列を決める縦のつながりと、他部署との横のつながりに翻弄されながら、彼らはそれぞれの信念を胸にアツく仕事をするのです。

新聞社特有の描写も多々あり、それが魅力でもありますが、5人が抱えている苦悩は多くの社会人に共通するものではないでしょうか。何のために働くのか考えさせられ、ドキュメンタリーを見ている気分にもなります。

ラストではタイトルにある「傍流」の本当の意味がわかるのもオツです。

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