5分でわかる『白鯨』!あらすじ、登場人物、結末などをネタバレ解説!

更新:2021.11.14

ハーマン・メルヴィルが描いた本作をご存知でしょうか。「世界十大小説」にも選ばれ、映画や漫画にもなっています。 そんな本作ですが、ストーリーが長く難解なのが特徴。気なっているけど読めていないという方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回の記事では、あらすじや見所などを解説します。これを読んで、本作を読むきっかけにしてください!

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小説『白鯨』のあらすじの内容を要約して紹介!

 

本作は、捕鯨をテーマにした小説です。世界中で読まれている名作で、日本では新潮社、講談社、岩波文庫などから文庫版が出版されています。さまざまな翻訳者が翻訳していますが、岩波文庫の八木敏雄訳がわかりやすく、挿絵もあって読みやすいです。

『白鯨との闘い』という映画もあり、原作とは違う筋になっており、こちらもおすすめ。

  • 老人が一匹の動物を追う

という点で、『老人と海』に似ているといわれることもあります。

まずは、『白鯨』のあらすじと内容を簡単にご紹介します。

 

著者
ハーマン・メルヴィル
出版日
2004-08-19

 

本作は伝説の巨鯨「モビー・ディック」をしとめるために、エイハブ船長率いるピークォド号が旅をする物語です。出版当初は海洋冒険小説が流行していましたが、本作が他の作品と違うところはどんな点なのでしょうか。

本筋とは無関係な描写が多い

最大の特徴は、話が脱線すること。鯨の生態や船の仕組みなど、捕鯨に関する雑学が延々と語られます。ストーリーはほとんど進みません。なぜこのような手法をとったのでしょうか。

捕鯨とはいっても、何日間も鯨に出会えないことがありますし、仕事の内容は過酷です。本作は実話ではありませんが、実際に捕鯨業で船員が命を落とすことは珍しいことではありませんでした。

作者、ハーマン・メルヴィルは、本筋とは関係ない描写をすることで、捕鯨の退屈さや、時間の長さを表現したかったのです。ゆったりとした時間の流れを体感することで、読者もピークォド号の一員にするのが狙いでした。そのためにも、1000ページ以上もある大作にする必要があったのです。

船の名前にもこだわっており、ピークォド号という名前は、白人に滅ぼされたインディアン部族からきています。アメリカ人であるエイハブがこの船に乗り、「白い」鯨を追うという構成は、なにか意味があるのでしょうか。

旧約聖書からの引用が多い

もう1つの特徴は、旧約聖書からの引用が多いこと。登場人物の名前はもちろん、地の文でも聖書を引用した語りが見られます。作中では鯨のことをヘブライ語で「レヴィヤタン」と呼んでいますが、これも聖書に由来しています。

難しい内容が多いですが、本作最大の魅力は、なんといっても登場人物。彼らがいることで、物語はおもしろくなるのです。彼らの名前にも、キリスト教のモチーフが使われています。

次の項では、そんな本作の登場人物についてご紹介します。

 

『白鯨』の登場人物を紹介!

 

本作には多くの登場人物がいて、彼らの活躍こそ、この作品の魅力。ここでは主な人物を、豆知識つきで紹介します。

イシュメール

主人公の男性。本作にはさまざまな謎がありますが、彼はその最たるものです。彼が登場するのは、なんと冒頭だけ。ピークォド号が出港してからは姿を消し、語り手になります。

エイハブの部屋の様子など、彼が知るはずのない場面まで語るのです。他の登場人物によって彼が名前を呼ばれることも、ほとんどありません。これは小説の構造としては、かなり不自然なこと。研究者の間では、いまだに議論が続いています。

「イシュメール」という名前は、旧約聖書でアブラハムが奴隷女のハガルに産ませた子どもの名前です。その後アブラハムの妻であるサライがハガルを追い出したので、「イシュメール」という名前には「放浪者、追放者、世に歯向かうもの」という意味があります。親が自然な愛情で子どもにこの名前をつけることは、まずありません。

イシュメールが冒頭以外では姿を消すこと、そして名前の由来。この2つは、本作を読むうえで考える価値のある謎です。本作を手に取る機会があったら、ぜひ考察してみてください。

エイハブ

白鯨を追うピークォド号の船長。モビー・ディックに片足を食いちぎられ、それ以来白鯨を殺すことに執着しています。物語のなかでは偏執狂的な老人として描かれますが、陸地には妻と子どももおり、大学にいた時期もあるそうです。「エイハブにはエイハブなりの人間性がある」と、作中ではいわれています。

「エイハブ」という名前は、旧約聖書の「アハブ」に由来するといわれています。アハブはイスラエルを捨てて偶像崇拝者になり、神の怒りを招きました。彼が死んだあと彼の血には犬が群がり、遊女が体を洗ったとされています。

このように、この名前も不吉なものです。ピークォド号は通常の捕鯨船として出港しますが、途中で登場したエイハブによって、モビー・ディックを殺すのが目的だと打ち明けられます。それ以降彼は「雷親父」などと呼ばれるようになりました。そんな彼を象徴するセリフを紹介します。

「スターバックはスタッブの裏返しで、スタッブはスターバックの裏返しだ。
そのうえ、ふたりとも全人類を代表しておる。
だがな、エイハブは何百万という人間がすむ地球にただひとり立つ。
神々も、人間どもも、わしの隣人ではない」
(『白鯨』下巻(岩波文庫)より引用)

まさに、傲慢な彼を象徴するセリフです。彼とモビー・ディックの戦いは、どうなるのでしょうか。

モビー・ディック

ピークォド号が追う白い鯨。世界中の海域で出没し、何隻もの船を沈没させた怪物です。しわだらけのコブと高い知能を持ち、伝説的な存在として語り継がれています。ここでは「モビー・ディック」としていますが、訳によっては「モ―ビィ・ディック」となることもあります。

モデルになったのは、南米沖で出没した「モカ・ディック」です。モカ・ディックは群れを守るために大型の捕鯨船を沈めたりするなど、驚異的な力を持った鯨でした。

ちなみに漫画『ONE PIECE』で白ひげ海賊団が乗っている船が「モビー・ディック号」ですが、『白鯨』に由来していると考えて間違いないでしょう。他にも飲食店の名前になるなど、日常生活にその名前は溶け込んでいます。

スターバック

ピークォド号の一等航海士。エイハブが白鯨を殺すために出港したと聞かされて、他の船員は彼の狂気にあてられてしまいます。そんななかでスターバックだけは正気を保っていました。彼には陸地に家族がおり、危険な戦いで命を落とすわけにはいかなかったのです。エイハブの野望を阻止するために、彼を殺すことまで考えます。

コーヒーチェーンの「スターバックス」は、『白鯨』のスターバックがモデルになっています。スターバックスの看板が海のイメージになっているのは、そのためです。創業者が3人だったので、複数形の「スターバックス」となったのです。

スターバックとエイハブは対立していますが、エイハブがモビー・ディックの追跡に失敗したあとは、意外な場面が待っています。そこは本作の見どころの1つなので、ぜひ読んでみてください。

主な登場人物をご紹介しましたが、他にも魅力的な人物が多数います。気になった方はぜひ読んでみましょう。

 

作者、ハーマン・メルヴィルとは?魅力を考察!

アメリカ文学史に残る傑作を書いた彼は、一体どんな人物だったのでしょうか。

彼はニューヨークの出身で、幼い頃に父親が借金を残して死亡。その後は波乱に満ちた人生を送っています。彼は小説で名声を得ていた時期もありますが、売上が落ちてしまったので小説家としては生活ができなくなってしまいます。『白鯨』も生前はまったく評価されませんでした。

教師、税官吏、水夫、など、10を超える職業を転々とし、食人種に捕まったこともありました。捕鯨船の乗組員だった時期もあるので、この経験が本作の基になっています。

晩年には長男が自殺し、次男は失踪したのちに死亡、自宅は火事になるなど不幸の連続でした。死の直前にはほとんど発狂していたといわれています。

お世辞にも幸福だったとはいえませんが、彼の作品にみられる人間や人生への深い洞察は、この波乱万丈の生涯によって培われたのでしょう。

死後30年してから本作は再評価され、今では世界文学史に残る傑作になっています。

白鯨が象徴しているものとは?ネタバレ考察!

 

モビー・ディックを倒すのが本作のテーマになっていますが、この白鯨という存在は、何を象徴しているのでしょうか。

白蛇、白鹿など、白いものを神聖視する習慣が人間にはあります。地上最大の生物である鯨が白くなった白鯨は、まさに神の象徴といえるでしょう。モビー・ディックを追うピークォド号には、白人、黒人、黄色人種など、あらゆる国籍の船員が乗りこんでいます。これは「全人類」の象徴です。

すなわち本作は、全人類で団結して神に挑戦していく物語だと読むことができるのです。

神に挑んだ人類がどうなるのか、ぜひ本編を読んでみてください。

 

漫画もおすすめ!小説が苦手な方にも

 

『白鯨』の見所をご紹介してきましたが、文庫本で1000ページ以上ある本は、やはりハードルが高いでしょう。読書が趣味の方でさえ戸惑う分量かもしれません。

ここでは、小説が苦手な方でも読める漫画版をご紹介します。

 

著者
メルヴィル
出版日
2009-03-01

 

「まんがで読破」というシリーズがあり、世界の名作を漫画でわかりやすく読めるようにしたものです。『罪と罰』や聖書なども漫画になっており、文学に苦手意識のある方でも親しみやすく作られています。

そして、このシリーズに『白鯨』もあるのです。原作の見せ場や重要な部分はおさえてあり、あらすじをつかむには最適な内容。

気になるけど小説は苦手という方は、こちらから読んでみることをおすすめします。

 

『白鯨』の結末をネタバレ解説!ラストの展開は?

 

長い旅の末に、ピークォド号は白鯨と対決をすることになります。エイハブ船長は自らボートに乗り込み、モビー・ディックに銛を打ちこみます。

彼らの対決の行方はどうなるのでしょうか。

 

著者
ハーマン・メルヴィル
出版日
2004-12-16

 

筆者は本作を5回ほど読んだことがありますが、最後の場面ではいつも手に汗を握ります。直接対決だけでなく、何日間かにわたってモビー・ディックを追跡するシーンも、緊張感があって読みごたえたっぷりです。

ラストは意外な展開となりますが、注意してほしいのは冒頭シーンです。クライマックスと冒頭シーンの場面が意外な繋がりを見せて、驚くことになるでしょう。物語の中盤で描かれるできごとも伏線になっており、単なる小道具だと思ったものが意外なモチーフになるのです。

エイハブの復讐劇はどうなるのか、ピークォッド号の乗組員たちは無事なのか、ぜひその目で確かめてください。

 

いかがでしたか?今回の記事を読んで興味を持っていただいた方は、ぜひご一読ください!

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